看護大学生の共感性と基礎看護技術演習における患者体験との関連

更新日2013.12.18

基礎看護学研究室 栗林好子

 病気になり患者として病院に入院した経験=患者体験は、看護援助をする際に患者さんの気持ちを想像しやすく、同時に看護技術の原理・原則(なぜそのようにする必要があるか)を考えやすくなります。看護技術の演習では、患者役と看護師役を交互に行いながら、看護師としての技術だけでなく患者体験によって得られる効果も同時に期待しています。複雑化した医療現場では、看護師は患者やその家族だけでなく、一緒に働く他の医療従事者との対人関係も重要になっています。その中で、他者の気持ちが分かる“共感性”の能力は重要な意味を持ち、このようなヒューマンケアの能力の育成が今後の看護教育では強化すべきだと考えられています。今回、私が紹介する研究は、看護学生の共感性の特徴を明らかにし、患者体験を行う基礎看護技術演習において学生の共感性の違いによる、“患者体験”を通して実感できた感想との関連を検討したものです。

【方法】
 九州・沖縄8県の基礎看護技術演習(患者―看護師役を交互に行う演習方法の実施)を履修した看護大学生954名に無記名自記式質問紙法を実施しました。共感経験尺度改訂版(角田1994)にて共有経験尺度得点と共有不全経験尺度得点を算出し、学生を4種類の共感性のグループに分類しました。患者体験については厚生労働省が看護技術として提示している中の7項目(環境調整技術、食事援助技術、排泄援助技術、活動・休息援助技術、清潔・衣行為援助技術、症状・生態機能援助技術、安楽確保の技術)で、患者体験後の感想 (1)人に世話をしてもらう時に生じる遠慮や気の毒に思う気持ち(以下、遠慮の気持ち)、(2)未熟な技術の看護師から援助されることによる不安や苦痛(以下、不安・苦痛)、(3)援助を受ける際に感じる恥ずかしさ(以下、羞恥心)、(4)看護師の説明・声かけ・気遣いなどの大切さ(以下、看護師の態度)、(5)援助をなぜそうする必要があるのかという原理・原則(以下、原理・原則)の5項目を質問項目として聞き、共感性の4類型間で有意差をみました。

【結果】
 回収数は193部(回収率20.2%)、有効回答は188部(有効回答率18.6%)です。

1)看護大学生の共感性の分類

 

 本研究の対象となった看護大学生の共感性は、未熟な共感性と言われる“共有型”が最も多く、次いで対人関係の隔たりにつながる要素を持つ“不全型”、共感性として最も劣る“両貧型”であり、共感性が高いとされる“両向型”は最も少ない結果でした。

2)共感性と患者体験後の感想との関連
 共感性の4類型間で有意差が見られた患者体験後の感想は、環境調整技術の(1)遠慮の気持ちと(2)不安・苦痛、食事援助技術の(3)羞恥心、活動・休息援助技術の(1)遠慮の気持ちと(5)原理・原則、症状・生体機能援助技術の(3)羞恥心、安楽確保の技術の(2)不安・苦痛の全35項目中の7つのみ(表1参照)でした。有意差がみられなかった項目の中では、排泄援助技術や清潔・衣行為援助技術の(3)羞恥心、全ての項目の(4)看護師の態度と(5)原理・原則に関しては、どの類型を見ても多くの学生が実感できていました。

【考察】
 看護大学生の共感性の分類は、最近の対人関係を苦手とする若者の特徴を反映していると言えます。また、共感性と患者体験後の感想との関連での違い(表1参照)は、両向型や共有型が実感している学生が多いことから、共感性が高い学生が実感しやすいわけではなく、共有経験(他者が感じるように自分も感じられた経験)が高い学生が実感しやすいということになります。排泄援助技術や清潔・衣行為援助技術の羞恥心がどの学生も実感できていたのは、思春期・青年期にある若者にとっては、肌の露出や排泄時の体位は羞恥心を抱きやすいため、そのまま実感した結果だったと考えられます。つまり、排泄援助技術や清潔・衣行為援助技術のように心理的な侵襲を伴う演習項目においては、看護大学生の共感性の違いは影響しないことが示唆されます。全ての項目の(4)看護師の態度と(5)原理・原則が高かったことに関しては、技術演習をする以前の講義の中で看護の提供者として看護師はどうあらねばならないかといった看護の倫理性、患者擁護の姿勢、プライバシーへの配慮といった内容が説明されていますし、将来看護師になりたいと学んでいる学生だからこそ、看護師はこうあらねばならないと理解し、その意識も高いのではないかと考えられます。同様に、原理・原則に関しても、根拠に基づいた看護を提供する能力が求められている今日、単なる手順ではなく援助方法に関するエビデンスや根拠となる知識は講義の中で説明されています。そのため、実際に患者体験で実感しようがしまいが、なぜそのようにしなければならないかといった原理・原則の必要性は認識できていたと考えます。つまり、(4)看護師の態度と(5)原理・原則に関しては、共感性よりも、看護師としての資質や知識の部分が大きく影響したことが示唆されます。

<引用文献>
角田豊(1994).共感経験尺度改定版(EESR)の作成と共感性類型の試み.教育心理学研究,42(2),76-78.
厚生労働省医政局看護課(2007).看護基礎教育の充実に関する検討会報告書.
http://www.mhlw.go.jp/shingi/2007/04/dl/s0420-13.pdf
厚生労働省医政局看護課 (2011).看護教育の内容と方法に関する検討会報告書.
http://www.mhlw.go.jp/stf/houdou/2r98520000013l0q-att/2r98520000013l4m.pdf