救急救命センターを持つ病院の看護師に対する犯罪被害者に関する研修の状況

更新日2017.12.12

人間関係学研究室 関根 剛

【はじめに
 2017年度、公共広告機構(ACジャパン)が広告キャンペーンとして、犯罪被害者支援について取り上げています。犯罪被害者に対する支援の必要性は、犯罪被害者等基本法の制定(2004)以後、しだいに司法・行政分野では着目されるようになってきていますが、他の分野ではあまり支援の必要性という意識が浸透している状況にはないように思われます。同じ被害者である災害被害者支援については、阪神・淡路大震災(1995)、東日本大震災(2011)、熊本地震(2016)等、災害が続いていて、かつ、関連する専門領域も行政・医療福祉・心理・教育など幅広いこともあり、関心を持たれる度合いが異なっています。「看護分野における「被害」等をキィワードにした研究について検討したところ、2846件のうち、45%が「虐待」に関する研究であり、「院内暴力」14%、「災害」11%で、「犯罪被害」は6%でした(関根,2115)。このように研究においては、看護分野では犯罪被害に関してあまり高い関心を抱いていない現状にあると考えられます。
 身体犯や交通事犯という犯罪被害者の多くは最初に医療機関と関わります。そして、被害者はASDやPTSD症状をおこしやすいなど、対応に配慮が求められることも少なくありません。医療の現場では被害者という特性に応じた対応が行われることが望ましいのは言うまでもありません。では、医療現場では実際に、犯罪被害者に関する対応や理解のための研修が実施されているか、必要性が認識されているかについて、実態を調査しました。

【方法
調査対象:全国の救急救命センターを有する医療機関245病院の看護部看護部長ないしは院内看護研修責任者です。
調査方法:245病院の看護部長を対象に調査用紙を郵送して回答を依頼しました。調査内容は、患者の死に関わる項目、患者や医療者のPTSDに関わる項目、犯罪被害者に関わる項目など、10項目を独自に作成し、「実施した」、「未実施だが、是非実施したい」、「機会があれば実施したい」。「特に実施しなくてもよい」の4段階で回答を求めています。研究協力の同意については、調査用紙の返送をもって意思確認としています。なお、調査の倫理的手続き等については、大学の倫理委員会の承認を得て実施しました。

【結果と考察
 245施設中85施設から有効な回答(有効回答率34.7%)を得ました。過去3年間における看護師を対象とした研修実施状況(以下、研修実施状況)を4段階で尋ねた結果を表にしまします。最も実施されていた研修は「ターミナルケア」(80.0%)で、続いて「患者暴力」、「エンゼルケア」(65.9%)、「大災害時の看護」(50.6%)など、日常業務と密接なものや、既に日本看護協会等においても研修がなされている技能・知識の研修の実施率が高く、「未実施だが、是非実施したい」を含めると全体の8割が研修実施に積極的な回答でした。日本看護協会でも「患者暴力」対策マニュアルや「大規模災害時の看護ケア」「災害支援ナース」の育成など、重要な業務として推進している影響があると考えられます。
 一方、いわゆる犯罪の被害者に関する研修を「実施した」のは、「殺人・傷害被害者」(0.0%)、「交通被害者遺族」(1.2%)、「性被害者」(2.4%)、「交通事故被害者」(4.7%)など5%未満と極めて小数でした。さらに、「特に実施しなくてもよい」と研修の必要性を認めてなかったのは、これらの項目すべてで10%を超えていました。「機会があれば実施したい」とあわせると7割が犯罪の被害者に関する研修実施には、基本的に消極的な回答でした。このようになった理由は、看護師業務のために優先しなければならない研修が多く、現実的に看護師の多くが多忙であることなどの事情もあると考えられますが、研修を「特に実施しなくてよい」と必要性を否定した回答が1割もあったことを考えると、いまだ犯罪被害者を患者の個別性の体験として重視していない状況にあると考えられます。
 内閣府の調査(2007,2009)によれば、犯罪被害者が不快な経験をした場面として、医療機関が28~44%あげられています。加害者関係者、マスコミ等と比べると高い数値ではありませんが、それでも少なくない割合の犯罪被害者が医療機関で不快な経験をしています。まだ、看護協会等によるマニュアル等も作られていないことを考えると、医療機関において犯罪被害者へのケアについては、これからの課題にとどまっていると思われます。