ヒト正常線維芽細胞における放射線照射後の細胞動態の分析

更新日2016.02.03

環境保健学研究室 石川 純也

 

1. 背景

 急性骨髄性白血病(AML)に代表される放射線発がんのメカニズムを明らかにするためには、放射線被ばくから発がんまでの過程における様々な生物学的現象を明らかにする必要があります。そこで本研究では、ヒト胎児肺正常線維芽細胞(MRC-5)を用いて、放射線照射後の初期段階で細胞に何が生じるのかを明らかにすることを目的として、照射直後から30日間における細胞動態の変化を経時的に調べました。

 

2. 方法

 MRC-5細胞を137Cs-γ線(0.72 Gy/min)を0-3 Gy照射し、① 生存率、② 細胞周期、③ 活性酸素種量、④ DNA2本鎖切断頻度、⑤ 細胞老化マーカーについて、照射直後から30日間に渡り経時的に調べました。

 

3. 結果

 MRC-5細胞に0-3 Gyの放射線を照射すると、非照射群と比較し、1 Gy照射群及び3 Gy照射群ともに生存率は照射後1日目に大きく減少しましたが、その後、徐々に増加し照射後14日目以降では非照射群と似たようなレベルとなりました(Fig. 1)。このとき、細胞周期が進行している細胞集団を示すKi67陽性細胞は、3 Gy照射群では照射後1及び14日目に、1 Gy照射群では照射後3日目に極大値をとり、それ以降、両照射群とも非照射群と同レベルとなりました(Fig. 2)。同様に、両照射群とも細胞内の活性酸素種量は、3 Gy照射群では照射後14日目に、1 Gy照射群では照射後3日目に極大値を示しました(Fig. 3)。DNA損傷頻度を示す53BP1のフォーカス数は、非照射群と比較して、生存率が大きく減少した照射後1日目に大きく増加し、その後は時間依存的に低下しました。しかし、照射後15日目までに非照射群のレベルまで減少することはありませんでした(Fig. 4)。最後に、老化した細胞を示すSA-β-Gal陽性細胞は、非照射群と比較して、両照射群ともに照射後3日目まで増加しましたが、それ以降大きな変化はなく、ほぼ同レベルで推移しました(Fig. 5)。

 

4. 結論

 本研究では、放射線によりMRC-5細胞の生存率が一過性に低下し、その後、徐々に回復しました。このとき、細胞周期が進行している細胞が増加しており、活性酸素種量も増加していました。また、DNA2本鎖切断頻度も上昇しましたが、時間依存的に低下しました。さらに、老化マーカー発現細胞数は増加していました。これらの結果は、放射線により死細胞が生じた後で、それを補うために細胞増殖が起こり、これに伴い細胞老化が生じる可能性を示唆しています。

 

 本稿は日本保健物理学会 第47回研究発表会の講演要旨集に修正を加えたものです。