【研究紹介】臨床看護師がとらえる「よい看護実践」の枠組み

成人・老年看護学研究室 小野美喜

 

 皆さんは“よい看護師“とはどんな看護師を想像しますか?臨床にいるおそらく全ての看護師は“よい看護師“を目指してケアを行っています。「善い」と判断され道徳的要素を含む“よい看護師“は私たち看護師のあり方を目指す倫理的理想像です。研究では“よい看護師“を探究するプロジェクトチームもありアジアを拠点とした学際的な研究がおこなわれています(特集 Good Nurse研究にみる東アジア国際共同研究の意義・方法論・成果、看護研究44(7)、2011. 参照)。日本では小西ら(2006)が、がん患者さんにインタビューし、患者さんの視点からみた“よい看護師“を報告しています。それによると「明るい」「思いやり」など人との関係性を築く性格や「責任感」などのプロとしての能力や態度などをよいとする回答が多いとされています。しかし、患者さんの視点だけが全てとはいえません。看護実践には患者さんに見えない部分もたくさんあります。看護師自身がとらえる“よい看護師“の視点には、患者さんに見えない看護実践も含んだよい看護実践の枠組みがあると考えます。両者の視点をあわせもつよい看護師を探究するためには、看護師の視点をとらえていくことが必要だと考えます。

 

 そこで、今回私がご紹介する研究は、看護師がとらえる「よい看護実践」の枠組みを調査から導いたものです。臨床看護師に実施した調査結果の一部を抜粋して報告します。多くの看護師の方(もしくは一般の方)の目にとまり、ご意見をいただける機会となれば幸いです。 

 

 方法は、無記名自記式質問紙法です。質問紙は若手から熟練経験をもつ看護師20名にインタビューした内容から作成しました。質問紙をベッドサイドでケアにあたる看護師600名に配布し、有効回答463部について分析しました(回収率77.2%)。質問紙は、全131項目で、5「そう思う」~0「全くそう思わない」の6段階のリッカート選択方式で回答を得ました。結果は因子分析(主因子法、バリマックス回転、カットオフポイント0.35))を行いました。以下はその結果です。

 

1)調査した対象者の概要 

 対象者の男女比は、女性90.4%、男性5.1%、未記入4.3% でした。看護師経験年数は3年未満22.8%、5~10年未満23.1%、10~15年未満14.9%、20年以上2.6%とおおよそ看護師人口の構造に近いものでした。

2)よい看護実践として高い指示を得た内容

 よい看護師の実践として高得点だった質問項目は、「ちょっとした変化に気がつく」(4.63±0.58点 平均±SD)、「間違いは認める」(4.55±0.78点)、「どんな処置でも嫌な顔をしない」(4.50±0.67点)、「一人で出来ない時は周囲の助けを借りる」(4.46±0.68点)の順でした。

3)よい看護実践の枠組み

 因子分析で不適切な質問項目4つを除き固有値1以上の因子を抽出した結果、9つの因子を得ました。下図に示されるように9つの因子は職場環境、患者/看護師関係、専門性の発揮という3つの柱でとらえることができます。すなわち職場環境としての「公平な業務負担」「チーム協働」「チームでの主体性」、患者/看護師関係としての「患者を人として尊敬」「看護への誇り」「患者のそばに立つ」、専門性の発揮として「科学・技・心の一体」、「患者を知る」、「共感・思いやり」です。 

   

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よい看護師の枠組みとしてみえたこと

 今回の結果で得られた9つの因子から、看護師の視点からみたよい看護実践は3つの柱を枠組みとしていると、とらえることができます。1つめの柱は患者/看護師関係です。患者さんを尊重し、看護の誇りをもちながら患者さんの側に立てる看護実践を示しています。2つめの柱は専門性を発揮しているということです。専門性を示す内容は、「科学・技・心の一体」、「患者を知る」、「共感・思いやり」の因子です。知識と技術と心をあわせもったスキルで、正しく患者を理解した思いやりをもった看護実践を行う、つまり心を傾けながらも科学的な看護実践といえます。最後の柱は職場環境の中での看護実践です。医師や同業看護師とのチームの中で、チーム員と公平に業務を負担しながら、協働し、しかも主体的に活動できる実践が示されました。 

 

 患者さんからみた視点では人との関係性やプロ意識があげられていましたが、それとの相違として、看護師の視点ではチームの中でのあり方にも実践を追求していました。医療が高度化しチーム医療が推進される今、よい看護実践として特徴的な結果であるといえます。患者を中心にチームの中でいかに働くか、科学的な視点と思いやりをもったケアをどれだけ患者に提供できるか、看護師はよい看護実践の実現に向けていると考えます。よい看護師を求める研究は今後も検証が必要であり研究を継続しています。詳細は下記掲載誌をご覧ください。 

 

この研究に関連する論文等

小西恵美子、小野美喜(2011). 看護師がとらえる「よい看護実践」の枠組み 日本看護倫理学会第4回年次大会抄録集.

小野美喜,小西恵美子,八尋道子(2010).明治時代から現代までの教科書に記述された「よい看護師」の変遷.日本看護倫理学会誌,P15-22.

小野美喜、小西恵美子(2009). 臨床看護師が認識するよい看護師の記述―若手看護師の視点―日本看護教育学会誌、18(3)、 P25-34.

小野美喜、小西恵美子(2008). 臨床看護師が認識する「よい看護師」 第27回日本看護科学学会学術集会抄録集 P396. 

【研究紹介】看護師の身体診察技術を活用した災害時遺体対応に関わる課題―災害医療活動の経験者に対する面接調査より―

看護アセスメント学 石田佳代子

 
 もし、家族や親しくしている人など、自分にとって大切な人が、突然の災害によって命を失い、その最期を看取ることができなかったとしたら、あなたはその人についてどのようなことを知りたいと思うでしょうか? 悲しい話ですが、誰にでもあるかもしれないことです。
 ここに紹介する研究では、“災害による死亡者の状況をできるだけ現場で記載して、死亡者に関する情報を書き残すことができれば、遺族に対する援助や死亡原因の調査などに役立つのではないか?”との考えから、この役割を看護師が担えないものかということに取り組んでいます。看護師は、一人ひとりの患者さんの健康にかかわる問題を判断し、その人に合った援助をするための知識や技術を備えています。その一つに「身体診察技術」があります。例えば、脈を測ったり、聴診器で肺や心臓の音を聴いたりして、身体に異常がないかどうかを調べるなどの技術です。災害時に、この技術を死亡者にも役立てられるように、看護師のこの能力をレベル・アップできないかと考えています。
 では、なぜ看護師がこの役割を担えたら良いのではないかと考えたのかをお話します。
 災害時には、一人でも多くの人の命を救うことが重要になります。特に、大きな災害が発生した場合には、いっ ときに多くの怪我人などが生じるでしょう。しかし、医師や看護師の数は限られています。そこで、一人でも多くの人の命を救うために、怪我人などをその程度などによって選別し、搬送や治療の優先順位が決められます。この選別を「トリアージ」といいます。そして、トリアージで優先順位を決めるということは、言い換えれば、後回しにする怪我人などを決めるということでもあります。手を尽くしても命を救うことが難しい人や、すでに死亡が確認された人への対応は、どうしても手薄にならざるをえません。災害の現場では、生存者の救助が優先されるからです。そうしないと、救える命までも失ってしまうことになりかねません。そうならないように、医師には医師にしかできない役割を担う必要があります。そこで、手薄にならざるをえない死亡者などへの対応は、看護師が担えないものかと考えたのです。
 トリアージによって、命を救うことが難しいと判断された人や、死亡が確認された人には、黒色の識別札 (黒タッグ) がつけられます。タッグには、必要と思われる情報を書き込めるようになっており、カルテの代わりに使われます。(下の写真はトリアージ・タッグの見本で、左側が表面、右側が裏面です。) 黒タッグにも、多くの情報が書き込まれたほうが良いでしょう。ただ、災害の現場では、生存者の救助に一刻を争うような状況なので、黒タッグに情報を書き入れる余裕もないようです。しかし、黒タッグに書かれたことは死亡者の最期を知る手がかりとなるかもしれません。また、遺族にとっては、大切な人の最期のメッセージとなるので、死亡者のことについてできるだけ多くのことを書き残すことは、遺族の気持ちから考えれば、とても重要なことだと思われます。看護師がこの役割を担うことで、これを充実させることができれば、遺族に対する援助や、死亡原因の調査などに役立つでしょう。死亡者へも手を尽くせたという気持ちは、救援者である医師や看護師の気持ちの負担を減らせる効果もあるかもしれません。
 そこで、災害の現場で救助活動をしたことがある医師2人と看護師4人に会って調査をしました。
 その結果から、次のような課題がわかりました。
 1つ目は、「災害の現場で、黒タッグをつけられた人への対応をどのような体制で行うか」ということです。例えば、看護師だけでそれをするのか、医師と看護師のペアでするのか、それだけを専門にするのか、他の仕事と併せてするのか、などです。
 2つ目は、「黒タッグをつけられた人への対応に必要な知識や技術は何か」です。生きているかどうか を判断するための知識や技術は、特に重要と考えられます。
 3つ目は、「看護師の能力をレベル・アップするための研修や訓練は何か」です。このためには、黒タッグに必ず書き残さなければならないことは何かということを、まず明らかにしなければなりません。医学や法医学の高度な知識も必要になるかもしれません。
 4つ目は、「黒タッグをつけられた人への対応に伴うストレスとその対処について」です。救援者自身が、自分自身のストレスに対処しなければならないという問題などを含んでいます。
 5つ目は、「いつでも災害の現場へ行くことができるような環境づくりについて」です。災害の現場へ行くということになれば、その間は自分の役割を他の人に補ってもらうことになります。そのためには、組織のレベルや個人のレベルで、様々な調整や準備が必要となってきます。
 これらのことを考えていくと、黒タッグをつけられた人に関わるためには、それなりの研修や訓練を受けておくことが必要といえそうです。災害はいつ発生するかわかりませんので、できるだけ早く、目的に適った人を育てるのがよいでしょう。
 災害が発生したときに、早い時期に災害現場に入って活動する医師や看護師などのチームが存在します。この医療チームのことをDMAT (ディーマット) (災害派遣医療チーム) といいます。DMATは、大きな災害における出動実績もあることから、まずはDMATの隊員を育てるための研修に、これまでお話した黒タッグをつけられた人に関わる訓練などを組み込んで、一部のDMATがこの役割を担うことがよいのかもしれません。また、2005年に発生したJR福知山線列車脱線事故の時の救助活動の教訓から、DMORT (ディーモルト) (災害時死亡者家族支援チーム) が活動を開始しています。DMORTも、この役割を担うことができるかもしれません。
 この調査結果を基にして、DMATである看護師にアンケート調査を行いました。これから、その結果もふまえて、この研究を進めていきます。
 (ここに紹介した研究は、日本学術振興会科研費 (挑戦的萌芽研究) の助成を受けて行ったものです。)
 

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【研究紹介】Clinical Nurses' Perceptions of Loanwords, Abbreviations, and Jargon and the Actual Usage of this Terminology in the Clinical Setting

Gerald Shirley, Foreign Language Department

 

1. Introduction
In this study, the actual usage of loanwords, abbreviations, and jargon (terminology) in the clinical setting and clinical nurses’ perceptions of terminology were examined.
In recent years, the use of terminology has become commonplace in the clinical setting in order to provide efficient care while dealing with large amounts of information.However, although convenient, the overuse of terminology can hinder communication between health care professionals. Identification of the terminology that causes problems due to lack of comprehension, and the circumstances of their actual usage, may be helpful in reducing communication problems between health care professionals.
Therefore, the purpose of this study was to research and identify nurses’ perceptions of terminology in addition to the actual usage of such terminology in the clinical setting.
 
2. Methods and Results
The subjects of the study were 1,000 nurses in six hospitals in A Prefecture, Japan, who were asked to fill out a questionnaire constructed by the researchers. A total of 163 examples of terminology that were not understood and caused communication problems were extracted from their data.
Among the 748 subjects who filled out the questionnaire 97.2% used terminology, with most responding that they used them [sometimes]. Concerning the subjects’ circumstances of use and reasons for use, see Tables 1 and 2 below.

Table 1: Circumstances of Terminology Usage (%)
Messages to next shift88.2
Treatment62.3
Record-keeping52.5
Non-clinical setting12.0
Conversing with coworkers2.9
Other2.6

 Table 2: Reasons for Using Terminology(%)
 Simple and easy to use88.7
 Coworkers use it36.9
 Not understandable by patients36.5
 Meaning is standardized and mutually understood2.6
 Has become a habit1.9
 To increase the sense of “team”1.8
 Improves efficiency of work1.2
 It is cool1.0
 Difficult to translate into Japanese0.3
 Other 1.1

Among these subjects, 81.6% had encountered terminology that they were unable to understand. Regarding how they dealt with the situation, see Table 3 below. Among these subjects, 9.1% had experienced problems through the use of terminology. Some of the problems cited were [lack of comprehension by the listener], [delay in treatment], etc.

 Table 3: Measures Taken when Terminology not Understood (%)
 Immediately asked a coworker54.6
 Asked a coworker in the same ward later37.4
 Immediately asked again and again until I understood the meaning28.1
 Looked it up later27.0
 Asked coworkers from a different ward later11.1
 Immediately looked it up4.4
 Did nothing2.5
 Asked a doctor1.8
 Other (asked specialist as the occasion demanded depending on the level of urgency)0.7

  When asked whether they had been asked about the meaning of terminology by patients, 50.8% answered [yes]. As to how they dealt with this experience, most responded that they [conveyed the correct meaning], followed by [told them to ask someone else] and [told them something vague].
Concerning the necessity of terminology, 44.5% responded that it was either [necessary] or [very necessary].
Examples of terminology that many respondents had difficulty understanding were [suteru] (to die: abbreviation and verbalization of the German word sterben), [zeku] (autopsy: abbreviation of the German word sektion), [SAH] (abbreviation of subarachnoid hemorrhage), and [takiru] (to become tachycardic: abbreviation and verbalization of tachycardia), among others.
 
3. Discussion and Conclusion
This study revealed that 81.6% of nurses on the job encountered and used terminology that they were unable to understand. It is conceivable that nurses are forced to use terminology in an attempt to reduce the time spent on duties other than patient care. Two reasons cited in this study for use of terminology were [simple and easy to use] and [improves work efficiency]. It is not clear how much time can be actually reduced by using terminology, but it can be inferred that the use of terminology is a necessary consequence in order to respond efficiently to the ever-increasing amount of medical information.
It is also conceivable that words such as “die”, “autopsy”, and “subarachnoid hemorrhage” are very likely to arouse fear and anxiety in patients. It can be inferred that the use of terminology is beneficial to patients in the sense that it can help avoid placing an unnecessary psychological burden on them.
However, although using terminology may be convenient for nurses, this study revealed that it can also cause problems. Not only are the meanings of terminology not properly understood, but its lack of understanding has also led to incidences in which doctors’ instructions have not been carried out. It can be concluded that this study has demonstrated that within the overuse of terminology lies the inherent danger of a medical accident occurring.

It is anticipated that in order to facilitate smooth communication among health care professionals, standardization of terminology will be promoted further in the future. In addition, as specialists working in an important clinical setting concerned with people’s lives, the importance for each nurse to understand the correct meaning of terminology and to use terminology appropriately was suggested.

Note: This article is based on a paper published in the Journal of the Japanese Association of Rural Medicine (Vol. 55, No.6., March 2007, pp. 610-617).

 

 

【研究紹介】国際協力:ウズベキスタンでのJICA看護教育改善プロジェクトの経験から

保健管理学研究室  桜井礼子

はじめに
 近年、開発途上国を対象とした支援などの国際協力だけでなく、様々な国々と看護を通して国際交流が行われています。看護教育においても、グローバルな視点をもった看護職の人材育成が求められています。
 今回、国際協力の一例として、日本のODA(政府開発援助)の一環としてウズベキスタン共和国(以下ウズベキスタン)において、2004年7月から5年間実施されたJICA(日本国際協力機構)の技術協力「看護教育改善プロジェクト」を紹介したいと思います。このプロジェクトは、日本の多くの看護教育の専門家で構成され、国内支援メンバーと現地の拠点で活動した専門家を中心に、ウズベキスタンの行政等と協働して取り組まれました。私はその国内支援メンバーの一人として、事前調査から関わり、2009年6月のプロジェクト終了後も継続して現地に赴いています。そこで、このプロジェクトを通して行ってきた看護教育の改善活動の一部と、その活動から得られた知見について、ご紹介します。
 
ウズベキスタンの医療保健の概要
 ウズベキスタンは、中央アジア5ヶ国のひとつで、国土は日本の約1.2倍ありますが、人口は約2780万人(2008:国連人口基金)です。旧ソビエト連邦から1991年に独立国家となり、独自の経済発展を進めてきた国です。綿花の生産に加え、天然ガスや石油、金などの資源にも恵まれ、産業や貿易などの発達はゆるやかではありますが、近年では経済成長が進んでいます。
 ウズベキスタンの保健医療システムは、旧ソ連時代に確立された制度を継承し、末端レベルに至るまで医療施設は整備されていました。しかし、独立後は過度に細分化された不効率な医療施設が存在し、施設が過剰であること、医療の人材不足、ハード面の老朽化、医薬品の不足により、医療の質の低下、財政負担の増加が指摘され、改革が進められていました。
 
ウズベキスタンの看護教育の現状
 教育システムは、「教育改革プログラム」が策定され、2005年を目途に新しい後期中等教育制度の導入と12年制義務教育への移行を軸に、教育課程の再編、新教科書の整備、教員の要請・研修、教員の能力向上、学校の増設が進められていました。 看護基礎教育は、この教育改革プログラムにより、一般教育9年後(WHOは11年を提唱している)に中等職業教育である医療専門学校3年間(看護師、助産師)修了により、国家試験を経ずに、看護師・助産師の免許が取得できるよう統一されました。さらに、医学大学に看護学科が1998年から創設され、卒業後は学士が取得できる看護の高等教育が行われるようになっています。これは、中等職業教育の教員は、学士を取得していることが条件となったことも関係していると考えられます。
 医療専門学校の数は、15歳人口の急増を反映して、プロジェクトを始めた2004年には54校でしたが、02009年6月の修了時点には80校に増加しています。タシケント市で見学した医療専門高校は、看護科だけで1学年400名の学生が在籍していました。しかし、授業は1クラス25名~30名の小クラスで行われており、午前・午後に分けて行われていました。
 
JICAプロジェクトの概要と特徴
 事前調査の結果から、看護の実践を改善していくためには、医学モデルから看護モデルに転換し、看護過程の展開を基本とし、看護師が自立して判断し、自らが看護の役割を果たすことができる人材の育成が重要であり最も効果的な方策であると考えられ、ウズベキスタンの看護基礎教育の改善の取り組みが始まりました。
 看護教育改善のプロジェクトの目的は、「ウズベキスタンにおいて、『client-oriented nursing』に基づいた看護教育のモデルが確立されること」とし、ウズベキスタンの教育システムの現状を尊重しつつ改善に取り組んでいきました。具体的な成果として、モデル校で、 “Client-Oriented Nursing(CON)”のコンセプトが導入され、①カリキュラムの改善、②新しい教育教材の提供、③教員の教育方法の進歩・発展による教員の質の向上を目指しました。
 
 プロジェクトの組織として、合同調整会議は、両国のキーパーソンとなる代表者が参加し、年1回定期的に開催し、プロジェクトの運営方針の承認、プロジェクト運営や財政上の問題の解決にあたりました。カリキュラム委員会は、プロジェクトの具体的な運営に関する決定機関で、年2回定期的に会議を開催しました。ワーキンググループ(WG)は、7領域ごとにウズベキスタン側、日本側からのそれぞれ3~5名の専門家によって構成され、教案プラグラム、指導要領、実習指導要領、教員の再教育プログラム、教材の作成等にあたりました。各領域のWGは、ウズベキスタンと日本を結ぶテレビ会議なども含めてそれぞれ50回以上の会議を重ねて作業を行いました。
 活動の拠点は、看護教育センターがモデル校の敷地内に開設されました。看護教育センターには、日本人の長期専門家とウズベキスタンのカウンターパートが常駐し、センター内でWG会議ができるよう会議室と、セミナーの準備などが行える実習室などが整備されました。カリキュラムの作成やモデル校への改善カリキュラムの導入は、看護教育センターのカウンターパートと長期専門家(チーフアドバイザー、看護専門家の2名)が中心となり、各WGの活動をサポートするとともに、国内の支援メンバーとは、国内でのWGの活動や日本側とウズベク側とのテレビ会議を通してカリキュラムの作成が進められました。日本国内から短期専門家が派遣され、ウズベキスタン現地でWGメンバーとの打ち合わせやカリキュラムの作成が行われました。
 
プロジェクトの主な活動と成果
 プロジェクトの主な活動は、看護カリキュラムとして、7領域の教案プログラム、指導要領、実習要項の作成を、各領域のワーキンググループのメンバーが中心となって、ロシア語および日本語で作成したことです。この作成したカリキュラムは、モデル校で3年間実施され、保健省および教育省の大臣の承認を受けることができました。
 また、作成した新たな看護カリキュラムを、医療専門学校の教員や、臨床現場の看護師の方々に理解してもらうために、研修会を開催しました。最初の2回の研修会では、日本側の専門家が「看護とは」「CONとは」を繰り返し講義し、教員や臨床指導者等に、CONの概念を理解してもらうために時間とエネルーギを費やしました。1回の研修期間は3~5日で、毎回、100名以上の医療専門学校の教員、臨床看護師等が参加しました。
 さらに、人材育成の一環として、日本国内での研修も実施されました。毎年、長期研修では3~4ヶ月間、看護教員や臨床の看護師の方々などウズベキスタンのWGのメンバーを中心に日本各地での長期研修(3ヶ月あるいは2ヶ月)を5回(25名)、2週間の研修を2回(14名)、保健省副大臣を含む政策決定者を中心とした短期研修を(1~2週間)4回(17名)実施しました。研修にあたっては、教育機関、病院、老人保健施設、保健所、訪問看護ステーション、精神障がい者作業所などの協力をいただき、特にCONの実践現場をみていただくことで、看護に対する理解を深まったと考えています。
 
国際協力のプロジェクトを振り返って
 今回の技術協力プロジェクトを振り返って、特に重要と考えたのは以下の4点です。
 ①国際協力のプロジェクトにおいては、カウンターパートの存在があります。カウンターパートとは、現地で受け入れを担当する機関や人物をさします。カウンターパートとの関係を築くうえでは、政策の決定者とコミュニケーションをとることが重要です。また、計画や活動の方針を決定するのに欠かせない機関や役職の人物との関係も重要となります。5年間のプロジェクトの期間を通して、保健省および教育省の担当者が変わることなく継続して関わることができ、プロジェクトをスムーズに進めるうえで極めて重要であったと感じています。さらに、実務を担うカウンターパートや活動に参加してくださる専門職の方々とのコミュニケーションもとても重要であり、そのためにはお互いの国民性を理解すること、ときには一緒に食事をする、お茶を飲む、家族の話をする、そのような交流も重要であると感じました。
 ②プロジェクトでは、相手国の人々が、自ら改革を必要と考えそれに取り組むこと、そのために一緒に協働して活動を進めることが大切となります。相手国の状況をきちんと把握し、どのような問題があるのかを一緒に考えること、また、課題を明確にすること、さらに、その国がもつ力や強みを見つけ、尊重することが重要です。カウンターパートを含め多くの関係者と目的を同じにして、改善に取り組みましたが、それでも改善していくこと、変化していくことたいへんなことが多く、この活動の意義を理解し、プライドと尊厳を持って活動に関わることがその推進力となっていたと感じています。
 ③ 技術協力では、人材育成が重要であることは言うまでもありません。当初は、CONのような看護の概念を理解してもらうことは容易ではありませんでした。新たな概念について理解を促すためには、看護の現場を体験してもらうことが重要であると考え、日本での研修プログラムを構築し実施しました。担当者を日本で研修してもらい、各自が理解したCONの概念を、ウズベキスタンの仲間に自分たちの言葉で伝えていくことで、関係者に理解してもらうことができたと感じました。また、担当者が主体的に変更するという認識をもち,共同作業に積極的に係る姿勢を培うために、日本での研修の果たした役割が大きかったと考えます。
 ④ 今回のプロジェクトでは、通訳、翻訳者の役割が極めて重要であり、進捗に大きく影響を与えることとなりました。とくに、ロシア語では存在しない看護の概念など、日本語からロシア語への翻訳には時間を要しました。これは、当初は予測できなかった大変さであったと思います。現地で活動された長期・中期専門家の活躍により、現地での通訳の育成、通訳2名を日本で長期研修を行うなど、さまざまな対応策を用いながら解決されていきました。
 
おわりに
 今回、プロジェクトに参加することで、看護教育や看護の現場がダイナミックに変化していくことを体験することができました。また、日本の看護、看護教育の実態を振り返る機会を持てたことも大きな収穫でした。
 今後、ウズベキスタンのすべての医療専門学校に本プロジェクトで改善したカリキュラムを導入し、定着させていくことが重要の課題です。すでに、2009年9月から、段階的に医療専門学校に新しいカリキュラムが導入され、現在では全国の医療専門高校すべてが新しいカリキュラムを導入されています。新しいカリキュラムによる教育の実績を評価するためには、さらに長い年月にわたるフォローが必要とされます。これからも、ウズベキスタンとの連携をとりながら、看護教育が根付き、臨床現場が変化していくことを検証していきたいと考えています。
 
-文献-
・ウズベキスタンでの看護教育の改善を経験して 保健の科学p833-838 50-12 2008.12

・ウズベキスタンで看護教育を『変える』 JICA「看護教育改善プロジェクト」の概要 看護教育p66-71 51-1 2010.1

【研究紹介】市町村が実施する「こんにちは赤ちゃん訪問」に関する母親の満足感に関連する要因の検討

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【研究紹介】筋萎縮性側索硬化症(ALS)患者の自律神経機能

健康情報科学研究室 品川佳満

 

 筋萎縮性側索硬化症(以下ALS)は,筋肉の萎縮や筋力低下をきたす進行性の神経疾患で,他に類を見ない難病です.
 ALSは病気が進むにつれ,歩行ができなくなり,水や食べ物を飲み込むこともできなくなり,場合によっては呼吸も十分にできなくなるため人工呼吸器の装着が必要となります.このような症状は,運動をつかさどる神経細胞(運動ニューロン)が侵されることが原因で発生します.


 では,運動をつかさどる神経以外の「感覚神経」や「自律神経」は,障害を受けていないのでしょうか? 実は,ALSでは感覚神経および自律神経は侵されないといわれており,多くの書籍やインターネット上のサイトでは,「運動神経のみ侵される」と記述されています.しかし,この見解に関しては様々な意見があり,中でも自律神経については,障害を受けている,つまり異常をきたしていると報告している研究も多くみらます.
 

 そこで,私の研究ではALSの自律神経機能(特に,心臓の働きをコントロールしている自律神経)が,障害を受けているのか実際に調査を行いました.
 

 調査の方法は,11名の男性ALS患者さんの睡眠中の心拍変動を測定し,自律神経機能の働きを評価しました.心臓は,心拍数を上げる働きをする交感神経(車でいうアクセルの役目)と心拍数を下げる働きをする副交感神経(車でいうブレーキの役目)によって常にそのバランスがコントロールされています.そのため,自律神経活動が活発であると心拍の間隔(脈の間隔)は,安静にしていても一定ではなく,ゆらぎを持ちます(アクセルとブレーキの両方が適度に効いている).つまり,このゆらぎ成分を調べれば,自律神経の活動状態を推測することができます.
 

 図は,心拍間隔のゆらぎから計算した自律神経全般の活動状態を示す指標(TF)および副交感神経の活動状態を示す指標(HF)を健康な人(健常者)のデータと比較したものです.グラフ中のは平均値,から上下に伸びているバーは標準偏差をあらわしています.また,グラフには,各ALS患者さんの状態と実際の測定値がわかるように,人工呼吸器を装着していない場合は■,人工呼吸器を装着している場合は▲,「完全な閉じ込め状態(以下TLS)」と呼ばれる,ALSのもっとも進行した状態の場合は★で測定値のところに印を打っています.

品川図

図 健康な人とALS患者さんの自律神経活動の比較

※健常者のデータは文献(久保豊,大塚邦明:第7章 生活スタイルに映る心拍・血圧のゆらぎ 1心拍変動,ホルター心電図-基礎的知識の整理と新しいみかた-.初版,東京,医学出版社,2005)から算出したものである.


 

 この図から,ALS患者さんは,心臓の働きをコントロールしている自律神経全般の活動(TF)が健康な人と比べて低下していることがわかります.副交感神経の活動(HF)は,平均値をみるとALS患者さんと健康な人の間に大きな差はみられません.しかし,個別の測定値をみると,ALS患者さんは,高い値(つまり副交感神経活動が活発)を示す方もおられるのですが,健康な人の平均値よりずいぶん低い値(平均値-標準偏差より低い)のところに,半数以上の方が位置しています.また,TLSに陥っているALS患者さん(図の★)は, TFおよびHFが極めて低い値を示していることがわかります.
 

 以上の結果から,ALS患者さんの心臓の働きをコントロールしている自律神経の活動は,全般的に低下していると言えそうです.中でも,もっとも病気が進行している完全閉じ込め状態に陥っているALS患者さんについては,顕著に自律神経機能が低下していることから,運動をつかさどる神経だけでなく自律神経までもが障害を受けている可能性が高そうです.しかし,個人毎のデータから判断すると,ALS患者さんの中には,健康な方とかわらない方や自律神経活動が活発な方もおられました.今後は,どのような要因が自律神経活動に違いをもたらしているのか,さらに調査を進めていきたいと考えています.
 

【研究紹介】助産師外来に対する妊婦の期待と満足

   母性看護学研究室 林 猪都子

   近年、助産師業務の確立と妊婦ケアの充実に向けて、正常経過の妊産褥婦のケアは助産師の手で行い助産師の専門性を発揮したいという思いから、医師との役割分担・連携のもとで、助産師が正常妊婦・褥婦の健診と保健指導を行う助産師外来が開設されています。
  
大分県はこの2~3年の間に病院や医院において、助産師外来を開設する施設が徐々に増えてきています。その中で、A医院は医師外来の健診にて異常がなかった妊婦を対象に、妊娠24週~36週の希望者に1~2回助産師外来での妊婦健診を行っています。助産師外来は週1回午後4名を予約制で行っている状況です。
   そこで、本研究は医師外来を受診している妊婦の助産師外来への期待度と助産師外来を受診している妊婦の満足度を比較し、助産師外来の助産師の対応に対する妊婦の満足度を明らかにすることを目的としました。A医院の外来受診者の協力が得られた妊婦を対象にアンケート調査を行いました。質問紙は島田らの「患者満足度測定ツール」を使用しました。

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その結果、「医師外来受診者」101名、「助産師外来受診者」102名を対象に分析し、平均年齢は「医師外来受診者」が29.7歳、「助産師外来受診者」が30.3歳でした。
「患者満足度測定ツール」の教育関連領域では、6項目中の5項目で、技術的・専門的領域では9項目中の7項目で、信頼関係領域では、16項目中の15項目で、助産師外来の助産師の対応に対する満足度が期待度より高い値でした。(P<0.05)
満足度の平均得点の高い項目は、教育関連領域の「わかりやすく説明してくれる」、信頼関係領域の「親身になって看護をすること」「気軽に質問できる」や「いやな顔をせずしてくれること」でした。
助産師外来の課題として指摘されている技術面においては、「技術がすぐれていること」の満足度が期待度よりも高い値でした。(P<0.05)
以上のように、助産師外来では、助産師は相談内容に応じて妊婦と共に話し合ながら、対象の妊婦の生活背景に合わせた実践可能な分かりやすい保健指導が行えていると考えます。また、助産師外来では一人の助産師が健診・保健指導をすべて行っているため、妊婦は助産師への信頼を感じていると考えます。その結果、助産師外来で行っている助産師の妊婦健診や保健指導は妊婦にとって満足度が高いことが明らかになりました。
私は今後助産師活動をしていく中で、助産師外来は満足度が高いことを女性に伝えていきたいと思っています。さらに、大分県の病院・医院において助産師外来が普及していくことを願っています。

  なお、この研究は本学研究室の卒論生と一緒に行った研究の一部を紹介しています。
 
 

 

【研究紹介】1回の登山にも健康効果はあるのか?

 健康運動学研究室  稲垣 敦

 

 

 

 

 

 健康ブームと言われて久しいですが、手軽な健康法として種々のスポーツや運動があります。仕事柄、私も運動を指導するのですが、よく「運動は継続が重要」と言われます(私も言います)。これは本当でしょうか?チャンピオンスポーツの世界で高いパフォーマンスを目指して、効率的に身体能力を高めてゆくためにはトレーニングの継続性が重要ですが、健康のための運動でもそうでしょうか?たまに思い出したように行う運動には意味がないのでしょうか?今回は、登山をとりあげて調べてみました。なぜなら、登山は時間的にも体力的にもそれほど頻繁にはできませんし、実際に新緑、花、紅葉、雪などを目当てにそういう時期だけに登る登山者が多いからです。

 そこで、由布岳(1584m)登山の前後に、大腿部および下腿部の前面と後面の超音波画像を記録したところ、全ての部位のエコー強度が登山後に増加し(P<0.05)、20日後まで登山前より高い値でした。

 また、気分(POMS)を測定したところ、「緊張-不安」、「抑うつ-落ち込み」、「怒り-敵意」、「混乱」が登山後急激に低下し、登山前の水準に戻ったのは登山後6〜7日後でした。「疲労」は下山1時間後に最大値を示し、翌日以降は登山前より低水準を維持し、「活気」は山頂で最大値を示し、下山1時間後には登山前の水準に戻りました。「失敗に対する不安」は山頂、下山10分後と低下して最低値となり、登山7日後まで登山前よりも低い水準を維持しました。一方、由布岳山頂で一般登山者の気分

を測定したところ、陽性気分の「活気」が高く、その他の陰性気分は低いという健康的なパターンを示しました。

 さらに、久住山(1787m)登山の前後に種々の測定を実施したところ、体重は平均0.7kg減少し、29日後まで低い値を維持しました。安静時エネルギー代謝量は登山翌日に顕著に高く、15日後まで登山前よりも高く、交感神経活動(LF/HF)は登山翌日に高く、9日後には登山前の水準に戻りました。心拍数は登山後増加傾向を示し、副交感神経(迷走神経)活動(HF)は登山後低下しました。血中脂質成分では、登山後9日後にHDLコレステロールが増加し、中性脂肪が減少する傾向が見られ、LDLコレステロールと総コレステロールは登山後若干低下して元に戻りました。膝関節伸展筋力は、登山後9日目に左右ともに最大となり、その後低下しましたが、登山前よりも高い値を維持しました。

 心理面では「抑うつ」と「失敗に対する不安」が登山後に低下し(P<0.05)、「行動の積極性」は山頂以降29日後まで高く(P<0.05)、「活気」は高まり、「緊張―不安」、「疲労」、「混乱」は長期間低下し、「怒り」も短期間でし たが低下しました。

 以上のように、1回の登山でも脚の筋線維損傷が生じたと考えられ筋肥大あるいは神経系の改善による筋力増強効果が期待できますし、血清脂質(脂質代謝)の改善、自律神経活動の亢進、エネルギー代謝の亢進、減量効果等もありそうです。また、運動の効果というと身体的な効果を考えがちですが、ストレス発散や気分の改善、自信や積極性の回復など精神面の効果も期待されます。このように、種々の効果が持続することから、1回の登山でも健康効果があると考えられ、登山に限らず健康のためには、たまに行う運動にも価値がありそうです。

 

 

 

 

  

【研究紹介】妊娠期の女性に対する栄養指導

     生体科学研究室 安部眞佐子

 
   身長と体重から算定されるBMIですが、18.5未満はやせと言われます。1990年頃から20歳代の女性の約20%はやせであり、その時にやせであった人たちがそのままであるせいか、30歳代の女性にもやせが増えてきました。女性の初婚平均年齢が29歳であり、第1子を出産するのがその近辺とすると、やせたお母さんが妊娠中もダイエットを継続して子どもを産むことが予想されます。本学の学生は女性が多いため、スリム体型の学生を見るととても心配になってきます。特に看護職につくことから激務の間に子育てをすることを思うと、できれば学生のうちにダイエットの習慣を解消してほしいと思うこのごろです。
近年、Bakerらが唱える出生体重が低いと子どもの将来の病気発症のリスクが高まるという、いわゆるBaker仮説は、第二次世界大戦中のオランダやイギリスをモデルとして提唱されてきました。それが、現在の日本にもあてはまると言われています。昨今の若い女性の場合、外的要因でなく、自らのダイエットによって飢餓状態を作り出しているのです。もっと食事をきっちりとって丈夫な次世代を育ててもらうと同時に、ダイエットを続けてご自分の健康を損なうようなことがないようにすることも大切な事です。
 このような背景から、卒業研究の学生さんと一緒に、食事に対する意識が高まる妊娠期に、栄養指導を受ける機会を作ってもらうにはどうしたらよいかということを念頭にアンケートを行っています。
   まず、若い女性のダイエット指向に対して、保健医療者の指導はどうだろうかということを考えてみました。私の身の回りでは妊娠中に「ふとりすぎないように」とずーっと言われた人が少なくなかったからです。といっても、ふくよか体型の女性が私のまわりには多かったことがありました。しかし、それが妊婦さんに一律に言われてないだろうか?と疑問がわきました。
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そこで、最も密接に妊娠時の体重増加指導にあたる助産師さんと、また、受け手の妊婦さんに対して調査をしました。その結果、やせの妊婦さんに対する体重指導が厳しい助産師さんもいる(薬師寺舞さん卒業研究)ということ、また、妊婦さんに対する調査では、目標体重増加量がやせの場合でもあまり変わらない、という結果が得られました(柳井慶子さん卒業研究)。調査対象が同じ地域ではなく、また、調査後、妊婦の体重増加の目安量が各種団体から公表されたので、今はもっと考慮されていると思われます。
 
 
   また、アンケートの自由記述を読ませていただく中で、妊娠中の食事の困りごとの中に、つわりと並んで、食物アレルギーが気になって、アレルギーのひきがねになりそうな食べ物を制限しようと思っているということをたくさんのかたが書いてありました。
 妊婦さんがどのくらい知識があるのかということを聞くつもりで、乳児の中に食物アレルギー児はどのくらいいるでしょうか?という質問をしてみました。大分県は自然にめぐまれたところが多いせいでしょう、大分市でも10%にみたない乳児が食物アレルギーであり(坪根彩さんの卒業研究)、大分市別府市以外の地方部ではもっと少なくて8%前後という(中島美貴さんの卒業研究)中で、20%以上という数値をあげられるお母さんが多くいらっしゃいました(山部直子さんの卒業研究 図)。
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そして、たくさんの子どもが食物アレルギーであると思っているお母さんほど、子どもに症状がなくても卵や牛乳製品を控える傾向があることがわかりました。
   最近の欧米からの報告では、何の食べ物であれ、お母さんが食物制限をすることが子どもの食物アレルギー発症に関与しているかもしれないというものもあります。また、アレルギー学会のガイドラインでは、食物除去はあまり意味がないということになっています。動物実験では特定の食品や食品成分を取り上げて、アレルギー発症に関連づけていくことがよく行われています。しかし、人間はいろいろなものを食べて生活をしていますので、一概にあてはめられないことも多いのではないでしょうか。一方、アンケートの中には、アレルギーのお母さんが医師に何でも偏りなく食べて下さいと言われて実行していますというかたもいらっしゃいました。バランスのとれた食生活がアレルギーの発症を予防するのか、それがこれからの課題であると思います。

【研究紹介】妊娠中期の体重増加量率と出生体重及び妊娠期間との関連

母性看護学・助産学研究室 関屋伸子

 

1.はじめに
 日本では、新生児の平均出生時体重は着々と減少しています。若い日本人女性における喫煙の流行や行き過ぎたやせは新生児体重を減少させることにつながるかもしれません。妊婦の体重増加量の少なさは子宮内胎児発育遅延児(SGA)や早産の危険因子であることが示唆されています。従って、低出生体重児が出生するかもしれないという危険は、妊娠期間中のうちで最も重要な期間における適切な母体の体重増加によって縮小されるかもしれません。しかし、いずれの妊娠期の体重増加が最もそれらに影響を及ぼすかは明白ではありません。
 よって、本研究は合併症がなく正期産で経膣分娩であった妊婦の異なる妊娠期間における体重増加量と出生時体重及び妊娠期間の関係を調査することを目的として実施しました。

 

2.方法
 1997年1月から2003年12月の期間におけるA病院の妊娠経過記録と分娩記録を後方視的に調査しました。対象は正期産(妊娠37週0日から妊娠41週6日)で単胎の経膣分娩となった合併症がない472名の女性としました。
 妊娠期間を正期産早期(妊娠37-38週)と正期産後期(妊娠39-41週)の2期に分類し、妊娠期間における属性の影響を査定しました。独立変数は母体年齢、経妊回数、経産回数、身長、非妊娠時体重、妊婦体重増加量、喫煙、飲酒、新生児の性別としました。子宮内胎児発育遅延児(SGA)と妊娠期間の短縮化の影響はオッズ比で示し、ロジスティック回帰分析は95%信頼区間で用いました。妊娠各期の体重増加率と出生時体重及び妊娠期間の長さとの相関関係にはピアソンの相関係数を用い、他の統計手法は対応のないt検定とフィッシャーの直接確率検定を用いました。有意確率は5%(p<0.05)としました。
 
3.結果

 Table1.は対象の属性を示しています。正期産早期の平均出生時体重は2,905±375gで、正期産後期の3,154±382gと比較し有意(p<0.05)に軽く、正期産早期における低体重児(<2,500g)の出現は正期産後期(10.6 vs. 5.2%, p=0.029))と比較して有意に重い結果となりました。また、妊娠初期の体重増加量は妊娠中期及び末期(それぞれp<0.001)と比較して有意に低かったですが、妊娠中期と妊娠末期の間の体重増加量に有意差はなく、妊娠中期における体重増加量が最も高値でした。対象妊婦の喫煙率は8.5%で、大多数の喫煙者(70.0%)は一日あたり11本以下の喫煙をしていました。

 

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 低い非妊娠時体重と低い妊婦体重増加量は、Table2.に示したように、いずれもと妊娠週数の短縮化の独立した予測因子でした。間隔変数における調整後オッズ比は、その間隔変数1単位あたりのオッズ比を示します。 

 

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 非妊娠体重、妊婦体重増加量、妊娠中期の妊婦体重増加率は、Table3.が示すように出生時体重及び妊娠期間の長さと有意に関係しています。また、妊娠中期の妊婦体重増加率と出生体重及び妊娠期間には有意な相関関係(それぞれr=0.32,p=0.005;r=0.40,p=0.0003)を認めました。

 

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4.考察
 本研究は正期産に対する後方視的調査でしたが、妊娠中の体重増加不足や体重増加量の低さは子宮内胎児発育遅延児(SGA)の増加や妊娠期間の短さと有意に関係していました。また、非妊娠体重及び妊婦体重増加量は両者とも出生時体重と妊娠期間の長さと有意な関係がありました。栄養上の問題が子宮内胎児発育遅延児(SGA)や短い妊娠期間と関係していることが最近の研究から考えられました。 

 妊娠中期における体重増加値と出生時体重の間に有意な相関関係を認めました。妊娠初期、妊娠中期、妊娠末期において、各妊娠期間中の体重増加率は低いか低くない、の2つに群に分けられますので、各期を通して見た場合は8つの異なる体重増加パターンがあります。比較された体重増加パターンは、妊娠各期のいずれも低くない群と比較すると、妊娠初期と中期が低い場合は133.0g低下し、妊娠中期と末期が低い場合は88.5gの出生時体重の減少がみられましたが、妊娠初期及び妊娠後期に低い体重増加を示した群は出生時体重の変化に有意な変化は認められませんでした。妊娠中期の体重増加値は、Table1.が示すように最高値でした。妊娠中の平均体重増加の値は妊娠中期において最大となることは広く支持されています。

 本研究では、妊娠期間の長さと妊娠中期における体重増加量に有意に相関をしていました。この結果は妊娠期間の長さにとって最も敏感な時期は妊娠中期であることを意味しています。妊娠期で最も影響を受けやすい時期における適切な妊婦体重の増加は平均出生時体重の増加に寄与するでしょう。

 

5. 結論
 妊娠のはじめから終りまでの大部分と同様の妊娠中期における妊婦の体重増加量は出生時体重及び妊娠期間と相関関係がありました。妊娠中の体重増加が胎児体重と妊娠期間の長さに最も影響する時期は妊娠中期の可能性があります。
 

論文掲載 Maternal Weight Gain Rate in the Second Trimester Are Associated With Birth Weight and Length of Gestation:Gynecologic and Obstetric Investigation 2007;63;45-48

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