慢性腎臓病における易骨折性要因に関する検討

更新日2013.10.31

生体科学研究室 岩崎香子

はじめに
 腎臓は体内で不要になった物質を体外へと排出する臓器です。何らかの原因によって慢性的に腎臓の働きが徐々に低下いていく疾患を慢性腎臓病(Chronic Kidney Disease :CKD)といいます。現在、わが国の推定CKD患者数は1330万人を超え、国民(成人)の8人に1人がCKDという状況1)であるため、新たな国民病ともいわれています。CKDは自覚症状のないまま進んでしまうことが多く、進行したCKDでは狭心症や脳卒中、心筋梗塞の発症率が高いことから2)、それが原因で亡くなる場合も多いことが知られています。またCKDの患者さんでは腎機能が正常な方と比べて4倍以上骨折発生頻度が高いこと3)や、骨折発生後の死亡率も高いことも報告されています。しかしながら、なぜ骨折発生が多いのかその原因はまだよくわかっていません。また骨そのものの強度が低下する理由も不明です。そこで今回、CKDの骨ではどんな変化が起きているのか、その変化がどのように骨の強度に影響しているのかを基礎実験を通して考察しました。

方法
腎機能が低下したCKDラットから大腿骨を採取しました。その大腿骨を用いて骨力学特性試験(骨の折れにくさを測る)、骨組成分析(骨成分にどんな変化が起きているかを調べる)、骨密度測定を行い、腎機能正常と比較して、CKDでみられるどのような変化が骨の折れやすさに影響しているのかを検討しました。

結果
大腿骨骨幹部(中央部)の骨密度を測定したところ、対照群と比較してCKD群では明らかに低下していることが確認されました(図1)。また骨力学特性を検討したところ、骨の貯蔵弾性(骨の折れにくさ)が低下していることが明らかとなりました。CKDラットでみられた骨貯蔵弾性低下は期間が長くなるほどひどくなっており、腎機能低下とともに起こっていることが示されました(図2)。

 

Sham: 腎機能正常, CKD:腎機能低下, *p<0.05vsSham

* p<0.05vs 0week, # p<0.05 vs age-matched sham

骨弾性を測定した部分の組成について検討したところハイドロキシアパタイトに含まれる炭酸・リン酸比の減少や、結晶化度が低下していることが観察されました(図3左)。またコラーゲン成分についても生理架橋の減少と非生理架橋の一つであるペントシジン架橋が増加していることが確認されました(図3右)。骨密度、骨組成指標と骨力学特性の関連を重回帰分析にて検討した結果、骨組成の変化が骨の力学特性に影響していることが確認されました。


Sham: 腎機能正常, CKD:腎機能低下
MM; mineral to matrix ratio, CO/PO; carbonate to phosphate ratio, #p<0.05vsSham

考察
CKDでは身体の中のカルシウム(Ca)やリン(P)といったミネラルの調節機能が異常になるため、その代償として骨からCaやPが流出します。その結果、骨密度が低下することがよく見られます。今回CKDのラットでも骨密度が低下しており、骨が折れやすい状態と考えられました。実際、骨力学指標を測定したところ、CKDでは腎機能正常に比べ低い値を示していました。さらに骨組成のうち、ハイドロキシアパタイト結晶化度の低下やコラーゲンの異常が見られました。骨はコラーゲンタンパク質にハイドロキシアパタイト結晶が沈着した構造体であり、骨の強度は骨密度と材質(コラーゲンやハイドロキシアパタイトの状態など)によって規定されます。コラーゲン線維の架橋構造異常やアパタイト結晶の異常は骨密度変化とは独立して骨の強度を低下させることが証明されていますので、今回確認された組成変化は骨密度低下とは独立してCKDでの骨強度低下に影響していると考えられました(図4)。また本研究でみられたコラーゲンやアパタイト結晶の異常といった材質の異常は、腎機能低下によって血液中に蓄積する尿毒症物質(腎機能が正常であれば体外に排出される障害性のある物質)の濃度上昇を抑制することで改善すること4)から、これらの物質の体内蓄積を防ぐような治療法により骨折発生頻度を抑制できる可能性も考えられます。本基礎検討結果をもとに、現在、CKDの患者さんの骨でも同じような変化がみられるかについて検討を行っています。

新しい薬剤の開発や治療法の進歩により、CKDの進行は遅らせることができるようになりましたが、ある程度腎機能が低下してしまうと元に戻すことはできません。またCKDは生活習慣病(糖尿病、高血圧など)やメタボリックシンドロームとの関連も深いことから、定期的な健康診断による早期発見や予防が大変重要となります。大分市は政令指定都市ならびに中核市の中で人工透析の割合が一番高い状況にあることから、平成25年度より大分市慢性腎臓病病診連携システムの取り組みが行われています。皆さんも、普段の生活を振り返ったり、健康診断の際の尿検査値を見直したりしてみてはいかがでしょうか。

本研究は、日本学術振興会科学助成事業(基盤C)の助成により、他施設(新潟大学医学部第二内科、東海大学医学部腎内分泌代謝内科等)研究者の協力を得て行われています。

1) エビデンスに基づくCKD診療ガイドライン2009(社団法人 日本腎臓学会 編)
2) Ninomiya T, et al Circulation 2008, 118: 2694-701 他
3) Wakasugi M, et al J Bone Miner Metab 2013, 31: 315-321
4) Iwasaki Y et al. Bone 2013 in press