大分県立看護科学大学附属図書館 Oita University of Nursing and Health Sciences Library

2011年9月図書紹介

「がれきの中で本当にあったこと―わが子と語る東日本大震災」

産経新聞社 (産経出版 2011年)

 
 3月11日の東日本大震災。震災直後、テレビから流れる情報は、死者・行方不明者の数、避難所生活を送る人たちの日々、津波や原発による被害など、辛く悲しいものばかりでした。同じ日本人として、現実を知り何か役に立ちたいという気持ちと、現実を知ることで生まれる普通に生活していることへの罪悪感。私は震災について考えることが嫌になった時期もありました。
 
 あれから半年が経とうとしています。皆さんはこの震災をどのように受け止めてきたでしょうか。学生の皆さんは、支援物資や募金の呼びかけなど、様々な活動からも思うことや感じることがたくさんあったと思います。
 
 今回紹介する本には、新聞記者が被災地で出会った48の「がれきの中で本当にあったこと」が書かれています。一度読み終えてみて、48のエピソードについて、記者の思いや考えは書かれておらず、あったことだけが記されていることに気が付きました。一つ一つ、どのように受け止めるかは、読者である私たちに委ねられているのだと思います。
 
 半年が経って、震災についてテレビで取り上げられる時間は少しずつ減り、復興の兆しを感じて安心することもあれば、何も変わっていないことに驚くこともあります。
 
復興を信じたい方、ぜひこの本を一度手に取ってみてください。
 
 
 江月優子(成人・老年看護学研究室)
 
 

2011年8月図書紹介

「サラリーマン合気道 ―「流される」から遠くへ行ける」
箭内道彦 著  (幻冬舎 2008年)
 

うまくいかないとき、自分が逆境にたたされたとき、どう切り抜けるか。
この本は箭内道彦さんが、相手の力を利用して相手を倒す“合気道”のように周りの状況を自分の力に変える、彼なりの方法を紹介しています。
箭内さんは、広告クリエイターであり、最近ではNHK「トップランナー」の司会者としても活動していました。彼の作る広告作品や企画が好きで、尊敬する人の1人なのでこの本を選んだのですが、中には共感できず否定したくなる部分もありました。しかしそれもこの本の意図なのです。彼の“合気道”を実践させるのが目的なのではなく、自分の状況と照らし合わせて、自分なりの“合気道”を作り出してほしいとの思いがあるそうです。私自身も、共感できないところや自分との違いを知ることによって今まで意識していなかった自分の考えや性格に気づくことができました。
みなさんは“サラリーマン”というタイトルにピンと来ないかもしれませんが、これから医療現場に出た自分を想像し、当てはめて読んでみてください。
  

江本 華子 (事務局)

 

 
 

2011年7月図書紹介

「”お茶”はなぜ女のものになったか―茶道から見る戦後の家族」
加藤恵津子 著  (紀伊國屋書店 2004年)
 

国際化が進む中、最近、日本文化として茶道が外国の人々に紹介されることが多くなっているように思えます。
本学でも7月にソウル大学との学生交流プログラムが実施されますが、そこでも茶道のおもてなしが行われています。
私にとって、これまで茶道は女性の教養・習い事や花嫁修行のひとつとしてのイメージしか持っていませんでした。しかし、歴史的にみると、茶道は16世紀に千利休が現在の形を作り上げたと言われています。当時は、織田信長や豊臣秀吉など戦国武将をはじめ男性によって行われ、近年に至るまで受け継がれてきたものが、現在では茶道人口のおよそ9割は女性となっています。「お茶はなぜ女のものになったのか。」の疑問が生じます。この本のタイトルが正にそれです。
 
この著書では、戦後、急速に女性化する茶道を家族の成り立ちを背景に、女性の社会的存在のあり方に視点をあて、茶道を介して女性が社会的認知を得る様が明らかにされています。ただ、お茶の本質論や男性が茶道を離れていったことなどについては、あまり触れられていません。
女性、男性、年齢層などによって様々な読後感があると思われますが、女性がこれまで茶道を支えてきたことに敬意を表する一方で、茶道が、美術・工芸・建築・造園・料理その他のあらゆる芸術の粋を総合した日本の代表的な文化として、今後どのように受け継がれ、広がっていくのかとの新たな思いが生じてきます。
「ビジネスマンよ、お茶をなされ」と呼びかける荒井宗羅著「和ごころで磨く」(清流出版)を読むと、全国の茶室で茶男子がぽつぽつとうまれてくる予感もします。新しい茶道の展開が楽しみです。 
 
 

戸田 太治 (事務局長)

 
 

2011年6月図書紹介

「1995年1月・神戸~「阪神大震災」下の精神科医たち」
中井久夫編 土井健朗・田代信雄序  (みすず書房 1995年)
 

 この本は、16年前の阪神・淡路大震災直後に出版されたものです。

内容は、援助者もまた被災者であるときに何が起こるのか、役割分担はどうするのか、ボランティアには何が期待されているのか、医薬品が足りないと患者に何が起こるのか、といった逼迫した問題に神戸大学医学部精神科とその応援に全国から集まった医師や看護師らが、いかに対処したかが描かれています。
 
今年の3月に起きた東日本大震災後にフリーライターの最相葉月氏によって、この本に収録されている編者の「災害がほんとうに襲ったとき」が電子データとしてネット上で公開・無償頒布され(http://homepage2.nifty.com/jyuseiran/shin/shin00.html “東日本が震災した今だから読まれるべき本”としても紹介されました。
 
東日本大震災からそろそろ3ヶ月、国の支援も様々な形で進んでいますが、津波や放射能汚染などの被害は甚大でまだまだ問題も多く残されています。
だからこそ大切なのは、“気の長い支援” のあり方なのだと思います。
 この本は、震災直後約2ヶ月で出版された本ですので、震災直後の支援の具体的なヒントになるのはもちろんですが、これから先も続く“気の長い支援”に生かせる要素も詰まっています。
 
 東日本復興のその日まで1人ひとりが自分にできることをする、そのために何ができるかをこの機会に考えてもらえればと思います。

 

栗林 好子 (基礎看護学研究室)

 
 

2011年5月図書紹介

「標準組織学 各論 第4版」
 藤田恒夫 著 (医学書院 2010年)
 

 言わずと知れた組織学の名著が18年ぶりに改訂されました。本書の初版が刊行されて30余年、医学・医療を学ぶ者にこれほど広く愛された日本生まれの教科書はないでしょう。

第2版(1984年発行)を手に顕微鏡のムコウを初めて覗いた小生も、現在では解剖・組織学を教える側になってしまいました。この本の素晴らしさは著者のもとに集められた日本の組織学者の粋が日本人ならではの見事な図譜とともに、(教科書とは思えないほどの)面白い科学読み物として書かれているところにあります。その精神はこの第4版でも、新たに展示された数多くの美しい図譜とともに、その研究や発見の背景や歴史を語るなど、いかんなく発揮されています。
 
著者の藤田恒夫先生は解剖・組織学の教科書以外にも多数の書を著わしておられますが、科学雑誌「ミクロスコピア」(惜しまれつつも昨年26年の歴史に終止符を打ちました)の編集長として、生体の不思議をわかりやすく、かつ読者の好奇心をくすぐるような記事を紡いで来られました。論文やエッセイ作成の折に度々ご指導を受けたことがご縁で、今回の改訂に際してリンパ管についての記載や図譜の改変に携わる機会を与えていただきました。この本で育った小生にとっては身に余る光栄であったと理解しています。
 
さて、本書の序文に書かれていることですが、ガラス器のなかでなく、体のなかで生命のダイナミズムを営む細胞や組織の精巧で見事な形態を論じることが本書のテーマとされています。医学の進展に伴う様々な新しい情報を取り入れて改訂されているのはもちろんですが、昨今流行りの分子を羅列的、断片的に紹介する多数の本とは違い、あくまで私たちの体の美しさを感じ取り、学問の流れに思いを馳せていただける内容となっています。教科書を読むのは苦手だと感じる人は(実は小生もその一人ですが)、画集や写真集を眺めるつもりでページをめくって下さい。そこには必ず細胞や組織、ひいては生体の生き生きとした美しい姿や鼓動が描かれていることに気付くはずです。
「Beauty is truth, truth beauty」 本物の体の世界があなたを待っています。
 

下田 浩 (生体科学研究室) 

 

 
 

2011年4月図書紹介

 「きことわ」
朝吹真理子 著 (新潮社 2011年)
 

  貴子(きこ)と永遠子(とわこ)、子どもの頃、葉山の別荘で夏の時間を過ごした二人。別荘が解体されることになり、二人は25年の時を経て再会します。特に何が起こる訳でもないただそれだけの話なのですが、読みすすむうちに自分の時間の感覚が揺さぶられてゆきます。それは遠い記憶が呼び覚まされ、自分が今いる場所ではないどこかに身を置いているような不思議な感覚です。

貴子と永遠子が過ごした葉山の夏の海辺の時間、その25年後の別荘の庭の秋の気配―
過去と現在、夢と現(うつつ)が絡まりあい二人に流れた時間が自分の中にも流れているように思えます。
「瞬間と永遠がもつれてふとしたうちに百年千年とたつ」―これは永遠子の頭をよぎる言葉ですが、読み終えた時、百年が経っているかのような気持ちになるかもしれません。
 
この作品は第144回芥川賞受賞作品です。受賞後の記者会見で作者は、小説の面白さを「すべてが嘘によって構築されているフィクションの世界が読み手に伝わった時、反転して本当の意味の真実になって突き刺さってくるところ」と言っています。
 大学院で近世歌舞伎を専攻する作者は古語に関心を寄せていて、作品中にも「雪が垂(しず)れる」「雨が蕭蕭(しょうしょう)と続き」など普段私たちが使わないような古風な言い回しが見られます。けれども決して難解ではなく、むしろ日本語の美しさにあらためて気づかされるようです。
 
美しい言葉を辿りながら「虚構の世界が真実になる」小説のおもしろさをこの作品を通して是非味わってみてください。作者のデビュー作「流跡」も図書館にありますので、興味のある方はどうぞ御覧ください(こちらはちょっと抽象的です)。
 

白川 裕子 (附属図書館)