【研究紹介】体力テストの測定値を用いた身体組成の推定
健康運動学研究室 稲垣 敦
太っているとか痩せているというのは、昔から関心の高い話題だったと思われますが、肥満が生活習慣病(旧・成人病)の要因であることが明らかになってくると、体内の脂肪の量とか割合を計ることが重要な課題となりました。今でこそ家電に行けば、体に弱い電気を流して、その抵抗値から体脂肪率を推定(BIA, bioelectrical impedance analysis)できる機器が数千円で売っており、家庭でも簡単に体脂肪率を計ることができるようになりました。しかし、つい十数年前までは体の皮下脂肪をつまんで厚さを計ったり(皮下脂肪厚法)、大きな水槽に水を入れて水中で計った体重から推定していましたし(水中体重秤量法)、BIAの機器も数十万円と高価でしたので、家庭で手軽に体脂肪率を計るというわけにはいきませんでした。そのため、その頃は、Rohrer指数やBMI(body mass index)など身長と体重で計算した体格指数で肥満度を評価していたのですが、身長と体重だけでは体の中の脂肪の割合はわからず、肥満と過体重(筋肉質)を区別できません。
一方、体力テストの中には自分の体重を負荷(重り)にした運動があり、これらは体重が同じでも脂肪が多く筋肉が少なければ、測定結果が悪くなります。つまり、体力テストの測定値には身体組成の情報が含まれています。そこで、学校などのように既に体力テストを実施しているところで体脂肪率を推定することを想定して、身長と体重に体力テストの測定値を加えて体脂肪率を推定することを考えました。
当初、体脂肪率の推定式は身長、体重、体力テストの一次関数としていたのですが、その後、体力テストの情報をより効果的に使うため、体力テストの動作を力学的にモデル化して推定式を導きました。まず、体力テストの動作のモデルを簡単にするために、以下を仮定します。
仮定1: 除脂肪体重(=体重−体脂肪量)から筋量を除いた重量は体重の一次関数で表せる。
仮定2: 当該筋の筋断面積は筋量/身長に比例する。
仮定3: 当該筋が発揮した筋力はその筋断面積に比例する。
仮定4: 測定された力は当該筋が発揮した筋力に比例する。
身長(m)、体重(kg)、体脂肪率(0〜1:無名数)、体脂肪量(kg)、除脂肪体重(kg)をそれぞれ、H、m、RF、FW、FFWで示すと、筋力測定機器に作用した力Fは上の仮定から、

と表すことができます。次に、体力テストですが、ここでは体重を重りとする垂直跳びの場合を示します。簡易化のため重心の高さだけに着目すると、

という運動方程式が得られます。ここで、h、g、a、tはそれぞれ跳躍高(m)、重力加速度(=9.81 m/s2)、脚伸展中の垂直方向の重心加速度(m/s2)、重心の最下点を0とした時の踏切時の時間(脚伸展時間, s)です。さらに、下の3つの仮定を導入します。
仮定5: 垂直跳びの測定値は踏切動作最終時点から最高時点の重心の変位と等しい。
仮定6: 脚伸展局面の垂直方向の重心移動距離は身長の1/4である。
仮定7: 脚伸展局面では一定した力が上方に発揮される。つまり、離陸まで重心が等加速度で上昇する。
これらの仮定および(1)式を(2)式に代入して整理し、FFTについて解くと、
という形になります。したがって、除脂肪体重、身長、体重、垂直跳びのデータを用い、係数A、B、Cを推定すれば、除脂肪体重の推定式が得られ、体脂肪率も簡単に算出できます。実際に、中学生の男子305名のデータを用い、BIAで測定した除脂肪体重を基準として係数A、B、Cを推定し、この推定式で除脂肪体重を推定した結果、基準値と推定値の相関係数は0.971とかなり高い推定精度が得られました。
この推定法では推定式を簡単なものにするために大胆に単純化していますが、厳密なことを言えば、動作の再現性や個人差、体力テストの信頼性、筋組成の個人差など仮定の適切さについて検討すべき問題がたくさんあります。一方、技術の進歩は速いもので、BIAはさらに進歩し、筋量や内臓脂肪の推定、身体部位毎の推定が実用化されており、既にこの方法の出る幕はなくなったようです。しかしながら、私にとってこの経験は体力テストの活用を考える一つのきっかけとなりました。
稲垣 敦(1993)体格指数、体力診断・運動能力テストを用いた体脂肪率の推定法の開発:中学生を対象として. 行動計量学 20: 81-91.
稲垣 敦(2007)体力テストを用いた体脂肪率の推定:I. 理論と方法. 看護科学研究 7(2):27-32.

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