40~50歳代閉経前女性の授乳経験と脂質代謝・動脈硬化や更年期症状との関連-授乳婦と非授乳婦の比較-

更新日2016.03.01

助産学研究室  梅野 貴恵

 

Ⅰ.緒言

 著者は、更年期症状(Simplified Menopausal Index:SMI)には、生きがい感や夫婦関係満足感1)、さらに成熟期の母乳育児経験2)が関連していることを報告した。また、母乳育児を継続中の女性のエストロゲンは、産後から低値で、閉経後の女性のエストロゲン値と近似していることも報告した3)。これらのことから、母乳育児経験のある女性は、更年期以前に生理的な低エストロゲン状態を長く体験していることから、更年期のホルモン変化に対する順応性をもつのではないかと考えた。海外の報告では、1年以上の授乳経験のある中高年女性は非授乳婦よりメタボリックシンドロームの罹患率が低く4)、心筋梗塞のリスクが低い5)という報告もみられる。これらの報告から授乳期の低エストロゲン状態が、授乳期以後の血管系や代謝に影響を及ぼしていることは推察される。本研究では、更年期女性の脂質代謝・動脈硬化プロフィールや更年期症状を調査し、授乳経験の有無により比較することを目的とした。

 

Ⅱ.研究方法

1. 調査対象および調査期間

 調査対象者は、40~60歳の一般の健常な女性で、研究責任者が該当年齢の女性をスノーボールサンプリング法6)により集め、研究の趣旨に同意の得られた39名のうち、閉経前の32名を対象とした。

2. 調査内容

 1)血液採取:エストラジオール(E2)、Follicle-stimulating hormone(FSH)、プロラクチン、抗ミュラー管ホルモン(Anti-mullerrian Hormone:AMH)、総コレステロール(T-cho)、高密度リポタンパク-コレステロール(HDL-C)、低密度リポタンパク-コレステロール(LDL-C)、トリグリセリド(TG)を測定。2) 動脈硬化の指標の一つとしてオムロン社製formPWV/ABIを用いてbaPWV(脈波伝播速度)を測定。3) TANITA社製InnerScanを用いて体脂肪測定。4)自己記入式質問票:授乳経験やSMI、食習慣や運動習慣など40項目。調査項目は、初回開始時と6か月後、12か月後の3回実施した。

3. 分析方法

 統計解析には、SPSS ver21.0を使用し、月経の有無別に授乳群(12か月以上の母乳育児経験を有するもの)と非授乳群(12か月未満の母乳育児経験者、混合・人工栄養育児経験者、未授乳婦)に区分し比較した。すべての有意水準はp<0.05とした。

4.倫理的配慮

 本研究は、大分県立看護科学大学の研究倫理・安全委員会の承認を得て実施した。

 

Ⅲ.結果

1.対象者の背景

 対象者の年齢は40~52歳で、平均年齢は授乳群が45.2±3.4歳、非授乳群が45.7±4.4歳であった。BMI、体脂肪は、授乳の有無で差は認められなかった。授乳経験別の授乳期(30歳代頃)と現在の食習慣を比較したところ、授乳期(30歳代頃)の授乳群の小魚海草、肉類、野菜摂取は、非授乳群に比べ頻度が多かった(p<0.05)。現在の食習慣では肉類のみ授乳群の頻度が高かった(p<0.05)。授乳期(30歳代頃)と現在の食習慣の変化をみると、授乳群は牛乳、大豆、魚介、野菜の摂取頻度が減少し(p<0.05)、レバー摂取頻度が増えていた(p<0.05)。非授乳群の摂取頻度に変化はみられなかった。運動習慣の頻度は、あまりしていないものが多く授乳別で差は認められなかった。

2.授乳経験別における脂質データ、PWV、ホルモン、SMIの比較

 授乳経験別の調査項目の平均値を表1に示す。初回の授乳群のTGは104.1±66.3mg/dl、非授乳群は141.7±131.7mg/dlであったが有意ではなかった。T-cho、HDL-C、LDL-Cは、平均値に差は認められなかった。FSHは両群ともに基準値を上回っていた。baPWVは、図1に示す通りほぼ正常範囲内であった。SMIは、授乳群が31.4±17.4点、非授乳群が33.5±16.6点であった。

3.調査項目間の関連

 調査項目間の関連を表2に示す。年齢とFSHとの間に正の相関、年齢とAMHとの間に負の相関、BMIと体脂肪、T-cho、LDL-C、TGおよびFSHとの間に正の相関、BMIとHDL-Cとの間に負の相関が認められ、TGとHDL-Cとの間に負の相関が認められた。また、FSHとT-cho、LDL-Cとの間に正の相関がみられた。

4. BMI区分による3群の比較

 脂質データには、表2からBMIとの関連が考えられたため、授乳群の現在のBMIを標準体重8)の22により区分し、授乳BMI22.0以下群(n=10)と授乳BMI22.1以上群(n=7)、非授乳群(n=15)の3群で検討した(図2)。TGは、授乳BMI22.0以下群の平均値は、授乳BMI22.1以上群や非授乳群より低いが、有意ではなかった。baPWVは、授乳BMI22.0以下群の平均値が非授乳群より有意に低かった(p<0.05)。30歳代頃のBMIと現在のBMIの差をみたところ、授乳BMI22.0以下群は0.3±1.1(最少~最大:-1.7~2.0)、授乳BMI22.1以上群は2.1±1.7(0.0~4.3)、非授乳群は1.1±1.7(-0.9~5.4)であった。授乳BMI22.0以下群に比べBMI22.1以上群の方が、有意にBMIが増加していた(p<0.05)。そこで、授乳BMI22.0以下群とBMI22.1以上群の野菜や肉類などの食事摂取頻度を比較したが、差は認められなかった。BMI22.1以上群の現在の運動習慣は全員がほとんどしておらず、BMI22.0以下群は週に1~2回から月1~2回程度しているものが半数いたが、有意ではなかった。

5. 有経群の調査開始時、6か月後、12か月後までのデータの経時的変化

 授乳経験別の初回、6か月後、12か月後の調査項目の平均値を表1に示す。授乳経験別に推移を比較したところ、授乳群のTGは非授乳群に比べ基準値より低いまま推移し、時間経過にしたがって緩やかに上昇傾向を示すが、差は認められなかった。

 

 

Ⅳ.考察

 本調査対象者のFSHとT-cho 、LDL-Cとの間に相関がみられ、FSHとE2は逆相関がみられることから、閉経前から女性の下垂体-卵巣系ホルモンと脂質代謝との関連が示唆される。授乳群の脂質データは有意ではないものの非授乳群より低めで、経時的変化においても基準値内で推移していたことから、授乳経験は脂質代謝との関連が推察される。本調査の授乳群は12か月以上の母乳育児経験者であり、授乳期間がLDL-Cと逆相関していたとする報告4)を支持する結果となった。妊娠糖尿病に罹患した母親が産後9か月以上母乳育児を行うと、2型糖尿病の罹患率は妊娠糖尿病のない母親と同程度になるという報告6)や乳汁分泌は、ブドウ糖ホメオスタシスを改善する7)とした報告などから、長期間乳汁を排泄することは、母体にとって良い糖代謝サイクルを産みだすと考えられる。これと同様のことが脂質代謝にも起きているのではないかと推察する。授乳期には母体が摂取した食事や母体内に蓄積された脂質は、乳汁生成過程を通して母乳中に排泄される。乳汁には、トリグリセライドやステロールエステルなどの脂質が含まれ、母親の食事は、母乳中の脂肪量には影響しないが、構成成分には変化をもたらす8)ことが明らかになっている。乳汁中に母体の摂取した栄養成分が乳汁に移行することで、母体ではダイナミックな生体変化が起こり体重減少も大きく9)、ダイエット効果がある10)といわれることからも、授乳中の脂質代謝サイクルは産後の母体の生体メカニズムを整える作用があるのかもしれない。

 授乳BMI22.1以上群は、産後のBMIより現在のBMIの増加が2以上あり、TGも非授乳群に近く高めであったことから、授乳経験があっても授乳期以降の食習慣や運動習慣などの影響は大きいと考える。また、TGの経時的変化をみると閉経以前から緩やかな上昇を示すことから授乳期を過ぎた40歳頃からホルモンと同調するように脂質代謝も変化を始めていると推察される。そのため、授乳期と同じようなバランスの取れた食習慣を続けBMIが増加しないように運動も含めた指導をしていく必要がある。SMIは、T-ChoやTGとの明確な関連は認められなかったが、HDL-Cと弱い負の相関がみられることから、脂質代謝との関連を否定できない。

 

V.終わりに

 更年期女性自身の健康の保持増進のためにも、現在成熟期にある女性には母乳育児を推進し、40歳頃からはBMIが増加しないような食事や運動習慣についての指導をすすめていくことが重要である。授乳の機会がなかった更年期女性には、大豆イソフラボンの摂取など自らの健康を意識した生活を送れるように支援していくことを検討していきたい。 

 

Ⅵ.研究成果

梅野貴恵,角沖久夫,軽部薫.40~50歳代有経女性の授乳経験と脂質代謝・動脈硬化や更年期症状との関連-授乳婦と非授乳婦の比較-,日本女性医学学会雑誌Vol23,No2.2016.掲載予定

 

【引用文献】

1) 梅野貴恵,宮﨑文子,河島美枝子,関根剛.更年期女性の更年期症状(SMI得点)と心理社会的要因との関連―生きがい感,夫婦関係,Health Locus of Controlに着目して―.母性衛生,47(1):143-151.2006.

2) 梅野貴恵,宮﨑文子,草間朋子,甲斐倫明,平田喜代美.母乳育児期間と更年期症状の関係についての検討-人工栄養育児との比較から-.日本更年期医学会雑誌,15(2): 223-232.2007.

3) 梅野貴恵,宮﨑文子.母乳育児中の女性の血中ホルモンの推移.母性衛生,49(2):327-335.2008.

4) Ram KT, Bobby P, Hailpern SM, et al. Duration of lactation is associated with lower prevalence of the metabolic syndrome in midlife – SWAN, the study of women’s health across the nation. Am J Obstet Gynecol, 198:268.e1- e6.2008.

5) Stuebe AM, Michels KB, Willett WC, et al. Duration of lactation and incidence of myocardial infarction in middle to late adulthood.  Am J Obstet Gynecol , 200:138.e1- e8.2009.

6) Gunderson EP, Jacobs DR, Chiang V, Lewis CE, Feng J, Quesenberry CP and Sidney S. Duration of lactation and incidence of the metabolic syndrome in women of reproductive age according to gestational diabetes mellitus status: A20-year prospective study in CARDIA(Coronary artery risk development in young adults). Diabetes Spectr, 59(2):495-504, 2010.

7) Stuebe AM, Rich-Edwards JW, Willett WC, Manson JE, Michels KB. Duration of lactation and incidence of type 2 diabetes. JAMA Dematol, 294:2601-2610, 2005

8) 水野克己,水野紀子,瀬尾智子.母乳の生化学・免疫.よくわかる母乳育児.東京:へるす出版,pp34-43,2007.

9) Stuebe AM, Kleinman K, Gillman MW, Rifas-Shiman SL, Gunderson EP and Rich-Edwards J. Duration of lactation and maternal metabolism at 3 years postpartum. J Womens Health, 19(5):941-950, 2010.   

10) 井岡智子.産褥入院中のお母さんの支援.橋本武夫編.104の?に答える母乳育児支援アンサーブック.大阪:PERINATAL CARE.MCメディカ,pp132-133,2004.