救急救命センター看護師の二次受傷対策の実態-救急救命センターを持つ病院を対象に-

更新日2014.05.12

人間関係学研究室 関根 剛

 最近は、災害や犯罪の被害者のPTSD(Post traumatic stress disorder:心的外傷後ストレス障害)予防対策の必要性が認識されるようになってきました。災害被害者に対するいわゆる心のケアと呼ばれるPTSD予防策は、被害を受けてから、なるべく早期に心理学的デブリーフィングを行なうことの効果の有無の検討(ROSEら、2002)などがなされました。その結果、災害直後にその体験を構造的に話をさせるようなデブリーフィングよりも、心理的な応急処置(Psychological First Aid)、心理教育(Psycho Education)などが推奨されるようになってきています。一例として、阪神大震災のころは子どもが描く災害の絵画はストレスケアに役立つと単純に考えられることも多かったものの、現在は、無理をして絵画を描かせたり、話を聞きださない方がよいと考えられるようになったのは、このような知見が生かされているためと言えます。
 このように、被災者に対するメンタル・ケアについては、多くの知見が集まっている一方で、被災現場に入る専門的援助者が受ける二次受傷である惨事ストレスについての関心は、あまり高いものではありませんでした。近年では、消防庁において、現場におけるデフュージングや緊急時メンタルサポートチームなどが設けられたり、東日本大震災に派遣された警察官へのメンタル・ケアが行われたりするなども実施されるようになっています。看護の分野においても、患者暴力への対応や、災害派遣看護師のメンタルヘルスのための研修など、看護協会における看護師の二次受傷対策にも力が入れられています。
 しかし、看護師が二次受傷を受けるのは災害派遣や患者暴力だけではありません。日常的な業務においても、悲惨な事故、虐待や犯罪被害、突然の事故や自死の遺族など、PTSDの予防を必要とする患者は少なくありません。また、そのような患者との関わりによって、看護師が二次受傷を受ける機会があることがわかってきています。そこで、看護現場においてPTSD発症の可能性がある患者への対応、看護師が受ける二次受傷を防ぐケア体制の現状について、救急救命センターを有する医療施設の看護部長を対象として調査を行ない、看護師の二次受傷対策の現状について調査を行ったので報告します。

1.研究方法
 調査対象
 全国の救急救命センターを有する医療機関245病院の看護部看護部長または院内看護研修責任者に、調査用紙を郵送して、回答をお願いしました。調査内容は、救急救命センターの看護師に対するPTSDの予防やサポート対策に関する9項目について、「正式システムになっている」、「正式システムでないが、実施されている」、「必要と思うが、実施していない」、「必要ない」の4段階で回答を求めました。

2.結果
 245施設中85施設から回答がありました(有効回答率34.7%)。救急救命センターの看護師の二次受傷対策は、正式なサポートシステムになっているものは、「看護師が相談できるケア専門家(医師・カウンセラー)がいる」のみが72.9%でした。しかし、それ以下は、「救急救命センターと精神科医の連携」(28.2%)、「看護師のストレスチェックなどの実施」(20.0%)など組織的なサポートは2割程度に留まっており、「若手看護師の二次受傷防止研修」(12.9%)、「ストレスの高いケースの後の助言の場」(12.9%)、「看護師同士の体験の共有」(10.6%)など看護師同士のサポートも組織としてのサポート体制が組まれているのは約1割といずれも低い回答でした。
 一方、患者や看護師のPTSD予防やストレスケアなどの組織だった研修については、7割以上の施設において「必要と思うが実施していない」状態でしたが、「看護師同士の助言」「看護師同士の体験の共有」は半数以上の施設で「正式システムではないが実施されている」と回答しています。

表 救急救命センターを有する医療機関における看護師の二次受傷防止対策

3.考察
 結果に示されるように、看護師に対する二次受傷対策は、「ストレスケアについて看護師が相談できる専門家がいる」以外は、組織的な二次受傷対策は非常に低い実施状況でした。看護師の多くは、日常的業務における二次受傷にどのように対応するべきかの研修を受けられないまま、日常的な業務についていることがわかります。そして、実際に二次受傷につながるような経験に遭遇した場合には、「相談できる専門家」への相談システム以外には、看護師同士のインフォーマルな助言や支えあいで対処しているのが実情といえそうです。
松井(2005)は、看護師のPTSDは、大きな惨事だけではなく、小さい惨事によるPTSD反応の積み重ねによっても生じると述べています。大きな一回性のストレスである災害や暴力だけではなく、日常業務における小さな惨事である交通事故の外傷を扱った看護師が、PTSDハイリスクになりやすいという報告もあります(三木ら、2012)。このような中で、二次受傷を軽減するための研修や対策を現場において持つことが、看護師のPTSDの予防に役立つと考えられます。