大学院NPコース修了者の特定行為習得に要する期間の検討

更新日2014.06.03

看護研究交流センター 福田 広美

日本は、超高齢社会が進むなか、過疎地医療や医師の偏在等、様々な医療問題を抱え、その対策として、自律した看護職の活躍が期待されています。Nurse Practitioner(NP)は自律した看護職として知られ、現在、世界各国で活躍しています。特に、米国では、NPが自らの判断で診断、治療(処方・処置)を実施するなど、自律性の高いプライマリケアを提供しており、日本でもこうした看護職の活躍が求められています。
 大分県立看護科学大学は、2008年に日本で最初の大学院修士課程にNPコースを開設し、2011年から修了生を社会に送り出し始めました。現在、NP教育を行う大学院は、全国に7大学院となり、修了生(特定看護師注))は150名近くに上ります。特定看護師の実践に関する制度は、現在、国会で「地域における医療および介護の総合的な確保を推進するための関係法律案」の一つである「特定行為に係る看護師研修制度」として提案され、近く制度化の予定です。特定行為は高度な医療行為であり、その種類は多岐にわたりますが、2013年に厚生労働省が14区分41行為の特定行為(案)(表1)を、教育(案)(表2)とともに示しました。制度化後は、こうした特定行為を含めた、新たな役割を担う特定看護師の活躍が期待されており、その教育には高い関心が寄せられています。
 本研究は、厚生労働省が、制度化に向けて大学院NP教育の修了生等を対象に行った事業の報告書をもとに、修了生が特定行為の習得に要する期間の分析を行いました。本研究は将来、多くの特定看護師が臨床現場で活躍する際に、教育や研修の期間を検討するうえで重要な情報となります。以下に研究をご紹介します。
注)一般社団法人日本NP教育大学院協議会(http://www.jonpf.jp/)の「診療看護師(NP)」の定義より:一般社団法人日本NP教育大学院協議会が認める大学院NP 教育課程を修了し、本協議会が実施するNP 資格認定試験に合格した者で、医師の包括的指示のもとに保健師助産師看護師法が定める特定行為を実施することができる看護師

表1 指定研修における特定行為の区分(案)

表2 指定検収の到達目標、教育内容等(案)

表1および2 第20回チーム医療推進協議会資料3:
「チーム医療推進のための看護業務検討ワーキンググループこれまでの検討状況」より
http://www.mhlw.go.jp/file/05-Shingikai-10801000-Iseikyoku-Soumuka/0000028610.pdf

A. 研究目的
本研究は、厚生労働省により実施された平成22年及び平成23年度特定看護師(仮称)養成調査試行事業で指定された課程のうち、修士課程プログラムを修了した方が、臨床業務の中で特定行為(厚生労働省が示す14区分41行為)を自律的に行えるまでに必要とする期間について、検討を行うことを目的としました。

B. 研究方法
1)医行為の習得に要する期間

 厚生労働省のホームページに掲載されている平成24年度看護師特定行為・業務試行事業報告書(3月)の「試行の対象となる業務・行為の実施状況」を用いて、修士課程プログラムを修了した対象者の各就労場所における医行為の実施状況を分析しました。

(1)医行為の習得に要する期間と指標
同報告書において、大学院NP教育を修了者が実施を報告した特定行為、全212項目の中から、表1の41行為に類似した行為34項目に着目し、分析を行いました。
各行為の実施状況は、段階①「担当医の実施を見学」、段階②「医師の立会いの下、指導を受けながら実施」、段階③「プロトコール等を含む事前の指示に基づいて、適宜、実施の判断の妥当性について医師に確認したうえで実施」、段階④「プロトコール等を含む事前の指示に基づいて、適宜、実施の判断および当該行為を自律的に実施」に分類されました。各行為に対する実施段階が、月単位で示されており「医行為の修得までの期間」として分析しました。

(2)分析方法
分析は、段階①が報告された時期を0とし、段階②から④の各段階に至るまでに要した時期を合計し算出しました。なお、時期の表記について、月の初旬は0か月、中旬は0.5か月、下旬を1か月としました。分析は各行為の実施頻度ならびに各段階における平均期間と標準偏差を算出しました。

C. 研究結果
1)医行為の習得に要する期間

 修士課程プログラム修了者の各医行為に関する習得期間について、比較的自律度の高い段階③と④を表3に示しました。

(1)各医行為における段階③
処置・医療機器類の操作の行為について、「経口・経鼻挿管のチューブの抜管」は、段階③に至る時期が平均1.57か月と最も短期でした。「動脈穿刺による採血」は段階③に至る時期が平均4.4か月を要しました。
薬剤投与の実施は、「血糖値に応じたインスリンの投与量の判断」が段階③に至る時期は、平均3.0か月でした。一方、「薬剤の選択・使用(基本的な輸液:糖質輸液、電解質輸液)」は、段階③に至るまでに平均5.75か月を要しました。

(2) 各医行為における段階④
処置・医療機器類の操作の医行為について、「人工呼吸器の設定、変更の判断・実施」が段階④に至る平均期間は、1.71か月でした。「褥瘡の壊死組織のデブリードマン」が段階④に至る平均期間は、7.25か月を要しました。
薬剤投与の実施については、「脱水状態の判断と輸液補正の実施」が段階④に至る平均期間は、5.67か月、「血糖値に応じたインスリンの投与量の判断」が段階④に至る期間は平均8.44か月でした。

D. 考察
1)処置・医療機器類の操作等に関する行為

本研究の結果は、処置・医療機器類の操作に関する行為が、薬剤投与に比べ、習得期間が比較的、短い傾向でした。しかし、「褥瘡の壊死組織のデブリードマン」は、段階④に至るには、平均7.25か月を要しました。このため処置であっても、判断力をより必要とする項目については、習得期間を要すると考えられました。さらに、平成24年度看護師特定行為・業務試行事業報告書(3月)の時点では、血液透析・CHDFの操作やPICCの挿入など、医行為の中でも相対的に難易度が高いと思われる処置・操作については、実施報告がない項目もあり、習得に要する期間については今後、調査が必要だと考えられました。難易度の高い医行為については、安全性を確保するためにも、確実な医学的知識を土台に、ガイドラインによる最新知見を学習し、シミュレーターや臨地実習による技術教育を段階的に行う必要があります。

2)薬剤投与に関する行為
本研究の結果から、処置・医療機器などの操作よりも薬剤投与の習得に期間を要する傾向がありました。この理由として、薬剤投与に関する行為は、病態、生理等に加え薬理学の知識が必要とされるため、より複雑で高度な判断力が必要となり、習得期間がかかることが考えられました。しかし、昨年度の本研究事業報告書では、薬剤投与の行為習得にかかる期間は、平均1.8か月と報告されており、本研究とは異なる結果でした。この理由として、昨年度の研究報告では、薬剤の種類が便秘薬や下剤などの、比較的、短期間で習得しやすい薬剤であったことが考えられました。一方、本研究では薬剤の選択・使用(基本的な輸液:糖質輸液、電解質輸液)、脱水状態の判断と輸液補正の実施など、病態の複雑な対象者への薬剤投与であり、自律した判断に至るまでに期間を要したのかもしれません。以上から、薬剤投与の医行為に関する教育では、基礎医学の知識に加え、薬理学、臨床薬理学等を含めた教育を十分に行い、判断力を高めていく教育が重要だと考えられました。 

E.  結論
大学院NP教育を修了した特定看護師が、臨床業務の中で医行為を自律的に行えるまでに必要とする期間は、行為の難易度や病態の複雑さに伴い変化し、医行為に応じた教育の必要性が示唆されました。

本研究は、厚生労働科学研究費補助金(地域医療基盤開発推進研究事業)研究代表者福井次矢,「看護師等の高度な臨床実践能力の評価及び向上に関する研究」平成25年度総括・分担研究報告書,p101~114「看護師の医行為習得に要する期間および特定行為に係る看護師の指定研修における教育内容の検討」の一部をご紹介しました。