独白の談話音調とその解釈

更新日2015.04.30

言語学研究室 宮内信治

1.緒言
 Brazil(1994)の談話音調理論を枠組みとし、Jane Austenの著作 “Sense and Sensibility” を通して、物語中の登場人物個人の、心の中での自分自身との対話(心理的独白)や、物理的な聞き手がいない状況での独り言(独白)が朗読の世界でどのような音調で表現されているのか、また、その音調がどのような意味や役割を担っているのかを検討する。

2.方法
 Macmillan Readersシリーズの “Sense and Sensibility”を通読し、独白、または心理的独白を描写した部分を特定した。その後、原書版テキストOxford World’s Classic版 “Sense and Sensibility”と原書版音源Naxos The Complete Classics unabridgedのJuliet Stevenson朗読による “Sense and Sensibility”を用いて該当個所を特定し、その特定個所について聞き取りにより音調を確認した。

3.結果
3-1.場面の確認と選定
 簡略版および原書版で同様に独白、または心理的独白として確認できた場面のうちの場面③「LucyとEdwardとの秘密の婚約を批判するElinorによる心理的独白」に焦点を絞って結果を示し考察していく。場面③を選んだ理由としては、原書版における記述の量が多いこと、登場人物であるElinorの心の声が、間接話法ではあるものの、疑念を表現する疑問文も含めて豊かに表現されていることがあげられる。今回は、その表記部分の初めから四分の一の文量に限定して考察する。

3-2.談話音調の確認
 今回選定した場面③について、音調の変化が観察されたところをTone Unit(以下、TU)の区切りとして分割した結果、合計で22個のTUとなった(補遺参照)。音調の変化は、下降調(p: proclaiming tones)、下降上昇調および上昇調(r: referring tones)、平坦調(l: level tones)の3種類として資料を観察した。

4.考察
4-1.仮説設定(TU#1-TU#8)
 EdwardがLucyと秘密裏に婚約していることがLucyの告白で明らかになり、さらに、Lucyの状況説明がその整合性を裏付ける内容であることにElinorは強い疑念を持つ。Edwardが隠し事をしているとすれば、それは結果としてElinorの恋心をもてあそんだことになるが、Elinorはそれを信じたくない。何かの間違いであり、Edwardが意図したことではない、とElinorは信じたい。そこで、「もし仮に、Edwardが意図的に私をだましたと仮定したら?」という内容が文自体からも読み取れる。今まで考えもしなかった新しい仮説、情報のnewnessとしてTU#1、TU#2が下降調で表現され、また、現状と対照的な内容であることを示す機能(Brazil, 1994: 85)としてTU#2のintentionallyでそのprominenceにおいてkeyが上昇している。「だました」という認識はすでに確認されているため、TU#3は共有された情報として上昇調で表現されている。TU#4からTU#6の3つのTUはそれぞれ上昇調で表現されている。これは、先ほどのTU#1と#2の仮説を共有された前提とすればあり得る内容である、仮説から当然導かれることである、という意味を込めている、と解釈される。つまり、TU#4から#6の上昇調は、[TU#1-TU#3]; [that is to say,] [TU#4-TU#6]の関係における[that is to say,]というdiscourse markerの役割を果たしている、と考えられる。平坦調は並記、並列、列挙を意味する音調であり、TU#7の平坦調はそれに続くTU#8につながるものと考えられる。そして、TU#8にみられる下降調も、Elinorが今まで考えてもみなかった、そして考えたくもない仮説としての「Edwardが心から願っているLucyとの婚約」の新規性を、一般的に上昇調で表現すると考えられているYes/No疑問文において下降調で表現しているところがmarkedとして認められると考えられる。

4-2.仮説への反証とその裏付け、および結語(TU#9-TU#22)
 まずはTU#9にて仮説の否定をしている。ここで、相対的にkeyが下がっている。これは、前述の仮説があり得ないことへの静かな自信、または、あり得ない仮説をあえて設定した自分自身への自責の念など、解釈は分かれるかもしれない。ただ、その落ち着いた音調の変化は、Elinorのsense & sensibilityの一端を象徴的に表現しているとも考えられる。
 TU#10から#11は仮定法の表現で、改めてありえないことを仮定しているため、両方とも下降調によってそのありえなさ(newness)が現れているようである。また、譲歩を表すwhateverに対する反駁として、現状においてそのようなことは信じられない、ありえないという意味がやはり新規なものとして下降調で表現されていると解釈される。
 TU#13と#14にみられる下降調は、他に論を待たない、という談話の終了(Wichmann, 2000)、すなわち、Elinor自身の自己完結、結論、断定、さらには、そう信じたいというElinorの願望が表現されているようである。それを強調すべく、TU#15のcouldのkeyが上昇している。
 かつてElinorの一家が住んでいた故郷NorlandにEdwardがやってきたとき、彼が彼女に示した愛情は疑いのない事実である。それは、自分の母親、自分の2人の姉妹、そして、兄嫁であるFannyがちゃんと見て知っているではないか。そうした事実の存在、状況確認を共有している人々の存在をTU#16から#18の上昇調の連続が示しているようである。
 TU#21において、vanityの部分ではっきりした下降上昇調が確認できた。これは、その直前のTU#20で下降調にて結論付けられていると思しき内容、Edwardが抱いているElinorへの愛情がElinor自身の思い違いではないという断定が、自分の虚栄心や独りよがりからくるものではなく、すでに述べたとおり、家族たちがそれを認めているという共有された事実が存在する、という解釈からとられた音調であると考えられる。
 以上のことから導かれる結論は、「Edwardが私(Elinor)を愛していることは確かである」(TU#22)と断定的に下降調で締めくくり、その論理的客観性を強調せんがためにcertainlyのkeyが上昇している。しかし、いくら客観的事実がそろってそれらが理路整然と論理にかなっていても、所詮は他人(Edward)の気持ちのことであり、断定など到底できるものではない。にもかかわらずこのような結語を高らかに告白するElinorの別の一面、つまり、sense & sensibilityの持ち主として周囲から一目置かれる主人公Elinorの内面の人間臭さが表現されており、そこに音調による表現が加わることで本作品のそこかしこにみられるおかしみ、面白味が増幅されていると考えられる。

5.結語
 本研究では、物語の中で表現される登場人物の独白および心理的独白に着目し、そこで展開される個人の心の中での自分自身との対話において談話音調がどのように展開、表現され、それらがどのように解釈されうるか、また、その音調の意味内容がテキスト解釈にどのような効果、影響を見せているかを、文学作品 “Sense and Sensibility” の朗読音源の一端をもとに観察し、検討した。本論はあくまでも一資料の中の非常に限定された部分にのみ着目しており、その結果は一般化には遠いものではあるが、朗読を介した物語の世界は、黙読だけでは味わうことのできない物語解釈を可能にしてくれそうである。

参考文献
Austen, J. (2005) Sense and Sensibility. Read by Juliet Stevenson, The Complete
Classics: Unabridged. Naxos Audiobooks: London.
Austen, J. (2008) Sense and Sensibility. Oxford World’s Classics. Oxford University
Press: Oxford.
Brazil, D. (1994) Pronunciation for Advanced Learners of English: Student’s Book.
Cambridge University Press: Cambridge.
Wichmann, A. (2000) Intonation in Text and Discourse: Beginnings, middles and ends.
Pearson: Harlow.
(本論は平成26年6月開催の日本英語音声学会全国大会にて発表した予稿集掲載論考を修正したものである。)

補遺
Sense and Sensibility, OUP p103, Vol II, Chapter I, Scene ③; Naxos Audiobooks CD4: Track 12 (01:26-01:59)

(Her resentment of such behavior, her indignation at having been its dupe, for a short time made her feel only for herself; but other ideas, other considerations soon arose.)
Had Edward been intentionally deceiving her? Had he feigned a regard for her which he did not feel? Was his engagement to Lucy, an engagement of the heart? No; whatever it might once have been, she could not believe it such at present. His affection was all her own. She could not be deceived in that. Her mother, sisters, Fanny, all had been conscious of his regard for her at Norland; it was not an illusion of her own vanity. He certainly loved her.

TU#
1. // p HAD EDdward been //
2. // p in↑TENtionally //
3. // r deCEIVing her? //
4. // r HAD he FEIGNED //
5. // r a reGARD for her //
6. // r which he DID not FEEL? //
7. // l was his enGAGEment to LUcy, //
8. // p an enGAGEment of the HEART? //
9. // p ↓NO; //
10. // p whatEver it MIGHT //
11. // p ONCE have BEEN, //
12. // p she could not beLIEVE it such at PREsent. //
13. // p his aFFECtion //
14. // p was ALL her OWN. //
15. // p she↑COULD not be deceived in THAT.
16. // r her MOther, //
17. // r SISters, //
18. // r FAnny, //
19. // p all had been CONscious of his regard for her at NORland; //
20. // p it was NOT an ilLUsion //
21. // r of her OWN VAnity. //
22. // p he↑CERtainly LOVED her.

p : a proclaiming tone; r : a referring tone; l : a level tone
↑: high key; ↓: low key; the underlined prominences are tonic syllables.