工業用合成洗剤とアトピー性皮膚炎悪化の関連

更新日2013.09.09

生体反応学研究室 定金 香里

はじめに
 アトピー性皮膚炎は遺伝的素因と環境要因が複雑に関係して発症・増悪する難治性の皮膚疾患です。幼児・学童での発症が多く、3歳〜15歳児の有病率は6%程度、最近では成人のアトピー性皮膚炎患者も多くなってきています。アトピー性皮膚炎患者が近年、増えてきた背景には一体何があるのでしょうか?遺伝子は急変する因子ではないことから、環境の変化がアトピー性皮膚炎患者の増加に大きく関わっていると考えられています。その原因となる環境要因には住宅環境、食生活、衛生状況、大気・水・土壌環境など様々なものがあります。今回、ご紹介するのは、私たちの身の回りにある化学物質がアトピー性皮膚炎を悪化させるのか検討した動物実験の結果です。検討した化学物質は、工業用の合成洗剤の原料として汎用されているノニルフェノール(NP)、オクチルフェノール(OP)、ブチルフェノール(BP)の3種です。河川の水質調査でこれら化学物質が検出されていますが、多くの水域で人体に問題の無い程度の濃度であると報告されています。

方法
 マウス(NC/Nga系)の腹腔内に、マウス1匹あたり1.0、1.5、6.0 mg/kg BW/dayのNP、OP、BPをそれぞれ週に1回、計4回、投与しました。この量は、NP、OP、BPの最大無毒性量(有害な影響が認められない最大用量で安全な用量の基準となる)です。併行して、アレルゲンをマウスの耳介皮下に頻回投与しアトピー性皮膚炎を発症させました。

結果
皮膚症状(図1)

 アトピー性皮膚炎を誘発し、かつNPを腹腔内に投与したマウス(AD+NP)では、アトピー性皮膚炎様症状が、アトピー性皮膚炎のみを発症させたマウス(AD)と比較し、統計的に有意に悪化しました。また、OP、BPを腹腔内に投与したマウスでもそれぞれ、症状が悪化する傾向が見られました。


図1.皮膚症状スコアの経時変化
    データ:平均±標準誤差
    *:p < 0.05, AD非誘発 vs AD, AD+NP, AD+OP, AD+BP
    †:p < 0.05, AD vs AD+NP

抗体産生(図2)
 マウスに抗原を投与すると血液中にIgE抗体やIgG1抗体というタンパク質が増えます。この抗体量の増加はアトピー性皮膚炎悪化の一つの指標となります。NP、OP、BPを腹腔内に投与したマウスでは、IgE抗体やIgG1抗体の量がさらに増加する傾向が見られました。特にIgE抗体量は、統計的に有意ではありませんでしたがNPを投与したマウスで、IgG1抗体量はBPを投与したマウスで、大きく増加していました。


図2.血清中抗体産生量
    データ:平均±標準誤差  *:p < 0.05 vs AD非誘発

炎症性タンパクの産生(図3)
 マウスの耳介をホモジネートし、炎症反応を促す作用を持っている種々のタンパク質量を測定しました。NP、OP、BPを投与したマウスでは、IL-4、TSLP、MIP-1α、MCP-3という種類の炎症性タンパクが増加傾向を示しました(MCP-3はBP投与により統計的に有意に増加していました)。さらにBPは、IL-5、IL-6、Eotaxinも増加させる傾向がありました。このような炎症を促すタンパク質の増加により、アトピー性皮膚炎の症状が悪化したものと考えられます。

まとめ
 最大無毒性量のNP、OP、BPをマウスの腹腔内に投与したところ、症状スコア、抗体産生量、炎症性タンパク質がそれぞれ増加する傾向を示しました。この結果は、ごくわずかな量のNP、OP、BPが、アトピー性皮膚炎モデルマウスの症状が悪化したことを示しています。ただし、このことが、直ちにヒトのアトピー性皮膚炎にも同様の影響がみられることを示唆しているわけではありません。しかし、これまで特に影響はないとされていた低用量の化学物質曝露の安全性について今後、注視していくことが重要と考えられます。

この研究は、国立環境研究所、本学卒論生との共同研究によって行われました。