救急部を受診した自殺未遂者への救急部看護師の対応の実際

更新日2014.05.19

後藤成人(精神看護学研究室)

【はじめに】
日本は、自殺者数が平成10年に3万人を超え、その後も高い水準で経過しています。また、先進国の中で最も自殺率の高い国でもあります。このような事態を重く見た内閣府より、平成18年に「自殺対策基本法」が施行され、その翌年には「自殺総合対策大綱」が提示されました。いまや自殺対策は、国策として取り組むべき重要な健康問題とされています。自殺対策の中でも、自殺未遂者の再企図防止が重要な課題として挙げられています。その理由は、自殺未遂者は再企図を行うリスクが高く、結果自殺既遂に結び付くことが少なくないからです。
自殺未遂者の再企図防止のためには、救急医療現場で精神的ケアを尽くし、必ず精神科医療に結び付けることが重要であるとされています。しかしながら、命を救う現場である救急部のスタッフは、自ら命を絶とうとした自殺未遂者に対して否定的な感情を持ちやすいと言われており、自殺未遂者への精神的ケアが十分になされていない可能性があります。加えて、全国の救急医療と精神科医療の連携の実態や、その中での救急部看護師の働きを調べた報告も少なく、日本の救急医療の現場において、自殺未遂者への対応が実際にどのように行われているのかは、明らかとなっていません。
そこで今回は、救急部門を受診した自殺未遂者へ一番関わると思わる看護師に焦点を当て、実際の対応について調べてみました。

【研究方法】
日本救急医学会のホームページに公開されている救命救急センター241施設の救急部門の看護の責任者へ、救急部門を受診した自殺未遂者へ精神科医療を継続するために紹介した施設、紹介後の治療継続状況の把握、精神科医療との連携の必要性を感じているか等の項目を含む質問紙(アンケート)調査を行い、80施設(33.2%)から回答を得ました。

【結果】
72施設(90%)が、救急部門を受診した自殺未遂者を精神科医療機関へ紹介しており、紹介先は院内の精神科(47.5%)、院外の精神科(78.8%)、クリニック(47.5%)などでした(図1)。また、59施設(73.8%)で、自殺未遂者を精神科医療に紹介する時に、看護師が関わっており、情報提供やサマリの作成などを行っていることが分かりました(アンケートへの自由記載より)。

図2に示す通り、69施設(86.3%)の看護スタッフが、「対応の仕方がわからない」「繰り返すため、外来で話を聞くだけでは解決にならない」などの理由から精神科医療との連携の必要性を感じていることが分かりました。しかしながら、自殺未遂者への対応に関する研修などの教育の機会がない施設が57施設(71.2%)、自殺未遂者への対応に関するマニュアルのない施設が58施設(72.5%)、スタッフへの精神的なフォローのない施設が54施設(67.5%)あることも分かりました(図3、図4、図5)。

 

図2 看護スタッフが精神科医療との連携の必要性を感じているか

図3 自殺未遂者への対応に関する研究会や教育の機会の有無

 

図4 自殺未遂者への対応に関するマニュアルの有無

図5 自殺未遂者へ対応したスタッフへの精神的フォローの有無

【考察】
この結果から、自殺未遂者への対応に関して、精神科医療機関へ紹介する時に、看護師が関わらない施設があること、自殺未遂者への対応に関する教育や研修の機会、マニュアルを持たない施設があること、自殺未遂者へ関わったスタッフへの精神的フォローのない施設があることが分かりました。これは、救急部を受診した自殺未遂者への対応が十分でない施設がある可能性を示しています。また、救急部の看護師への支援体制も不十分であることも示唆しています。ただし、今回の調査では、表面的な質問しか行えていないため、今後は自殺未遂者への対応に関する教育や研修、マニュアルがどの程度普及されているのか、スタッフへのフォローが行われているのか、行われていないのであればそれは何故かなど、より具体的な調査を行う必要がありそうです。