臨床看護研究の現状と支援のニーズ

更新日2016.07.01

健康情報科学研究室 佐伯圭一郎

【はじめに】
 看護職は、よい看護を提供し続けるために一生学び、成長し続けることが要求される専門職です。様々な面での成長が必要ですが、中でもEBN
※1実践のためには、最新の情報や研究成果を収集して正しく理解する能力を身に付け、伸ばしていくことが期待されます1)。臨床での看護研究は、研究成果だけでなく、それらの能力を高めるためにも有効な活動です(ほとんどの看護系大学で卒業研究が行われているのも同じです)。大学でEBNや看護研究の方法に関連する教育に携わっている私は、臨床看護研究の現状や研究に関連する知識やICT活用の実態に関心を持ち、どのように研究を支援できるか考えています。

 そこで、ある県全体を対象に臨床看護研究の現状、研究実施上の困難や支援、研究やEBNに関連する知識やICT活用の現状について、施設単位と看護職個人単位両方の調査を行いました。本稿では看護研究の実施状況に関連する部分を紹介します。

【方法】
 A県の看護職が働く各種施設とそこに勤務する看護職を対象に、郵送によるアンケート調査を行いました。A県が公開する各種施設(行政と教育・研究機関は除く)のリストから、種類と規模別に層化無作為抽出という方法で対象施設を選び、施設の看護職の代表を対象としたもの、勤務する看護職個人を対象としたもの、2種類の無記名自記式調査用紙を送付しました。配布数と回収数は表1のとおりです。

 表1 対象施設数と配布回収状況

 

 

 

 

 

 

 

 

 (図表はクリックで拡大)

 

   回答データは、単純集計を行い、さらに施設の種類・規模別の比較、看護職の属性との関連を分析しました。

【結果と考察】
 規模の大きい病院などを除いて、回収率がそれほど高くなく、このような調査ではバイアス※2の可能性に注意が必要ですが、主要な結果をみていきましょう。

1)施設としての看護研究への取組み
 図1に示すように、100床(ベッド)未満の場合には例外もありますが、病院では施設として看護研究を行っています。これは、看護職が病院で受ける教育・研究等のプログラムに、看護研究を行うことが含まれている2)ためです。また、訪問看護ステーションや老人保健施設でも看護研究に取り組んでいる施設は少なくありません。

図1 施設種別にみた看護研究の実施状況         図2 看護研究を行っていない主な理由

 看護研究に取り組んでいない主な理由を図2にまとめました。現在取り組んでいない施設も、「行いたいが、スタッフや時間の制約があり行えていない」「行いたいが、研究の進め方が分からない」という回答が7割を超え、それらの制約さえ解消されればさらに多くの施設で看護研究を推進できるということが分かります。

2)看護職個人としての看護研究経験
 回答した看護職の方の年齢分布を図3に示します。年齢と経験年数はおおよそ対応していると考えて良いですが、病院に比べて、それ以外の施設に勤務する看護職の方が経験年数が長い傾向にありました。

  

 図3 回答者の年齢分布                                  図4 養成機関に在学中に看護研究を行った経験あるものの割合

 現在勤務する職場での看護研究の(予定も含む)経験は1)の施設単位での結果とほぼ同じなので割愛して、「看護師養成機関に在学中に看護研究の経験があるか」を問うた結果を図4に示します。多くの方が養成機関在学中に研究を経験されていることが分かりましたが、研究のタイプとしては、8割以上が「事例(症例)報告・質的研究」と偏っていました。            

3)看護研究を行う際の困難
 施設単位では図2に示したとおりですが、看護職個人は実際に看護研究に取り組んでどんな困難を感じているのでしょうか。看護研究を現在の職場で行ったことのある方に、「特に苦労した点や困難を感じた点」をその他を含む6項目から複数選択可で選んでもらいました(図5)。「報告・発表」とその他を除いた4項目を過半数の方が選んでいました。やはり、日常の看護業務とは異なってなじみのない面が多く、様々な困難を感じているようです。

           

 

 

 

 

 

 

 

図5 看護研究を行う際に特に苦労した点や困難を感じた点(複数回答可)

 また、「研究計画の作成」と「統計データ分析」については、研究メンバー以外からの支援を受けたか問いましたが、研究計画の作成で90.7%、統計データ分析で79.4%が実際に支援を受けたと答えていました。ただ、支援を受けた相手が職場の上司や同僚がほとんどで、外部の、例えば地元の大学や出身学校の教員の支援を受けている方はごくわずかでした。

【おわりに】
 施設の種類によって大きな差はあるものの、大勢の看護職が勤務する大規模な病院では、必ず看護研究を行っています。最近は看護学生のうちに研究の経験を積んでいますが、それでも臨床で看護研究を行うには周りからの支援を多く必要としています。
 私も、大学で看護教育に携わる教員として、卒業生だけでなく、広く臨床の看護職の研究の支援をしようと心がけていますが、さほどお役に立てていないのが現状です。大学教員に支援を直接求めることは敷居が高いのかもしれませんが、もっと大学を活用して欲しいと思う次第です。また、臨床での技術や人柄はもちろん看護職にとって重要ですが、看護研究に関わる知識や技術の必要性をこれから看護職を目指す皆さんに分かっていただければと思います。
 さて、ここでは調査結果のごく一部しか書くことができませでした。詳しくは、私の研究※3で構築したサイト(www.kango-stat.jp)のこのページに掲載していますのでよろしければご覧ください。最後に、調査にご協力いただいた施設、看護職の皆様に感謝申し上げます。


文献
1) 野嶋佐由美、他(2011)、「看護系大学におけるモデル・コア・カリキュラム導入に関する調査研究」報告書、http://www.mext.go.jp/a_menu/koutou/itaku/1307331.htm

2) 東野督子、他(2012)、赤十字病院のキャリア開発ラダーにおける継続教育・研究環境に関する調査研究、日本赤十字豊田看護大学紀要、7(1)、161-166、http://id.nii.ac.jp/1129/00000074/

注釈
※1:EBNはEvidence-based nursing(根拠に基づいた看護)の略ですが、看護職を含んだ医療現場での連携した活動の意味を含めて、EBP(Evidence-based practice)またはEBCP (clinical practice)と示すのが最近の傾向のようです。

※2:バイアス(偏り)は、調査研究においては特に注意すべき事項です。例えば、研究に熱心でない施設は調査に協力してくれない傾向にあるとか、アンケートに答える際に望ましい方の選択肢をついつい選んでしまうとか。このような対象が偏る、回答の方向が偏る、などの様々な偏りで研究結果が影響を受けることがあるので、研究の実施や結果の解釈に際してはバイアスに対する注意が必要です

※3:この研究は以下の補助金の支援を受けた研究の一部です。
平成24~26年度科研費補助金 基盤研究(C)一般「臨床看護職者を対象とした統計リテラシー教育のためのポータルサイト構築」(課題番号24593238 研究代表者:佐伯圭一郎)