災害時のトリアージで黒と区分された傷病者に対応する看護師に必要な能力―DMAT看護師の認識より―

更新日2015.11.02

看護アセスメント学研究室 石田佳代子

 

 災害時には、一人でも多くの命を救うことが重要になります。特に、大きな災害が発生した場合には、いっときに多くの傷病者が生じるでしょう。しかし、医師や看護師の数は限られています。そこで、一人でも多くの命を救うために、傷病者をその程度などによって選別し、搬送や治療の優先順位が決められます。この選別を「トリアージ」といいます。トリアージによって、命を救うことが困難と判断された人や、死亡が確認された人は「黒」と区分され、黒色の識別札 (黒タグ) が身体につけられて、搬送や治療の順序が後回しとなります。災害の現場では、命を救うことが困難な人や、すでに死亡が確認された人への対応は、どうしても手薄にならざるをえません。

 黒タグが多数使われた過去の災害事例1)としては、2005年4月に発生したJR福知山線列車脱線事故がありますが、当該事故において、黒タグに発見時の状況の記録がほとんど書かれていなかったために、死亡原因の調査が困難だったという問題がありました2)。また、「本当に黒だったのか」「本当に救命できなかったのか」などの思いを抱いている遺族や、死亡時の詳しい状況を知りたいと願う遺族に対して、充分な説明ができなかったことなどの問題もありました3)。災害現場では命を救うことが最優先されるので、「黒」と区分された傷病者のタグへ記録を残すことは、現実的には困難な場合が多いかもしれません。そうした中でも、その傷病者に関わった際に少しでも情報を多く残すことが効率よくできれば、遺族へのケアの質の向上や、死亡原因の調査に有用な情報を提供できるなどの可能性が考えられます。

 そこで、この役割を看護師が担えないものかと考え、災害現場におけるトリアージで「黒」と区分された傷病者への対応に必要とされる看護師の能力は何かを明らかにするために、災害派遣医療チーム(Disaster Medical Assistance Team: DMAT)の看護師を対象に、郵送による質問紙調査を行いました。

 全国の1,023名のDMAT看護師に調査票を配布した結果、651名より回答の返送がありました(回収率63.6%)。以下に、国内外の学会で発表した調査結果の一部を紹介します。

 「黒」と区分された傷病者への対応を行う看護師に必要とされる知識・技術を32項目設定し、各項目について、「不可欠」、「あったほうが望ましい」、「なくてもよい」のうちのいずれか一つを選んで回答してもらいました。項目別に比較するために、「不可欠」: 3点、「あったほうが望ましい」: 2点、「なくてもよい」: 1点の得点を割り付けて、項目別に平均得点を算出しました。

 下の図のように、知識・技術の平均得点が最も高かった項目は「トリアージの基本的な知識」・「呼吸状態の観察」・「頸動脈の触知」・「瞳孔の観察」で、次に高かったのは「一次トリアージ(START法)の技術」・「チームの一員として行動できるコミュニケーション技術」・「心臓の拍動の観察」・「心音・呼吸音の聴取」でした。DMAT看護師による回答の結果から、「黒」と区分された傷病者への対応を行う看護師には、トリアージや生命徴候を把握するための技能が最も不可欠であることが明らかになりました。トリアージによる「黒」の区分は、救命困難もしくは死亡を意味します。その判断の根拠を明確にすることは、遺族の気持ちから考えれば、とても重要なことだと思われます。だからこそ、これらの技能の必要性が最も評価されたのではないかと考えられます。「黒」であることの確認を行い、死亡者のことについてできるだけ多くのことを書き残すということを看護師が担うことができれば、遺族への支援や、死亡原因の調査などに役立つと思われます。死亡者へも手を尽くせたという気持ちは、最初に「黒」と区分した医師や看護師の気持ちの負担を減らせる効果もあるかもしれません。

 看護師は人の生死に関わる職種であり、黒タグに必要な所見を速やかに残すこと、死亡者の尊厳を守りながら適切に遺体を取り扱うこと、遺族の心情に配慮して情報を提供したり、死別の際の感情を受け止めたりすることができると考えます。その一方で、黒タグをつけることや死亡者および遺族に対応することへのストレスはとても大きいと考えられます。現在は、これらに向けて、専門的な研修・訓練を受けた看護師が対応できるように、訓練方法の開発に取り組んでいます。

 

 

 本研究の要旨は、日本災害看護学会第14回年次大会、ICN(The International Council of Nurses)25th Quadrennial Congressにおいて発表しました。また、本研究の一部を第43回日本看護学会 成人看護Ⅰにおいて発表しました。

 ここに紹介した研究は、日本学術振興会 科学研究費補助金 (挑戦的萌芽研究課題No.22659395 看護師の身体診察技術を活用した災害時遺体対応能力の開発に関する研究) の助成を受けて行いました。

 

 

文献

1) 日本集団災害医学会 尼崎JR脱線事故特別調査委員会 (2006) : 日本集団災害医学会 尼崎JR脱線事故特別調査委員会 報告書 JR福知山線脱線事故に対する医療救護活動について 2006年2月

2) 長崎靖,木下博之,上野易弘他(2007):JR福知山線列車脱線事故の死体検案,日本集団災害医学会誌,12,20-24

3) 吉永和正(2007):平成19年度厚生労働科学研究費補助金健康危機管理・テロリズム対策システム研究事業分担研究報告書「災害時における精神支援、多数死体事案対応」に関する研究,237-239

 

図 看護師に必要とされる知識・技術(単数回答)(n=651)