【研究紹介】母乳育児期間と更年期症状の関係についての検討-人工栄養育児との比較から-

 母性看護学・助産学 梅野 貴恵

 

.緒言

更年期女性の健康の重要性は、少子化や人口の急速な高齢化を背景にクローズアップされてきている。更年期女性自身の心理・性格的因子や社会・文化的因子は更年期症状の発現に大きな影響をもたらしているが、その要因間の関係は明らかになっていない。更年期女性を対象にした心理・社会的因子である夫婦関係満足感や生きがい感、仕事のやりがいと更年期症状(Simplified Menopausal Index : SMI)についての著者の調査1)から、成熟期における授乳経験と更年期症状との関連も示唆された。そこで、本研究では、母乳育児経験のある現在更年期の女性を対象にした調査を行い、更年期症状の発現の程度を人工栄養育児経験のある女性の更年期症状と比較し、さらに母乳育児期間・無月経期間の長さと更年期症状の関連を明らかにすることを目的とした。

 

.研究方法

1. 研究デザイン

 留置郵送法による自記式質問紙調査

2. 調査対象および調査期間

調査対象者は、出産した児に対し少なくとも1人は12ヶ月までの母乳栄養育児を継続したことのある、現在4060歳の女性103とした。対照の母乳育児経験のない女性の更年期症状の出現の程度は、著者らが2003年に調査した4060歳の一般住民528名のうち、主に人工栄養で育児した90名から得られたデータを用いた。調査期間は、20055月~12月で

1 簡略更年期指数Simplified Menopausal Index;SMI

 

症  状

判   定

 

 

なし

顔がほてる

0

3

6

10

汗をかきやすい

0

3

6

10

腰や手足が冷えやすい

0

5

9

14

息切れ、動悸がする

0

4

8

12

寝つきが悪い、または眠りが浅い

0

5

9

14

怒りやすく、すぐイライラする

0

4

8

12

くよくよしたり、憂うつになる事がある

0

3

5

7

頭痛、めまい、吐き気がよくある

0

3

5

7

疲れやすい

0

2

4

7

肩こり、腰痛、手足の痛みがある

0

3

5

7

<合計得点の評価>

025点:日常生活に問題なし

2650点:食事、運動に気をつけ、無理をしないように

5165点:更年期ー閉経外来で生活カウンセリング、薬物療法を受けた方がよい

66点以上:長期(半年)の治療が必要

ある。

3. 調査内容

1) 更年期症状

 更年期症状の発現の程度は、小山2)の簡略更年期指数(Simplified Menopausal Index : SMI) 10項目(表1)を用いて把握した。各対象者のSMIの合計得点(0100点)を、小山の評価区分を参考にし、025点を更年期症状の「問題なし群」、2650点を「軽症群」、51点以上を「重症群」と分類した。

2) 妊娠・分娩経験や月経の状態

妊娠回数、出産回数、出生児ごとの出産の種類、児への栄養法、出産後の月経の開始時期、現在の月経状態、閉経年齢等について質問した。

4. 分析方法

統計解析には、SPSS ver12.0を使用しSMI平均得点の2群間の比較にはMann-WhitneyU検定、SMI得点と母乳育児期間・無月経期間との関連は、一元配置分散分析およびBonferroni法による多重比較を用いた。すべての有意水準はp=0.05とした。

5. 倫理的配慮

本研究は、大分県立看護科学大学の研究倫理・安全委員会の承認を得て実施した。質問紙は無記名とし、対象者には、調査で得られた情報を研究目的以外に使用しないこと、プライバシーは確実に保護されること、回答・返信は強制されるものではなく自由意思であることを文書で説明した。

 

.結果

1. 対象者の背景

 対象者の調査時の年齢は4360歳で、平均年齢は50.6±3.5歳であった。授乳経験は第2子までは混合・人工栄養の場合も含まれているが、第3子以後は全員が母乳育児であった。また個人でみた場合、少なくとも12ヶ月の母乳育児経験があった。対象者の47.6%は調査時点で月経が無く、平均閉経年齢は49.8±2.2歳であった。このグループを「長期母乳育児群」とした。対照群の年齢は4060歳で、平均年齢は49.8±5.5歳であった。対象者の42.2%は調査時点で月経が無く、平均閉経年齢は50.2±2.6歳であった。このグループを「人工栄養育児群」とした。

2. 更年期症状の発現頻度と程度

2 更年期症状の程度

 

 

 

 

 

問題なし群

SMI025点)

軽症群

SMI2650点)

重症群

SMI51点以上)

 SMI        平均得点±SD

 

 

長期母乳育児群(n=103

6664.1

3130.1

6 5.8

21.7±17.0

**

人工栄養育児群(n=90

3235.6

4246.7

1617.8

35.7±19.0

 

**p0.01

 「長期母乳育児群」と「人工栄養育児群」のSMI合計得点により区分した更年期症状の程度(「問題なし群」、「軽症群」、「重症群」)を表2に示す。「長期母乳育児群」のSMI平均値は21.7±17.0で、「人工栄養育児群」の平均値、35.7±19.0点に比べ有意に低かった(p0.01)。  

 SMI10項目の各症状について「なし」を除く、「弱」「中」「強」を更年期症状の発現ありとし、それぞれの症状の発現頻度を図1に示す。

「長期母乳育児群」の発現頻度が高い症状は、「肩こり・腰痛・手足の痛み」、「疲れやすい」であり、他の8項目は3050%程度の者に発現がみられた。「人工栄養育児群」で発現頻度が高い症状は、「肩こり・腰痛・手足の痛み」、「怒りやすく、すぐイライラする」であり、他の8項目は、5070%程度の者にみられており、「肩こり・腰痛・手足の痛み」、「疲れやすい」、「頭痛、めまい、吐き気がよくある」以外の項目において「長期母乳育児群」に比べ発現頻度が高かった(p0.01)。

3. 母乳育児期間・産後の無月経期間と更年期症状との関連

 「長期母乳育児群」の授乳経験のうち、母乳育児を行なった全期間の長さ別に分けた群および「人工栄養育児群」と更年期症状との関連を図2に示す。母乳育児期間が合計36ヶ月以上長く母乳育児を行なった群の平均得点は17.3±19.0点でありすべての群で一番低かった。母乳育児期間が13ヶ月以上の各群のSMI得点は、「人工栄養育児群」のそれに比べて有意に低かった(p0.01)。また、産後の月経開始時期までの無月経期間を合計した長さ別に分けた群と更年期症状との関連は認められなかったが、無月経期間が長いほどSMI得点が低くなる傾向がみられ、特に36ヶ月以上無月経群のSMI平均値は18.5±19.4点で低い傾向がみられた。

 

umeno_fig1umeno_fig2
1 長期母乳育児群と人工栄養育児群の更年期症状の発現頻度2 母乳育児期間の長さおよび人工栄養育児群とSMI得点の関連

 

 

  

.考察

調査対象者が出産・子育てを経験した時期は、多くの病産院では人工乳を導入しており、退院までの数日は児へ人工乳が与えられていた時代である。当時の母乳育児率は、生後3ヶ月で40%未満であり3)、母乳不足についての誤った知識や離乳の進んだ810ヶ月には母乳育児を中止するような指導も行なわれていた4)。したがって、「長期母乳育児群」のように生後1年以上の長期間にわたり母乳育児を継続することは、母親自身の努力や家族のサポート、さらに熟練した助産師の乳房ケアや生活指導などの積極的なサポート5)によるものであり、当時の母親たちの中でもごく一部にすぎない。しかし、そのような背景の中で母乳育児を長期間にわたり継続した経験をもつ「長期母乳育児群」は今後の母乳育児に対するさまざまな研究を実施するうえで貴重な存在であると考えている。

今回調査した「長期母乳育児群」のSMI得点の平均値は、「人工栄養育児群」のSMI得点の平均値と比較して低く、ほとんどの者が「問題なし」か、日常生活に注意する程度で生活できている。また更年期症状の10症状のうち、「肩こり・腰痛・手足の痛み」「疲れやすい」の発現頻度が高いという結果は、日本人女性における他の報告67)や、著者の2003年調査とも同様の結果1)であった。更年期のエストロゲンの急激な低下に起因する顔面紅潮、不眠、発汗は、回答者の3割程度に現れており、日本人女性を調査した先行研究8)と同様の傾向であるが、「人工栄養育児群」の発現頻度5065%に比べ有意に低かった。また「長期母乳育児群」はすべての項目で「人工栄養育児群」より更年期症状の発現が低かった。つまり、1年以上の母乳育児経験のある女性は、全般的に更年期症状の発現頻度は低いと考えられる。

次に、母乳育児期間の長さとSMIの関連を検討した結果、「人工栄養育児群」に比べると、特に母乳育児36ヶ月以上の女性は、SMI得点が低い。また、産後の無月経期間が長い人は、SMI得点が低い傾向にある。母乳育児期間が長くなれば、無月経期間が長くなり、それが10数年から数10年後の更年期症状に何らかの影響を与えていると予測される。無月経期間が長いということは、無排卵の状態、つまり低エストロゲン状態が継続されていることを意味する。したがって、妊娠期から産後数ヶ月間、視床下部下垂体卵巣系の機能が抑制された状態が続いていることになり9)、母乳育児中の女性は、更年期の卵巣機能の低下と似たような内分泌状態を体験している。すなわち妊娠・出産、授乳といったダイナミックな内分泌系の生理的変化が、女性の一生のホルモンバランスを整えることにつながっている可能性が示された。

 

Ⅵ.成果発表

   梅野貴恵,宮﨑文子,草間朋子,他.母乳育児期間と更年期症状の関係についての検討-人工栄養育児との比較から-.日本更年期医学会雑誌.200715(2)223-232

 

引用文献

1) 梅野貴恵,宮﨑文子,河島美枝子,関根剛.更年期女性の更年期症状(SMI得点)と心理社会的要因との関連.母性衛生.47(1)143-1522006

2)小山嵩夫.更年期閉経外来更年期から老年期の婦人の健康管理について.日本医師会雑誌.100(2)259-2641993

3) 松原まなみ,山西みな子.母乳育児をめぐる諸問題,母乳育児の看護学.大阪:メディカ出版,pp6-262003

4) 澤田啓司.日本の母乳栄養の歴史.助産婦雑誌.33(9)28-361979

5) 平田喜代美.おっぱい110番.東京:たま出版,pp1480pp981271995

6) 廣井正彦,麻生武志,相良祏輔,永田行博,本庄英雄,大濱紘三,小山嵩夫,太田博明,廣田憲二,野崎雅祐.生殖・内分泌委員会報告(更年期障害に関する一般女性へのアンケート調査報告).日本産科婦人科学会雑誌. 49(7)433-4391997

7) 柴田玲子.中年期女性にとっての閉経と更年期.日本更年期医学会雑誌. 9(2)247-2552001

8) Lock, MViews of Japanese women on menopause, A discussion based on cultural differences with Canada and America. J Jpn Menopause 5(1)53-591997

9) 佐川典正.産褥の生理,内分泌・代謝系の変化.武谷雄二編.(新女性医学大系32)産褥.東京:中山書店,pp16-262001 

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