脆弱性骨折リスク因子としての骨質変化

更新日2016.12.01

生体科学研究室 岩崎香子

 

はじめに

   転倒などの軽微な外力によって骨折する病態を「骨脆弱性」といい、骨がもろくなっている状態を表します。高齢者、閉経後女性などにみられる骨粗鬆症にはこの骨脆弱性が存在するため骨折が多発します。さらに糖尿病(DM)や慢性閉塞性肺疾患(COPD)慢性腎臓病(CKD)といった生活習慣病は骨脆弱性との関連が強く、これらの患者さんの多くが骨折を経験している状況です。この「骨脆弱性」を引き起こす要因には年齢、低体重(低BMI)、低骨密度などが知られていますがその詳細は未だ不明な点が多く、骨折予防に取り組むには未知の要因を明らかにし、その対策を考える必要があります。

   私たちは脆弱性骨折が最も多く発生するCKDに着目し、実験的に腎機能を低下させたCKDモデル動物を用いた検討を行っています。その結果の一部をご紹介します。

 

慢性腎臓病(Chronic kidney disease: CKD)の骨脆弱性要因

 腎機能が徐々に低下するCKDは腎機能の状態によりステージ1~5Dに分類されます。ステージ3(腎機能が半分以下)以降になると高血圧や貧血などの合併症を生じますが、骨折もそのひとつです。CKD患者さんの骨折リスクは腎機能正常者に比べ2倍以上、透析を受けている患者さんでは5倍以上高いと報告されています。しかしながらCKDの骨脆弱性を引き起こす要因は十分に解明されていません。そこで 私たちは腎機能が正常の30%程度に低下したCKD動物を作成して骨を評価することで、骨脆弱性要因を探しました。

   CKDの骨は副甲状腺ホルモンの濃度により骨代謝回転*が極端に亢進しているものと極端に低下しているものの両方が存在します。骨代謝回転が亢進しているCKD動物(CKD-H)と低下しているCKD動物(CKD-L)の両方を作成し検討を行いました。

   まず骨の力学特性を検討しました。大腿骨の貯蔵弾性率はいずれのCKDでも低下していることが示されました(図1)。貯蔵弾性率の低下は腎機能低下の進行に依存していることも確認しています。次に骨密度を測定したところ、CKD-Hでは骨密度の明かな低下が観察されましたが、CKD-Lでは正常と同レベルでした(図2)。これらの結果からCKDの骨はしなやかさが低下した折れやすい状態となっているが、この状態は骨密度低下によるものではないと考えられました。そこで、骨の質に着目し、構成要素の一つである骨組成を解析しました。

   

 

   ラマン分光法(レーザー光による物質の化学組成を検出する方法)で骨を解析したところ、ミネラル沈着度の変化(図3(a))、結晶化度の低下(図3(b))、ペントシジン比率の増加(図3(c))が観察されました。またX線回折からはアパタイト配向性がCKDで低いこと(図3(d))が明らかとなりました。これらの結果を整理すると次のようになります。

1)結晶化度の低下(結晶構造の乱れ)や配向性(結晶軸の揃い方の程度)の低下は骨強度を低下させることから、CKDでは骨強度が低下していると考えられる。

2)ミネラル沈着度は低くても高すぎても骨強度に影響することから、CKDでは骨強度が低下していると考えられる。

3)ペントシジンは酵素作用を介さずに形成されるコラーゲン架橋の一つで骨の弾性(しなやかさ)を決定する。CKDではその比率が上昇していることから、しなやかさが低下した骨の状態になっている。

   今回の解析で骨組成変化のすべてが骨代謝回転に依存しているわけではないことも明らかとなりました。さらに統計的な解析から、ペントシジン比率の上昇とアパタイト配向性の低下が骨力学特性に影響することが示されました1)。これらの結果から、骨組成の変化はCKDにおける骨脆弱性要因の一つだと考えられます。

 *骨代謝回転:骨は常に骨吸収(骨を溶かして壊す)と骨形成(壊された部分に新しい骨をつくる)という過程を繰り返して新陳代謝を行っている。

 

 

骨脆弱性に対する対策

   CKDの患者さんは腎機能低下が進行するとタンパク質の摂取を制限するという食事指導を受けますが、これはタンパク代謝物による腎機能悪化を予防するためです。この方法は実は骨にとっても効果的であることを私たちは動物実験や培養実験で確かめています2,3)。また内服薬の経口吸着剤(食事性のタンパク代謝物を腸管内で吸着し血中濃度上昇を抑制する薬)は骨の力学特性を改善できることを見出しています3)。腎臓の保護やミネラル補正のための対策(予防や治療)が実は骨折リスクを軽減している可能性があります。さらに最近の研究から高血圧薬の服用でもCKD患者さんの骨折リスクを軽減できることが示されています4)

 

おわりに

 骨の強度は「骨量」と「骨質」によって規定されます。「骨量」は骨密度測定で評価することができますが、「骨質」を評価する方法は特殊な装置や前準備が必要なため、現在のところ「骨量」ほど、簡単に評価できません。しかしながら、今回ご紹介したように骨質の変化は骨力学に大きく影響します。骨質に関する研究も少しずつ増えてきており、近い将来骨質の劣化を導く要因とその具体的対策が明らかとなると思います。

   いずれにせよ、骨折しないためにはまず自分の骨そのものに関心を持ち、定期的な骨密度測定等により自分の骨の状態を知ること、食事や運動をはじめとした生活習慣の見直しが重要です。

 

   一連の研究は東海大学腎内分泌代謝内科、福島県立医科大学腎臓高血圧内科、大阪大学大学院工学研究科などの協力を得て行ったものです。

1)  Iwasaki Y et al. Bone. 2015, 81:247-54.

2)  Iwasaki Y, et al. Bone. 2013, 56(2):347-54.

3)  Iwasaki Y, et al. Bone. 2013, 57(2):477-83. 

4)  Yamamot o S, et al. PLoS One. 2015 Apr 13;10(4):e0122691.