手指消毒薬とアトピー性皮膚炎悪化の関連

更新日2017.09.05

生体反応学研究室 定金 香里

【はじめに
 新型インフルエンザやO-157、ノロウィルスといった微生物感染症が流行し、日常的な手指衛生の重要性が改めて意識されるようになりました。今日、あらゆる場所で手指消毒薬のボトルを目にします。これは、薬剤を手のひらに取って皮膚に擦り込むだけですが、高い消毒効果があり、洗い流さなくて良いので簡単です。特に衛生面に気を遣う医療職者や食品を扱う方々は、日に何度も手指消毒をしなくてはなりません。しかし、肌の弱い方にとって心配なのは、手荒れです。特に、アトピー性皮膚炎の人は、外部の刺激に対して過剰に反応し、炎症が悪化しやすいので、洗い流さない擦式の手指消毒薬は、薬剤が長く皮膚にとどまり、炎症を悪化させる恐れがあります。
 今回、擦式手指消毒薬の有効成分として用いられている、塩化ベンザルコニウム、エタノール、グルコン酸クロルヘキシジンと、医療現場で用いられているポビドンヨードの4種類について、アトピー性皮膚炎を悪化させるかどうか、動物実験によって確かめたので、その結果をご報告します。


方法
 マウス(NC/Nga系)の耳の皮下にダニ抽出物(アレルギーを引き起こすアレルゲンとして働きます)を2、3日おきに8回、投与してアトピー性皮膚炎を発症させました。その間、0.2% (w/v) 塩化ベンザルコニウム、10% (w/v) ポビドンヨード、80% (v/v) エタノール、0.5% (w/v) グルコン酸クロルヘキシジンを週に6日、計15回、アトピー性皮膚炎誘発部位に塗布しました。濃度は、実際に手指の消毒に用いられる濃度に準じました。


結果
皮膚症状
 アトピー性皮膚炎の症状である、乾燥、紅斑、びらん、痂皮、浮腫の程度を観察し、スコア化しました。図1は実験期間中の平均皮膚症状スコアの経時変化を示したものです。AD群とは、アトピー性皮膚炎の誘発のみを行った群のことで、薬剤を塗布する代わりに蒸留水を塗布しています。この群よりも、塩化ベンザルコニウムを塗布した群(AD+BZC群)は統計的に有意に皮膚症状が増悪していました。ポビドンヨードを塗布した群(AD+PVP-I群)、エタノールを塗布した群(AD+Et-OH群)もAD群より高い値でしたが、統計的に有意な差はありませんでした。グルコン酸クロルヘキシジンを塗布した群(AD+CHG群)は、AD群と同程度でした。

図1.皮膚症状スコアの経時変化

 

炎症細胞浸潤
 組織に異物が侵入してくると、炎症細胞と呼ばれる細胞が多数、集まってきます。アレルギー性の炎症では、特に好酸球、マスト細胞という種類の炎症細胞が組織に浸潤してきて炎症を引き起こします。そこで、耳の皮下組織にどれくらい、好酸球やマスト細胞が集まってきているか、数えてみました。
 図2に示す様に、AD+BZC群は、好酸球、マスト細胞ともにAD群よりも有意に増加していました。また有意差はありませんでしたが、AD+Et-OH群でも増加する傾向がありました。AD+PVP-I群は、好酸球は増加していませんでしたが、マスト細胞数は増加傾向にありました。一方、AD+CHG群は、AD群と同じ程度でした。

図2.皮下組織中の炎症細胞数

血清中抗体量
 アレルギーでは、アレルゲンに特異的に結合する抗体というタンパク質が増加します。そこで、マウスの血液を採取し、ダニ特異的 IgG1抗体と総IgE抗体の量を測定しました。ダニ特異的IgG1では、塩化ベンザルコニウム、ポビドンヨード、エタノールを塗布した群は、統計学的に有意ではないものの増加する傾向にあるのに対し、グルコン酸クロルヘキシジンを塗布した群は、増加していませんでした(図3)。一方、総IgE量は、塩化ベンザルコニウムを塗布した群で有意に増加していましたが、エタノールやグルコン酸クロルヘキシジンを塗布した群では増加していませんでした。

図3.血清中抗体量


考察
 今回、4種類の消毒薬有効成分がアトピー性皮膚炎を増悪するか、疾患モデル動物を用いて調べました。その結果、塩化ベンザルコニウムを塗布することによりアトピー性皮膚炎が強く増悪されました。ポビドンヨードやエタノールも、やや増悪する傾向にありました。一方、グルコン酸クロルヘキシジンは増悪をしませんでした。
 これらのことから、アトピー性皮膚炎の罹患している人は、塩化ベンザルコニウムを含む手指消毒薬の使用は避けた方が良いことが示唆されました。一方、グルコン酸クロルヘキシジンはアトピー性皮膚炎の方が使用しても、それが原因で悪化はしないという結果が得られました。ただし、この結果は、遺伝的素因や環境がコントロールされた実験動物を用いた実験から得られたものです。人では影響に個人差が生じますので、その点にご留意下さい。