加齢性の嚥下機能低下予防に関する研究~嚥下機能低下予防方法の提案~

更新日2017.07.03

基礎看護学研究室 秦さと子

【はじめに

 高齢者の誤嚥の原因の一つには、のどに食物が進入したと同時におこる嚥下反射惹起の遅延があります。のどは食物と空気の通路という二面性をもつことから、嚥下は空気の通り道を遮断して食物を食道へ誘導する切り替えの役割があります。この切り替えの開始と食物ののどへの進入のタイミングがずれると誤嚥をきたします。つまり、切り替えの開始に相当する嚥下反射惹起のタイミングが正常に働くように維持することが誤嚥を防ぐ重要な対策の一つになります。
 これまでの取り組みで、健康な高齢者の嚥下反射惹起は加齢性に低下しているものの正常範囲内での変化(以下、隠れ嚥下機能低下)であることから異常を自覚しにくいという特徴があることがわかりました。この隠れ嚥下機能低下は、少しの体調の崩れから嚥下障害に至るリスクが高いことを示唆します。誤嚥を予防するためには、一見正常な嚥下機能を呈していても加齢の影響を受けている可能性があることを認識し、より高い予備能を維持するための行動をとることが望まれます。

 2014年3月に本頁で「加齢性の嚥下機能低下予防に関する研究~嚥下機能低下予防介入時期の検討~」をテーマに取り組んだ研究の一部をご紹介いたしました。その際に20歳代と近い機能を維持するためには50歳代からの取り組みが適当であるということを提案いたしました。
 今回は、具体的な嚥下機能低下予防方法についてご紹介させていただきます。

 唐辛子の成分であるカプサイシンは嚥下反射惹起遅延を改善させることがわかっています。
 そこで、本研究では、日常生活で入手しやすいトウガラシ添加食品(白菜の浅漬け)を用いて嚥下反射機能への効果を明らかにすることで、高齢者の嚥下機能低下予防のための対策の一助になることを目的としました。

方法

 65歳以上の健康な高齢者(以下, 高齢者)と20歳代の健康な女性(以下, 若年者)を対象に、20日間毎食直前に1回10gの白菜の浅漬け(約200gの浅漬けに輪切り唐辛子2~3切れ入れてつけたもの;食べる時には唐辛子を除き浅漬けを軽く絞る)を食べてもらいました。その浅漬けを食べ始める前日(0日)と20日間摂取した翌日(21日目)に嚥下反射機能を測定しました。その後7日間(21日目から27日目;未摂取期間)は可能な限りトウガラシ添加食品の摂取を控えてもらい28日目に再度嚥下反射機能を測定しました。嚥下反射機能の測定は、簡易嚥下反射誘発試験(Simple-Swallowing Provocation Time:S-SPT)を用いました。

結果・考察

 結果を図1に示します。トウガラシ添加食品である白菜の浅漬けを20日間摂取した後(21日目)、高齢者の嚥下反射惹起時間は摂取前(0日)に比べ有意に短縮しました。また、若年者に関しても同様に摂取前に比べ摂取後は有意に改善しました。さらに、高齢者の摂取前の嚥下反射惹起時間は、幅広く分布していることから個人差が大きかったのですが、トウガラシ添加食品を20日間摂取した後は、摂取前に比べると全体的に分布は1秒付近に集中しました。若年者は摂取前の分布は高齢者に比べばらつきが小さく個人差が少なかったのですが、20日間摂取後は高齢者と同様に摂取前に比べ分布が改善方向に移動しました。以上のことから、トウガラシ添加食品の20日間の摂取は、年齢や個人の嚥下機能状態に関係無く嚥下反射機能の改善効果がある可能性が示唆されました。
 これらのことから、トウガラシ添加食品(白菜の浅漬け)を継続摂取することによって、嚥下障害をおこすリスクの高い状況にあっても、予備能を高めることができる可能性があるといえます。この結果は、Ebiharaらのカプサイシントローチを高齢者に対し4週間連日投与しその効果を報告(Ebihara et al 2005)したものと類似した結果でした。

 7日間トウガラシ添加食品を食べなかった場合(28日目)、高齢者の嚥下反射惹起時間は摂取前と有意な差を認めませんでした。未摂取7日間の間にどのように機能低下していくのかは不明ですが、7日で摂取前の値と差がない状況になったことを考えますと、高齢者は摂取期間を7日以上空けないようにトウガラシ添加食品を摂取する必要がある可能性が示唆されました。
 一方、若年者は7日後も機能低下をきたしていないばかりか、摂取後(21日目)よりもさらに時間短縮しています。このことから、若年者に関しては少なくとも7日間は改善した機能が維持されると考えられます。
以上より、若い年代から定期的な予防対策をとっていると、高い予備能力を備えた状態が維持できるばかりでなく、予防に対する介入頻度も少なくできる可能性が示唆されました。

 

詳しくは下記のURLに記載しています。よろしければご覧ください。
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC4824833/pdf/455_2015_Article_9668.pdf

本研究は、以下の助成金の支援を受けた研究の一部です。
平成23~25年度科研費助成金 若手研究(B) 「トウガラシ添加食品による加齢性の嚥下機能低下予防法の検証」(課題番号23792740) 

文献
Ebihara T, Takahashi H, Ebihara S et al (2005). Capsaicin troch for swallowing dysfunction in older people. JAGS 53, 824-828.