ゲートキーパーの経験年数による自殺観や自殺対策への考え方、自殺の危機介入スキルの違いについて

更新日2017.04.11

精神看護学研究室 後藤 成人

 

【目的】

 日本は先進国の中で最も自殺率の高い国の一つであり、毎年の自殺者数は高い水準で経過しています。このような現状を鑑み、平成19年に政府が提示した自殺総合対策大綱では、自殺の早期対応の中心的役割を果たす人材を養成することを重点課題としており、ゲートキーパーの養成もその施策の一つです。自殺対策におけるゲートキーパー(以下GK)とは、自殺の危険を示すサインに気づき、適切な対応(悩んでいる人に気づき、声をかけ、話を聞いて、必要な支援につなげ、見守る)を図ることができる人のことで、言わば「命の門番」とも位置付けられる人のことであり(厚労省)、現在各自治体で多くのGKが活躍しています。今回の本調査の目的は、今後のGK養成のための一助とするため、GKとしての経験年数に焦点を当て、自殺観や自殺対策への考え方、自殺の危機への介入スキル(SIRI)に経験年数で違いがあるのかを明らかにすることです。

 

【対象者と方法】

 対象者は、O県A市で活動している105名のGKです。対象者宛てに郵送法で無記名自記式質問紙を配布し、39名(37.1%)から回答を得ました。質問紙は、厚労省の調査や先行研究を参考に独自作成し、GKとしての経験年数(2年以上か2年未満か)、自殺観や自殺対策への考え方、自殺の危機介入スキル尺度(SIRI)を含むものとしました。

 なお、SIRI(Suicide Intervention Response Inventory)とは、Neimeyer & MacInnes(1981)によって作成されたもので、相談者への、援助者AとBの受け答えがどのくらい適切、または不適切と思うかを-3(とても不適切)から3(とても適切)で回答するものです。本調査では、川島らが2010年に作成した日本語版を使用し、GKとしての経験年数が2年以上の人と2年未満の人および、自殺対策の専門家(ベースライン)との間で違いがあるかを検討しました。

 

【結果】

 GKとしての経験年数が2年以上の人が14名(35.9%)で、そのうちの10名(71.4%)は、実際に自殺念慮者の対応を行ったことがありました。経験年数が2年以上と2年未満の2群で、自殺観や自殺対策への考え方に差はありませんでした。

 しかし、SIRIの‟妻が四年前に亡くなってから私は生きる意味を見失ってしまいました。子供たちは、今はもう成長し、結婚していて、私は会社を退職してしばらく経ちます。なんだか死んだ方がましなような気がするんです。”という訴えに、‟でも、考えてみてください。奥様はあなたにどうしてほしいと思うでしょうか。あなたに生産的な人生を送り続けてほしいと思うのではないでしょうか?”と答える項目(図1)と、‟私は本当に父親を憎んでいるんです!父は私に一度も愛情を示してくれたことがありませんし、いつも完全に無視されています。”という訴えに‟あなたがもっとも必要としている時に父親が側にいなかったことに対して、あなたはとても怒りを感じるのでしょうね。”と答える項目(図2)の2つに差がありました。

 

図1. 「妻が四年前・・・」との訴えに「でも、考えてみてください・・・」と回答する項目の得点差

 

図2. 「私は本当に父親を・・・」との訴えに「あなたがもっとも必要と・・・」と回答する項目の得点の差

 

【考察】

 今回の調査結果から、GKとしての経験年数が多い方が、自殺の危機にある人へ自殺対策の専門家に近い介入ができるようになる可能性があることが分かりました。GKとして活動する年数が増えることで、自殺の危機にある人々に対応するケースも増え、その経験がスキルを向上させる可能性があります。

 ただし、GKになる人は、必ず医療従事者であるというわけではありません。自殺の危機にある人への対応は、医療従事者でも難しいとされているため、今後GKに、どのようなスキルが必要なのか、どのような支援が必要なのか考えていく必要がありそうです。

 

※今回の調査結果は、第36回日本社会精神医学会でも発表をさせていただきました。