【研究紹介】ユズ果皮成分のアレルギー軽減効果 --アトピー性皮膚炎モデル動物を用いた結果--

生体反応学研究室 定金 香里

 
  生体反応学研究室では、生体に悪影響を及ぼす環境物質の探索とそのメカニズムを明らかにすることを研究のメインテーマとしています(本項第一回「黄砂アレルギー」をご参照下さい)。しかし、今回は悪影響ではなく、アレルギー軽減について調べた動物実験の結果をご紹介します。
  ユズは大分県西部の特産品で、「柚子胡椒」は大分のお土産として人気の高い一品です。冬至には柚子湯に入る習慣がありますが、これはユズが冷え性に効果があると考えられているからだそうです。お風呂場に立ちこめるユズの香りが好きな方も多いと思います。このように昔から、私たちになじみの深いユズですが、このユズの皮から抽出した成分をマウスに飲ませ、その後、アレルギーを人為的に発症させてみました。すると、アレルギーが治癒することはないものの症状が軽減されることがわかりました。今回はその研究の一部、アトピー性皮膚炎モデルマウスを用いた実験結果を紹介します。
 
《方法》 
  マウス(NC/Nga系)を2群に分け、一方にはユズ果皮成分(0.3 mg/animal)を2~3日毎に12回、経口投与し、もう一方にはユズ果皮成分を与えませんでした。その後、どちらの群にも、アレルゲンを耳介皮下に頻回投与し皮膚表皮にアトピー性皮膚炎を誘発しました。アトピー性皮膚炎の症状を評価するために、重症度をスコア化しました。また、アレルギー発症時に血液中で増加するIgE抗体、IgG1抗体、皮下組織中で増えるマスト細胞や好酸球の数をカウントしました。
 

 《結果》 

  皮膚症状(図1) 
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図1. マウスの耳介像
アトピー性皮膚炎の誘発のみを行ったマウスでは、乾燥、浮腫、痂皮やびらんの形成がみられました。一方、ユズ果皮成分を予め与えていたマウスでは、痂皮やびらんの形成が抑えられていました。ただし、乾燥や浮腫には軽減効果はみられませんでした。
 
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図2. 血中抗体産生
 抗体産生(図2) アレルゲンが生体内に侵入すると、血液中にIgE抗体やIgG1抗体というタンパク質が増えます。アレルゲンをマウスに投与した後では、投与する前の何倍のIgE抗体量になっているかを調べました。ユズ果皮成分を与えなかったマウスでは、抗原を投与する前の約35倍まで増えていました。一方、ユズ果皮成分を予め与えていたマウスでは10倍程度でした。同じようにアレルゲン特異的IgG1抗体価がどれくらい増えるか調べたところ、ユズ果皮成分を与えなかったマウスでは約1,400倍になるのに対し、ユズ果皮成分を予め与えていたマウスでは500倍程度でした。

  

マスト細胞数・好酸球数(図3) 炎症が起きている皮下組織には、炎症細胞が多数、存在します。炎症細胞のうち、マスト細胞と好酸球の数を調べました。すると、ユズ果皮成分を与えたマウスでは、与えなかったマウスに比べてマスト細胞数も好酸球数も減っていることがわかりました。

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図3. 皮下組織中の炎症細胞数
 
《考察》 
  アトピー性皮膚炎では強いかゆみを伴うため、掻きむしって痂皮やびらんをつくり、炎症が重症化します。ユズ果皮成分は、アトピー性皮膚炎の徴候のうち、炎症の重症化を示す痂皮やびらんの形成を抑えることができました。また、血液中の抗体産生も抑えることが明らかとなりました。アトピー性皮膚炎罹患者の中には、血中IgE濃度の高い方が少なからずいます。IgE抗体は、マスト細胞からかゆみや炎症を起こす物質が放出されるきっかけとなるタンパク質です。IgG1抗体は同様に好酸球の炎症性物質の放出に関わっています。これら抗体の産生量が抑えられるということは、かゆみや炎症を起こす物質の放出も抑えられている可能性が高いと考えられます。今回の結果では、それらの物質を放出するマスト細胞や好酸球の数そのものもユズ果皮成分を投与したマウスでは減少していました。以上の結果から、ユズ果皮成分はアトピー性皮膚炎の症状を軽減する効果があることが示唆されました。
 
  アトピー性皮膚炎の治療は難しいことが良く知られています。それは、発症のメカニズムがまだよくわかっていないことに加え、環境からの影響を受けやすく、またその応答に個人差があるからです。治療が長期化すると、今度は薬の副作用の問題が生じます。こうした中、体質改善を目的とした食餌療法を行う人も増えてきました。しかし、その効能には科学的根拠がないものも含まれますし、食べても味が悪く続けられないものもあります。ユズは、日本人になじみ深い柑橘ですし、多くの人に味や香りも好まれています。また、アトピー性皮膚炎モデル動物の他にアレルギー性気管支喘息を人為的に発症させたマウスでも軽減効果があることが当研究室の研究でわかりました。現在、ユズ果皮成分を化学的性質ごとにいくつかの画分に分け、ユズ果皮に含まれている何が有効成分なのか検索中です。
 
  今回の結果はあくまでも動物実験で得られたもので、必ずしもヒトのアトピー性皮膚炎に当てはまるとは限りません。実験に用いるマウスは、個体差が少なく、外部刺激を受けないよう環境をコントロールしています。現在のところ、薬にかなう効果をもつ食品はありません。
 
この研究は、本学、大分大学および株式会社つえエーピーとの共同研究によって行われました。

 

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