カラーカードを用いた簡易応答確認装置の可能性

更新日2013.10.01

人間関係学研究室 吉村匠平

1.問題と目的
 「学習者の能動的参加」を促すツールの1つに授業応答システム~通称「クッリカー」があります(スイッチオン!で番号を入力する端末。テレビのクイズ番組で同じシステムが使われています)。しかしながらこのクリッカー、授業担当教員が個人で導入するには、高コストです。そこで、もっとローテクを駆使して、学生の皆さん(以下学生)の能動的な参加を促すことができないものかと、日々小細工に勤しんでいます。今日はその成果の一端を紹介します(第17回大学教育研究フォーラム~京都大学 2011の一部です)。

2.装置の概要
 学生の意思表示用に、市販の名刺印刷カードの両面を赤色、青色、緑色、黄色に印刷したカラーカードを作成しました(耐久性の観点からビニールケースに入れています)。学生はカードをあげることで意思表示を行います(両面印刷なので、背後からも確認可能です)。机の配置はコの字型とし、学生ができるだけ多くのカードの色を直接視認できるようにしています。

3.授業の概要
 対象授業は2年生対象の選択科目(当時)「発達心理学」です。履修登録者は52名。定員48名の机と椅子の移動が可能な平坦な教室です。クリッカーに関する先行研究同様、多肢選択形式の問題演習を行い、カラーカードによる意思表示を求めました。
 私の講義では、授業開始前に毎回抽選で座席を指定し、隣り合った学生2名がペアを組み、話し合いながら学習を進めています。問題演習への回答もペア単位です。講義は以下のように進みます。1.提示された問題に個人で取り組む。2.その後ペアで各自の判断を交流し、1つの答を用意する。3.ペアの判断をカラーカードで示す(1→赤色、2→青色、3→緑色など、カラーカードをもって手をあげます)。4.意思表示後に、何故そのように判断したのかについての発表を求めます。私の講義では、発表を行うと平常点1点がペアに加算されますので、手が挙がらないということはありません。

4.調査内容(一部抜粋)
 今回は、クリッカーとの違いについて検討するための質問項目3つについて、結果を紹介します。質問は、①周囲のペアの回答状況(何色のカードをあげているか)がわかることは重要か?②判断状況が、「数値」として示されることは重要か?③回答の匿名性が保証されることは重要か?です。5段階評定を求めました(1.そう思わない、2.あまりそう思わない、3.どちらとも言えない、4.まあそう思う、5.そう思う)。評定値が高いほど、質問項目を重要と考えていることになります。クリッカーの場合、他のペアがどのような判断を下したのかわかりませんし、自分たちがどのような判断をしたのかが周囲にわかることもありません(それがわかるのは教師だけです)。また、クリッカーであれば、瞬時に回答状況を集計できますが、カラーカードの場合には、大まかな回答傾向がわかるだけです。そのような違いが、学生にどのように受け止められているのかを調べてみました。

5.結果

  1 2 3 4 5
周囲のペアの回答状況がわかることは? 0人 9人 14人 20人 16人
明確な人数がわかることは? 3人 26人 13人 14人 4人
回答の匿名性が保障されることは? 12人 27人 16人 4人 0人

 

   結果を少し整理します。質問で尋ねられたことを重視していない人数(1または2と回答した人数)と質問で尋ねられたことを重視している人数(4または5)を、統計学的な手続きを用いて比較します。その結果、私の講義を受けた学生は、周囲のペアの判断状況がわかることを重視し(9名<36名)、回答の匿名性が保証されることは重要ではない(4名<39名)と考えていることがわかりました。明確な人数がわかることをに重視しない学生は29名、重視する学生は18名でしたが、両者の間に統計学的に意味のある差は認められませんでした。

6.考察
 学生は,周囲のペアの回答状況がわかることを、自分たちの回答の匿名性の保障より重要と考えていました(本学では、学生間で互いの名前と顔が一致しています)。日常生活においては、その意見が「誰の」意見なのかということが判断の際に大きな意味を持ちます。これに対しクリッカーでは、匿名性の保障と引き換えに、誰の意見なのかという情報が失われます。確かに匿名性を保証することで、学生の能動的参加を容易にすることができるのでしょうが、そのために失われてしまう情報もあることを意識しておく必要があると感じています。ペア学習を導入し、個々の意見や判断ではなくペアの意見を求めたことも影響したのかもしれません。
 カラーカードで意思表示をさせると、その後の意見交流が容易になります。どのペアが何色のカードをあげたかが分かりますので、授業をしている側として、意見を引き出しやすいのです。授業では、少数意見を表明することの重要性について繰り返し伝えています。実際に少数意見を表明した際(例:自分たちだけは赤いカードで、他は全部青)、それを直接「ほめる」こともできますし、それに続いて何故そのように判断したのかの説明を求めることもできます。そして、ほとんどの場合そのように判断した理由は十分に「了解可能」です。少数者の判断が単なる「間違い」ではなく、了解可能な理由づけによって支えられているということを理解することは、学生にとっても貴重な学びになっています。
 カラーカード方式の弱点である回答状況が数値として示されないことに関しては、肯定評価と否定評価に差はみられませんでした。今回の報告程度の人数であれば、どの色が多いのかということは、大体視認できます。数が集計できれば、それに越したことはないのかもしれません。しかし、それができないことが必ずしもカラーカード方式のデメリットとしては認識されていないことが明らかになりました。
 カラーカードを用いたシステムは、学習者間の回答の匿名性が保証するクリッカーの廉価版代用品というよりは、授業法との組み合わせにより、様々な応用可能性をもつ別の「小細工」ではないかと考えています。