A県における外国人労働者の病気対処行動の実態と日本の医療に対する意識

更新日2016.05.06

国際看護学研究室 桑野紀子

【はじめに】

 日本の外国人労働者数は年々増加傾向にあり、平成27年10月末では907,896人で、前年同期比120,269人(15.3%)増となっており、平成19年に雇用主からの届出が義務化されて以来、過去最高を更新しました(厚生労働省 外国人雇用状況の届出状況 2016)。国籍は中国、ベトナム、フィリピン、ブラジルの順に多く、対前年伸び率では、ベトナム(79.9%)、ネパール(60.8%)が高くなっており、国籍も多様化しています。

 この背景には、より賃金の高い職を求める外国人労働者側の個人的な要因の他に、少子高齢化の影響で日本の労働力人口が年々減少していること、日本人の就業が減少傾向にある職業が労働力を求めていることなど、日本社会側の要因も考えられます。いまや外国人労働者は日本の労働市場に欠かせない存在ですが、日本における外国人の年齢調整死亡率は日本人と比べて男性で1.08倍、女性で1.27倍高く、外国人と日本人との健康格差が報告されています(沢田 2010)。外国人と日本人との健康格差の原因として、自国との気候や食生活の違いなどもありますが、言葉の壁、経済的な問題、医療情報の不足などにより、体調不良時に適切な病気対処行動がとれず、必要な医療サービスが受けられていない可能性も考えられます。

 そこで本研究では、外国人労働者の病気対処行動と日本の医療に対する意識に着目しました。外国人労働者に対する今後の医療のあり方について考える資料とすることを目的とし、A県で就労する外国人労働者の病気対処行動の実態および日本の医療に対する意識について調査しました。以下に、調査結果の一部をご紹介します。

 

【方法】

 A県で就労する外国人119名を対象とし、無記名の選択式質問紙(一部自由記述を含む)を用いて調査を実施しました。全ての質問項目について基本的統計量を算出し、自由記述については、内容が類似した回答ごとに分類し、カテゴリ化を行いました。調査期間は平成24年6月30日~9月30日でした。

 

【結果】

 対象者の属性を表に示します。対象の出身国は、中国109人(女性)、インドネシア(男性)6人、ベトナム(男性)4人でした。対象者の年齢は、各国とも20~24歳が最も多く71人(59.7%)、在日期間は1年未満が67人(56.3%)と最多でした。病気対処行動について尋ねたところ「会社に相談する」71人(59.7%)が最も多く、次いで「病院に行く」51人(42.9%)でした。「病院に行かない」と回答した対象者11人(9.2%)に理由を尋ねたところ、「経済的な問題」6人(54.5%)、「言葉が通じない」3人(27.3%)等が挙げられました。また、「日本で外国人も日本人と同じように医療が受けられていると思うか」という質問については「そう思う」83人(69.8%)、「そう思わない」5人(4.2%)、「どちらともいえない・分からない」28人(23.6%)でした。「そう思わない」理由として「日本人患者と対応が違う」などが挙げられました。日本の看護職に求める対応について尋ねたところ、全体の89人(74.7%)が「言語的コミュニケーションが取れること」、11人(9.3%)が「宗教的背景への理解」、26人(21.9%)が「文化的背景への理解」、62人(52.1%)が「経済的状況について相談に乗ってくれること」について「重要である」と回答しました。

 

 

【考察】

 対象者の約6割が20代前半であり、比較的健康な世代でした。在日期間も短く、日本語によるコミュニケーション能力が不十分な対象者もいると推察されるため、病気対処行動として、会社に相談し、日本人の同僚に病院に同伴してもらうことが最も手近な手段であると考えられます。「日本人と同じように医療を受けられていると思うか」について約7割が「そう思う」と回答した一方で、日本人患者と外国人患者との間で医療職者の態度に違いがあるという意見がありました。米英等の多民族国家とは異なり、日常的に外国人と接する機会がまだ少ない日本では、医療職者が外国人患者に差異を感じるのは自然なことですが、差異を差別に繋げない医療(長坂・百々 2011)が必要です。また、外国人労働者が医療機関を受診するに際し、対象者の出身国に関わらずコミュニケーションの問題、経済的な問題への配慮が必要であることが示唆されました。本調査では、「宗教的背景への理解」「文化的背景への理解」の必要性を重要とする回答率は全体では少ないですが、これは今回の研究対象者の大半を占める中国出身者の回答が影響していると考えられます。インドネシア出身の対象者については、3割以上が「とても重要である」と回答しており、「宗教的背景への理解」「文化的背景への理解」へのニーズについては出身国で違いが生じると思われます。

 本調査の対象者は、A県内で働く中国出身の女性が多くを占めたため、本調査結果を一般化することは難しい部分もありますが、これからも外国人労働者は全国的に増加していくと予測されます。今後は、看護職者は外国人を対象とした医療にも関心を向けること、ケアに必要なコミュニケーションの方法を学んでいくこと、宗教や経済状況といった日本人と異なる生活背景に対する理解を深めること等が求められると考えます。

 

 

引用文献

厚生労働省.「外国人雇用状況」の届出状況まとめ(平成27年10月末現在). http://www.mhlw.go.jp/stf/houdou/0000110224.html

沢田貴志(2010).「外国人労働者の健康問題」.公衆衛生 74,67-70.

沢田貴志(2010). 外国人労働者の健康を築く.公衆衛生 74,60-63.

長坂香織,百々雅子(2011).医療の多文化化にむけて-山梨県在住外国人の語りから見る医療の現状と課題-.山梨県立大学看護学部紀要 13,47-60.