【研究紹介】企業とはたらく人のWell-Being(よい状態)を目指す看護の支援

~中小規模事業場の産業保健活動支援の在り方の検討~

 

高波利恵(地域看護学研究室)

研究の背景と目的

 我が国では、はたらく人の70以上が中小規模事業場に所属しています(東京都や大阪府などを除く)1)。多くの大規模事業場では、産業医や産業看護職によって労働災害の防止や健康増進対策などの産業保健活動が行われています。しかし、中小規模事業場では、これらの産業保健専門職の雇用は難しく、システム、人材、金銭、情報、時間などの限界があるために独自で組織的な活動を行うことも困難です。そこで、政府の検討会などでは中小規模事業場の産業保健活動支援に外部機関の保健師を活用するアイディアが提示されています2)

 しかし、保健師がどのようにして支援をしていくのか。その方法は十分に検討されていません。そこで、本研究では保健師を活用した、中小規模事業場の産業保健活動支援の在り方の検討を目的としています。

 

研究の方法

 本研究は中小規模事業場のご協力を得て、保健師としての支援をしながら研究を行うという方法をとっています。事業場によって必要な支援は異なりますので、一方的に支援内容を決めて関わるのではなく、中小規模事業場の経営や人のマネジメントへの考え方を知り、事業場の人々とともに課題やその対策を明らかにして、支援を展開・評価・改善する取り組みをしています。

 これまでにも、特定の事業場への支援に関する報告はありますが、その多くは支援方法の簡単な説明とその短期的な成果を報告したものです。しかし、その成果を他の事業場にも活用するためには、どのような必要性をもとに、どのような支援を行い、どのような変化が起こったのかという、具体的支援計画とその評価・改善のプロセスが分かるような報告が必要です。

 よって、本研究では支援の方法の検討・支援・評価・改善の全てのプロセスを詳細に記述し、要所で他の研究者や経営者などと意見交換を行い、支援の在り方の検討を重ねていくという展開をしています。

 

企業とはたらく人のWell-Being(よい状態)を目指す看護

 看護の支援の対象ははたらく人々だけではありません。それをとりまく環境である企業自体も支援の対象です。はたらく人と企業は相互関係にありますので、双方のWell-Beingを目指した支援が必要です。「Well-Being」は、対象によって異なります。「Well-Beingとは何か」を明らかにし、達成に向けて、看護における理論やモデルなどを活用して支援をします。

 一般的な事業場での「看護」のイメージといえば、ケガ人への救急処置や病気の管理などが想起されますが、本研究の「看護」はもっと概念的なもので、様々な領域で活用できるものです(ここでは「看護とは」については割愛します)。

 

支援の目的・目標、初期支援内容

 下記に支援の目的・目標、事業場との関わりの開始時における支援内容を示しました。これらはどの事業場でも共通のもので、支援を行う際の保健師としてのスタンスでもあります。本研究のポイントは、はたらく人の力量を高め、Well-Beingを支援する職場の社会文化をつくることです。対策のために設備などの環境を整えたり、イベント等を実施することは重視していません。中小規模事業場では活用できる社会資源が限られています。社会文化に着目した場合、物理的な環境整備やイベントなどは、あくまでもWell-Beingを支援する職場の社会文化を形成するための手段3)ですから、必要最低限でよいと考えています。

 中小規模事業場には取り組みのためのシステムがありませんから、まずは「基盤づくり」と、それに平行してWell-Beingを支援する社会文化を形成するために、はたらく人々の「力量づくり」を行います。力量づくりでは、一人ひとりが適切な知識・価値観を持ち、それらを共有することを重視します。

 これと並行して、保健師はWell-Beingに関する情報を面談、質問紙、観察を駆使して情報収集します。さらにキーパーソンとの話し合いを重ね、支援のニーズを明確にしていきます。

 

 資料.支援の目的・目標、初期支援内容

 

 

支援の例

 ある事業場では中間管理層の管理職としての力量を課題として考えていました。これまでにも様々な対応策を検討してきましたが、なかなか効果的な対策の糸口が見えない状況でした。

 そこで、現在、現場のはたらく人々の声を収集するとともに、まちづくりや健康教育などの分野で活用されているプリシードプロシードモデル4)を用いて、まずは幹部社員間でブレーンストーミングを行い、対策を検討しています。検討の中で、中間管理層の現場とのコミュニケーションの強化と情報収集の必要性が明らかになりましたので、さらなる課題解決の検討へとつなげていく必要があります。このような中間管理職の力量形成などは看護職の支援のポイントではないと考えるかもしれませんが、その力量が部下だけでなく本人の心身の健康、事業場の生産性や業績にも影響しますので、重要な支援対象です。また、経営者・経営幹部も「はたらく人」です。中小規模事業場ではこれらの人々と保健師の距離が非常に近いため、経営者層の個人への支援も行います。

 

おわりに

 既にフィンランドや韓国などでは、保健師による中小規模事業場への支援が法的な根拠をもとに展開されています。フィンランドで、道路の側溝を修理している一人の10代の作業員が、騒音障害予防のためにイヤーマフなどを適切に用いているのを見て、保健師による支援の効果を痛感しました。我が国でも保健師による効果的な支援が中小規模事業場へいきわたるように、これからも研究を続けたいと思います。

 

引用文献

1)中小企業白書(2011年版)付属統計資料http://www.chusho.meti.go.jp/pamflet/hakusyo/h23/h23_1/110803Hakusyo_fuzokutokei_web.pdf (アクセス日 201249日)

2)第4回事業場における産業保健活動の拡充に関する検討会議事録(2010

http://www.mhlw.go.jp/stf/shingi/2r9852000000vz1w.html(アクセス日 201249日)

3)高波利恵(2010).社会文化的環境に着目した中小規模事業所労働者の生活習慣改善の支援の在り方の検討,北九州市立大学大学院社会システム研究科博士(学術)学位請求論文.

4)藤内修二編集(2000).PRECEDE-PROCEED Model(MIDORIモデル)の理論と実践 : 平成11年度厚生科学研究報告書.

 

本研究は科学研究費助成事業(学術研究助成基金助成金)若手研究(B)の支援を頂いています。

平成1922年度(課題番号19791782)、平成2326年度(課題番号23792739

 

【研究紹介】紅葉ウォーキングのストレス低減効果について

精神看護学研究室 大賀淳子

 

 皆さんは、「大分県県民の森」(http://www.oita-kenminnomori.jp/)を利用されたことがありますか?この森は、全国各地の「県民の森」の中で全国第2位の面積を有しています。私たちは、この森を管理する(公財)森林ネットおおいたと協同し、森林環境が心身に与える影響についての調査と、森林環境を利用した健康増進のためのプログラム作りを行っています。ここでは、201011月に「大分県県民の森」全国植樹祭広場周辺で行われた紅葉ウォーキングにおける調査結果をご紹介します。
 紅葉ウォーキング参加者は、大分市近郊に住む公務員19名(男性12名、女性7名)で、平均年齢は40.6歳(±13.8)でした。ウォーキング中は、適宜、水分補給をしながら、それぞれのペースにあわせて自由に散策してもらいました。コースは全長約4km、高低差約70m、所要時間は1~1時間半程度でした。スタート前とゴール後に、血圧、POMSProfile of Mood States;気分プロフィール検査)、唾液アミラーゼ活性、および自律神経バランスを測定しました。また、ウォーキング中の歩行数も測定しました。
 ウォーキング前後の各測定値(平均値)を比較(t検定)したところ、体重(図1)、最高血圧(図2)、POMSによる気分尺度の全6項目(図3)において、有意な変化が認められました。特に「抑うつ」、「緊張」、「疲労」、「混乱」などの気分が、顕著に改善していました。1時間程度の紅葉ウォーキングは、今回の参加者の心身の緊張を和らげる効果があったようです。
 唾液アミラーゼは精神的ストレスの程度を示すホルモンですが、今回の参加者19名中10名が減少(ストレスが低減)し、3名は変化なし、6名は上昇していました。唾液アミラーゼ活性が上昇した6名について、POMSによる気分尺度の「疲労」の変化との関連をみてみると、唾液アミラーゼ活性の上昇幅が大きい人ほど、「疲労」の上昇幅が大きかったことがわかりました(図4)。つまり、ウォーキングで疲労を感じた人は、精神的ストレスが上昇していたわけです。
 参加者からの感想の中には、「ストレスの程度を数値で知ることができて面白かった」、「自分はストレスがたまっていると思っていたが、測ってみると数値が低くて、ちょっと安心した」など、唾液アミラーゼに関心を示したものや、「職場の人たちと一緒に歩いて、コミュニケーションが深まりました」といったものもありました。
 なお、これまでの調査結果をもとにして、(公財)森林ネットおおいたでは、「大分県県民の森」の中に車椅子でも利用できる4か所の「森のセラピーコース」を整備中で、間もなく公開されます(詳しくは、同HPをご参照ください)。たくさんの方々にご利用いただくことを期待しています。 
 
 

【研究紹介】リンパ管の機能形態学

          生体科学研究室 下田 浩

 
  リンパ管は私たちの体の中で血管から独立した体液の循環回路をつくっています。血液を循環させる心臓―血管系に対して、リンパ管系は血液以外の体液を集めて再び血流に戻す役割を担っています。リンパ管は私たちの体では、体の様々なところから細い毛細リンパ管として始まり(図1)、次第に合流して太い集合リンパ管になり、体の中心を縦に走る太いリンパ本幹を経て、首の付け根の左右の静脈の一部に辿り着きます。

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図1.腸壁内のリンパ管)と毛細血管)をレーザー共焦点顕微鏡で見る。
毛細リンパ管は盲端(矢尻)から始まり、管壁は毛細血管より太い。リンパ管の合流部はよく逆流防止弁をもつため、くびれ(矢印)を呈する。右下のバーは100μmの長さ。


  リンパ管の中を流れる液(リンパ)の主なものは体の組織内に貯まっていた間質液と呼ばれるものです。血管から浸み出た色々なものを含む水は間質液として私たちの体を潤すだけでなく、体の形作りや栄養や代謝などにも深く関わっています。しかし、あまり組織内に貯まりすぎると、体の一部が腫れてきたり、炎症や感染など様々な病気を引き起こしたりします。さらに、細胞や組織の活動に伴い、間質液にはそれらの老廃物なども貯まってきます。リンパ管はこういった間質液を組織から適度に回収して、体のきれいな環境を保つことに大きく役立っています。腸で吸収された脂肪(と脂肪に溶けているビタミンなどの栄養素)や免疫をつかさどる細胞を運ぶのもリンパ管です(図2)。
 

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図2.脂肪を輸送する腸間膜のリンパ管(a)とリンパ球を運搬する小腸のリンパ管(b),
(a:実体顕微鏡像、b:走査電子顕微鏡像)
 a.脂肪を含むため白く見える数本の数珠状のリンパ管が腸からリンパ節(左下)に向かっている。赤血球を含む血管が赤く見えている。 b.多数のリンパ球(青)がリンパ管内に侵入している。上には赤血球を含む血管が見える。右下のバーはaが3 mm、bが10μmの長さ。



  最近では、リンパ管の働きが悪くなることで(または怪我や外科手術でリンパ管がなくなることで)間質液が異常に蓄積したリンパ浮腫や免疫細胞だけでなくがん細胞までもがリンパ管の中を流れることで引き起こされるがん転移が医学的・社会的問題になっています。このように私たちの体にとって非常に大切なリンパ管ですが、意外なことに、最近まであまり多くのことは知られていませんでした。「リンパ管とは何か?」の問いにわずかでも答えられるように、リンパ管の正確な機能形態と成り立ち、病気との関わり、リンパ浮腫治療の開発について研究を行っています。

 

【研究紹介】臨床看護師がとらえる「よい看護実践」の枠組み

成人・老年看護学研究室 小野美喜

 

 皆さんは“よい看護師“とはどんな看護師を想像しますか?臨床にいるおそらく全ての看護師は“よい看護師“を目指してケアを行っています。「善い」と判断され道徳的要素を含む“よい看護師“は私たち看護師のあり方を目指す倫理的理想像です。研究では“よい看護師“を探究するプロジェクトチームもありアジアを拠点とした学際的な研究がおこなわれています(特集 Good Nurse研究にみる東アジア国際共同研究の意義・方法論・成果、看護研究44(7)、2011. 参照)。日本では小西ら(2006)が、がん患者さんにインタビューし、患者さんの視点からみた“よい看護師“を報告しています。それによると「明るい」「思いやり」など人との関係性を築く性格や「責任感」などのプロとしての能力や態度などをよいとする回答が多いとされています。しかし、患者さんの視点だけが全てとはいえません。看護実践には患者さんに見えない部分もたくさんあります。看護師自身がとらえる“よい看護師“の視点には、患者さんに見えない看護実践も含んだよい看護実践の枠組みがあると考えます。両者の視点をあわせもつよい看護師を探究するためには、看護師の視点をとらえていくことが必要だと考えます。

 

 そこで、今回私がご紹介する研究は、看護師がとらえる「よい看護実践」の枠組みを調査から導いたものです。臨床看護師に実施した調査結果の一部を抜粋して報告します。多くの看護師の方(もしくは一般の方)の目にとまり、ご意見をいただける機会となれば幸いです。 

 

 方法は、無記名自記式質問紙法です。質問紙は若手から熟練経験をもつ看護師20名にインタビューした内容から作成しました。質問紙をベッドサイドでケアにあたる看護師600名に配布し、有効回答463部について分析しました(回収率77.2%)。質問紙は、全131項目で、5「そう思う」~0「全くそう思わない」の6段階のリッカート選択方式で回答を得ました。結果は因子分析(主因子法、バリマックス回転、カットオフポイント0.35))を行いました。以下はその結果です。

 

1)調査した対象者の概要 

 対象者の男女比は、女性90.4%、男性5.1%、未記入4.3% でした。看護師経験年数は3年未満22.8%、5~10年未満23.1%、10~15年未満14.9%、20年以上2.6%とおおよそ看護師人口の構造に近いものでした。

2)よい看護実践として高い指示を得た内容

 よい看護師の実践として高得点だった質問項目は、「ちょっとした変化に気がつく」(4.63±0.58点 平均±SD)、「間違いは認める」(4.55±0.78点)、「どんな処置でも嫌な顔をしない」(4.50±0.67点)、「一人で出来ない時は周囲の助けを借りる」(4.46±0.68点)の順でした。

3)よい看護実践の枠組み

 因子分析で不適切な質問項目4つを除き固有値1以上の因子を抽出した結果、9つの因子を得ました。下図に示されるように9つの因子は職場環境、患者/看護師関係、専門性の発揮という3つの柱でとらえることができます。すなわち職場環境としての「公平な業務負担」「チーム協働」「チームでの主体性」、患者/看護師関係としての「患者を人として尊敬」「看護への誇り」「患者のそばに立つ」、専門性の発揮として「科学・技・心の一体」、「患者を知る」、「共感・思いやり」です。 

   

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よい看護師の枠組みとしてみえたこと

 今回の結果で得られた9つの因子から、看護師の視点からみたよい看護実践は3つの柱を枠組みとしていると、とらえることができます。1つめの柱は患者/看護師関係です。患者さんを尊重し、看護の誇りをもちながら患者さんの側に立てる看護実践を示しています。2つめの柱は専門性を発揮しているということです。専門性を示す内容は、「科学・技・心の一体」、「患者を知る」、「共感・思いやり」の因子です。知識と技術と心をあわせもったスキルで、正しく患者を理解した思いやりをもった看護実践を行う、つまり心を傾けながらも科学的な看護実践といえます。最後の柱は職場環境の中での看護実践です。医師や同業看護師とのチームの中で、チーム員と公平に業務を負担しながら、協働し、しかも主体的に活動できる実践が示されました。 

 

 患者さんからみた視点では人との関係性やプロ意識があげられていましたが、それとの相違として、看護師の視点ではチームの中でのあり方にも実践を追求していました。医療が高度化しチーム医療が推進される今、よい看護実践として特徴的な結果であるといえます。患者を中心にチームの中でいかに働くか、科学的な視点と思いやりをもったケアをどれだけ患者に提供できるか、看護師はよい看護実践の実現に向けていると考えます。よい看護師を求める研究は今後も検証が必要であり研究を継続しています。詳細は下記掲載誌をご覧ください。 

 

この研究に関連する論文等

小西恵美子、小野美喜(2011). 看護師がとらえる「よい看護実践」の枠組み 日本看護倫理学会第4回年次大会抄録集.

小野美喜,小西恵美子,八尋道子(2010).明治時代から現代までの教科書に記述された「よい看護師」の変遷.日本看護倫理学会誌,P15-22.

小野美喜、小西恵美子(2009). 臨床看護師が認識するよい看護師の記述―若手看護師の視点―日本看護教育学会誌、18(3)、 P25-34.

小野美喜、小西恵美子(2008). 臨床看護師が認識する「よい看護師」 第27回日本看護科学学会学術集会抄録集 P396. 

【研究紹介】看護師の身体診察技術を活用した災害時遺体対応に関わる課題―災害医療活動の経験者に対する面接調査より―

看護アセスメント学 石田佳代子

 
 もし、家族や親しくしている人など、自分にとって大切な人が、突然の災害によって命を失い、その最期を看取ることができなかったとしたら、あなたはその人についてどのようなことを知りたいと思うでしょうか? 悲しい話ですが、誰にでもあるかもしれないことです。
 ここに紹介する研究では、“災害による死亡者の状況をできるだけ現場で記載して、死亡者に関する情報を書き残すことができれば、遺族に対する援助や死亡原因の調査などに役立つのではないか?”との考えから、この役割を看護師が担えないものかということに取り組んでいます。看護師は、一人ひとりの患者さんの健康にかかわる問題を判断し、その人に合った援助をするための知識や技術を備えています。その一つに「身体診察技術」があります。例えば、脈を測ったり、聴診器で肺や心臓の音を聴いたりして、身体に異常がないかどうかを調べるなどの技術です。災害時に、この技術を死亡者にも役立てられるように、看護師のこの能力をレベル・アップできないかと考えています。
 では、なぜ看護師がこの役割を担えたら良いのではないかと考えたのかをお話します。
 災害時には、一人でも多くの人の命を救うことが重要になります。特に、大きな災害が発生した場合には、いっ ときに多くの怪我人などが生じるでしょう。しかし、医師や看護師の数は限られています。そこで、一人でも多くの人の命を救うために、怪我人などをその程度などによって選別し、搬送や治療の優先順位が決められます。この選別を「トリアージ」といいます。そして、トリアージで優先順位を決めるということは、言い換えれば、後回しにする怪我人などを決めるということでもあります。手を尽くしても命を救うことが難しい人や、すでに死亡が確認された人への対応は、どうしても手薄にならざるをえません。災害の現場では、生存者の救助が優先されるからです。そうしないと、救える命までも失ってしまうことになりかねません。そうならないように、医師には医師にしかできない役割を担う必要があります。そこで、手薄にならざるをえない死亡者などへの対応は、看護師が担えないものかと考えたのです。
 トリアージによって、命を救うことが難しいと判断された人や、死亡が確認された人には、黒色の識別札 (黒タッグ) がつけられます。タッグには、必要と思われる情報を書き込めるようになっており、カルテの代わりに使われます。(下の写真はトリアージ・タッグの見本で、左側が表面、右側が裏面です。) 黒タッグにも、多くの情報が書き込まれたほうが良いでしょう。ただ、災害の現場では、生存者の救助に一刻を争うような状況なので、黒タッグに情報を書き入れる余裕もないようです。しかし、黒タッグに書かれたことは死亡者の最期を知る手がかりとなるかもしれません。また、遺族にとっては、大切な人の最期のメッセージとなるので、死亡者のことについてできるだけ多くのことを書き残すことは、遺族の気持ちから考えれば、とても重要なことだと思われます。看護師がこの役割を担うことで、これを充実させることができれば、遺族に対する援助や、死亡原因の調査などに役立つでしょう。死亡者へも手を尽くせたという気持ちは、救援者である医師や看護師の気持ちの負担を減らせる効果もあるかもしれません。
 そこで、災害の現場で救助活動をしたことがある医師2人と看護師4人に会って調査をしました。
 その結果から、次のような課題がわかりました。
 1つ目は、「災害の現場で、黒タッグをつけられた人への対応をどのような体制で行うか」ということです。例えば、看護師だけでそれをするのか、医師と看護師のペアでするのか、それだけを専門にするのか、他の仕事と併せてするのか、などです。
 2つ目は、「黒タッグをつけられた人への対応に必要な知識や技術は何か」です。生きているかどうか を判断するための知識や技術は、特に重要と考えられます。
 3つ目は、「看護師の能力をレベル・アップするための研修や訓練は何か」です。このためには、黒タッグに必ず書き残さなければならないことは何かということを、まず明らかにしなければなりません。医学や法医学の高度な知識も必要になるかもしれません。
 4つ目は、「黒タッグをつけられた人への対応に伴うストレスとその対処について」です。救援者自身が、自分自身のストレスに対処しなければならないという問題などを含んでいます。
 5つ目は、「いつでも災害の現場へ行くことができるような環境づくりについて」です。災害の現場へ行くということになれば、その間は自分の役割を他の人に補ってもらうことになります。そのためには、組織のレベルや個人のレベルで、様々な調整や準備が必要となってきます。
 これらのことを考えていくと、黒タッグをつけられた人に関わるためには、それなりの研修や訓練を受けておくことが必要といえそうです。災害はいつ発生するかわかりませんので、できるだけ早く、目的に適った人を育てるのがよいでしょう。
 災害が発生したときに、早い時期に災害現場に入って活動する医師や看護師などのチームが存在します。この医療チームのことをDMAT (ディーマット) (災害派遣医療チーム) といいます。DMATは、大きな災害における出動実績もあることから、まずはDMATの隊員を育てるための研修に、これまでお話した黒タッグをつけられた人に関わる訓練などを組み込んで、一部のDMATがこの役割を担うことがよいのかもしれません。また、2005年に発生したJR福知山線列車脱線事故の時の救助活動の教訓から、DMORT (ディーモルト) (災害時死亡者家族支援チーム) が活動を開始しています。DMORTも、この役割を担うことができるかもしれません。
 この調査結果を基にして、DMATである看護師にアンケート調査を行いました。これから、その結果もふまえて、この研究を進めていきます。
 (ここに紹介した研究は、日本学術振興会科研費 (挑戦的萌芽研究) の助成を受けて行ったものです。)
 

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【研究紹介】Clinical Nurses' Perceptions of Loanwords, Abbreviations, and Jargon and the Actual Usage of this Terminology in the Clinical Setting

Gerald Shirley, Foreign Language Department

 

1. Introduction
In this study, the actual usage of loanwords, abbreviations, and jargon (terminology) in the clinical setting and clinical nurses’ perceptions of terminology were examined.
In recent years, the use of terminology has become commonplace in the clinical setting in order to provide efficient care while dealing with large amounts of information.However, although convenient, the overuse of terminology can hinder communication between health care professionals. Identification of the terminology that causes problems due to lack of comprehension, and the circumstances of their actual usage, may be helpful in reducing communication problems between health care professionals.
Therefore, the purpose of this study was to research and identify nurses’ perceptions of terminology in addition to the actual usage of such terminology in the clinical setting.
 
2. Methods and Results
The subjects of the study were 1,000 nurses in six hospitals in A Prefecture, Japan, who were asked to fill out a questionnaire constructed by the researchers. A total of 163 examples of terminology that were not understood and caused communication problems were extracted from their data.
Among the 748 subjects who filled out the questionnaire 97.2% used terminology, with most responding that they used them [sometimes]. Concerning the subjects’ circumstances of use and reasons for use, see Tables 1 and 2 below.

Table 1: Circumstances of Terminology Usage (%)
Messages to next shift88.2
Treatment62.3
Record-keeping52.5
Non-clinical setting12.0
Conversing with coworkers2.9
Other2.6

 Table 2: Reasons for Using Terminology(%)
 Simple and easy to use88.7
 Coworkers use it36.9
 Not understandable by patients36.5
 Meaning is standardized and mutually understood2.6
 Has become a habit1.9
 To increase the sense of “team”1.8
 Improves efficiency of work1.2
 It is cool1.0
 Difficult to translate into Japanese0.3
 Other 1.1

Among these subjects, 81.6% had encountered terminology that they were unable to understand. Regarding how they dealt with the situation, see Table 3 below. Among these subjects, 9.1% had experienced problems through the use of terminology. Some of the problems cited were [lack of comprehension by the listener], [delay in treatment], etc.

 Table 3: Measures Taken when Terminology not Understood (%)
 Immediately asked a coworker54.6
 Asked a coworker in the same ward later37.4
 Immediately asked again and again until I understood the meaning28.1
 Looked it up later27.0
 Asked coworkers from a different ward later11.1
 Immediately looked it up4.4
 Did nothing2.5
 Asked a doctor1.8
 Other (asked specialist as the occasion demanded depending on the level of urgency)0.7

  When asked whether they had been asked about the meaning of terminology by patients, 50.8% answered [yes]. As to how they dealt with this experience, most responded that they [conveyed the correct meaning], followed by [told them to ask someone else] and [told them something vague].
Concerning the necessity of terminology, 44.5% responded that it was either [necessary] or [very necessary].
Examples of terminology that many respondents had difficulty understanding were [suteru] (to die: abbreviation and verbalization of the German word sterben), [zeku] (autopsy: abbreviation of the German word sektion), [SAH] (abbreviation of subarachnoid hemorrhage), and [takiru] (to become tachycardic: abbreviation and verbalization of tachycardia), among others.
 
3. Discussion and Conclusion
This study revealed that 81.6% of nurses on the job encountered and used terminology that they were unable to understand. It is conceivable that nurses are forced to use terminology in an attempt to reduce the time spent on duties other than patient care. Two reasons cited in this study for use of terminology were [simple and easy to use] and [improves work efficiency]. It is not clear how much time can be actually reduced by using terminology, but it can be inferred that the use of terminology is a necessary consequence in order to respond efficiently to the ever-increasing amount of medical information.
It is also conceivable that words such as “die”, “autopsy”, and “subarachnoid hemorrhage” are very likely to arouse fear and anxiety in patients. It can be inferred that the use of terminology is beneficial to patients in the sense that it can help avoid placing an unnecessary psychological burden on them.
However, although using terminology may be convenient for nurses, this study revealed that it can also cause problems. Not only are the meanings of terminology not properly understood, but its lack of understanding has also led to incidences in which doctors’ instructions have not been carried out. It can be concluded that this study has demonstrated that within the overuse of terminology lies the inherent danger of a medical accident occurring.

It is anticipated that in order to facilitate smooth communication among health care professionals, standardization of terminology will be promoted further in the future. In addition, as specialists working in an important clinical setting concerned with people’s lives, the importance for each nurse to understand the correct meaning of terminology and to use terminology appropriately was suggested.

Note: This article is based on a paper published in the Journal of the Japanese Association of Rural Medicine (Vol. 55, No.6., March 2007, pp. 610-617).

 

 

【研究紹介】国際協力:ウズベキスタンでのJICA看護教育改善プロジェクトの経験から

保健管理学研究室  桜井礼子

はじめに
 近年、開発途上国を対象とした支援などの国際協力だけでなく、様々な国々と看護を通して国際交流が行われています。看護教育においても、グローバルな視点をもった看護職の人材育成が求められています。
 今回、国際協力の一例として、日本のODA(政府開発援助)の一環としてウズベキスタン共和国(以下ウズベキスタン)において、2004年7月から5年間実施されたJICA(日本国際協力機構)の技術協力「看護教育改善プロジェクト」を紹介したいと思います。このプロジェクトは、日本の多くの看護教育の専門家で構成され、国内支援メンバーと現地の拠点で活動した専門家を中心に、ウズベキスタンの行政等と協働して取り組まれました。私はその国内支援メンバーの一人として、事前調査から関わり、2009年6月のプロジェクト終了後も継続して現地に赴いています。そこで、このプロジェクトを通して行ってきた看護教育の改善活動の一部と、その活動から得られた知見について、ご紹介します。
 
ウズベキスタンの医療保健の概要
 ウズベキスタンは、中央アジア5ヶ国のひとつで、国土は日本の約1.2倍ありますが、人口は約2780万人(2008:国連人口基金)です。旧ソビエト連邦から1991年に独立国家となり、独自の経済発展を進めてきた国です。綿花の生産に加え、天然ガスや石油、金などの資源にも恵まれ、産業や貿易などの発達はゆるやかではありますが、近年では経済成長が進んでいます。
 ウズベキスタンの保健医療システムは、旧ソ連時代に確立された制度を継承し、末端レベルに至るまで医療施設は整備されていました。しかし、独立後は過度に細分化された不効率な医療施設が存在し、施設が過剰であること、医療の人材不足、ハード面の老朽化、医薬品の不足により、医療の質の低下、財政負担の増加が指摘され、改革が進められていました。
 
ウズベキスタンの看護教育の現状
 教育システムは、「教育改革プログラム」が策定され、2005年を目途に新しい後期中等教育制度の導入と12年制義務教育への移行を軸に、教育課程の再編、新教科書の整備、教員の要請・研修、教員の能力向上、学校の増設が進められていました。 看護基礎教育は、この教育改革プログラムにより、一般教育9年後(WHOは11年を提唱している)に中等職業教育である医療専門学校3年間(看護師、助産師)修了により、国家試験を経ずに、看護師・助産師の免許が取得できるよう統一されました。さらに、医学大学に看護学科が1998年から創設され、卒業後は学士が取得できる看護の高等教育が行われるようになっています。これは、中等職業教育の教員は、学士を取得していることが条件となったことも関係していると考えられます。
 医療専門学校の数は、15歳人口の急増を反映して、プロジェクトを始めた2004年には54校でしたが、02009年6月の修了時点には80校に増加しています。タシケント市で見学した医療専門高校は、看護科だけで1学年400名の学生が在籍していました。しかし、授業は1クラス25名~30名の小クラスで行われており、午前・午後に分けて行われていました。
 
JICAプロジェクトの概要と特徴
 事前調査の結果から、看護の実践を改善していくためには、医学モデルから看護モデルに転換し、看護過程の展開を基本とし、看護師が自立して判断し、自らが看護の役割を果たすことができる人材の育成が重要であり最も効果的な方策であると考えられ、ウズベキスタンの看護基礎教育の改善の取り組みが始まりました。
 看護教育改善のプロジェクトの目的は、「ウズベキスタンにおいて、『client-oriented nursing』に基づいた看護教育のモデルが確立されること」とし、ウズベキスタンの教育システムの現状を尊重しつつ改善に取り組んでいきました。具体的な成果として、モデル校で、 “Client-Oriented Nursing(CON)”のコンセプトが導入され、①カリキュラムの改善、②新しい教育教材の提供、③教員の教育方法の進歩・発展による教員の質の向上を目指しました。
 
 プロジェクトの組織として、合同調整会議は、両国のキーパーソンとなる代表者が参加し、年1回定期的に開催し、プロジェクトの運営方針の承認、プロジェクト運営や財政上の問題の解決にあたりました。カリキュラム委員会は、プロジェクトの具体的な運営に関する決定機関で、年2回定期的に会議を開催しました。ワーキンググループ(WG)は、7領域ごとにウズベキスタン側、日本側からのそれぞれ3~5名の専門家によって構成され、教案プラグラム、指導要領、実習指導要領、教員の再教育プログラム、教材の作成等にあたりました。各領域のWGは、ウズベキスタンと日本を結ぶテレビ会議なども含めてそれぞれ50回以上の会議を重ねて作業を行いました。
 活動の拠点は、看護教育センターがモデル校の敷地内に開設されました。看護教育センターには、日本人の長期専門家とウズベキスタンのカウンターパートが常駐し、センター内でWG会議ができるよう会議室と、セミナーの準備などが行える実習室などが整備されました。カリキュラムの作成やモデル校への改善カリキュラムの導入は、看護教育センターのカウンターパートと長期専門家(チーフアドバイザー、看護専門家の2名)が中心となり、各WGの活動をサポートするとともに、国内の支援メンバーとは、国内でのWGの活動や日本側とウズベク側とのテレビ会議を通してカリキュラムの作成が進められました。日本国内から短期専門家が派遣され、ウズベキスタン現地でWGメンバーとの打ち合わせやカリキュラムの作成が行われました。
 
プロジェクトの主な活動と成果
 プロジェクトの主な活動は、看護カリキュラムとして、7領域の教案プログラム、指導要領、実習要項の作成を、各領域のワーキンググループのメンバーが中心となって、ロシア語および日本語で作成したことです。この作成したカリキュラムは、モデル校で3年間実施され、保健省および教育省の大臣の承認を受けることができました。
 また、作成した新たな看護カリキュラムを、医療専門学校の教員や、臨床現場の看護師の方々に理解してもらうために、研修会を開催しました。最初の2回の研修会では、日本側の専門家が「看護とは」「CONとは」を繰り返し講義し、教員や臨床指導者等に、CONの概念を理解してもらうために時間とエネルーギを費やしました。1回の研修期間は3~5日で、毎回、100名以上の医療専門学校の教員、臨床看護師等が参加しました。
 さらに、人材育成の一環として、日本国内での研修も実施されました。毎年、長期研修では3~4ヶ月間、看護教員や臨床の看護師の方々などウズベキスタンのWGのメンバーを中心に日本各地での長期研修(3ヶ月あるいは2ヶ月)を5回(25名)、2週間の研修を2回(14名)、保健省副大臣を含む政策決定者を中心とした短期研修を(1~2週間)4回(17名)実施しました。研修にあたっては、教育機関、病院、老人保健施設、保健所、訪問看護ステーション、精神障がい者作業所などの協力をいただき、特にCONの実践現場をみていただくことで、看護に対する理解を深まったと考えています。
 
国際協力のプロジェクトを振り返って
 今回の技術協力プロジェクトを振り返って、特に重要と考えたのは以下の4点です。
 ①国際協力のプロジェクトにおいては、カウンターパートの存在があります。カウンターパートとは、現地で受け入れを担当する機関や人物をさします。カウンターパートとの関係を築くうえでは、政策の決定者とコミュニケーションをとることが重要です。また、計画や活動の方針を決定するのに欠かせない機関や役職の人物との関係も重要となります。5年間のプロジェクトの期間を通して、保健省および教育省の担当者が変わることなく継続して関わることができ、プロジェクトをスムーズに進めるうえで極めて重要であったと感じています。さらに、実務を担うカウンターパートや活動に参加してくださる専門職の方々とのコミュニケーションもとても重要であり、そのためにはお互いの国民性を理解すること、ときには一緒に食事をする、お茶を飲む、家族の話をする、そのような交流も重要であると感じました。
 ②プロジェクトでは、相手国の人々が、自ら改革を必要と考えそれに取り組むこと、そのために一緒に協働して活動を進めることが大切となります。相手国の状況をきちんと把握し、どのような問題があるのかを一緒に考えること、また、課題を明確にすること、さらに、その国がもつ力や強みを見つけ、尊重することが重要です。カウンターパートを含め多くの関係者と目的を同じにして、改善に取り組みましたが、それでも改善していくこと、変化していくことたいへんなことが多く、この活動の意義を理解し、プライドと尊厳を持って活動に関わることがその推進力となっていたと感じています。
 ③ 技術協力では、人材育成が重要であることは言うまでもありません。当初は、CONのような看護の概念を理解してもらうことは容易ではありませんでした。新たな概念について理解を促すためには、看護の現場を体験してもらうことが重要であると考え、日本での研修プログラムを構築し実施しました。担当者を日本で研修してもらい、各自が理解したCONの概念を、ウズベキスタンの仲間に自分たちの言葉で伝えていくことで、関係者に理解してもらうことができたと感じました。また、担当者が主体的に変更するという認識をもち,共同作業に積極的に係る姿勢を培うために、日本での研修の果たした役割が大きかったと考えます。
 ④ 今回のプロジェクトでは、通訳、翻訳者の役割が極めて重要であり、進捗に大きく影響を与えることとなりました。とくに、ロシア語では存在しない看護の概念など、日本語からロシア語への翻訳には時間を要しました。これは、当初は予測できなかった大変さであったと思います。現地で活動された長期・中期専門家の活躍により、現地での通訳の育成、通訳2名を日本で長期研修を行うなど、さまざまな対応策を用いながら解決されていきました。
 
おわりに
 今回、プロジェクトに参加することで、看護教育や看護の現場がダイナミックに変化していくことを体験することができました。また、日本の看護、看護教育の実態を振り返る機会を持てたことも大きな収穫でした。
 今後、ウズベキスタンのすべての医療専門学校に本プロジェクトで改善したカリキュラムを導入し、定着させていくことが重要の課題です。すでに、2009年9月から、段階的に医療専門学校に新しいカリキュラムが導入され、現在では全国の医療専門高校すべてが新しいカリキュラムを導入されています。新しいカリキュラムによる教育の実績を評価するためには、さらに長い年月にわたるフォローが必要とされます。これからも、ウズベキスタンとの連携をとりながら、看護教育が根付き、臨床現場が変化していくことを検証していきたいと考えています。
 
-文献-
・ウズベキスタンでの看護教育の改善を経験して 保健の科学p833-838 50-12 2008.12

・ウズベキスタンで看護教育を『変える』 JICA「看護教育改善プロジェクト」の概要 看護教育p66-71 51-1 2010.1

【研究紹介】市町村が実施する「こんにちは赤ちゃん訪問」に関する母親の満足感に関連する要因の検討

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【研究紹介】筋萎縮性側索硬化症(ALS)患者の自律神経機能

健康情報科学研究室 品川佳満

 

 筋萎縮性側索硬化症(以下ALS)は,筋肉の萎縮や筋力低下をきたす進行性の神経疾患で,他に類を見ない難病です.
 ALSは病気が進むにつれ,歩行ができなくなり,水や食べ物を飲み込むこともできなくなり,場合によっては呼吸も十分にできなくなるため人工呼吸器の装着が必要となります.このような症状は,運動をつかさどる神経細胞(運動ニューロン)が侵されることが原因で発生します.


 では,運動をつかさどる神経以外の「感覚神経」や「自律神経」は,障害を受けていないのでしょうか? 実は,ALSでは感覚神経および自律神経は侵されないといわれており,多くの書籍やインターネット上のサイトでは,「運動神経のみ侵される」と記述されています.しかし,この見解に関しては様々な意見があり,中でも自律神経については,障害を受けている,つまり異常をきたしていると報告している研究も多くみらます.
 

 そこで,私の研究ではALSの自律神経機能(特に,心臓の働きをコントロールしている自律神経)が,障害を受けているのか実際に調査を行いました.
 

 調査の方法は,11名の男性ALS患者さんの睡眠中の心拍変動を測定し,自律神経機能の働きを評価しました.心臓は,心拍数を上げる働きをする交感神経(車でいうアクセルの役目)と心拍数を下げる働きをする副交感神経(車でいうブレーキの役目)によって常にそのバランスがコントロールされています.そのため,自律神経活動が活発であると心拍の間隔(脈の間隔)は,安静にしていても一定ではなく,ゆらぎを持ちます(アクセルとブレーキの両方が適度に効いている).つまり,このゆらぎ成分を調べれば,自律神経の活動状態を推測することができます.
 

 図は,心拍間隔のゆらぎから計算した自律神経全般の活動状態を示す指標(TF)および副交感神経の活動状態を示す指標(HF)を健康な人(健常者)のデータと比較したものです.グラフ中のは平均値,から上下に伸びているバーは標準偏差をあらわしています.また,グラフには,各ALS患者さんの状態と実際の測定値がわかるように,人工呼吸器を装着していない場合は■,人工呼吸器を装着している場合は▲,「完全な閉じ込め状態(以下TLS)」と呼ばれる,ALSのもっとも進行した状態の場合は★で測定値のところに印を打っています.

品川図

図 健康な人とALS患者さんの自律神経活動の比較

※健常者のデータは文献(久保豊,大塚邦明:第7章 生活スタイルに映る心拍・血圧のゆらぎ 1心拍変動,ホルター心電図-基礎的知識の整理と新しいみかた-.初版,東京,医学出版社,2005)から算出したものである.


 

 この図から,ALS患者さんは,心臓の働きをコントロールしている自律神経全般の活動(TF)が健康な人と比べて低下していることがわかります.副交感神経の活動(HF)は,平均値をみるとALS患者さんと健康な人の間に大きな差はみられません.しかし,個別の測定値をみると,ALS患者さんは,高い値(つまり副交感神経活動が活発)を示す方もおられるのですが,健康な人の平均値よりずいぶん低い値(平均値-標準偏差より低い)のところに,半数以上の方が位置しています.また,TLSに陥っているALS患者さん(図の★)は, TFおよびHFが極めて低い値を示していることがわかります.
 

 以上の結果から,ALS患者さんの心臓の働きをコントロールしている自律神経の活動は,全般的に低下していると言えそうです.中でも,もっとも病気が進行している完全閉じ込め状態に陥っているALS患者さんについては,顕著に自律神経機能が低下していることから,運動をつかさどる神経だけでなく自律神経までもが障害を受けている可能性が高そうです.しかし,個人毎のデータから判断すると,ALS患者さんの中には,健康な方とかわらない方や自律神経活動が活発な方もおられました.今後は,どのような要因が自律神経活動に違いをもたらしているのか,さらに調査を進めていきたいと考えています.
 

【研究紹介】助産師外来に対する妊婦の期待と満足

   母性看護学研究室 林 猪都子

   近年、助産師業務の確立と妊婦ケアの充実に向けて、正常経過の妊産褥婦のケアは助産師の手で行い助産師の専門性を発揮したいという思いから、医師との役割分担・連携のもとで、助産師が正常妊婦・褥婦の健診と保健指導を行う助産師外来が開設されています。
  
大分県はこの2~3年の間に病院や医院において、助産師外来を開設する施設が徐々に増えてきています。その中で、A医院は医師外来の健診にて異常がなかった妊婦を対象に、妊娠24週~36週の希望者に1~2回助産師外来での妊婦健診を行っています。助産師外来は週1回午後4名を予約制で行っている状況です。
   そこで、本研究は医師外来を受診している妊婦の助産師外来への期待度と助産師外来を受診している妊婦の満足度を比較し、助産師外来の助産師の対応に対する妊婦の満足度を明らかにすることを目的としました。A医院の外来受診者の協力が得られた妊婦を対象にアンケート調査を行いました。質問紙は島田らの「患者満足度測定ツール」を使用しました。

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その結果、「医師外来受診者」101名、「助産師外来受診者」102名を対象に分析し、平均年齢は「医師外来受診者」が29.7歳、「助産師外来受診者」が30.3歳でした。
「患者満足度測定ツール」の教育関連領域では、6項目中の5項目で、技術的・専門的領域では9項目中の7項目で、信頼関係領域では、16項目中の15項目で、助産師外来の助産師の対応に対する満足度が期待度より高い値でした。(P<0.05)
満足度の平均得点の高い項目は、教育関連領域の「わかりやすく説明してくれる」、信頼関係領域の「親身になって看護をすること」「気軽に質問できる」や「いやな顔をせずしてくれること」でした。
助産師外来の課題として指摘されている技術面においては、「技術がすぐれていること」の満足度が期待度よりも高い値でした。(P<0.05)
以上のように、助産師外来では、助産師は相談内容に応じて妊婦と共に話し合ながら、対象の妊婦の生活背景に合わせた実践可能な分かりやすい保健指導が行えていると考えます。また、助産師外来では一人の助産師が健診・保健指導をすべて行っているため、妊婦は助産師への信頼を感じていると考えます。その結果、助産師外来で行っている助産師の妊婦健診や保健指導は妊婦にとって満足度が高いことが明らかになりました。
私は今後助産師活動をしていく中で、助産師外来は満足度が高いことを女性に伝えていきたいと思っています。さらに、大分県の病院・医院において助産師外来が普及していくことを願っています。

  なお、この研究は本学研究室の卒論生と一緒に行った研究の一部を紹介しています。
 
 

 

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