救急部門で勤務する看護師は自傷患者にどのように関わっているか

更新日2015.08.31

杉本 圭以子(精神看護学研究室)

【はじめに】
 わが国において、中高年の自殺は減少傾向ですが、若者の自殺は増えています。若者の中には、命に関わらない程度に自分を傷つける自傷患者も増えており、その後の自殺リスクは高いと言われます。そのため、自傷者を含め自殺未遂者への対応は、その後の自殺を防ぐために重要な課題といえます。
しかし、命を救う場所である救急部門の看護師は、自ら身体を傷つけて受診した患者に対し否定的な感情を抱きやすく、対応に不安や困難を感じ患者を回避する傾向にあると言われます。そこで救急部門の看護師に、自傷患者にどのように関わっているか、どんな認識を持っているか調査し、自傷患者への関わりとして推奨される声かけを行っている看護師の特徴を明らかにすることを目的としました。

【方法】
 無作為に選んだ長野県以西の三次救急50病院と二次救急50病院の看護師1000名に質問紙を配布し262名(26.2%)から郵送で回答を得ました。質問紙は回答者の属性、職場環境、自傷患者に対する看護師の関わりと感情、認識について問う項目から構成しました。

【結果】
ほとんどの看護師は自傷患者の救命と傾聴に努めていました。しかし、「処置が終わったらそっとしておく」、「あたりさわりなく関わる」といった回避的関わりをする看護師も8割にのぼりました。自傷により心のバランスをとっているケースもあり、「自傷をやめるよう説得」したり、「叱る」ことは推奨されませんが、その関わりは1割以下でした。しかし、再企図リスクアセスメントにつながる「どんな理由で自傷したのかたずねる」のが5割、「死にたいかどうかたずねる」のは3割にとどまりました(表1)。
 看護師の認識の面では、「自傷患者に関わると嫌な気分になる」「自分で傷つけたのに助けを求めてくるのは腹立たしい」と否定的感情を持っているのは4割でしたが、「どう対応したらよいかわからなくて不安」と7割が答え、自分には知識・技術がないと認識している看護師が多いことがわかりました。
 一方で、自傷患者に積極的に声かけしている看護師の特徴は、これまでに対応した自傷患者の数が多いこと、自傷患者の看護にやりがいを感じていること、自分の気持ちを同僚に表現できること、対応する時の不安が低いこと、救急で研修を受けたこと、がありました(表2)。

 

表1.自傷患者に対する「関わり」得点の因子分析

 

表2.「積極的声かけ」得点に関する要因の重回帰分析

 

【考察】

救急部門のほとんどの看護師は、自殺未遂者に対しても看護の基本である救命と傾聴を行っていることがわかりました。しかし、希死念慮の確認が3割にとどまったのは先行研究(鈴木他,2010;福田他,2006)と一致し、自傷や自殺についてたずね、再企図のリスクアセスメントの実施は低いことがうかがわれました。
一方、自傷患者に対して積極的に声かけする看護師の特徴に、「対応への不安が低いこと」がありました。約7割の回答者が「どう対応したらよいかわからなくて不安」と答えており、自傷患者への対応には多くの看護師に共通する不安があると考えられます。こうした不安について富樫ら(2011)は、病院独自の対応フローチャートを簡略化して利用しやすくしたことで自殺の背景をたずねるときの不安が軽減したと報告しています。
まずは看護師自身が、自傷患者にどのように対応すると良いかを学ぶことが大切ですが、実際の対応を看護師個人にまかせるのではなく、院内の体制として準備することを通して看護師の不安を軽減し、自傷患者への看護のやりがい感を高めることが適切な関わりにつながるのではないかと考えます。
今後は、組織としてのケアの準備を視点に検討し、救急部門の看護師への支援となる研究を続けたいと考えています。

【文献】
福田紀子,石川崇子,久保まゆみ,他(2006):救命救急センターに入院している自殺企図患者に対する看護師の認識や態度,日本看護学会誌,15(2),15-24.
鈴木紗央里,富樫由香里,塙愛,他(2010):自殺未遂患者に対するTALKの原則に基づいた看護介入の安全性-第1章-,日本救急看護学会雑誌,12(3),182.
富樫由香里,山田朋樹(2011):理想的な取り組み例から学ぼう①院内連携でケアをつなぐ,EMERGENCY CARE,24(11),43-48.