服薬中の特定健診受診者の検査値および生活習慣の変化に関する調査研究-高血圧症に着目して-

更新日2015.11.30

地域看護学研究室 赤星琴美

 

 1.はじめに

  特定健康診査(以下、特定健診)は日本における死亡原因の60%以上を占める生活習慣病の発症予防、早期発見を目的に実施されています。生活習慣病の予防、症状の改善や悪化防止のためには一人ひとりの対象者の生活習慣の改善が不可欠であり、生活習慣病で服薬中の者に対しても適切に実施される保健指導を通して自己の行動変容を促すことが重要です。そこで、本研究では、特定保健指導の対象から除外されている服薬中の者の検査値の変化・改善および重症化予防のための行動変容の実態を明らかにすることを目的としました。

 

2.方法

 B市の平成20年及び23年の特定健診を受診した40歳から65歳までの4,734人を対象としました。検査値及び生活習慣(①喫煙②飲酒③運動④食事⑤睡眠⑥生活習慣改善意識)が3年後にどのように変化したかについて検討しました。

 

3.結果と考察

 高血圧症、糖尿病、および/あるいは脂質異常症で服薬中の者は、1,083人(22.9%)で、男性301人(23.5%)、女性782人(22.6%)であり(図1)、加齢とともに服薬者の割合が男女ともに増加していました。服薬者の治療対象疾病の7割は高血圧症でした。一つの疾病に対して投薬されていた者907人(83.8%)が、3年後には、743人(68.6%)に減少し、複数の疾病に対して投薬される者の割合が増加していました(表1)。また、高血圧症で服薬中の者のうち検査値が改善した者は28.5%であり、悪化していた者は51.0%でした(表2)。高血圧症で服薬中の者の生活習慣の改善は、50%以上の者で見られなかった項目は「喫煙」、「飲酒」、「運動」であり、「飲酒」に関しては8割以上の者に改善が見られませんでした(図2)。服薬中の者は、ポピュレーションアプローチも受けることなく特定保健指導の対象から除かれていることの問題点が浮き彫りになりました。3年後の検査値が不変あるいは悪化する方向にあるといった実態に注目して、効果的な保健指導を含め対応を考えていく必要があります。服薬中の者に対しても、医療機関や調剤薬局と十分に連携を図りながら専門的な保健指導を行っていかなければならないことがわかりました。服薬だけでなく生活習慣の改善が不可欠であるにも関わらず、服薬中の者の生活習慣が改善の方向に向かっていないこと、継続的な自己管理が十分でないこと、生活習慣の改善の必要性も認識していない者が少なくないことが明らかになりました。生活習慣病の症状の進行など抑制するため、さらには、重症化することによって高額化する医療費の適正化を図るためにも、生活習慣病の治療を受けている服薬中の者に対しても、適切な保健指導を行い、行動変容に導く方法を導入し、保健指導を確実に行っていく必要があることがわかりました。

                       

        図1 服薬者の治療対象疾病 

 

        表1 平成20年度および平成23年度の服薬者の対象疾病

        


 表2 高血圧症で治療中の対象者の病態(血圧値)の変化 

 

         図2 高血圧症服薬者の生活習慣の変化

 

この研究に関連する論文等

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