大分県立看護科学大学附属図書館 Oita University of Nursing and Health Sciences Library

2012年3月図書紹介

「フクロウ  その歴史・文化・生態」

デズモンド・モリス 著  伊達淳 訳 (白水社 2011年) 
 
みなさんにフクロウの「絵を書いてください」、「想像してください」、と言うとそれなりの姿形を書いたり思い出したりすることができると思います。野生のフクロウを見たことがある人は少ないでしょうが、動物園や図鑑の、あるいはハリー・ポッターに出てきたフクロウ(名前はヘドウィグ)等が浮かぶのだと思います。
 本のタイトル通りですが、そのフクロウについての一冊です。
 
フクロウのイメージは人それぞれだと思いますが、私は、やはり「知恵」を持った鳥、と思っていました。しかし、どうやらそうではなく、賢さは普通の鳥ということです。人の顔に似ているということで誤解していました。皆さんはどんなイメージを持っていますか?
 そのフクロウも古くは、夜に活動する鳥であるため邪悪な鳥と思われていた時代もあったとのことです。フクロウからすると、忌み嫌われたり、崇められたり、人間の勝手な思い込みで極端な評価をされ、迷惑でしょうが。皆さんは、見た目、印象だけで、(人をはじめ)いろいろなものを評価していませんか?私は…、しないようにしていますが、実際はどうでしょう?
いずれにせよ、物事を「知る」ということは、誤った認識をしないこと・誤解をしないことにもつながりますので、今すぐに必要なこと以外のいろいろなことを知ることは大事です。大学での勉強以外にも興味を持って、いろいろなことを経験しましょう。3月1日からの春休み、読書をしたり外に出て新しいことにチャレンジしたりしませんか?
 
これも今すぐには必要にならない知識でしょうが、フクロウが結婚式で活躍をするのか、どんな結婚をするのか(どのようにパートナーを見つけ、その後行動するのか)についても本の中に書いてありますよ。
  
吉田 成一 (生体反応学研究室)
 
 

2012年2月図書紹介

「切除されて」

キャディ 著  松本百合子 訳 (ヴィレッジブックス 2007年)
 
女性器切除FGM ( Female Genital Mutilation) について、私が改めて考えるようになったのは、助産師としてすでに10年の経験を経た頃に参加したフェミニズムの講義がきっかけでした。もちろん、アフリカに残る女子の通過儀礼のひとつであり、夫婦生活や出産に悪影響を及ぼす風習ということは知っていましたが、遠い世界のこととして受け止めていました。しかし、助産師として様々な女性の相談に乗り、出産に立ち会う中で、当然のことのように行われていること(医療的行為を含む)に、女性たちが悩み、自らが変えていこうとする姿と、FGMを廃絶しようとする女性たちの姿が重なりました。
 
著者は、セネガル人で、7歳の時に性器切除を受け、13歳で強制結婚させられ、夫からの性暴力の被害にあった過去を持ち、現在はFGM廃絶活動家として精力的に活動しているキャディ・コイタ氏です。FGMの後遺症に自身も苦しみながら、その慣習自体に疑問を持たないまま、自分の娘たちにもFGMを受けさせてしまった経験から、我が子にさえ辛い体験を受け継がせてしまうFGMは伝統や慣習ではなく、これまで行われてきたことを正当化するための洗脳であると述べています。
 
 伝統的な文化や風習でなくとも、一度正しいと信じられたことを見つめなおすことは難しいことです。けれども、私たちの周りにはそのようなことが数知れずあるのではないでしょうか。
「幸せな結婚のために少女たちに必要なこと」と信じられていたことが、実は拭い去ることのできない傷を負わせてしまうように、自分の行為が相手にとって本当に必要なことなのかということを、客観的、また批判的な視点で見つめなおす必要があると考えさせてくれた1冊です。
 
 
猪俣理恵 (母性看護学研究室)
 
 
 

2012年1月図書紹介

「大分県風土記」

渡辺澄夫 兼子俊一 監修 (旺文社 1988年)
 
「大分県ってどんなところ?」と尋ねられて、皆さんは何と返答しますか?
私は、県外に出た時期もありますが、30年近く大分県に住んでいます。しかし、大分県について尋ねられた際、歴史や文化など深くは知らないことも多く、詳しく説明することができませんでした。そこで大分県についてもっと知っておきたいと思い、図書館で大分県に関する本を探したことがきっかけで、この本に出会いました。
 
5cm程ある厚い本を開いてみると、各地域の歴史や文化財、著名な人物、伝統行事まで、わかり易く所々写真入で解説されています。昔話や歴史年表も掲載されており、大分県についての主なエッセンスを短時間で知ることができるお勧めの1冊です。時間がある時はじっくり、時間が無いときは知りたい部分だけでも目を通してみるという読み方もできます。発行されたのが23年前なので、掲載されている市町村名や写真が最新のものではありません。しかし、20数年前の今が掲載されているからこそ、写真をながめるだけでも、2012年の現在と変わった風景、変わらない風景があることに気づき楽しむことができる良さもあります。
 
大分県下の各地域についての知識は、実習や日常生活を送る上で出会う人々とのコミュニケーションにも役立ちます。また、今まで訪れたことのある地域でも、バックグラウンドを知ってから改めて訪れると、今まで気づかなかったその土地の方の思いや風土を感じることができ、新しい発見があるかもしれません。「大分県ってどんなところ?」の質問に対する返答のバリエーションを増やすのに加え、自分自身が大分県を楽しむためにも、お役に立てて貰えればと思います。
 
ちなみに、本校が立地する廻栖野の隣「野津原」は、江戸時代熊本と瀬戸内海を結ぶ参勤交代道の野津原宿場町として交通の要衝物資の集散地として繁栄していたそうです。詳細は野津原町のページをご覧下さい。本校から車で5分弱の参勤交代道路周辺に行くと宿場町の名残を感じることができます。地域散策がてら足を運んでみてはいかがでしょうか。
 
 
佐藤 みつよ(人間関係学研究室)
 
 

2011年12月図書紹介

 「条例のある街 障害のある人もない人も暮らしやすい時代に」

野沢 和弘 著 (ぶどう社 2007年)
 

 2006年10月11日、千葉県でひとつの条例が生まれました。「障害のある人もない人も共に暮らしやすい千葉県条例」という少し長い名前の条例です。

 著者の野沢さんは、長年毎日新聞社会部記者として活躍し、今は論説委員を務めておられる現役のジャーナリストですが、ご自身が障がいを持つお子さんのお父さんでもあり、この条例づくりのための活動母体となった「障害者差別をなくすための研究会」座長として、条例づくりのために奔走されました。

  この本は、その条例が制定されるまでの2年ほどの日々を描いたドキュメント、正確には、条例づくりの過程にかかわった人たち、多くの障がい者とその家族、県庁職員、市民の物語です。

 

 いまなぜこの本をご紹介しなければならないと思ったのか、その理由は2つあります。

 第一に、いま大分県でも千葉県のような条例を作るために、多くの障がい者と支援者が活動を始めているからです。今回、私がこの本を再読したきっかけもここにあります。全国で、そして大分でいま起きていることを知ってほしいと思います。

 第二の理由は、法(条例は地方自治体にとっての法です)とはルール、決まりですが、この本は、法を作ることは社会をデザインするということ、どんな社会にしたいのか自分たちで決めることなのだ、というメッセージを明確に伝えてくれるからです。野沢さんの言葉によれば、「障がい者が社会を良くしていく」のです。そして、これは様々な場面で起きることなのですが、理念上どんなに正当性が明白なことであっても、いざ法制化などを実現しようとすると、立場の違う人の利害が絡んで、ことがすんなりとは運びません。それでも諦めずに努力を続けることでしか、道は開けないのです。

 

 この本は、何度読んでもそのつど発見のある本です。障がい児の親である私にも、胸にグサリとくる言葉が数多くあります。差別とは何か、この本から沢山のことを教えられました。そして何度読んでも涙を我慢できない箇所がいくつもあります。それから、いま住民参加や住民主体という言葉がよく聞かれますが、実際に住民が主体になって社会を作るとはどういうことか、よくわかります。

 

 最後にこの本に込められた野沢さんの思いをご紹介したいと思います。

 

 『この条例は障害者のためのものだが、決して障害者のためだけの条例ではない。同時代に生きる人々がそれぞれの違いを認め合い、多様性を楽しむのが、これからの成熟社会のあり方だと私は思う。その先駆けとなるべき条例をつくろうと、障害者や家族が立ち上がったのである。』

 『どんな人間もひとりでは生きられない。ひとりで生きているつもりでも、自分が知らないところで同時代に生きる人々とつながり、影響し合い、絶えず社会の中で化学反応を起こして、少しずつ時代は動いていくのだと思う。』 

 
 
 
平野 亙 (保健管理学研究室)

 

 
 

2011年11月図書紹介

 「統計学者としてのナイチンゲール」

多尾 清子 著 (医学書院 1991年)
 
 「天使とは、美しい花をまき散らす者でなく、苦悩する者のために戦う者である」というナイチンゲールの言葉をご存知でしょうか?この本では、彼女がその戦いの武器として統計をどれほど有効に用いたか、が扱われています。
 
 クリミア戦争での活躍はご存じでしょうが、その活動に満足せず、軍の医療施設の不衛生さや医療水準の低さによって大勢の兵士が死亡したことを省みて、改善のための活動を始めます。詳細なデータ収集を行い、アピール力のある図表を用いて議会を説得、政府を動かして抜本的改善につなげていきました。その後、一般病院における各種医療統計の標準化にも取り組み、英国の医療水準の向上に貢献しました。これらは今日でいうところのEBNの実践と言えます。本書ではこれらのプロセスが、ナイチンゲールが作成したオリジナルの資料とともにわかりやすく紹介されています。
  また、ナイチンゲールの活躍だけでなく、有名な統計学者たち、例えばBMIを考えたケトレーや人口統計のファーらとの交流についてもさまざまなエピソードが示され、統計学の歴史の読み物としても興味深い本です。
 
 看護職としては比較的遅いスタートを切ったナイチンゲールですが、それまでに身につけた幅広い知識・教養が彼女の業績を生み出したと言えるでしょう。だから統計学をしっかり勉強してね、と言うつもりはありませんが、学生時代に幅広い分野に興味を抱いて、将来に備えて看護以外の「武器」も身につけていただければと思います。
 
 
佐伯 圭一郎 (健康情報科学研究室)

 

 
 

2011年10月図書紹介

 「いのちの授業をもう一度 がんと向き合い、いのちを語り続けて」

山田泉 著 (高文研 2007年)
 
 著者の山田泉さんをご存じの方も多いと思います。大分県豊後高田市出身の彼女は、大分県内の小・中学校で養護教諭として働いていましたが、2000年乳がんを発症しました。彼女は左乳房の温存手術後、放射線治療、ホルモン療法を受けながら仕事への復帰を果たしました。そしてその当時勤めていた中学校で、自分の経験をもとに「いのちの授業」を展開し、中学生にいのちの大切さを伝え続けます。
 2007年に退職するまで、思春期の生徒の問題に真正面から向き合い続けた山ちゃん流「いのちの授業」は多くのメディアにも取り上げられました。退職後は治療に専念しますが、2008年11月49歳という若さで逝去されました。
 
 この本には山ちゃん流「いのちの授業」の内容や生徒の反応だけでなく、保健室にやってくる生徒とのやり取りや学校での出来事など、独自のユーモアを交えて描かれています。そのユーモア溢れるストーリーの中からも、著者の病気への思いや大切な人への思いなどが伝わってくる、涙あり、笑いありの1冊です。
 2008年5月に出版された『いのちの恩返し』も合わせてぜひ読んでみてください。
 
 
井ノ口 明美 (保健管理学研究室)