加齢性の嚥下機能低下予防に関する研究 ~嚥下機能低下予防介入時期の検討~

更新日2014.03.13

基礎看護学研究室 秦さと子

 「食物を正常に飲み込む」という機能は、栄養を体に取り込むということだけでなく、おいしいものを味わう幸福感や人との交流をもたらし社会的な満足感を生むなど生活を豊かにする重要な要素のひとつです。しかし、この「飲み込む」という機能は、加齢の影響で低下するといわれており、機能低下すると誤嚥を起こしやすくなり、繰り返すと誤嚥性肺炎という危険な病気につながります。
 常に日本の主要死因の上位にある肺炎は、9割以上が高齢者です(厚生労働省2011)。更にその3~5割の方が誤嚥性肺炎で亡くなっています。高齢者人口が25%以上を占める我が国において、高齢者がいつまでも健康に過ごせる社会にするためには、高齢者の「飲み込み(以下、嚥下)」機能を維持させることが重要な介入の一つであると考えています。そのため、高齢者の嚥下機能低下予防に関する研究に取り組んでいます。

 今回は、加齢性の嚥下機能低下を予防するために、どの年代から介入すべきかを明らかにすることを目的に取り組んだ調査の一部をご紹介します。

1. 研究方法
 調査は平成22年9月から10月に行いました。対象は20歳代~80歳代の男女86名で、自覚症状の有無を調べるための自記式アンケート、咽頭反射の有無を評価する改訂水のみテスト(以下MWST)および随意的な嚥下反射惹起性を測定する反復唾液のみテスト(以下RSST)を実施しました。

2. 結果
 対象者は嚥下機能に影響する既往歴がない男性44名(51.2%)、女性42名(48.8%)の計86名です。対象を20歳代~80歳代の各年齢層に分けて分析しました。それぞれの年齢層の人数は20歳代:12名、30歳代:10名、40歳代:11名、50歳代:19名、60歳代:12名、70歳代:11名、80歳代:11名でした。

1)自覚症状について
 アンケート結果から、嚥下障害の口腔期に関しての自覚症状は50歳代から出現しました。これは加齢性に増加し、80歳代は50歳代に比べ口腔期の自覚症状が有意に多かったです(F(6,79)=7.177、p<0.05)、彼らの多くの人が「食べるのが遅くなった」、「硬いものが食べにくくなった」と答えました。また、80歳代の年齢層は義歯を装着する人が多くいました。
 咽頭期の症状について、20歳代~50歳代の多くは「食事中や食後、それ以外の時にも、のどがゴロゴロ(痰が絡んだ感じ)することがある」や「食事中にむせることがある」と自覚していました。しかし、60歳代以降のほとんどの人が咽頭期の異常を自覚していませんでした。

2)咽頭反射機能
 MWSTの結果、それぞれの年齢間の平均得点について、異常を示す4点を下回る年齢層はありませんでした(図1)。しかし、80歳代は、20歳代~60歳代の各年齢層と比べると有意に平均得点が低下していました(F(6,79)=6.564,p<0.05)。
 RSSTの結果では、20歳代の平均回数7.17回が最も高い値を示しました。以降、加齢性に低下する傾向でした(図2)が、70歳代まで正常範囲内でした。80歳代では、正常の基準とされる3回を下回り、40歳代より有意に低い平均回数を示しました。

3. 考察
 今回の咽頭反射機能をみるテストの結果は、明らかな異常を示す値ではありませんでしたが、潜在的に加齢性に嚥下機能低下が進行している可能性が示唆されました。特に80歳代では、咽頭反射機能の低下が著明でした。しかし、自覚症状では、80歳代を含む60歳代以降の人が咽頭期の異常を自覚していませんでした。このことは反射運動の低下とともに反射運動を開始する感覚機能の問題もおこり、自覚症状を認識しにくい状況にある可能性が考えられます。そのため、高齢者の場合は嚥下障害を自覚してからの病院受診ではなく、誤嚥性肺炎を発症した後に嚥下障害と診断されるケースが多い(井上 他 2007) というように発見が遅れ重症な状態に陥りやすい可能性が考えれられます。本結果からは、80歳代以降に危険な信号をいくつか確認することができましたが、自覚症状が50歳代から多く認められること、RSSTの結果が50歳代から80歳代では有意な差が認められなかったことを考慮すると、遅くとも50歳代から嚥下機能の低下予防の介入が必要なのではないかと考えます。先行研究においても60歳を超えると口腔や咽頭に食塊が残留する頻度と量が増え、加齢とともに喉頭侵入の量は増える(Logmann 2000)と言われています。このことからも異常な状態になる前の介入開始時期と考えると、50歳代からの介入が適当と考えられました。


図1 年齢別水のみテスト平均得点
(*p<0.05 4回未満:「異常あり」と判断する領域)


図2 年齢別反復唾液飲みテスト平均回数
(*p<0.05 3回未満:「問題あり」と判断する領域)

引用文献
井上慎一郎,長谷川浩,鳥羽研二(2007).高齢者における嚥下障害、誤嚥性肺炎の診断、予防法,p9-p14.
Jeri A. Logmann(2000).Logmann摂食・嚥下障害,p29-p32,医歯薬出版株式会社,東京.