【研究紹介】国際協力:ウズベキスタンでのJICA看護教育改善プロジェクトの経験から

保健管理学研究室  桜井礼子

はじめに
 近年、開発途上国を対象とした支援などの国際協力だけでなく、様々な国々と看護を通して国際交流が行われています。看護教育においても、グローバルな視点をもった看護職の人材育成が求められています。
 今回、国際協力の一例として、日本のODA(政府開発援助)の一環としてウズベキスタン共和国(以下ウズベキスタン)において、2004年7月から5年間実施されたJICA(日本国際協力機構)の技術協力「看護教育改善プロジェクト」を紹介したいと思います。このプロジェクトは、日本の多くの看護教育の専門家で構成され、国内支援メンバーと現地の拠点で活動した専門家を中心に、ウズベキスタンの行政等と協働して取り組まれました。私はその国内支援メンバーの一人として、事前調査から関わり、2009年6月のプロジェクト終了後も継続して現地に赴いています。そこで、このプロジェクトを通して行ってきた看護教育の改善活動の一部と、その活動から得られた知見について、ご紹介します。
 
ウズベキスタンの医療保健の概要
 ウズベキスタンは、中央アジア5ヶ国のひとつで、国土は日本の約1.2倍ありますが、人口は約2780万人(2008:国連人口基金)です。旧ソビエト連邦から1991年に独立国家となり、独自の経済発展を進めてきた国です。綿花の生産に加え、天然ガスや石油、金などの資源にも恵まれ、産業や貿易などの発達はゆるやかではありますが、近年では経済成長が進んでいます。
 ウズベキスタンの保健医療システムは、旧ソ連時代に確立された制度を継承し、末端レベルに至るまで医療施設は整備されていました。しかし、独立後は過度に細分化された不効率な医療施設が存在し、施設が過剰であること、医療の人材不足、ハード面の老朽化、医薬品の不足により、医療の質の低下、財政負担の増加が指摘され、改革が進められていました。
 
ウズベキスタンの看護教育の現状
 教育システムは、「教育改革プログラム」が策定され、2005年を目途に新しい後期中等教育制度の導入と12年制義務教育への移行を軸に、教育課程の再編、新教科書の整備、教員の要請・研修、教員の能力向上、学校の増設が進められていました。 看護基礎教育は、この教育改革プログラムにより、一般教育9年後(WHOは11年を提唱している)に中等職業教育である医療専門学校3年間(看護師、助産師)修了により、国家試験を経ずに、看護師・助産師の免許が取得できるよう統一されました。さらに、医学大学に看護学科が1998年から創設され、卒業後は学士が取得できる看護の高等教育が行われるようになっています。これは、中等職業教育の教員は、学士を取得していることが条件となったことも関係していると考えられます。
 医療専門学校の数は、15歳人口の急増を反映して、プロジェクトを始めた2004年には54校でしたが、02009年6月の修了時点には80校に増加しています。タシケント市で見学した医療専門高校は、看護科だけで1学年400名の学生が在籍していました。しかし、授業は1クラス25名~30名の小クラスで行われており、午前・午後に分けて行われていました。
 
JICAプロジェクトの概要と特徴
 事前調査の結果から、看護の実践を改善していくためには、医学モデルから看護モデルに転換し、看護過程の展開を基本とし、看護師が自立して判断し、自らが看護の役割を果たすことができる人材の育成が重要であり最も効果的な方策であると考えられ、ウズベキスタンの看護基礎教育の改善の取り組みが始まりました。
 看護教育改善のプロジェクトの目的は、「ウズベキスタンにおいて、『client-oriented nursing』に基づいた看護教育のモデルが確立されること」とし、ウズベキスタンの教育システムの現状を尊重しつつ改善に取り組んでいきました。具体的な成果として、モデル校で、 “Client-Oriented Nursing(CON)”のコンセプトが導入され、①カリキュラムの改善、②新しい教育教材の提供、③教員の教育方法の進歩・発展による教員の質の向上を目指しました。
 
 プロジェクトの組織として、合同調整会議は、両国のキーパーソンとなる代表者が参加し、年1回定期的に開催し、プロジェクトの運営方針の承認、プロジェクト運営や財政上の問題の解決にあたりました。カリキュラム委員会は、プロジェクトの具体的な運営に関する決定機関で、年2回定期的に会議を開催しました。ワーキンググループ(WG)は、7領域ごとにウズベキスタン側、日本側からのそれぞれ3~5名の専門家によって構成され、教案プラグラム、指導要領、実習指導要領、教員の再教育プログラム、教材の作成等にあたりました。各領域のWGは、ウズベキスタンと日本を結ぶテレビ会議なども含めてそれぞれ50回以上の会議を重ねて作業を行いました。
 活動の拠点は、看護教育センターがモデル校の敷地内に開設されました。看護教育センターには、日本人の長期専門家とウズベキスタンのカウンターパートが常駐し、センター内でWG会議ができるよう会議室と、セミナーの準備などが行える実習室などが整備されました。カリキュラムの作成やモデル校への改善カリキュラムの導入は、看護教育センターのカウンターパートと長期専門家(チーフアドバイザー、看護専門家の2名)が中心となり、各WGの活動をサポートするとともに、国内の支援メンバーとは、国内でのWGの活動や日本側とウズベク側とのテレビ会議を通してカリキュラムの作成が進められました。日本国内から短期専門家が派遣され、ウズベキスタン現地でWGメンバーとの打ち合わせやカリキュラムの作成が行われました。
 
プロジェクトの主な活動と成果
 プロジェクトの主な活動は、看護カリキュラムとして、7領域の教案プログラム、指導要領、実習要項の作成を、各領域のワーキンググループのメンバーが中心となって、ロシア語および日本語で作成したことです。この作成したカリキュラムは、モデル校で3年間実施され、保健省および教育省の大臣の承認を受けることができました。
 また、作成した新たな看護カリキュラムを、医療専門学校の教員や、臨床現場の看護師の方々に理解してもらうために、研修会を開催しました。最初の2回の研修会では、日本側の専門家が「看護とは」「CONとは」を繰り返し講義し、教員や臨床指導者等に、CONの概念を理解してもらうために時間とエネルーギを費やしました。1回の研修期間は3~5日で、毎回、100名以上の医療専門学校の教員、臨床看護師等が参加しました。
 さらに、人材育成の一環として、日本国内での研修も実施されました。毎年、長期研修では3~4ヶ月間、看護教員や臨床の看護師の方々などウズベキスタンのWGのメンバーを中心に日本各地での長期研修(3ヶ月あるいは2ヶ月)を5回(25名)、2週間の研修を2回(14名)、保健省副大臣を含む政策決定者を中心とした短期研修を(1~2週間)4回(17名)実施しました。研修にあたっては、教育機関、病院、老人保健施設、保健所、訪問看護ステーション、精神障がい者作業所などの協力をいただき、特にCONの実践現場をみていただくことで、看護に対する理解を深まったと考えています。
 
国際協力のプロジェクトを振り返って
 今回の技術協力プロジェクトを振り返って、特に重要と考えたのは以下の4点です。
 ①国際協力のプロジェクトにおいては、カウンターパートの存在があります。カウンターパートとは、現地で受け入れを担当する機関や人物をさします。カウンターパートとの関係を築くうえでは、政策の決定者とコミュニケーションをとることが重要です。また、計画や活動の方針を決定するのに欠かせない機関や役職の人物との関係も重要となります。5年間のプロジェクトの期間を通して、保健省および教育省の担当者が変わることなく継続して関わることができ、プロジェクトをスムーズに進めるうえで極めて重要であったと感じています。さらに、実務を担うカウンターパートや活動に参加してくださる専門職の方々とのコミュニケーションもとても重要であり、そのためにはお互いの国民性を理解すること、ときには一緒に食事をする、お茶を飲む、家族の話をする、そのような交流も重要であると感じました。
 ②プロジェクトでは、相手国の人々が、自ら改革を必要と考えそれに取り組むこと、そのために一緒に協働して活動を進めることが大切となります。相手国の状況をきちんと把握し、どのような問題があるのかを一緒に考えること、また、課題を明確にすること、さらに、その国がもつ力や強みを見つけ、尊重することが重要です。カウンターパートを含め多くの関係者と目的を同じにして、改善に取り組みましたが、それでも改善していくこと、変化していくことたいへんなことが多く、この活動の意義を理解し、プライドと尊厳を持って活動に関わることがその推進力となっていたと感じています。
 ③ 技術協力では、人材育成が重要であることは言うまでもありません。当初は、CONのような看護の概念を理解してもらうことは容易ではありませんでした。新たな概念について理解を促すためには、看護の現場を体験してもらうことが重要であると考え、日本での研修プログラムを構築し実施しました。担当者を日本で研修してもらい、各自が理解したCONの概念を、ウズベキスタンの仲間に自分たちの言葉で伝えていくことで、関係者に理解してもらうことができたと感じました。また、担当者が主体的に変更するという認識をもち,共同作業に積極的に係る姿勢を培うために、日本での研修の果たした役割が大きかったと考えます。
 ④ 今回のプロジェクトでは、通訳、翻訳者の役割が極めて重要であり、進捗に大きく影響を与えることとなりました。とくに、ロシア語では存在しない看護の概念など、日本語からロシア語への翻訳には時間を要しました。これは、当初は予測できなかった大変さであったと思います。現地で活動された長期・中期専門家の活躍により、現地での通訳の育成、通訳2名を日本で長期研修を行うなど、さまざまな対応策を用いながら解決されていきました。
 
おわりに
 今回、プロジェクトに参加することで、看護教育や看護の現場がダイナミックに変化していくことを体験することができました。また、日本の看護、看護教育の実態を振り返る機会を持てたことも大きな収穫でした。
 今後、ウズベキスタンのすべての医療専門学校に本プロジェクトで改善したカリキュラムを導入し、定着させていくことが重要の課題です。すでに、2009年9月から、段階的に医療専門学校に新しいカリキュラムが導入され、現在では全国の医療専門高校すべてが新しいカリキュラムを導入されています。新しいカリキュラムによる教育の実績を評価するためには、さらに長い年月にわたるフォローが必要とされます。これからも、ウズベキスタンとの連携をとりながら、看護教育が根付き、臨床現場が変化していくことを検証していきたいと考えています。
 
-文献-
・ウズベキスタンでの看護教育の改善を経験して 保健の科学p833-838 50-12 2008.12

・ウズベキスタンで看護教育を『変える』 JICA「看護教育改善プロジェクト」の概要 看護教育p66-71 51-1 2010.1

QRコード 携帯サイト

左のQRコードを携帯で読み込んで下さい。

大学の案内・募集要項資料の請求はバナーをクリック↓

資料請求はこちら
2013年大学案内 2013年大学案内

本学のパンフレットをご覧いただけます。