糖尿病療養指導士の療養指導に関する文献的検討

更新日2013.05.08

成人・老年看護学研究室 松本 初美

1.はじめに
わが国の糖尿病患者は近年急増し、厚生労働省が実施している「平成19年国民健康・栄養調査」によると、糖尿病が強く疑われる人は約890万人 、糖尿病の可能性が否定できない人は 約1,320万人合わせて約2,210万人と推定されています。
一方、日本糖尿病学会認定の2013年2月現在糖尿病専門医の数は約4700名であり、急増する糖尿病患者に専門医のみで、対応するのは困難であることが理解できます。また糖尿病は、慢性疾患であり罹病期間が長くなることより、糖尿病合併症を有する患者も増加しています。合併症は患者の生活にさまざまな影響を及ぼしQOLを低下させると言われているため、患者が早期より療養ついて理解し、糖尿病自己管理を維持・継続できるようにサポートすることが大切となります。そのような状況の中で、糖尿病療養指導士の活躍が期待されています。
 糖尿病療養指導士は、1970年代より米国、カナダ、オーストラリアなどで検討され、1986年には資格としてCDE(Certified Diabetes Educator)制度が発足し、実績を積んでいます1)。
わが国では、日本糖尿病学会、日本糖尿病教育・看護学会、日本病態栄養学会が母体となって平成12年、日本糖尿病療養指導士認定機構(JCBDE)を設立しました。現在では日本糖尿病療養指導士認定機構(JCBDE)が認定した日本糖尿病療養指導士(CDEJ)と、全国で22か所の地域で設立・運営されている機構が認定した地域糖尿病療養指導士(LCDE)が活動しています。全国で17,066(看護師8336)人(平成24年6月15日現在)のCDEJが、大分県は、CDEJ133(看護師68)人(平成24年6月15日現在)、LCDE488(看護師278)人(平成25年1月現在)が在籍しています。
しかし、歴史的な背景からもわが国における糖尿病療養指導士(看護師)の療養支援に関する研究実績は比較的少なく、糖尿病とその療養指導全般に関する正しい知識を持ち、専門医と協働し患者に療養指導を行うことのできる糖尿病療養指導士(看護師)の活動の文献から療養指導の課題を見つけ今後の療養指導の方向性を示すことが必要です。
そこで、今回は、まずわが国の糖尿病療養指導士(看護師以下CDE-nとする。)に関して、①、CDE-nの療養指導の研究について現状と課題を明らかにする。②CDE-nの療養指導について分析する。以上を目的として、文献調査を行い検討することにしました。

2.方法
文献については医学中央雑誌で、2013年1月末までに発行された文献についてキーワードを「糖尿病療養指導士」「療養指導」とし、看護文献・原著に絞り込み39件としました。得られた文献のうち重複するもの、今回の研究の目的に沿わない6件を除き、さらにそれらの引用文献で本研究内容に即していた2件を追加し、計35件を分析対象としました。

3.結果と考察
3.1 療養指導士の文献の傾向
1)経年的変化
文献のテーマ・内容から「教育活動全般・役割」 と「実践」つまりフットケア、糖尿病腎症、眼科関係、糖尿病合併妊娠、インスリン自己注射の指導、運動療法、食事療法、間食についての実践に関する文献とに分別できました。 そして、発行年ごとの文献数を調べると表1のようになりました。
2000年から日本糖尿病療養指導士認定機構(JCBDE)の認定した糖尿病療養指導士の活動が開始され、2003年から研究が発表されて徐々に増える傾向にあります。療養指導の「教育活動全般・役割」に関する文献はすべての年に発表されているが、「実践」に関する文献は2007年までに2件であり、2009年から増える傾向にあります。

  2003 2004 2005 2006 2007 2008 2009 2010 2011 2012
教育活動全般・役割 1 1 4 2 4 2 1 1 4 1
実践   1     1   2 4 2 4

表1.文献数の年次推移

2)文献の内容について
「教育活動全般・役割」は、教育活動実態・現状9件、教育活動の思い(認識・意義・実践意欲・意識を含む)6件、役割3件、教育的サポートケア1件、判断プロセス1件、クリニカルパス1件で21件60%でした。
教育活動実態・現状9件の中で、島根県、長崎県、石川県の療養指導の活動の現状と課題が報告されていました。島根県(鈴木ら2005)は糖尿病患者教育などに関心の高い看護師が他科に移動させられる、職場全体での協力がなく個人の力に頼っているという組織の体制が課題として挙げられていました2)。長崎県(井上ら2007)ではCDEの資格のない看護師とCDE-nとの比較では心理的アプローチに関する実施率の差が大きかった。他職種との連携も多かったことから、CDE-nの看護職全体への教育的サポート活動やモデルとなりチーム医療の推進力となることが期待されていました3)。石川県(多崎ら2011)では、専門医が不在の施設においてCDE-nは1名以上存在し、患者教育方法が充実しチーム連携が図られている施設のほうが多かったことより、糖尿病専門医の存在以上にCDE-nなどの総括する看護師の存在が重要であると報告されていました4)。このように先行研究において地域の現状を分析し課題を見出していることから、各地域の糖尿病教育事情の特性をふまえた活動ができるための研究が必要であると考えます。
「実践」の文献のうち、フットケア3件、糖尿病腎症2件、眼科関係2件で、7件20%を占めています。糖尿病の合併症進展は、患者のQOL(生活の質)に影響を及ぼすといわれています。
フットケア3件については、CDE-nの内科外来での取り組みとしての糖尿病患者へのフットケア5)が研究されていたが、糖尿病専門病棟においてフットケアの優先度が低い・ケアの統一がされていないなどの現状から看護師のフットケアに対する意識調査6)が行われていました。一方、足病変の早期発見・早期治療が重要である観点から他職種との連携によるフットケアへの取り組み 重症下肢虚血肢患者の一事例を通して今後のフットケアの発病予防・発症後の治療・再発予防に関する他職種連携の在り方・課題などが具体的に示されました7)。今後このように調査研究や事例研究などの糖尿病の合併症に関する研究を重ね、療養指導の側面から合併症進展抑制に貢献することが期待されます。

CDE-nの文献14件のうち、インスリン自己注射、フットケア、糖尿病腎症は診療報酬が加算されるようになった項目です。診療報酬を背景にしている研究は、インスリン自己注射1例でした。 インスリン療法・血糖自己測定については、2005年~在宅療養指導算定基準により診療報酬加算として認められています。CDE-nの指導について、在宅療養指導料として診療できるシステム導入後のSMBGに対する患者の認識変化と血糖コントロールへの影響を調査し、診察前後30分の指導は、治療方針の決定やセルフコントロールの維持・向上に効果があり、指導回数を増やすことで、認識レベルの向上、さらに、血糖コントロールの改善が得られることが分かりました8)。
糖尿病フットケアについては、「糖尿病足病変」の重点的な指導による発病防止効果が認められ、2008年4月「糖尿病合併症管理料」が新設されました。糖尿病透析予防指導管理料について、2012年4月から実施されています。多崎らはCDE-nとして能力を発揮するために、保険点数などによる糖尿病療養指導に対する客観的評価の拡大や(一部省略)システム構築の必要性9)について報告していることから、今後、診療報酬加算や保険点数等による客観的評価を含めた療養指導について活動の成果を示すことが重要となると考えます。
3)療養指導システムについて
療養指導システムに関して文献を検討すると、外来8件、療養指導システム全般6件、チーム医療(多職種連携) 3件、糖尿病非専門病棟3件、院内勉強会2件、教育入院プログラム2件でした。
CDE-nの療養指導システムの課題をまとめると以下のようになりました。
・テーラーメイドの患者フォローアップ体制の確立
・院内教育活動・看護職者への教育的サポート活動
・療養指導環境調整や看護師の援助技術を提供できる指導環境作り
・多職種と連携を図り、チーム医療を推進する。
・糖尿病療養指導のアウトカムを含む評価のシステム構築
以上の課題に向けての具体的な戦略を強化・推進し、療養指導システムについてハード面・ソフト面から課題を解決する必要があると考えます。
3.2 CDE-nの療養指導について
CDE-nの療養指導を分析した結果、4つのカテゴリーと16のサブカテゴリーが抽出されました。

カテゴリー サブカテゴリー
患者の生活や思いに寄り添う姿勢 患者との信頼関係
患者を生活者の視点で捉える
患者に寄り添い強みを引き出す。
患者の生活や思いに合わせた指導・教育
信念や情熱を持っている
患者の返答を待つ姿勢
行動変容を支える学習支援者 情報【患者の生活・思い・生きがい・価値観】
生命の質と生活の質のバランスをアセスメント
行動変容を支える
交流の場・環境をつくる
評価・援助の振り返り
機会を捉え療養指導 自己管理準備状態
患者の変化を捉える
患者が受け入れる好機
コントロール不良
チーム医療の推進力となる チーム間で話し合い最善のケアにつなぐ
他職種と信頼関係を築き協働していく
ロールモデルとなり、チームの推進力となる

表2.CDE-nの療養指導について

CDE-nは、患者の生活や思いに寄り添う姿勢を備えていた。患者の思いを尊重し、待つ姿勢で患者と対峙し信頼関係を築いていました。患者に寄り添い強みを引き出し、努力の成果を認め、熱心に情熱を注ぎながら指導を行っていました。
CDE-nは、実践的関わりから自分自身を学習支援者としてふさわしいという人が多い結果より、行動変容を支える学習支援者として療養指導を行っていいました。生命の質と生活の質のバランスをアセスメントし、生活背景に合った指導を行っていました。患者の動機づけを念頭にエンパワーメントを目標にして10)患者の意欲・自己効力感を高め、患者が自ら変化していけるようアプローチしたいという信念と情熱があり、ともに生きその変容を支えていました。また患者が安心できる話しやすい場や雰囲気つくりを行っていました。行動変容のための援助を振り返り評価していました。
CDE-nは、患者の変化を捉えながら生活者の視点から、自己管理準備状態が整ったチャンスを逃さず療養指導を行っていました11)。患者の日常生活行動を知り患者が実行できる限界を見極め、同時に患者が実行できる生活調整点を見出していました。経験をもとに患者の雰囲気から直感的に指導の時期かどうか判断し、患者の自己管理準備状態を判断し、患者にとって望ましい自己管理行動を働き掛けていました。
療養指導はチーム医療の中で行われていいます。個々の患者に対する最善のケアに繋げるためにCDE-nは、チーム間でディスカッションを実施し他職種と協働し信頼関係を築いていました。また、CDE-nは自分の考えをしっかり持ち意見が言える、判断が早く実行力がある、メンバーが最大限力に発揮することができる存在として受け止められていました。これらから、CDE-nはチームの中で継続的にロールモデルとなり、チームの推進力となると考えられています。
このような療養指導を行っているCDE-nは、実践において手ごたえや意欲を感じていましたが、半数以上の看護師が患者教育に満足してないこともわかりました。その原因として、看護師の力量が不足していることや療養指導システムが充実していないことが挙げられていました。看護業務・患者教育システム・チーム連携などは、自己効力感に影響をあたえると考えられていました12)。

4.まとめ
CDE-nは、行動変容を支える学習支援者として、生活の視点で患者の思いに寄り添う姿勢を備え、機会を捉え療養指導を行っていることから、ロールモデルとしてチーム医療を推進しているといえます。
CDE-nの療養指導システムは、テーラーメイドの患者フォローアップ体制の確立・院内教育活動・看護職者への教育的サポート活動・療養指導環境調整や看護師の援助技術を提供できる指導環境作り・糖尿病療養指導のアウトカムを含む評価のシステム構築などの課題があることが見いだされました。
療養指導に関する研究は、CDE-nを中心とする糖尿病医療チーム全体における療養指導の質の向上に影響し糖尿病患者に還元されることから、CDE-nの研究が日々の実践の中から生み出されることが期待されています。

5.引用文献
1)日本糖尿病療養指導士認定機構編 :糖尿病療養指導ガイドブック2012.メディカルレビュー社,2012,pp.2~3.
2)鈴木 真貴子(島根大学 医学部看護学科), 田中 美紗子, 上岡 澄子, 武田 倬, 西木 正照:島根県糖尿病療養指導士の活動実態と今後の課題.日本糖尿病教育・看護学会誌(1342-8497)9巻1号 Page14-22(2005.03)
3)井上 晶代(長崎大学 大学院医歯薬学総合研究科), 野村 亜由美, 濱野 香苗:長崎県の医療施設における看護職者の糖尿病患者教育の現状 日本糖尿病療養指導士認定の有無による比較.九州農村医学会雑誌16号 Page2-13(2007.03)
4)多崎 恵子(金沢大学 医薬保健研究域保健学系), 野村 仁美, 稲垣 美智子, 松井 希代子, 村角 直子, 田口 尚美, 村田 信子:石川県の医療施設における看護師の糖尿病療養指導の現状.看護実践学会誌(1882-2428)23巻1号 Page82-89(2011.03)
5)鎌田 智恵子(東京医科大学附属病院), 石川 順子, 関戸 昌子:糖尿病患者へのフットケア 内科外来での取り組み.東京医科大学病院看護研究集録(1348-9259)24回 Page71-75(2004.02)
6)大澤 絵里子(東京医科大学附属病院 看護部), 奥川 有紀, 春田 久美, 藤掛 友希:看護師のフットケアに対する意識調査.東京医科大学病院看護研究集録(1348-9259)30回 Page36-40(2010.02)
7)高良 千秋(敬愛会ちばなクリニック 血液センター), 米盛 科子, 松川 光代, 増田 みゆき, 仲程 伊都子:他職種との連携によるフットケアへの取り組み 重症下肢虚血肢患者の一事例を通して.沖縄県看護研究学会集録(1882-4986)26回 Page91-94(2010.12)
8)實籾 恵子(千葉県立東金病院), 高山 芳栄, 西原 晴美, 内藤 利枝子, 松本 幸子:在宅インスリン・血糖自己測定患者への指導効果について.日本看護学会論文集: 成人看護II(1347-8206)37号 Page238-240(2007.02)
9)多崎 恵子(金沢大学 医薬保健研究域保健学系), 野村 仁美, 稲垣 美智子, 松井 希代子, 村角 直子, 田口 尚美, 村田 信子:石川県の医療施設における看護師の糖尿病療養指導の現状.看護実践学会誌(1882-2428)23巻1号 Page82-89(2011.03)
10)山本千恵子,柴田興彦,江崎フサ子:糖尿病患者の学習支援に関する看護
師の認識とその影響要因の検討.九州大学医学部保健学科紀要 第3号, Page25-32(2004.02)
11)東 めぐみ:糖尿病看護における熟練看護師のケアの分析.日本糖尿病教育・看護学会誌(1342-8497)9巻2号 Page100-113(2005.09)
12)多崎 恵子, 稲垣 美智子, 松井 希代子, 村角 直子(2006.02) 看護師の糖尿病教育におけるロールモデルの存在と実践意欲の実態金沢大学つるま保健学会誌(1346-8502)30巻2号 Page203-210