【研究紹介】食事接取状況からみた骨代謝-中学生と透析患者を対象とした調査結果から-
生体科学研究室 岩崎香子
みなさんは腰や踵などの骨密度測定を体験されたことがあるでしょうか?私は、大学4年次に腰椎骨密度測定を体験した際、同年齢平均値よりも10%以上も低く、測定した技師さんに、「40歳代」と言われショックを受けました。それを機に、「骨粗鬆症の予防」を研究していた研究室で卒業研究を行った経緯から骨代謝研究にかかわりました。現在もモデル動物・培養細胞を用いた基礎研究と人を対象とした調査研究を行っています。今回は大分在住の中学生と透析患者さんにご協力いただいた調査結果をご紹介します。
≪中学生を対象とした調査≫
骨粗鬆症は生活習慣病の一つとしてよく耳にする疾患ですが、骨の量が減少し、骨折しやすい状態を引き起こします。骨粗鬆症自体は命にかかわる病態ではないのですが、成長期の子どもが骨折すると成長に影響すること、高齢者が骨折を起こすと寝たきりになり、生活の質(QOL)が低下することによって死亡率が上昇することわかっています。この疾患の予防には成長期に十分な量をもった骨を形成することが重要であることが知られています。しかしながらダイエット志向の低齢化、運動量の減少などにより成長期にある子どもたちの骨折増加が問題となっています。そこで大分市内の中学校と共同で中学生の骨の状態と生活状況の関連を調査しました。
【調査対象】市内A中学の1,2年生320人(2006年~2007年)
【調査項目】食事内容(食物摂取頻度より栄養摂取量を算出)
踵骨量測定
放課後の活動状況(運動の有無)
身体計測、生活面アンケート等
【検討内容】踵骨量の年間変化とそれに影響する要因
【結果】1年間で踵骨量、体格、二次性徴程度は男女とも増加していました。運動量は変化がありませんでした。食事接取に関しては男子生徒でエネルギー、カルシウム、ビタミンD摂取量が増加していましたが、女子生徒では変化はありませんでした。しかしながら男子生徒の20%、女子生徒の8.3%に骨量の減少が見られました。
図1: 年間踵骨量変化 |
骨量変化のパターン別(図1)に栄養摂取について解析したところ、男子HH群では身体活動に見合った十分なエネルギーおよびカルシウム摂取ができていました。また2006年に踵骨量が平均値以下であってもカルシウム摂取量が増加すると骨量も増加することがわかりました(LH群、LL群)。
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| 図2:摂取エネルギー、カルシウム割合の変化 |
一方、1年で骨量が減少したreduced群ではエネルギーおよびカルシウムの摂取が減少していることがわかりました(図2)。女子ではLH群においてのみカルシウム摂取の増加による骨量増加が見られました。
以上の結果から成長期に十分な骨量を獲得するには気をつける点がいくつか考えられます。
1)男女ともに十分なカルシウム摂取が必要であること
2)カルシウム摂取だけでなく身体活動に見合った十分なエネルギー摂取が同時に必要であること(特に激しい部活動を行っている男子生徒)
3)女子生徒は男子生徒ほど栄養状態の影響は見られないが、これは骨を守る作用を有する女性ホルモンの影響のほうが強くでている可能性が考えられるため、女子生徒も十分な栄養摂取が必要であるといえます。
年度別で検討した場合も同様の結果が得られています(本学:渡邉(岡崎)寿子助手による検討結果)。また同時に調査した心理面の自覚症状でもカルシウム摂取が少ない生徒は気力低下を感じていること、ビタミンB群の摂取が少ないと疲労を感じやすいことなどがわかりました(本学:佐藤みつよ助手による検討結果)。食事内容および量に気をつけて元気に活動することが、成長期に十分な骨量を獲得するために重要であると考えられます。
≪透析患者さんを対象とした調査≫
骨粗鬆症以外にも他の疾患により骨折しやすい状態になります。特に腎臓は骨代謝と密接に関連しているため、腎機能が低下した透析患者では骨折率が健常人の5倍以上であること、透析患者の骨代謝異常は血管の石灰化(血管が骨の様に硬く脆くなる状態)を誘発し、生存率に影響することがわかっています。腎機能が悪くなると食事療法を開始しますが、どのような食事接取が患者さんの骨代謝に良いのかは不明です。そこで県内の医療施設で外来透析を受けている患者さんにご協力いただき食事内容と骨の状態の関連を調査しています。
【調査対象】県内外来維持透析患者298名(2008年より調査開始、現在継続中)
【調査項目】食事内容(食物摂取頻度より栄養摂取量を算出)
踵骨量測定
生活の質(QOL)に関するアンケート、身体活動量
治療薬などの医療情報等
【検討内容】食事接取状況、踵骨量の状況、自覚QOLとの関連
【結果】現在2年目のデータ収集が終わり以下の結果が得られています。
1)タンパク質摂取量が食事療法基準値に到達している割合が低い。
2)タンパク質摂取量が少ない患者は体の痛みや健康の悪化を感じている。
3)身体活動量の高い男性患者に自覚QOLの低下がみられる。
4)踵骨量は栄養状態と強く関連する。また血管石灰化を防止する血中タンパク質濃度とも関連する(図3)。
| 図3:骨密度と石灰化防止タンパク質濃度との関連 |
透析患者さんの食事療法は透析開始前後で内容が大きく異なります。特にタンパク質摂取に関しては透析導入前では厳しく摂取制限を行います(体重1kg当たり0.6g接取)が、透析を始めると摂取量を約2倍に増やします(体重1kg当たり1.0~1.2g摂取)。長年タンパク質摂取を控えた食事療法を行ってきた患者さんが多いため、透析をはじめても摂取量を確保しづらいと考えられます。また今回調査にご協力いただいた患者さんのうち約48%が栄養不足状態にありました。タンパク質摂取を心がけ、栄養状態の改善を図ることが骨代謝ならびに血管石灰化予防に重要である可能性が本調査で示されています。今後詳細な解析を行い、食事接取と骨代謝との関連を検討していく予定です。
最後に体の旧字をご存知でしょうか?體と書きます。“骨が豊か”という風にも読めます。学生時代に40歳代と言われた私もその後エレベータを使わずに階段を使うことを心掛け、食生活に気をつけたところ1年で3%骨密度が増加し、無事卒業単位を取得しました。それ以来、いくつになっても骨が豊かな状態でありたいと思っております。本学では学園祭(若葉祭)や地域活動の中で骨量測定を行っています。機会がありましたら体験なさってみてはいかがでしょうか。


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