【研究紹介】大気汚染は男性の生殖機能に悪影響を与えるのか?

 生体反応学研究室  吉田 成一

 
【はじめに】
 最近40~50年間で男性の精子数が減少しているという報告 (1)があってからおよそ10年程度経っています。精子数が減ることの原因として、喫煙やダイオキシンなどの有害物質が挙げられていますがほとんど分かっていないが現実です。
 しかし、精子数の減少は多くの国で見られていた現象であることから、何らかの環境因子が関与しているのではないかと考えられます。そこで、身近な環境因子である大気汚染と男性の精子数との間に関係はないかと思い、研究を行っています。大気汚染と言っても様々なものがありますが、特に空気中に漂っている微粒子に着目して研究を行ったところ、精子を作る能力が低下すると言うことを見つけましたので、その研究について紹介します。
 
【空気中の微粒子】
 空気中に漂っている微粒子は浮遊粒子状物質 (SPM)と呼ばれ、環境省や世界保健機関 (WHO)で、大気汚染物質の一つとして規制されています。浮遊粒子状物質は土埃やこの研究紹介の一回目に話しが出ました黄砂などの自然界由来のもののほか、工場からの排煙や自動車の排気ガス中に含まれる微粒子などの産業・工業由来のものが含まれます。タバコの煙の中の微粒子も浮遊粒子状物質の一つと言えます。この浮遊粒子状物質の健康影響として、アレルギーや呼吸器系の病気などを引き起こすことが知られています。最近では粒子の大きさが小さい粒子 (ナノ粒子やPM2.5と呼ばれている粒子)が健康に悪影響を与えるのではないかと懸念されています。
 
【微粒子の精子を作る能力への影響】
 私たちは、微粒子の精子を作る能力 (精子産生能)への影響を検討しました。検討した微粒子は、レーザープリンターのトナーなどとして使われているブラックカーボンナノ粒子です。この微粒子を浮遊粒子状物質の模擬粒子として用いました。異なる大きさの微粒子 (14nm、56nm、95nm)を雄マウスの気管から肺に注入しました。そうすると、微粒子を与えなかったマウスと比較すると、精子産生能は微粒子を注入したマウスで明らかに低くなりました (図1)。また、精子を作る場所となる精巣が痛んでいることも分かりました (図2) (2)。
 
 
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図1   マウスが一日に作り出す精子の数の変化
 
 
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図2  微粒子を与えることにより生じる精巣組織の障害
 
【微粒子を妊娠している母親に与えたときの出生した子どもへの影響】
 最近、男性は生まれてから受ける影響だけでなく、母親のお腹の中にいるときに受けた影響もあるということが言われ始めてきています。そこで、私たちは、妊娠している母親マウスに微粒子を与えて、生まれてきた雄の子マウスの精子産生能などを調べました。すると、微粒子を与えられなかった母親から生まれてきた雄の子マウスよりも微粒子を与えられた母親から生まれてきた雄の子マウスの精子産生能が低くなることが分かりました (図3)。そして、その影響は、子マウスが小さいときから成長した後まで低いままであることも分かりました (3)。
 
 
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図3  微粒子を与えられた母親から生まれてきた雄の子マウスが作り出す精子の数の変化
 
【国内外における調査研究】
 イタリアで高速道路の料金所で働いている男性の精子の質が悪くなることが報告されています (4)。日本でも、慶応大学の研究で、ここ30年の間で日本人男性の精子数が約12%減少したと言う報告や帝京大学の研究で20代の男性は30代以上の男性より精子数が少ないという報告があります。
 
【まとめ】
 私たちは、大気汚染物質の一つである浮遊粒子状物質の模擬粒子を雄のマウスに与えると、精子産生能が低下すること、精子を作る場所である精巣が傷害されることを報告しています。また、微粒子を妊娠している母親マウスに与えると出生した雄の子マウスの精子産生能が低下することも報告しています。ヒトにおける精子数の低下と大気汚染物質の一つである浮遊粒子状物質の間に関係があるかははっきりしていませんが、悪影響を与える可能性はあります。今後これらの関係を注意深く考えていく必要があると考えています。
  なお、この研究は、本研究室の数多くの卒論生とともに行った研究の一部を紹介したものです。
 
【文献】
1. Carlsen E, Giwercman A, Keiding N, Skakkebaek NE. Evidence for decreasing quality of semen during past 50 years. Br Med J 1992; 305: 609-613.
2. Yoshida S, Hiyoshi K, Ichinose T, Takano H, Oshio S, Sugawara I, Takeda K, Shibamoto T. Effect of nanoparticles on the male reproductive system of mice. Int J Androl. 2009: 32(4):337-42
3. Yoshida S, Hiyoshi K, Oshio S, Takano H, Takeda K, Ichinose T. Effects of fetal exposure to carbon nanoparticles on reproductive function in male offspring. Fertil Steril. 2010: 15;93(5):1695-9
4. De Rosa M, Zarrilli S, Paesano L, Carbone U, Boggia B, Petretta M, Maisto A, Cimmino F, Puca G, Colao A, Lombardi G. Traffic pollutants affect fertility in men. Hum Reprod. 2003: 18(5):1055-61.
 
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