早期退職した病院勤務の新卒看護師の入職から退職後までの心理的プロセス

更新日2017.10.05

看護アセスメント学 山田 貴子

【はじめに】
 近年、新卒看護師の早期離職が問題となっています。新卒看護師の離職要因には、専門職としての責任の重さや看護技術不足(久保ら 2008)、消極的な職業選択動機(松下ら 2004)、リアリティショック(平賀ら 2007)などがあります。新卒看護師の中には、離職願望を持ちながらも退職せずに職務継続できている者と退職してしまった者とがいます。先行研究では、早期退職してしまった新卒看護師を対象にした研究は少なく、また、離職願望をもちながら、何に苦しみ、葛藤し、何が支えとなったのか、離職に踏み切った動機や退職後など、入職から退職後までの一連のプロセスを明らかにした研究はありません。そこで、本研究では、新卒看護師として就職した病院を入職後1年以内に早期退職した者を対象に、新卒看護師の入職から退職後までの心理的プロセスを明らかにすることを目的としました。

【方法】
1.研究参加者
 看護基礎教育課程を修了後、新卒看護師として初めて就職した病院を入職後1年以内に退職した者としました。研究参加者の探索は、初めはA看護系大学教員の協力のもと、教員が知り得た情報の範囲で研究参加者の探索を行い、その後は研究参加者から紹介を受け、スノーボール方式で研究参加者の探索を行いました。
2.データ収集期間
 2011年4月~2011年10月
3.データ収集方法
 半構成的面接法により行い、研究参加者の希望する場所でプライバシーが守られる個室を確保し、インタビューガイドを用いながら面接を実施しました。面接内容は、研究参加者の同意のもとICレコーダーに録音し、逐語録に書き起こしたものをデータとしました。
4.分析方法
 木下によって考案された修正版グラウンデッド・セオリー・アプローチを用いました(木下1999;木下2003)。本研究の分析焦点者を「新卒看護師として初めて就職した病院を入職後1年以内に退職した者」、分析テーマを「早期退職した病院勤務の新卒看護師の入職から退職後までの心理的変化のプロセス」と設定しました。本研究は、大分県立看護科学大学研究倫理安全委員会の承認を得て実施しました。

【結果】
1.研究参加者の概要
 研究参加者は男性2名、女性8名の合計10名でした。最終学歴は全員が看護系大学卒業でした。配属部署は全員病棟で、新卒看護師への教育支援体制は全員がプリセプターシップでした。面接時間は30分~100分でした。研究参加者の概要は表1に示します。

2.早期退職した病院勤務の新卒看護師の入職から退職後までの心理的プロセス
 分析の結果、早期退職した病院勤務の新卒看護師の入職から退職後までの心理的プロセスには、5つの時期があり、12カテゴリーと35概念が生成されました。入職から退職後までの心理的プロセスは、入職当初、新卒看護師は自己の理想とは違う【現実の世界への戸惑い】と【どうしたら良いのか分からない】状態にあり、看護師としての自立を求められ【看護師としての模索】が始まりました。できない【自己への失望】から辞めたいと思うようになりますが、【心の調整】をしながら辞めたい気持ちを思い止めていました。仕事の失敗やインシデントを起こした新卒看護師は【仕事のミスをした自己価値のゆらぎ】により【看護師としての自己のあり方を自問】していました。この時の新卒看護師は【心身のバランスの崩壊】状態にありました。そして、【退職決断の引き金】により【退職の決断】をしました。退職後は【当時の自己を客観視】する行動と【自己の成長】がありました(図1)。

【考察】
 早期退職した新卒看護師は自己の能力と職場で求められる能力の差に悩み、看護師としての自己評価の低さが心理状態に強く影響していました。自己の限界の時期にある新卒看護師は、自己の状況を正しく判断できないほど追い詰められた状態であったと考えられます。人は追い詰められた状態になると、正しく判断できず、できていることもできていないと認識してしまう恐れがあります。そして、追いつめられれば、ストレス源となっている職場から逃れたいという気持ちへ変化していったと考えます。日高・茅原(2009)の研究では、同期の励ましは情緒的サポートに効果的で就業継続につながっていることが示唆されています。ベテランや先輩ナースでなくても、自己の立場を共感してくれる存在、自己否定をブロックしてくれる存在を求めていたと考えられます。そして、新卒看護師自身が、看護へのやりがいや楽しさ、看護師としての適性感を感じられる体験、学習してきた内容が仕事の中で活かされているという実感や手応えを自分自身で見出し、感じることができなかったことが、退職という方向に導かれたと考えます。

【引用文献】
・久保公子、上釜真須美、竹下エミ子(2008).新卒看護師の感じる苦痛と離職を考える理由に関する調査.日本看護学会論文集:看護管理、38、3-5.
・松下由美子、柴田久美子(2004).新卒看護師の早期退職に関わる要因の検討-職業選択動機と入職半年後の環境要因を中心に-.山梨県立看護大学紀要、6、65-72.
・平賀愛美、布施淳子(2007).就職後3か月時の新卒看護師のリアリティショックの構成因子とその関連要因の検討.日本看護研究学会雑誌、30(1)、97-107.
・木下康仁(1999).グラウンデッド・セオリー・アプローチ‐質的実証研究の再生‐.東京:弘文堂.
・木下康仁(2003).グラウンデッド・セオリー・アプローチの実践 質的研究への誘い.東京:弘文堂.
・日高麻美、茅原路代(2009).新人看護師の就業継続に影響するエピソード分析.日本看護学会論文集:看護教育、39、42-44.

※本研究は日本看護研究学会第39回学術集会で発表させていただきました。また、日本看護研究学会雑誌 Vol.38 No.5 p41-51に掲載されており、上記はその一部を抜粋したものです。