診療看護師が介護老人保健施設のチームにもたらす効果に関する研究

更新日2016.06.08

成人・老年看護学研究室 小野美喜

Ⅰ はじめに

 保健師助産師看護師法が一部改正され(2014年)、チーム医療を推進する目的で判断力や技術力を要する特定行為を行う看護師を育成する「特定行為に係る看護師の研修制度」が施行されました(2015年10月)。この研修を大学院修士課程で学び、特定行為だけでなく臨床推論力とマネジメント力を強化された診療看護師の活動が期待されています。特に介護老人保健施設(以下 老健)では介護度が高く認知症や慢性疾患等をもつ高齢者が増え、ニーズが増す看取りや医療的対応が困難事例は多数ありますが(大津2015他)、人的物的資源が整えば、やや高度な医療への対応が可能といわれています(山口2011)。診療看護師の活動が期待される場の1つです。そこで、本研究は試行的に診療看護師が活動する老健施設と他施設でのチーム員が対応に困った体験を比較分析し、診療看護師の導入によってチームにもたらす効果を明らかにすることを目的としました。

 

Ⅱ 研究方法

1.調査方法:無記名自記式の質問紙調査法

2.データ収集期間:診療看護師が試行的に導入された平成25年9~10月

3. 調査・分析方法: A県の介護老人保健施設22施設の全職種。22施設のうち2施設は診療看護師をチームに含む対象群、他20施設を導入のないコントロール群とした。質問内容は、1)基本属性、2)対応に困った医療行為や症状、困った体験とした。

4.分析方法:2群の対象者の意識を比較分析するためχ二乗検定およびMann-WhitneyのU検定を行った。本研究は、大分県立看護科学大学の研究倫理安全委員会の承諾を得て実施した。

 

Ⅲ 結果

 配布部数は493部、回収部数は297部(回収率60.2%)でした。対象者の所属は、対象群63名、コントロール群が234名でした。全体の職種は介護士が47.8%で最も多く看護師が34.3%でした。

1.対応に困った入所者に対する医療行為・症状の比較

 日々のケアで対応に困った入所者の医療行為の2群比較を図1に、症状の比較を図2に示しています。両群とも最も対応に困った医療行為は痰の吸引[導入群14名(22.2%)、コントロール群60名(25.6%)]であり、次いで褥創処置でした。気管カニューレの管理ではコントロール群の方が有意に困っていました(P<.05)。また、対応に困った症状では2群に有意な差は認められませんでしたが、意識レベルの低下、誤嚥、褥創、頭痛などの17症状でコントロール群の方が困った割合が高かったです。

        図1 対応に困った利用者の医療行為

 

      図2 対応に困った利用者の症状

 

2.対応に困った体験の比較

 結果を表1に示します。両群ともに「ない(1点)」と「あまりない(2点)」との回答が多く全職種では2群に有意差はありませんでした。しかし看護師のみの比較では、入所者の「異常対応」はコントロール群の方が対応に困った頻度が有意に高かったです(p<0.05)。

 

     表1 医療行為を必要とする入所者対応に困った体験の頻度 n=290  

 

Ⅳ 考察

 気管カニューレの管理は、対象群よりコントロール群が有意に困っていました。気管カニューレの交換は特定行為の1つであり、診療看護師の介入が可能である。気管カニューレを挿入している医療依存度の高い入所者の対応に診療看護師の導入効果が現れていると考えます。また、入所者の異常対応についてもコントロール群の看護師の方が有意に困っていました。芦刈(2011)は、「医行為必要時の対応では、医師の指示を待つために時間がかかり、タイムリーに処置ができない現状がある」と報告しています。チーム員の中での看護師は緊急時に病態や処置の必要性を素早くアセスメントし医療的対応を求められる。看護師以外の職種は直接医療的な対応には携わらないため、導入効果は意識されにくいが、看護師には、臨床推論や治療を学んだ診療看護師の導入がチームにもたらす効果として意識されていると考えます。

 

引用文献

芦刈弘枝,藤内美保,中尾勇祐他(2011).介護保健施設での医行為必要時の連携実態と特定看護師(仮称)に求める特定医行為(PartI):NP(診療看護師)の確立に向けて.看護.63巻,98-103.

大津美香(2015)介護老人保健施設の認知症を合併する高齢慢性心不全療養者の看護支援における困難な状況と支援方法の実態、保健科学研究、5巻 ,117-127.

山口潔(2014)これからの高齢者医療-診断・治療・予防への対応:療養病床、介護施設での高齢者医療施設の種別と提供できる医療の違い、内科)108(6)、 P1196-1199.

 

*本研究は看護系雑誌「コミュニティケア」17(4)p67-71に掲載されており、上記はその一部抜粋です。