【研究紹介】妊娠中期の体重増加量率と出生体重及び妊娠期間との関連

母性看護学・助産学研究室 関屋伸子

 

1.はじめに
 日本では、新生児の平均出生時体重は着々と減少しています。若い日本人女性における喫煙の流行や行き過ぎたやせは新生児体重を減少させることにつながるかもしれません。妊婦の体重増加量の少なさは子宮内胎児発育遅延児(SGA)や早産の危険因子であることが示唆されています。従って、低出生体重児が出生するかもしれないという危険は、妊娠期間中のうちで最も重要な期間における適切な母体の体重増加によって縮小されるかもしれません。しかし、いずれの妊娠期の体重増加が最もそれらに影響を及ぼすかは明白ではありません。
 よって、本研究は合併症がなく正期産で経膣分娩であった妊婦の異なる妊娠期間における体重増加量と出生時体重及び妊娠期間の関係を調査することを目的として実施しました。

 

2.方法
 1997年1月から2003年12月の期間におけるA病院の妊娠経過記録と分娩記録を後方視的に調査しました。対象は正期産(妊娠37週0日から妊娠41週6日)で単胎の経膣分娩となった合併症がない472名の女性としました。
 妊娠期間を正期産早期(妊娠37-38週)と正期産後期(妊娠39-41週)の2期に分類し、妊娠期間における属性の影響を査定しました。独立変数は母体年齢、経妊回数、経産回数、身長、非妊娠時体重、妊婦体重増加量、喫煙、飲酒、新生児の性別としました。子宮内胎児発育遅延児(SGA)と妊娠期間の短縮化の影響はオッズ比で示し、ロジスティック回帰分析は95%信頼区間で用いました。妊娠各期の体重増加率と出生時体重及び妊娠期間の長さとの相関関係にはピアソンの相関係数を用い、他の統計手法は対応のないt検定とフィッシャーの直接確率検定を用いました。有意確率は5%(p<0.05)としました。
 
3.結果

 Table1.は対象の属性を示しています。正期産早期の平均出生時体重は2,905±375gで、正期産後期の3,154±382gと比較し有意(p<0.05)に軽く、正期産早期における低体重児(<2,500g)の出現は正期産後期(10.6 vs. 5.2%, p=0.029))と比較して有意に重い結果となりました。また、妊娠初期の体重増加量は妊娠中期及び末期(それぞれp<0.001)と比較して有意に低かったですが、妊娠中期と妊娠末期の間の体重増加量に有意差はなく、妊娠中期における体重増加量が最も高値でした。対象妊婦の喫煙率は8.5%で、大多数の喫煙者(70.0%)は一日あたり11本以下の喫煙をしていました。

 

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 低い非妊娠時体重と低い妊婦体重増加量は、Table2.に示したように、いずれもと妊娠週数の短縮化の独立した予測因子でした。間隔変数における調整後オッズ比は、その間隔変数1単位あたりのオッズ比を示します。 

 

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 非妊娠体重、妊婦体重増加量、妊娠中期の妊婦体重増加率は、Table3.が示すように出生時体重及び妊娠期間の長さと有意に関係しています。また、妊娠中期の妊婦体重増加率と出生体重及び妊娠期間には有意な相関関係(それぞれr=0.32,p=0.005;r=0.40,p=0.0003)を認めました。

 

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4.考察
 本研究は正期産に対する後方視的調査でしたが、妊娠中の体重増加不足や体重増加量の低さは子宮内胎児発育遅延児(SGA)の増加や妊娠期間の短さと有意に関係していました。また、非妊娠体重及び妊婦体重増加量は両者とも出生時体重と妊娠期間の長さと有意な関係がありました。栄養上の問題が子宮内胎児発育遅延児(SGA)や短い妊娠期間と関係していることが最近の研究から考えられました。 

 妊娠中期における体重増加値と出生時体重の間に有意な相関関係を認めました。妊娠初期、妊娠中期、妊娠末期において、各妊娠期間中の体重増加率は低いか低くない、の2つに群に分けられますので、各期を通して見た場合は8つの異なる体重増加パターンがあります。比較された体重増加パターンは、妊娠各期のいずれも低くない群と比較すると、妊娠初期と中期が低い場合は133.0g低下し、妊娠中期と末期が低い場合は88.5gの出生時体重の減少がみられましたが、妊娠初期及び妊娠後期に低い体重増加を示した群は出生時体重の変化に有意な変化は認められませんでした。妊娠中期の体重増加値は、Table1.が示すように最高値でした。妊娠中の平均体重増加の値は妊娠中期において最大となることは広く支持されています。

 本研究では、妊娠期間の長さと妊娠中期における体重増加量に有意に相関をしていました。この結果は妊娠期間の長さにとって最も敏感な時期は妊娠中期であることを意味しています。妊娠期で最も影響を受けやすい時期における適切な妊婦体重の増加は平均出生時体重の増加に寄与するでしょう。

 

5. 結論
 妊娠のはじめから終りまでの大部分と同様の妊娠中期における妊婦の体重増加量は出生時体重及び妊娠期間と相関関係がありました。妊娠中の体重増加が胎児体重と妊娠期間の長さに最も影響する時期は妊娠中期の可能性があります。
 

論文掲載 Maternal Weight Gain Rate in the Second Trimester Are Associated With Birth Weight and Length of Gestation:Gynecologic and Obstetric Investigation 2007;63;45-48

【研究紹介】放射線による白血病の発症機構

環境保健学研究室  伴信彦

 

1. 放射線とがん
 放射線が「がん」を引き起こすことはよく知られていますが、放射線を浴びたからと言って、必ずがんになるわけではありません。身体に受ける放射線の量が多くなるにつれて、がんになる可能性が高くなるのです。それでは、わずかな量の放射線でも、がんになる可能性はゼロではないのでしょうか。例えば、病院でX線検査を受けただけで、将来がんになってしまうのでしょうか?
 実は、現代の科学をもってしても、この問いに対する正解は得られていません。放射線がなぜがんを引き起こすのか、そのメカニズムがわかっていないからです。この問題に対する答えを見出すために、私はマウス(はつかねずみ)の白血病を使った研究をしています。白血病は、血液のがんと言われています。

 

2. マウスの白血病とSfpi1遺伝子
 マウスにもいろいろな種類(犬や猫の血統のようなものです)がありますが、いくつかの種類のマウスでは、放射線を当てるとヒトと同じタイプの白血病が出てきます。この白血病の発生には、Sfpi1という遺伝子が深くかかわっています。
 遺伝子の実体はDNAの塩基配列です。DNAは、細胞核の中に染色体という形で存在しています。マウスのSfpi1遺伝子は、2番染色体(染色体には番号がついています)の真ん中付近にある塩基の並びです。
 正常な細胞には、2本の正常な2番染色体があります。ところが白血病になった細胞では、2番染色体の途中が抜け落ちて、Sfpi1遺伝子が一つなくなっています。さらに、もう一方の2番染色体上のSfpi1遺伝子には、突然変異(DNAの塩基配列が変化すること)が起きています。つまり、白血病細胞では正常なSfpi1遺伝子がなくなっているのです(図1)。実際、遺伝子工学の手法によって、マウスのSfpi1遺伝子が働かないようにすると、白血病になることが確認されています。

 

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図1 白血病細胞における2番染色体とSfpi1遺伝子の変化

 

3. 放射線と染色体異常
 では、放射線はどうやってマウスに白血病を引き起こすのでしょうか。放射線にはDNAを傷つけ、切断する作用があります。細胞はそれを修復しようとしますが、切れ端のつなげ方が悪いと変な染色体(染色体異常)ができてしまいます。そこで考えられるのは、放射線は白血病に特徴的な2番染色体の異常を作っているのではないかということです。放射線を照射して1日後に、マウスから骨髄細胞を取り出し、その染色体を調べてみたところ、確かに白血病と同じタイプの染色体異常が観察されました(図2)。

 

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図2 放射線照射1日後のマウス骨髄細胞中に観察された白血病型の染色体異常(矢印)

 


 もう一方のSfpi1遺伝子の突然変異についてはどうでしょうか。多少専門的な話になりますが、問題の突然変異はSfpi1遺伝子の中でも特定の場所にのみ見られ、DNA塩基配列に関して、703番目のシトシンがチミンに変化しているパターンが大半であることが知られています。元の正常なシトシンにはメチル基がついているのですが、このようなシトシンがチミンに変化するのは、自然の突然変異として最も起こりやすいものです。
 そうすると、放射線が2番染色体の異常を起こした後、もう一方の2番染色体上のSfpi1遺伝子がたまたま変異を起こすと白血病になるのではないか、そんなふうに考えることができます。実際、マウスに放射線を照射してから白血病になるまでには1~2年もかかるので、一見つじつまが合うように見えます。

 

4. 造血幹細胞の老化
 ところが、話はそう単純ではありません。Sfpi1遺伝子の突然変異が成り行きまかせだとすると、そのような自然突然変異はかなり高い頻度で生じなければならない計算になるのです。これでは他の実験・研究で得られている知見と整合性がとれなくなります。そうなると、この突然変異の発生にも放射線が関係していると考えざるを得ません。そこで着目したのが、放射線照射による造血系の変化です。
 血液中の赤血球・白血球・血小板(これらをまとめて血球と呼びます)は、元をたどると造血幹細胞というオールマイティな細胞から発生します。造血幹細胞から何段階もの細胞分裂を経て、最終的に血球になるのです。血球には寿命があるため、造血幹細胞は一定のペースで細胞分裂を繰り返し、自分自身のコピーを作ると同時に、一部はこれらの血球のもとになる細胞に変わっていきます。造血幹細胞から生じる血液細胞全体を造血系と呼びます。
 造血系の細胞は、放射線に対する感受性が高いという特徴があります。放射線を浴びた結果、造血系の細胞が死ぬと、少し遅れて血球の数が減ってきます。例えて言うならば、ものを作っている工場が一時的にストップして、供給できる製品の量が減った状態です。ここで、全く同じ生産力をもった工場が二つあったとして、そのうちの一つが使い物にならなくなった状態を想像してみてください。製品の供給量を維持しようとすれば、残った一つの工場の生産力を2倍にしなければなりません。
 ある程度の量の放射線を浴びたマウスの造血系は、これと同じような状況になります。必要な数の血球を供給するために、生き残った造血幹細胞が通常よりも速いペースで細胞分裂を繰り返さなければならないのです。実験とシミュレーション計算の結果、白血病の発生率が最も高くなる放射線量では、造血幹細胞の細胞分裂数は通常の10倍近くになることがわかりました(図3)。

 

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図3 白血病の発生率が最も高くなる条件での造血幹細胞の細胞分裂回数
(シミュレーション計算による推定値) 


 細胞は分裂を繰り返す度に疲弊していきます。造血幹細胞も例外ではなく、細胞分裂を繰り返すことによって老化が早まることがわかっています。老化した細胞ではDNAを正しく維持する機能が低下し、突然変異が生じやすくなります。老化した造血幹細胞からできる細胞もまた、突然変異を起こしやすくなるはずです。結局、放射線は造血幹細胞の老化を早めることで、間接的に突然変異を誘発しているのではないか、そのように考えています。
 今後は、この仮説を実験的に証明するとともに、その場合に放射線の量と白血病発生率の関係がどのようになるのかを検討する予定です。

 

この研究に関して発表した論文
Ban N, Kai M and Kusama T. Chromosome aberrations in bone marrow cells of C3H/He mice at an early stage after whole-body irradiation. Journal of Radiation Research 38(4), 219-231, 1997.
伴信彦. マウスの急性骨髄性白血病と2番染色体の異常. 放射線生物研究 35(2), 115-126, 2000.
Ban N, Yoshida K, Aizawa S, Wada S and Kai M. Cytogenetic analysis of radiation-induced leukemia in Trp53-deficient C3H/He mice. Radiation Research 158(1), 69-77, 2002.
Kanda R, Tsuji S, Ohmachi Y, Ishida Y, Ban N and Shimada Y. Rapid and reliable diagnosis of murine myeloid leukemia (ML) by FISH of peripheral blood smear using probe of PU. 1, a candidate ML tumor suppressor. Molecular Cytogenetics 1(1), 22, 2008.
Ban N and Kai M. Implication of replicative stress-related stem cell ageing in radiation-induced murine leukaemia. British Journal of Cancer 101(2), 363-371, 2009.
 

【研究紹介】医療における苦情解決  患者が死亡した相談事例の分析

保健管理学研究室 平野亙

1.はじめに
 1994年、WHO(世界保健機関)ヨーロッパ事務所は、「ヨーロッパにおける患者の権利の促進に関する宣言」を発表しました。この宣言には、「患者が自己の権利が尊重されていないと感じる場合には、苦情申立ができなければならない。裁判所の救済手続に加えて、苦情を申し立て、仲裁し、裁定する手続を可能にするような、その施設内での、あるいはそれ以外のレベルでの独立した機構が形成されるべきである。」「患者は、自分の苦情について、徹底的に、公正に、効果的に、そして迅速に調査され、処理され、その結果について情報を提供される権利を有する。」という、苦情申立権を患者の権利として位置づけるユニークな条項が盛り込まれていました。
日本の医療システムには、苦情を解決に導くこのような仕組みは整備されておらず、紛争化したあげく、裁判という負担も大きい対決型の決着に至るケースが少なくありません。そこでWHO宣言の精神を実現するため、福岡市を中心に、相談を柱とする支援活動を通して患者・家族の苦情を解決し、医療の質の向上を図るボランティア活動が始まりました。それが1999年に設立されたNPO法人「患者の権利オンブズマン」で、これまでに2500件を超える面談相談を行い、さらに相談内容の分析や苦情調査活動などを行っています。
 今回ご紹介する研究は、患者の権利オンブズマンの相談事例分析の一つとして、平野が担当した死亡事例の分析結果についてまとめたものです。患者の死亡という重大な結果に対して、遺族がどのような苦情を抱くのか、その苦情を解決するためには何が必要なのか、一つ一つの事例を細かく分析することで、問題解決の方策を探求しようとしたのです。
 
2.分析の方法
 患者の権利オンブズマンは、相談者の同意に基づき、相談内容を記録化しており、記録の分析、公表についても、文書で同意をいただいています。これまで2度、ほぼ5年ごとに、相談記録をすべて読み、集計、分析の作業を行いました。最初の分析は2005年で、1)どのような場合に遺族は苦情を訴えるのか、2)遺族に必要な支援は何かという2つの視点から分析を行いました。2度目の分析は2010年に行い、遺族が苦情を抱くに至った要因を定量的に分析しています。
 
3.結果と考察
3-1 1999年度~2004年度の分析
1)患者の死亡に関わる苦情の発生状況
 1999年度から2004年度までの6年間で、患者の死亡(死産を除く)にかかわる苦情が246件ありました。これは全相談件数の約18%に相当します。
―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
年度 1999年度  2000年度  2001年度  2002年度  2003年度  2004年度
件数  43件    24件    27件    48件    63件    41件
―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
 医療機関で患者が死亡した場合には、患者の死亡そのものが家族にとっては、大きな苦痛の原因となりえます。しかし、相談事例全体の2割弱という数字は、患者の死が直ちに苦情を形成するわけではないことを示しています。そこで、患者が亡くなったときに、どのような事情が遺族の苦情を形成するのかという視点で死亡事例を分析した結果、相談にくる人々の苦情には、大きく2つのタイプがあることが示されました。
ひとつは、患者の死因に対する疑問、医師の説明に納得できない、真相を知りたいという気持ちであり、今ひとつは、患者が死んだことへの怒り、何か隠しているのではという不信です。さらに、遺族がこのような心理を抱く条件は、次のような5つの場面に要約されました。
 ①手術や抗がん剤の使用など侵襲の大きい医療行為から間もなく死亡した場合
 ②患者が急変してまもなく死亡した場合
 ③医療事故と思われる事態が生じた場合
 ④患者や家族の要望や希望が受け入れられなかった場合
 ⑤死後の説明や死亡診断書が事前の説明と異なっている場合
 
2)遺族の思いと支援課題
患者の死亡に対して遺族が求めるものは、第一に死因の究明です。カルテなどを持参して記録検討支援を受けた事例は71件で、28.9%あり、医師など医療従事者の説明では納得できないために、第三者の説明を得て、死因を究明したいという願いが伺われます。一方、訴訟や賠償請求を求めての相談は決して多くありません。弁護士を紹介した事例は10件にとどまり、必ずしも賠償目的の相談が多いわけではありません。
 患者の生命が失われたとき、家族が自分の気持ちを整理して患者の死を受け入れるためには、なぜ患者が死ななくてはならなかったのか、納得する必要があると思われます。しかしながら、苦情相談に来た事例はみな、医師等からなされた説明に納得していません。
一般に患者・家族と医療従事者のコミュニケーションが十分でない場合に、患者・家族は疑問・不信を抱きやすいといえます。また説明の重要性の認識が、遺族と医療従事者で異なっている場合、医療従事者の説明に遺族は不満を抱くでしょう。患者の死は、遺族にとって現在進行形であるのに対して、医療従事者にとって患者の死は過去の事象です。患者の承諾を得るための説明と同じ熱意で、事後の説明がなされているでしょうか?
 死因のように、専門家でも判断が難しい事柄を、素人である遺族に説明するためには、それ相応の準備と努力が必要ですが、苦情を訴えてきた事例からは、そのような医療従事者の努力が読み取れません。患者の死に衝撃を受け、傷ついている遺族に対して、遺族への心理的ケアを含めた対応が必要であり、誠意を感じ取ることで遺族の傷は少しだけ癒されるのではないでしょうか。死因を究明したいと相談に来る遺族は、死因の説明に誠意やいたわりを感じることができなかった人たちだとも考えられるのです。
 
3-2 2005年度~2009年度の分析
1)患者の死亡に関わる苦情の発生状況
2005年度から2009年度までの5年間の相談事例のうち、患者の死亡にかかわる苦情は144件(死産事例5件を除く)でした。前回分析時と比較して、ほぼ同数の事例数です。
―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
年度 2005年度   2006年度   2007年度   2008年度   2009年度
件数  23件     35件     45件     26件     15件
―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
 
2)苦情の原因となる要因
 苦情相談144件の概要を読み込んだうえで、苦情発生の要因を整理すると、以下の5つの要因が苦情の発生に関連すると考えられました。
①診療過程における事故発生の疑い
 ②診療経過の説明から死因の説明に至るまでの「説明」
 ③患者・家族と医療従事者のコミュニケーション上の問題
 ④ケアの質や医療従事者の態度に対する患者・家族の不満
 ⑤不適切な苦情対応
 これら5つの要因の有無を事例ごとに分析し集計した結果の概要を述べます(現時点で未公表のデータのため、概略の紹介に留めさせていただきます)。
医療事故の存在が疑われた事例は、分析事例全体の過半を占めていましたが、医療機関が事故調査を実施した事例は非常に少ないことが判明しました。医療機関は一般に、自分たちに損害賠償責任に直結する過失があるかという点に強い関心を抱き、いったん「過失なし」の判断が得られると、なぜ患者が死亡するに至ったのかという肝心の事実調査をないがしろにする傾向があることが明らかになりました。ごく自然なこととして、遺族は患者が死に至った経緯やその原因を知り納得したいと思うものですが、賠償責任や訴訟に関心をもつ医療機関とこのような家族の意識の乖離が苦情を形成していると考えられます。
説明に関する苦情は、インフォームド・コンセントに関わる問題と、経過途中や事後の説明に関わる問題に大別されます。手術等侵襲性の高い医療行為に関するリスクの説明が十分でない結果として、医療行為の正当性に疑いが生じたというようなケースが、毎年一定の割合で存在していました。一方、このような意思決定のための説明に分類されない場面での、家族への説明に関連する苦情は比較的多くみられます。患者の死亡時の死因や死亡に至る経過の説明が不十分であったり、説明が二転三転した場合は、そのこと自体が遺族の不審の原因となりますし、一定期間慢性に経過して急変した場合には、経過報告の不十分ないし欠落が不審を生む理由となると推測されます。また、患者や家族が入院や治療を希望したのに拒否されたり、患者情報として医師や看護師に伝達した事項が重視されず、後から重大な結果に結びついたと考えることができる場合にも、患者の死は、医療側の過失と結びつけて遺族に捉えられる可能性があります。
患者の死亡という最悪の結果であっても、よいケアが受けられたという満足感は、遺族にとって心理的な救いを形成すると思われます。逆に、医療従事者の言動が患者や家族に不快の念をもたらしたり、日常の患者ケアの質に不信や不満を抱いていた場合には、そのような思いが患者の死と結びついて苦情が形成されると考えられます。
患者の権利オンブズマンに苦情相談が持ち込まれる原因は、医療機関内で苦情解決手続きが機能していないことにあります。最初は小さな疑問や要望であった苦情が、医療機関の対応の不備によって明確な苦情、紛争に拡大したと考えられるケースが少なからず存在し、改めて苦情解決システムの不在が、大きな課題として浮き彫りにされました。
 
4.結びにかえて:死亡事例から学ぶこと
 患者が亡くなった場合に、家族(遺族)へのケアが十分に行われていないため、遺族は様々な葛藤を抱えています。死因に関する誠実で丁寧な説明は、遺族へのケアの起点になります。説明を求める遺族は、自分たちの心理的葛藤を鎮めるための「納得」を求めているのです。
不幸にして事故の発生が疑われた場合には、死因究明のための調査がなされなくてはなりません。事故調査の実施は医療機関の責任なのですが、きちんと調査がなされないために、患者や家族の苦情を生み、紛争に拡大しているのが現実です。そして、患者や家族が医療サービスや死因に関する苦情を述べることそれ自体が、権利として保障され、苦情が適切に取り扱われるべきであるということが、広く理解されなくてはなりません。紛争を恐れて対応を誤り、患者・家族を傷つけてしまい、小さな疑問を紛争に育ててしまう。こんな不幸な失敗を繰り返すべきではないでしょう。
 
*研究内容の刊行物
平野 亙「死亡事例から学ぶ」特定非営利活動法人患者の権利オンブズマン編「新・患者の権利オンブズマン」p86-94. 2006. 明石書店
 (初出:特定非営利活動法人患者の権利オンブズマン「患者の権利オンブズマン青書 Vol.22005

【研究紹介】地域高齢者の転倒恐怖感と主観的転倒予測との関連性

地域看護学研究室 江藤真紀

 

1.はじめに
 高齢者にとって転倒は健康を脅かす現象であり、寝たきりになる原因の第3位となっています。地域在住高齢者においては、行政が支援をしているものの、自らが転倒を予測し、転倒対処行動をとることが重要になります。この研究は高齢者の主観的な転倒予測と、転倒恐怖感や転倒経験との関連を分析したものです。ここでは、主観的転倒予測の特性を把握し、転倒恐怖感による活動制限を軽減するための支援や、新たな転倒予防対策を検討するための足掛りを探索したものをご紹介します。

 なお、この研究で言う転倒恐怖感とは、日常生活を送るにあたり必要となる動作を行う能力がありながらも、それらを避けてしまうような転倒発生に関する不安のことであり、転倒予測とは、転ぶことを自分で予測することを意味します。FESスコアとは、転倒恐怖感を測定する尺度(Fall Efficacy Scale)のことであり、10項目の質問肢で構成され、各項目0~10点の計100点で評価をするものです。心理的ADL(Activities of Daily Living)の低下とは、日常生活動作の遂行に対して自信を失い、意欲が減退したり、抑うつ傾向になったりすること、身体的ADL(Activities of Daily Living)とは、自立して生活するための基本的な身体的動作のことで、食事、排泄、着替え、入浴、就寝、移動など毎日繰り返される一連の動作をさします。

 

2.方法と分析
 対象は、O市N地区在住の高齢者87人であり、特性(年齢、性別、既往など)、転倒経験、転倒しそうになった経験、転倒恐怖感、転倒予測、さらに転倒経験者には、転倒時の状況や損傷の状況について、自記式質問紙を作成し、記入してもらいました。分析は、転倒予測、転倒経験についてその有無で2群に分け、χ2検定とFisherの直接確立検定、FESスコアの合計得点の比較 はMann-WhitneyのU検定を実施しました。SPSSver.17.0を使用し、いずれも有意水準は5%未満としました。

 対象者には研究への参加は自由であり、協力しなくても不利益にはならないこと、問題があると感じた場合にはいつでも同意を取り消すことができること、データはこの研究以外に用いることはないことなどを説明しました。データは施錠できる学内の研究室に保管し、コード化して個人の特定はできないようにしています。なお、この研究は大分県立看護科学大学研究倫理安全委員会の承認を得て実施しました。

 

3.結果

 転倒経験有の者は16人(18.6%)、転倒による骨折経験有の者は15人(17.2%)でした。一般的に地域高齢者の転倒率は10~20%とされていることから、この研究でも同様の結果が得られました。転倒による骨折率については、一般的に5%程度とされていますが、この研究での骨折率は非常に高かったことが分かりました。転倒恐怖感有の者は48人(55.2%)であり、一般的に25~55%の者に転倒恐怖感有とされており、この研究もそれに類似していました。また転倒経験、転倒による骨折経験、転倒しそうになった経験のすべてが無い者38人のうち11人(28.9%)が転倒恐怖感を持っていることが分かりました。転倒恐怖感と有意な関連があった項目は、転倒経験、転倒による骨折経験、転倒しそうになった経験、転倒予測、FESスコアでした。転倒予測有の者は、55人(64.0%)であり、転倒予測と関連のあった項目は、転倒経験、転倒による骨折経験、転倒しそうになった経験、転倒恐怖感、FESスコアでした。 

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 4.考察

 転倒経験、転倒による骨折経験、転倒しそうになった経験と転倒恐怖感は有意に関連していたことから、これらが要因となり転倒恐怖感の発生が考えられました。また、転倒恐怖感によって心理的ADLが低下するために活動制限が生じ、身体的ADLの低下が起こり、転倒したことも考えられました。転倒恐怖感と転倒予測に有意な関連があったことから、転倒恐怖感と転倒予測は合併しやすく、転倒恐怖感から活動制限発生までに転倒予測の関与が伺えました。

 転倒予測は、転倒経験や転倒しそうになった経験と有意な関連があったり、過去の転倒経験で転倒する場所や状況を学習したりしていることが伺えました。これにより転倒予測は、転倒対処行動に繋がる判断基準と推測されました。よって、身体機能に適合した転倒予測能力が獲得できれば、転倒回避や転倒恐怖感による活動制限の縮小が可能になるのではないかと考えています。

【研究紹介】 筋萎縮性側索硬化症(Amyotrophic Lateral Sclerosis:ALS) 患者の夜間睡眠状況調査

  基礎看護学研究室 伊東朋子

  

難病中の難病であると言われている筋萎縮性側索硬化症(ALS)は最近の新聞報道やテレビ放映により、かなり知られるようになってきています。重篤な筋肉の萎縮と筋力低下、呼吸筋麻痺により人工呼吸器の装着による延命以外には有効な治療法が確立されておらず、死に至る疾患です。英科学誌ネイチャーに掲載された「ALS原因遺伝子特定」のニュースで今後の治療薬開発にも弾みがついています。しかし画期的な発見もまだ始まったばかりで、ALSでは疾患に関連する不安、抑うつや自力での体位変換ができないことによる身体的な痛みなどが原因となり不眠が生じています。睡眠状態は、ALS患者の健康ひいては生活の質に大きく影響する要素で、ALS患者のみならず、支える家族にとっても影響を与えていると思われます。
 
筋萎縮性側索硬化症患者の夜間睡眠状況調査
 
1. 研究の目的
日本のALS患者総数は約7000人程度ですが、A県には100人ほどの患者がいます。ALS患者の良質な睡眠確保に向けた支援は重要ですが、支援を検討するための基盤となるALS患者の睡眠状態に関する実態調査がなされていません。私は学生のボランティア活動等を通じて、ALS患者やその家族の方と関わってきましたので、A県のALS患者会へ調査協力を依頼して、実態調査を行いました。
 
2.調査方法
1)対象者
A県では56人が日本ALS協会A県患者会に入会していますが、その方々を対象にしました。
 
2)調査内容
   調査票には、対象者の性別、年齢、身長、体重、人工呼吸器装着の有無の他に、睡眠時間、夜間の目覚め、眠りの深さ、起床時の気分、睡眠薬の服用などを回答してもらいました。
 
3)調査票の配付と回収
調査票は郵送で配付し、調査票への記入後に、郵送で回収しました。
 
結果
1)対象者の背景
56人全員に調査票を配付したところ、37人から回収することができました。その詳しい内容を表1に示しています。
 
  対象者の背景            (n=35
 
 
 
項  目
 
 
    人数   (%)
 
 
40歳代
1
(
2.9
)
 
50歳代
8
(
22.9
)
年齢構成
60歳代
15
(
42.8
)
 
70歳代
7
(
20.0
)
 
死亡・無回答
4
(
11.4
)
 
35
(
100.0
)
 
6年以下
11
(
31.4
)
 
7~10年
11年以上
13
(
37.1
)
罹病年数
9
(
25.7
)
 
無回答
2
(
5.7
)
 
35
(
100.0
)
 
有り 
無し 
 
22
11
(
(
62.9
31.4
)
)
人工呼吸器
 
無回答
2
(
5.7
)
 
35
(
100.0
)
 
2)睡眠時間
睡眠時間は表2に示したように6時間以下が11人(31.4%)で最も多く、その睡眠時間が日によって不規則であると感じている人は19人(54.3%)でした。
 
表2. 睡眠時間とその不規則感

 
 
不規則 人数
規則 人数
不明・無回答 人数
合計 人数(%)
6時間以下
8
3
 0
11(31.4)
6~7時間
4
3
2
9(25.7)
7~8時間
5
2
0
7(20.0)
8時間以上
      2
3
0
5(14.3)
無回答
 0
0
3
3( 8.6)
合計
19(54.3)
11(31.4)
5(14.3)
35(100.0)

 
3)睡眠の質について
夜間の目覚めと眠りの深さについて、表3と表4に示しました。夜間の目覚めは痰の吸引や、体位変換で目が覚めていました。深い眠りを確保するために睡眠薬を飲んでいる人も多かった。
 
 
 夜間の目覚め

夜間の目覚め
人数
()
覚醒無し
2
 (5.7)
14
19
(54.2)
4回以上
8
(22.9)
わからない
3
(8.6)
無回答
3
  (8.6)
合計
35
(100)

 
 
表4 眠りの深さ

眠りの深さ
人数
  ()
満足な睡眠
13
(37.1)
あまり眠れない
13
 (37.1)
ほとんど眠れない
1
 (2.9)
わからない
8
 (22.9)
合計
35       (100.0)

 
 
まとめ
この研究ではA県のALS患者35人の協力のもとに睡眠の実態を調査することができました。痰を吸引する度に夜間睡眠中に目覚めたり、日によって睡眠の深さが不規則であったりと、良質な睡眠が維持・確保できにくいことが明らかとなりました。この結果をもとに今後、ALS患者に良質な睡眠が確保できるような看護の支援のあり方を探していきたいと思っています。ALSでは、寝がえり1つ打つにも、人の手を必要としています。この疾患に少しでも興味を持って下さる方がおりましたら、是非、ボランティア活動に参加して下さい。若い方のエネルギーとやさしい心を待っています。

【研究紹介】犯罪を起こしてしまった理由、被害者への気持ちや考え-生命犯罪と性犯罪の比較-

人間関係学研究室 関根 剛

 

はじめに

 最近では、犯罪の被害者の苦しみなどが知られるようになってきました。平成16年には、犯罪被害者等基本法という法律ができ、裁判における被害者参加制度など、被害者のための様々な制度が作られるようになってきました。しかし、被害者の方々にとって、非常に大きな関心のひとつは、自分たちに被害を追わせた加害者は、本当に反省しているのだろうか、何を考えているのだろうかということです。

 殺人や傷害などの加害者は、刑務所で、毎日、木工や印刷、革製品作成などの仕事をしながら、二度と再犯を起こさないよう反省しながら、規則正しい生活を送っています。最近では、被害者のことを考えてもらう研修も導入されるようになっています。そのような中で、加害者が、自分の被害者に対して、どのようなことを考えているかを調査しました。

 ただし、この研究は、面白そうだからと言う理由で調査したわけではありません。私は、犯罪の被害者の方々を支援する団体に15年近く関わっています。また、20年くらい前には、少年鑑別所という非行少年に対応する機関で働いていたこともあります。つまり、被害者と加害者の両方の立場や状況を知った上で、両方の人権を大切にして、両方の役に立つように配慮しながら、この調査を行いました。

 

研究の目的

 加害者は、自分の起こした犯罪、自分の被害者に対して、どのように思っているかを調べます。

 

方法
調査対象者

 ある刑務所で、「被害者について知る」研修を受けたいと希望した生命犯罪(殺人や殺人未遂)または性犯罪で受刑している人を対象にしました。なお、これからは、調査対象者のうち、生命犯罪を起こした人たちを生命犯罪群、性犯罪を起こした人たちを性犯罪群と呼びます。

 

調査内容

 事件を起こしてしまった理由12項目、被害者への気持ちや考え25項目などから構成された質問紙で、各項目を4段階で回答してもらいました。

 

調査方法

 調査対象者に、研修の約1週間前に個別に配布して、回答してもらうように、お願いをしました。

 

結果

(1)事件を起こしてしまった理由

 事件を起こしてしまった理由12項目を、因子分析という統計的な方法を使って、大ざっぱにグループ分けをしました。

 すると、①状況:「どうしようもなかった」「こうするより仕方がなかった」など、やむをえない状況で事件を起こしたという項目群。②忍耐:「忍耐力がなかったから」「ちょっとの我慢ができなかったから」など、忍耐力がなかったために事件を起こしたと感じる項目群、③運:「不運なできごとだった」「偶然が重なったからだ」など、意図したことではなく、運が事件につながったと感じる項目群、④衝動:「衝動的性格だからだ」「我慢できないほどのことがあったからだ」など、思わず事件を起こしてしまったと感じる項目群。以上、4つの因子に分かれました。この分類のされ方は、心理学で言う原因帰属(どうして、その行動を起こしてしまったかの理由付け)という考え方と近い分かれ方をしています。つまり、加害者への教育を行う際には、心理学の観点を持つことが役に立つかもしれないことがわかりました。
 生命犯罪群と性犯罪群を比較しましたが、因子の得点では大きな差がありませんでしたので、ひとつひとつの項目別に比較しました。
 生命犯罪群は、「もっと他の方法を考えなかったから」、「ちょっとの我慢が足りなかった」、「忍耐力がなかった」と答えた人の得点が高くなっていました。性犯罪群は、「他の人に相談をしなかったから」「自分がダメな人間だから」「忍耐力がなかったから」と答えた人の得点が高くなっていました。
 このように、同じ加害者と言っても、生命犯罪群と、性犯罪群とでは、事件を起こしてしまった理由も、違った感じ方をしていることがわかりました。
 
(2)被害者への気持ちや考え
 同じように、被害者への気持ちや考え25項目を因子分析しました。その結果、
 ①回想回避:「事件のことを何とか忘れようとしている」「事件のことはあまり考えないようにしている」「刑期はもっと短くて良いと感じる」「事件のことを思い出せるようなことには近寄らない」など、事件については思い出したくないという態度の項目群、②被害者を意識:逆に、「被害者の家族は今もショックから立ち直れないだろう」「被害者のことを考えてしまう」など、被害者のことを考えてしまう態度の項目群、③侵入的想起:「事件の時の場面がいきなり頭に浮かんでしまう」「どんなきっかけでも、事件のことを思い出すとその時の気持ちがぶりかえしてくる」など、事件のことが頭から離れないという項目群、④十分反省:「事件については、もう十分反省した」「受刑していることが被害者へのつぐないになっている」など、刑務所に入ることで反省は十分だと感じている項目群。以上、4つの因子に分かれました。
 生命犯罪群と性犯罪群とで、因子別に得点を比較したところ、生命犯罪群では「侵入的想起」得点が高く、性犯罪群では「回想回避」「十分反省」が高くなっていました。
 また、項目別にみたところ、生命犯罪群では、「事件のことを思い出すことが多い」「事件の時の場面がいきなり頭に浮かんでくる」「被害者の家族は今も自分を殺したいほど憎んでいると思う」などの得点が高くなっていました。また、性犯罪群では、「受刑していることが被害者へのつぐないになっている」「被害者の家族は時間がたてば自分を許してくれるだろう」の得点が高くなっていました。

 このように、生命犯罪群は、性犯罪群に比べて、事件について、今でもショックなことと感じ、被害者の怒りも強く感じていることがわかります。しかし、性犯罪群では、同じように申し訳ないと思いながら、自分の起こした事件をあまり思い出さず、刑務所に入っていることで反省もつぐないも十分だと感じているようです。つまり、生命犯罪群に比べて、性犯罪群は自分の起こした事件を、かなり軽く感じていることが推察できます。

 

研究の展開

 この研究は、加害者が自分の犯罪の理由や被害者への気持ちや考えを、どのように思っているかを調べるための調査でした。これだけでは、ただのアンケートで終わってしまいます。研究は、より広く、より深く発展させなければなりません。つまり、この研究は、因子分析という方法を使って、仮に作った調査用紙が、加害者の答をうまくとらえているかを確認するためのものでした。

 この研究の翌年以後、「被害者について知る」研修を受けた人は、どのような変化があるのか。ないなら、どうして変化しないのか。それなら、どのように研修の方法や内容を変えたら良いのかなどについて、調べていきました。

 研究というと、試験管をふった化学実験だったり、とても難しい学問というイメージがあるかもしれません。けれど、看護学や心理学というものは、実践の学問です。いかに、実生活や実践活動に役立たせるか、より効果的な実践活動につなげられるか。それを明らかにしていこうとする研究のやり方もあります。高校生の皆さんも、これから、いろいろな学問や研究に関心を持っていってみて下さい。案外、身近で面白いものが見つかるかもしれません。

【研究紹介】Interpretation of intonation with modality in the same scene of "Sense and Sensibility"

 

 

 

Shinji MIYAUCHI,  Foreign Language Department

 

1. Introduction
     It can be observed that the same sentence is uttered with different intonation. Brazil (1984) also argues that no two readers, given the same printed text to read aloud, can usually be expected to make identical intonation choices. Halliday suggests (cited in Brown and Yule 1983) that intonational realization depends upon the two categorization of information as ‘given’ or ‘new’. It is also argued that pitch movement choice depends on speaker’s moment-by-moment decision with regard to the context (Brazil 1994; 1997: Cauldwell and Allan 1997). Thus, the regulations or tendencies of pitch movement choices should be found in the context of the situation or of the story. In order to interpret the context, the author introduced stylistic idea of modality (Toolan 1996). Also, as the fixed sample of utterances, the author chooses literary texts and their re-recorded soundtrack CDs. This study seeks to compare the same sentences in the two different literary texts, clarify the validity of text interpretation from the modal points of view in the framework of Brazil’s theory and identify factors of pitch movement choices.
 
2. Method
2.1. Material
    Two versions of “Sense and Sensibility”, originally written by Jane Austen, were chosen as the sample of this study: one was the original version; the other was a re-told version as a graded reader. The authentic original text was from the series of Oxford World’s Classics, published by Oxford University Press in 2004. The re-recorded CDs used for this study were produced by Naxos Audiobooks Ltd., an unabridged version read by Juliet Stevenson in 2005. The re-told version was produced by Oxford University Press as level 5 of Oxford Bookworms Library series. The story was re-told by Clare West in 2000. The attached CDs were used as the sample material.
 
2.2. Procedure
    One common scene was focused from the two different versions of the story, which was originally contained in Volume II, Chapter VII. In the scene, the same sentences in direct speech were found, such as ‘Engagement!’, ‘There has been no engagement.’ and ‘But he told you that he loved you.’ (see Appendix A and B). The scene was transcribed according to the transcription devised by Brazil (1994). Evaluative nouns, verbs and adjectives in the expressions from the Elinor’s utterance to soothe her sister Marianne to the end of the concerned direct speech part ‘Engagement!’ were interpreted and categorized as to whether each word has positive (+) meaning or connotation or negative (-) one, according to the modal points of view argued by Toolan (1996).
 
3. Results
3.1. Nouns
    As shown in Table 1 below, before the exclamation ‘Engagement!’ by Marianne in the focused scene of the original text, there were 13 nouns with evaluative connotation uttered by Elinor. Of the thirteen nouns, there were five which had positive connotation, whereas the other eight nouns were interpreted as negative. The re-told version had four nouns spoken by Elinor. Elinor’s utterances contained one positive meaning and three words with negative connotation.

Table 1. Evaluative words: Nouns
Original version
Re-told version
Elinor
Evaluation
Elinor
Evaluation
comforts
 
 
friends
 
 
loss
 
 
leaves
 
 
opening
 
 
consolation
 
 
discovery
discovery
character
character
engagement
engagement
months and months
 
 
end
end
confidence
 
 
blow
 
 
 


3.2. Verbs
    Before the Marianne’s shout ‘Engagement!’, Elinor in the original text used eight verbs, which were all interpreted as negative. The re-told version contained three verbs. (See Table 2 below.)

Table 2. Evaluative words: Verbs

Original version
Re-told version
Elinor
Evaluation
Elinor
Evaluation
(must not) talk      
Calm (yourself) [imperative]
Have [question]
 
 
suffer
 
 
think [imperative]
Think [imperative]
(you would have) suffered
(you would have) suffered
(had been) delayed
 
 
(had been) carried on
 
 
(would have) made
 
 

 
3.3 Adjectives

    Before the exclamation ‘Engagement!’, the original text contained eight evaluative adjectives uttered by Elinor, which were all negatively interpretable. The re-told version had one adjective, which valued Willoughby’s character as betrayal from Elinor’s mouth. (See Table 3 below.)

Table 3. Evaluative words: Adjectives

Original version
Re-told version
Elinor
Evaluation
Elinor
Evaluation
no (comforts)
 
 
No (friends)
 
 
no (opening)
 
 
later (period)
(his) real (character)
Every
 
 
additional (day)
 
 
unhappy (confidence)
 
 
dreadful
 
 


4. Discussion

    It appears that these negative expressions in the original text version help to establish the context by showing what the protagonist, Elinor, unilaterally thinks about the current situation in the story, and evoke the emotion of her younger sister, Marianne more strongly than those of the same scene in the graded reader version. Elinor tries to be objective about the situation by using passive voice clauses, but the words which are used in these clauses are evaluative and subjective. Moreover, Elinor uses fall-rise tones in some of the tone units, which imply that she thinks that what she utters to Marianne are already shared with her sister. After all, in response to Elinor’s prejudiced opinions, the actress in the original text uses a rising tone as Marianne’s voice, i.e. the speaker-dominant tone, in the exclaiming sentence ‘Engagement!’. This seems to be a signal from Marianne to Elinor as “Stop it!”. On the other hand, a fall-rise tone is used in the same sentence of the re-told version, which sounds more weakly than the original version, confirming the information shared between the two sisters like “Am I right to understand that you said there has been an engagement between me and Willoughby?”. It is likely that each actress in the two audio recordings used the different pitch movements according to the difference of intensity or degree of modality which was expressed and interpreted in each text. It is also observed that each of the abovementioned pitch choices leads the similar pitch movements in the following tone units. It seems that this series of pitch was selected effectively in order to describe Marianne’s misery, and to express and play the sympathetic but still slightly sceptical part of Elinor.
 
References
Brazil, D. (1984) The Intonation of Sentences Read Aloud, in D. Gibbon and H.
       Richter (eds.), Intonation, Accent and Rhythm: Studies in Discourse Phonology.
       Berlin: de Gruyter.
Brazil, D. (1994) Pronunciation for Advanced Learners of English. Cambridge:
Cambridge University Press.
Brazil, D. (1997) The Communicative Value of Intonation in English. Cambridge:
Cambridge University Press.
Brown, G and G. Yule (1983) Discourse Analysis. Cambridge: Cambridge University Press.
Cauldwell, R. and Allan, M. (1997) Phonology. Birmingham: The University of Birmingham.
Gibbon, D. and H. Richter (eds.) (1984) Intonation, Accent and Rhythm: Studies in Discourse Phonology. Berlin: de Gruyter.
Toolan, M. (1996) Language in Literature: An Introduction to Stylistics. London: Hodder Education, Hachette.
 
Sample Texts and Sound Tracks
Austen, J. (2000) Sense and Sensibility. Oxford Bookworms Library, level 5, re-told by Clare West. Oxford: Oxford University Press.
Austen, J. (2000) Sense and Sensibility. Oxford Bookworms Library CDs, level 5, re-told by Clare West. Oxford: Oxford University Press.
Austen, J. (2004) Sense and Sensibility. Oxford World’s Classics. Oxford: Oxford University Press.
Austen, J. (2005) Sense and Sensibility. An unabridged version CDs read by Juliet Stevenson. London: Naxos Audiobooks Ltd.
 
Appendix A: Transcript of the sample scene from the original text
    // you MUST NOT talk so, marianne. //
// HAVE you no COMforts? // no FRIENDS? //
// IS your LOSS // such as LEAVES // no Opening for consoLAtion? //
// MUCH as you SUffer now, // ↘↗ THINK of what you WOULD have suffered //
// ↘↗ if the disCOvery of his CHAracter // had been deLAYED to a LAter period – //
// if YOUR enGAGEment // had been CArried on // for MONTHS and MONTHS, //
// ↘↗ as it MIGHT have been, // before he CHOSE to put an END to it. //
// Every adDItional day // of unHAppy CONfidence, // on YOUR SIDE, //
// would have MADE the BLOW // MORE DREADful. //
//enGAGEment! //   cried Marianne,
//there has BEEN no enGAGEment. //
// NO enGAGEment! //
// NO, // he is NOT so unWORthy // as you beLIEVE him. // 
// ↘↗ he has BROKen no FAITH with me. //
// but he TOLD you that he LOVED you? // –
 
 (from Oxford World’s Classics, P.138-139; Nexus Audiobooks, CD#5, Track#16. Transcription by the author.)
 
Appendix B: Transcript of the sample scene from the re-told text
    // CALM yourself, // dear mariANNE. //
// THINK of how much MORE // you would have SUffered //
// ↘↗ if the disCOvery of his REAL character // had come at the END of your enGAGEment. //
// ↘↗ enGAGEment! //  cried Marianne.
// there has BEEN // ↘↗ NO enGAGEment. //
// he has NOT MADE // or BROken // ↘↗ any PROmise to me. //
// ↘↗ but he TOLD you that he LOVED you ? //
 
(from Oxford Bookworms Library Level 5, P.55; CD#2, Track#2. Transcription by the author.)
 
Note: This article is based on the presentation given at the 15th Annual Conference of the English Phonetic Society of Japan at Kwansei Gakuin University in Hyogo, Japan, on 26th June, 2010.

 

【研究紹介】食物アレルギーをもつ児と保護者に対する保育所看護職の取り組み

小児看護学研究室 田中美樹

 

1. はじめに
1998年、乳児保育需要の増加を受け、全ての保育所で乳児保育が実施できるよう児童福祉施設最低基準の一部改正がされた。厚生労働省児童家庭局長は、乳児9人以上を入所させる保育所では看護職1人を置くことと通知した。2007年の社会福祉施設等調査報告では、全国の保育所の看護職配置率は20.9%であり、看護職配置が進んでいないのが現状である。
このような背景の中、特に乳幼児の食物アレルギーが増加しており、食物アレルギー有病率調査では、乳児が約10%、3歳児で約5%と報告されている。自ら対処できない乳幼児は重篤な状態に陥りやすく、乳児の集団保育の増加に伴い、保育所の離乳食など食物アレルギーに対する対応が重要な課題となっている。
そこで本研究は、保育所看護職が食物アレルギーをもつ児や保護者に対して行っている取り組みや、他の職員との協働の実際について明らかにし、保育所看護職の役割や課題について示唆を得ることを目的とした。

 

2. 方法
調査期間は2009年7月末~8月末で、九州内2県の保育所に勤務する看護職を対象とした。無記名の自記式質問紙法で、調査項目は属性9項目、食物アレルギーの管理6項目、保護者への対応8項目、他職種との連携6項目、食物アレルギーの管理や指導などに対する認識10項目の合計39項目と自由記述である。データは記述統計、χ²検定をSPSSver.17.0を使用し分析した。有意水準は5%とした。
看護職(保健師・看護師)が在籍する施設の施設長および看護職に本研究の趣旨について記載した文書を郵送し、承諾の得られた施設にのみ質問紙を配布した。

 

3. 結果
質問紙の配布数72部、回収数58部(回収率80.6%)で、欠損のない55部を分析対象とした。
対象者の属性は、平均年齢41.5歳で、保育所の平均勤務年数は4.9年であった。小児看護の経験がある看護職は15名(27.3%)、経験がない看護職は40名(72.7%)であった。

 

tanaka_table1


食物アレルギーに関する食品の制限を決定する基準は、医師からの診断書40名(62.5%)、保護者からの依頼21名(32.8%)であった。保育所で預かる食物アレルギーに関する薬剤は、内服薬が約6割、軟膏が約4割と多く、エピネフリン注射は1名のみであった。食物アレルギーについて看護職が保護者から受けた相談は「アレルギーの症状、アナフィラキシー」「食物除去・解除について」等で、一方、看護職が保護者の対応で困った内容は「食物アレルギーに対する保護者の認識が不十分」「保護者と直接話す機会が少ない」等であった。看護職の約8割は保育士との情報交換が行えていると回答した。

 

tanaka_table2

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4. 考察
厚生労働省が作成した「食物アレルギー診療の手引き2005」が提示されたにもかかわらず、食品の制限の決定に医師の診断書を用いている施設は6割で、診断書に基づく対応が普及しているとはいえなかった。そのため、自宅では食品の制限をしていない保護者の要望にも対応する等の混乱が生じていると考える。食物アレルギーの薬物療法では、2005年4月に承認されたアナフィラキシー補助療法薬のエピネフリン自己注射薬を預かっている看護職は1名のみであり、アナフィラキシーショックへの対策が十分でないことが明らかになった。保護者は、食物アレルギーについて医療面や生活面について質問しており、看護職は診断を受けた後のフォローや信頼関係をつくるためコミュニケーションをとる等で対応していた。しかし、クラス担任の看護職が約7割で、そのうち9割が0歳児クラスを任されていることから、保育業務に追われ保育所全体の食物アレルギーに対応できる体制ではないと考える。看護職が保護者の対応で困っている内容は、保護者の食物アレルギーの食事療法や対応が不適切なことであった。看護職は、児や保護者に対し、保育士や栄養士とも連携し専門性を活かして活動することが期待される。

 

5. 成果発表
1) 第20回日本小児看護学会学術集会発表,兵庫,2010
2) 日本小児看護学会誌投稿中
 

【研究紹介】The Relationship between Job Stress and Urinary Cytokines in Healthy Nurses: a Cross-Sectional Study

 成人・老年看護研究室  福田 広美

 

Background

Cytokines, such as angiogenin (ANG) and interleukin (IL-8) have been shown to be related to depressive symptoms or inflammatory diseases, like coronary heart diseases, and may be used as stress biomarkers to identify and prevent health problems in nurses. To investigate the relationship between cytokines and nurses’ job stress, urinary ANG or IL-8 were monitored in hospital nurses in Japan.
 
Methods
   The job stresses of 118 healthy female nurses working at general hospitals were evaluated by the Nursing Stress Scale (NSS). The subjects were classified into high and low stress groups according to the stress levels in each NSS subscale. Their subjective psychological states were assessed by the Profile of Mood States Short Form Japanese version (POMS-SFJ). Their urinary ANG, IL-8 and cortisol levels versus subjective psychological states from two groups were compared.
 
Results & Discussion
The fatigue and depression scores of POMS-SFJ subscales in the present study were higher than those of the general Japanese healthy population (2005). Therefore, the subjects in the present study seemed in a chronic stress state.
   Based on the score of total subjects, nurses who were experiencing the pressure of having the responsibility for patients’ life support care (PPLC) were the highest among the possible scores of the NSS subscales. Nurses with high job stresses from PPLC and experienced conflict with physicians had a high level of urinary ANG.
   ANG has been implicated in the pathogenesis of inflammatory diseases, such as atherosclerosis and CHD. In this study, the high stress group experiencing conflict with physicians showed not only higher levels of urinary ANG (Figure 1B), but also showed higher POMS-SFJ subscale scores in anger-hostility, fatigue, depression and TMD in comparison to the low stress group (Table 2). Therefore, a nurse with high stress, caused by conflict with physicians, may have a higher risk of inflammatory diseases than a nurse with low stress does.
No significant differences in the POMS subscale scores, with the exception of the fatigue score, were observed among the high and low stress groups experiencing PPLC (Table 2). However, urinary ANG level in the high stress group experiencing PPLC was significantly higher than that in the low stress group (Figure 1A). Therefore, urinary ANG was considered to be a biomarker, which detected the physical distresses of nurses before they are conscious of the negative psychological states such as anger, hostility, and depression in the PPLC.
 
This study was supported by a grant-in-aid for scientific research from the Ministry of Education, Culture, Science and Technology of Japan.
 
Fukuda H, Ichinose T, Kusama T,Yoshidome A, Anndow K, Akiyoshi N, Shibamoto T. The Relationship between Job Stress and Urinary Cytokines in Healthy Nurses: a Cross-Sectional
Study. Biological Research For Nursing, Vol 10, No 2, 183-191,
 
 
 
Table 1. Nursing Stress, Urinary Bio-markers Levels and Mood States of the Hospital Female Nurses
fukuda_table1.jpg 
All values are expressed as Mean ± SD. POMS = Profile of Mood States Scale (McNair, Lorr, & Droppleman, 1971; Yokoyama, 1990, 2005). NSS = Nursing Stress Scale (Kageyama et al., 2001).a. Urine cytokines and cortisol values were normalized to creatinine.
 
 
 
Table 2. Subjective Mental State by POMS-SFJ Scale in the High and Low Job Stresses Groups in the Each NSS Subscale
fukuda_table2.jpg 
NOTE: All values are Mean ± SD. POMS = Profile of Mood States Scale (McNair, Lorr, & Droppleman, 1971; Yokoyama, 1990, 2005). NSS = Nursing Stress Scale (Kageyama, Nishikido, Kobayashi, Oga, & Kawashima, 2001). TMD = Total Mood Disturbance Scores. The subjects were classified into high and low stress groups by a mean split of the NSS subscales scores. The effect of the each stress on mood states was analyzed by ANCOVA with age as the covariate. a. p < 0.05. b. p < 0.01. c. p < 0.001
 
    
 
 fukuda_Figure1.jpg
 
Figure 1. Effect of each stress in the NSS in urinary ANG and cortisol levels.
Note. All values are Mean ± SD. Urine cytokines and cortisol values were normalized to creatinine. Data were analyzed by ANCOVA with age as the covariate.
In A. High stress group, n = 83. Low stress group, n = 35.   
In B. High stress group, n = 59. Low stress group, n = 57.  
In C High stress group, n = 82. Low stress group, n = 36.   
 * p < 0 .05.       
 

 

【研究紹介】大気汚染は男性の生殖機能に悪影響を与えるのか?

 生体反応学研究室  吉田 成一

 
【はじめに】
 最近40~50年間で男性の精子数が減少しているという報告 (1)があってからおよそ10年程度経っています。精子数が減ることの原因として、喫煙やダイオキシンなどの有害物質が挙げられていますがほとんど分かっていないが現実です。
 しかし、精子数の減少は多くの国で見られていた現象であることから、何らかの環境因子が関与しているのではないかと考えられます。そこで、身近な環境因子である大気汚染と男性の精子数との間に関係はないかと思い、研究を行っています。大気汚染と言っても様々なものがありますが、特に空気中に漂っている微粒子に着目して研究を行ったところ、精子を作る能力が低下すると言うことを見つけましたので、その研究について紹介します。
 
【空気中の微粒子】
 空気中に漂っている微粒子は浮遊粒子状物質 (SPM)と呼ばれ、環境省や世界保健機関 (WHO)で、大気汚染物質の一つとして規制されています。浮遊粒子状物質は土埃やこの研究紹介の一回目に話しが出ました黄砂などの自然界由来のもののほか、工場からの排煙や自動車の排気ガス中に含まれる微粒子などの産業・工業由来のものが含まれます。タバコの煙の中の微粒子も浮遊粒子状物質の一つと言えます。この浮遊粒子状物質の健康影響として、アレルギーや呼吸器系の病気などを引き起こすことが知られています。最近では粒子の大きさが小さい粒子 (ナノ粒子やPM2.5と呼ばれている粒子)が健康に悪影響を与えるのではないかと懸念されています。
 
【微粒子の精子を作る能力への影響】
 私たちは、微粒子の精子を作る能力 (精子産生能)への影響を検討しました。検討した微粒子は、レーザープリンターのトナーなどとして使われているブラックカーボンナノ粒子です。この微粒子を浮遊粒子状物質の模擬粒子として用いました。異なる大きさの微粒子 (14nm、56nm、95nm)を雄マウスの気管から肺に注入しました。そうすると、微粒子を与えなかったマウスと比較すると、精子産生能は微粒子を注入したマウスで明らかに低くなりました (図1)。また、精子を作る場所となる精巣が痛んでいることも分かりました (図2) (2)。
 
 
yoshida_fig1.png
図1   マウスが一日に作り出す精子の数の変化
 
 
yoshida_fig2.png
図2  微粒子を与えることにより生じる精巣組織の障害
 
【微粒子を妊娠している母親に与えたときの出生した子どもへの影響】
 最近、男性は生まれてから受ける影響だけでなく、母親のお腹の中にいるときに受けた影響もあるということが言われ始めてきています。そこで、私たちは、妊娠している母親マウスに微粒子を与えて、生まれてきた雄の子マウスの精子産生能などを調べました。すると、微粒子を与えられなかった母親から生まれてきた雄の子マウスよりも微粒子を与えられた母親から生まれてきた雄の子マウスの精子産生能が低くなることが分かりました (図3)。そして、その影響は、子マウスが小さいときから成長した後まで低いままであることも分かりました (3)。
 
 
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図3  微粒子を与えられた母親から生まれてきた雄の子マウスが作り出す精子の数の変化
 
【国内外における調査研究】
 イタリアで高速道路の料金所で働いている男性の精子の質が悪くなることが報告されています (4)。日本でも、慶応大学の研究で、ここ30年の間で日本人男性の精子数が約12%減少したと言う報告や帝京大学の研究で20代の男性は30代以上の男性より精子数が少ないという報告があります。
 
【まとめ】
 私たちは、大気汚染物質の一つである浮遊粒子状物質の模擬粒子を雄のマウスに与えると、精子産生能が低下すること、精子を作る場所である精巣が傷害されることを報告しています。また、微粒子を妊娠している母親マウスに与えると出生した雄の子マウスの精子産生能が低下することも報告しています。ヒトにおける精子数の低下と大気汚染物質の一つである浮遊粒子状物質の間に関係があるかははっきりしていませんが、悪影響を与える可能性はあります。今後これらの関係を注意深く考えていく必要があると考えています。
  なお、この研究は、本研究室の数多くの卒論生とともに行った研究の一部を紹介したものです。
 
【文献】
1. Carlsen E, Giwercman A, Keiding N, Skakkebaek NE. Evidence for decreasing quality of semen during past 50 years. Br Med J 1992; 305: 609-613.
2. Yoshida S, Hiyoshi K, Ichinose T, Takano H, Oshio S, Sugawara I, Takeda K, Shibamoto T. Effect of nanoparticles on the male reproductive system of mice. Int J Androl. 2009: 32(4):337-42
3. Yoshida S, Hiyoshi K, Oshio S, Takano H, Takeda K, Ichinose T. Effects of fetal exposure to carbon nanoparticles on reproductive function in male offspring. Fertil Steril. 2010: 15;93(5):1695-9
4. De Rosa M, Zarrilli S, Paesano L, Carbone U, Boggia B, Petretta M, Maisto A, Cimmino F, Puca G, Colao A, Lombardi G. Traffic pollutants affect fertility in men. Hum Reprod. 2003: 18(5):1055-61.
 
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