フリースタイル分娩研修会とその効果およびフリースタイル分娩導入に対する助産師の認識と障害の検討

更新日2013.02.28

母性看護学研究室 猪俣 理恵

はじめに
 赤ちゃんを出産する時の姿勢については、多くの方が分娩台の上での仰向けスタイルをイメージするのではないでしょうか。座ったり、四つ這いでの出産は他の哺乳動物が行うことだと思われる方もいるかもしれません。しかしながら、人類の出産の歴史を紐解くと、仰向けスタイルの出産は比較的新しいことがわかります。特に、分娩が家庭から医療機関で行われるようになってから急激に増加してきたといわれています。日本でも、柱につるした産み綱が利用され立位に近い出産姿勢が行われていましたし、坐産椅子は世界各地で利用されていました。
 このように、施設分娩の増加とともに一般化されてきた仰向けスタイルの出産姿勢ですが、最近では「フリースタイル分娩」と呼ばれる自由な姿勢での出産が再び注目を浴びています。
「フリースタイル分娩」とは、出産ライターの河合蘭が「自由な姿勢」で「管理されない主体的な(自由な)出産」という2つの意味を併せ持つ言葉として使用した和製造語とされています。出産をする女性の中には、陣痛中に仰向けの姿勢を保持することに苦痛を感じたり、管理された分娩の中で自分らしいお産ができなかったと感じる人もおり、フリースタイル出産を希望することが多いようです。フリースタイル出産では、産婦さんが満足できるだけでなく、活発に動く動作のおかげで、痛みによる筋肉の不必要な緊張がとれ、また重力による働きも加勢し、分娩が早く進むという効果が証明されています。ただし、動きが活発な場合は、持続的な胎児心拍のモニタリングが難しいという点も指摘されていますが、コードレスの機器を導入するなどの工夫がされながら、少しずつ取り入れられてきています。
 本研究では、フリースタイル出産を大分にも広げようと大分県の有志助産師グループ(Bears)が実施した『フリースタイル出産導入のための勉強会』での、1.効果を検討するとともに、2.参加した助産師のフリースタイル分娩導入に対する認識と障害について質的に分析しました。

※Bears:大分で出産(Birth)・育児(Baby Care)のあらゆる(all)援助(support)・教育(education)・教養を考える(regard)会

【方法】

  • 2010年10月、大分県内助産師を対象に以下のような内容で研修会を実施しました。
    · 講義60分
    · フリースタイルお産劇60分
ご安産一座 公演台本
登場人物:初産婦 自由奈子さん(32歳)
その夫 自由奔放さん(33歳)
助産師 卒後4年目 Aさん
助産師 ベテラン(助産院経験あり) Bさん
産科医師 M子先生
子宮口ほぼ全開後に分娩室入室し、分娩台で仰臥位になるよう促されるが、苦痛のため嫌だという。児心音は良好のため、夫につかまったり、立位で前かがみの姿勢で過ごす。
若手助産師Aさんは分娩台に上がってくれない産婦にとまどっていたが、ベテラン助産師Bさんは医師を説得して分娩室の床に清潔野を展開し、楽な姿勢を誘導していた。
医師が姿勢はそのままでいいから、分娩台に上がって欲しいというため、分娩台上で自由な体位で無事安産。

· グループ演習120分(数人のグループで各体位の介助方法の実際と産婦体験)

  • 研修会に参加した助産師17名に対し、研修会前・直後・3ヶ月後に、無記名自記式質問紙調査(当日受付配布回収・研修3ヶ月後、参加者名簿により郵送配布回収)を実施。
    · 選択記述:所属先でフリースタイル分娩を導入する際に促進因子となる各項目について、導入の追い風に、「とてもなる」6点、「少しなる」5点、「どちらかというとなる」4点、「どちらかというとならない」3点、「あまりならない」2点、「全くならない」1点の6段階で評価。
    · 自由記述:フリースタイル分娩について自分の考えと導入の際に支障になることについて記述。

 

語の説明

  • 助産院:医療法で定められた助産師が管理者の施設のことで、正常経過をたどる妊産婦の保健指導や分娩を行う所。施設によっても多少異なりますが、多くは家庭的な雰囲気で自宅に近い環境で出産できるように配慮されている。
  • 仰臥位:いわゆる仰向けに寝た姿勢のこと。
  • 児心音は良好:胎児の状態を評価する指標の一つとして、胎児心音を分娩中は監視するが、「良好」は正常範囲であることを意味する。
  • 清潔野:分娩の際、無菌のシーツ等を敷いて清潔なところで出産できるようにし、感染を防止すること。「清潔野の展開」とはシーツ等を敷いて清潔野をつくること。フリースタイル分娩では、産婦さんが動くので、早く無菌シーツ等を敷いてしまうと、清潔を保持するのが難しい。
  • 怒責:排便時や出産時に下腹部に力を入れていきむこと。
  • 回旋:胎児が分娩の経過とともに産道を通りやすいように、少しずつ体の向きを変えながら骨盤内を通過すること。この回旋が正常に進行しない場合は、分娩が遅延したり、停止したりする。

【結果1】フリースタイル出産導入のための勉強会とその効果

(第51回日本母性衛生学会:乾 つぶら、猪俣 理恵、林 猪都子)

 調査対象は研修会直前・直後は17名(受付で手渡し回収:回収率100%)、3ヶ月後12名(郵送配布回収:70.5%)でした。研修前から直後では全ての項目(助産師のモチベーションと分娩介助技術、上司同僚等の支援、設備等の充実など)で点数が高くなっていましたが、3ヶ月後には「やってみようと思える」「経過診断ができる」「清潔野の展開ができる」「怒責のコントロールができる」「回旋が理解できる」等が下降していました。

【結果2】フリースタイル分娩導入に対する認識と障害

(第51回日本母性衛生学会:猪俣 理恵、乾 つぶら、林 猪都子)

 参加者は、研修前にはフリースタイル分娩を「産婦中心の分娩」と考える一方、「未知」「安全性の不確かさ」「特殊な設備・知識・技術が必要」と捉えていましたが、研修直後と3か月後では「エビデンスに保証された出産」「既存の設備で行える」など実施可能なものとして受け止めていました。
 導入の障害としては、「妊婦側の要因」「医療・助産者側の心的要因」「助産師の知識・技術」「病院の方針」「設備」「人員」が抽出されましたが、サブカテゴリーを見ると3か月後の結果の方が「同僚スタッフの理解不足」や「病院の分娩方針」などより具体的でした。

おわりに
 フリースタイル出産の研修直後には、参加者はフリースタイル分娩を「援助可能な分娩」として考えることができ、助産師のモチベーションや実際の技術に関する項目も導入のための追い風として評価されています。しかし、3ヶ月後にはこれらの項目の評価が落ち込んでおり、「同僚スタッフの理解不足」や「病院の分娩方針」が導入への障害として抽出されたことから、実際に導入するには継続的な研修に加え、同僚スタッフや管理者の理解を得るため努力とモチベーションを維持するための情報交換の機会が重要と考えます。