CT検査に伴う放射線リスクの推定

更新日2016.10.17

環境保健学研究室 甲斐倫明

 

研究の背景 

 医療においてX線は不可欠な診療の手段です。近年、コンピュータ断層撮影法いわゆるX線CT検査の導入が急激に進むことで多くの医療上の便益をもたらしています。一方で、放射線の被ばくによる健康リスクや検査の正当化に対する学術的な分析だけでなく、社会的関心も高くなっています。 2004年の英国の医学誌ランセットに掲載された論文は日本が世界最大の医療被ばくをうけていることを報告し新聞でも話題になりました。実は日本には十分なデータを把握する仕組みがないことから、この論文の結果は日本の実態を正確に反映したものではなかったのです。そこで我が国におけるCT検査の実態を把握する仕組み構築することが必要と考え、第1の研究課題としました。その仕組みをさらに発展させ、個々の検査から受ける線量を臨床現場で簡単にできる計算システムを構築することを第2の課題研究として取組んできました。

 従来の健康リスクを推定する研究は、医療被ばくの線量を推定し、そこから原爆データを基礎にして計算によってリスクを推定するという方式をとってきました。この推定の限界は、本当に医療検査で受けるような低い線量でも影響を観察することが困難であることから検証できていないことでした。2012年に英国のPearceらは、CT検査に伴う白血病と脳腫瘍の増加を統計的に検出したとLancetに報告しました。この論文で従来の疫学ではできなった検出力を高めることができたのは、CT検査記録と腫瘍登録というビッグデータをリンクして関係を調べることができるようになったからです。しかし、医療被ばくであるからこそ、そこに存在する交絡因子を無視できません。CT検査を頻回受けるには理由があるはずで、その理由が交絡することになって逆因果関係と呼ばれる現象が起きている可能性を否定できないからです。そこで、交絡の可能性を調べることを第3の研究課題として、それをさらに検証するための疫学研究を第4の研究課題としています。

 医療被ばくにおけるCT検査は、従来からあるリスクベネフィット分析の問題を定性的に捉えていたことでは社会的な説明責任を果たせない状況を迎えております。定量的にリスクを測り、検査の適用の妥当性を他の手段と比較して、個々の患者ごとに正当化することができるようになるようなシステム構築を目指して研究を進めていく必要があります。

 

研究方法と結果

 第1の研究課題に対して、私たちが行った日本のCT検査の実態を全国調査データに基づいて、CT検査の実施件数をモデルから推定する方法をとりました。CT検査数は、およそ病院の規模である病床数で年間の実施件数を推定することができることが判明し、これをモデル化して推定した結果、CT検査数は全国で年間2千万件を超えると推定しました。欧米との比較から人口千人あたりで比較すると、米国が207件、日本が166件であることがわかり、従来世界一とLancetで推定されていた日本の放射線検査ですが、CT検査については米国についで多いことがわかりました。

 次に、第2の研究課題に対しては、従来、CT検査から受ける線量は測定に基づいて推定していました。この方法では撮影条件や機種によって異なるために、ファントムを用いた測定だけでは、多くの撮影条件に対する評価としては実際的でありません。私たちは、放射線のモンテカルロしミュレーション法を用いて放射線の臓器線量をコピュータによる理論計算を行い、CT検査に伴う臓器が受ける放射線の量を推定するWeb計算システム(WAZA-ARIと呼びます)を開発してきました。測定では困難な小児の年齢ごとや、大人のやせ型や肥満型の体型が異なる場合にもこの方法では提供できます。個人差の影響を把握するなどの研究を進めて、臨床現場でのCT検査の利用や疫学研究のツールに貢献できるシステムを完成しました。

 米国のデータではありますが、医療施設による線量の違いが同じ目的のCT検査で最大で13倍あったと報告されています。このような実態は我が国では十分に把握されていませんが、WAZA-ARIを用いて、各医療施設がそれぞれの撮影条件で線量を評価すること、あるいはCTDIの調査によって施設間変動の存在が明らかになりつつあります。

 

 次に、第3および第4の研究課題に対しては、私たちは疫学調査の重要性を指摘し、医療の現状にそったフィージビリティ研究を行いました。 欧米では医療情報の電子化が進んでいるため、腫瘍登録データを組み合わせた大規模な疫学調査が比較的容易に実現できますが、我が国では小規模の調査では統計的検出力から困難であることが明らかにとなりました。そこで、私たちは、この研究の問題点を克服するために、施設間の線量の違いを要因との関係で分析すること、検査数が多いCT検査の背景に何があり、放射線リスクとの関連はないのかなどを分析しています。CT検査のリスクとベネフィットを量的に明らかにしていくことを目標にして研究を進めています。

 

本研究は、大学院生や外部の共同研究者との共同研究によって著者が研究代表者である科学研究費によって実施したもの及び実施中のものです。

 

 

研究成果論文:

Ono,K. et al. Estimation of the number of CT procedures based on a nationwide survey in Japan. Health Physics, 100,491-496 (2011). 

Ono,K. et al. Nationwide survey on pediatric CT among children of public health and school nurses to examine a possibility for follow-up study on radiation effects. Radiat Prot Dosimetry. 146, 260-262 (2011).

Kamei,O. et al. Calculating Patient-specific Organ Doses from Adult Body CT Scans by Monte Carlo Analysis Using Male-Individual Voxel Phantoms, Health Physics 108,44-52 (2015).

Takahashi, F. et al. Numerical Analysis of Organ Doses Delivered During Computed Tomography Examinations Using Japanese Adult Phantoms with the WAZA-ARI Dosimetry System. Health Physics, 109,104-112 (2015).