A市の産科医療機関における産後ケアの現状と展望

更新日2017.05.01

母性看護学研究室 徳丸 由布子

 

【はじめに】

 産後ケアとは「分娩施設退院後の母親の身体的・精神的回復と、母親役割獲得を目的としたケア」と言われています(島田 2016)。我が国では平成20年に産後ケア専門施設が誕生し、現在では専門施設や病院・助産所において、「宿泊型(ショートステイ)」「日帰り型(デイケア)」「訪問型(アウトリーチ)」の形態により行われています。

 産後ケア誕生の背景には、母子とその家族を取り巻く社会情勢の変化があります。出産年齢の上昇や、核家族の増加、入院期間の短縮化などにより、産後の母親は育児技術を十分習得できずにサポートの少ない環境への退院を余儀なくされる場合があります。これに対し、育児不安の軽減や虐待予防の観点から、産後ケアが注目されるようになりました。厚生労働省は、平成32年度末までに妊産婦等を支える地域の包括支援体制の構築を全国的に整備する方針を示し、地域に応じた産後ケア事業の実施を奨めています。一方、退院後の母子を支援する体制としては産科医療機関や行政など多くが挙げられますが、先行研究では分娩施設の助産師によるケアを望む声が多いことが明らかにされています(坂梨 他 2014)。

 そこで本研究では母子を支援する主要機関である産科医療機関に焦点をあて、A市の産後ケアの現状と展望を明らかにすることを目的としました。今回は調査結果の一部をご紹介させていただきます。

 

【方法】

 分娩を取り扱うA市の産科医療機関11施設の看護職の責任者に対し、産後ケアに関する質問紙調査を行いました。分析は統計解析ソフトSPSSver.22を使用し単純集計、Mann-WhitneyのU検定、t検定を行いました。大分県立看護科学大学研究倫理・安全委員会の承認を得て実施しました(承認番号16-25)。

 

【結果・考察】

 質問紙は9施設(回収率81.8%)から回収され、全てを分析対象としました。

1)産後ケアの実施状況

 9施設全てが産後ケアを行っていました。研究者が独自に策定した15項目の産後ケアに関して、実施状況を図1に示します。ショートステイを実施する施設は2施設、デイケアは1施設と少ないことが分かりました。

    図1 産科医療機関が実施している産後ケア(n=9)

 

 また、産後ケアの実施項目数を施設形態で比較すると、診療所が病院に比べて有意に多くなっていました(p=0.013)。この理由として、今回対象となった病院ではハイリスクの方を多く対象とされていることが考えられました。

 そこで診療所において、施設概要を各々上位群と下位群に分けて産後ケアの実施項目数を比較したところ、助産師数の上位群と下位群において有意差を認め、上位群は下位群に比して実施ケア数が多くなっていました(p=0.035)(表1)。

 

表1 診療所における助産師数による産後ケアの実施項目数(n=7)

 

2)産後ケアに対する認識

 産後ケアが必要と回答されたのは9施設全てであったことから、産後ケアの必要性が強く認識されていることが分かりました。産後ケア推進を希望されたのは8施設で、希望しなかった1施設は「推進した方がいいという気持ちはあるが、金銭面や人材確保の面から難しい」と回答されており、施設および母子を対象とした経済的支援や人材確保が求められると考えられました。

 

【おわりに】

 本研究では、母子を支援する主要機関である産科医療機関に焦点をあて、A市の産後ケアの現状と展望を明らかにすることを目的として調査を行いました。その結果、全ての施設が工夫をしながら産後ケアを行っていることが分かりました。また、産後ケアの必要性の認識や推進に対する希望も強いことが分かりました。一方、金銭的問題や行政制度の確立、助産師を中心としたマンパワー確保が課題となっており、A市で産後ケアを実施するにあたってはこれらの対策が早急に求められると考えられます。今後も母子とその家族がより安心して育児を行えるような支援を検討していきたいと考えています。

 本研究の実施にあたり、調査にご協力いただいた施設責任者ならびに看護職責任者の皆様に心より御礼申し上げます。

 

 なお、この研究は本研究室の卒論生と共同で行った研究の一部を紹介しています。

 

 

文献

厚生労働省 子育て世代包括支援センターの法定化・全国展開

http://www.mhlw.go.jp/file/05-Shingikai-10901000-Kenkoukyoku-Soumuka/0000131913.pdf

坂梨薫 他(2014). 産後退院後の母親が望む支援 4ヵ月未満の乳児をもつ母親の選好から.関東学院大学看護学会誌 1(1).16-24.

 島田真理恵(2016).【産後ケア報告から見えてきた今後の課題】平成27年度 子ども・子育て支援推進調査研究事  業「より効果的な妊娠出産包括支援事業としての産後ケアのあり方に関する研究」研究結 果の概要. 助産師  70(3).11-14.