ブラジル国アマゾナス州におけるコミュニティヘルスワーカーの活動に関する住民の認識と満足度

更新日2018.01.05

地域看護学研究室 川崎涼子

【はじめに
 コミュニティヘルスワーカー(以下CHW)は、プライマリヘルスケアの推進を担うことを目的に、住民と保健医療サービスとの懸け橋となる人材としてさまざまな国で育成、配置されています。特に活躍がめざましい国はアフリカ諸国 中国、米国、ブラジルなどです。日本における民生委員と保健師の中間のような存在です。広大な地域、へき地、保健医療資源の乏しい地域では、健康や疾病予防の貴重な人材です。しかし、医療従事者としての教育を受けないままに活動していることや、十分な研修やスーパーバイズを受ける機会が少ないことから、不適切な保健サービスを行うといった、好ましくない影響についても慎重に考慮する必要があります。
 ブラジルにおけるCHWプログラムは、 1990年代初頭より開始され、1997年からはブラジル統一保健制度(Sistema Único de Saúde )の一部としてブラジル全土で展開されています。ブラジル保健省(2011)が示すCHWの役割と機能は、少なくとも月1回の担当地域での家庭訪問、必要に応じて医療機関への紹介・搬送、妊産婦の確認と妊婦ケアへの紹介、住民への予防接種や手洗いの健康教育等の実施など18項目があります。
 本研究では、医療資源の乏しいブラジルのアマゾン川流域で実施されたコミュニティヘルスワーカーへのブラッシュアップ研修の効果について、活動に対する住民の認識と満足度から評価することを目的としました。

【対象と方法
1.対象地域
 アマゾナス州マニコレ市であり、北海道の半分ほどの面積を有し、人口51,311名(2013年)のうち約15,000名が市の中心部(以下、市街地)に、その他はアマゾン川の最大支流であるマデイラ川沿いに点在する225の集落(以下、遠隔地)に居住しています。マニコレ市街地は、ブラジルの首都リオデジャネイロ市から国内線の空路で3時間半、小型航空機で約1時間かかります。さらに、市街地から最も近い集落は、モーターボートで30分程度、最も遠いところは15時間以上かかります。また、雨季・乾季によっても、川の水量の関係で船やモーターボートが使えなくなる地域もあり、医療機関へのアクセスは容易ではなく、日頃のCHWの活動が非常に重要です。
2.コミュニティヘルスワーカーブラッシュアップ研修
 2004年から2006年にかけて行われた地域保健強化プロジェクトの一環として、マニコレ市で活動するCHWを対象として、毎月実施されました。
3.評価方法
 ベースライン時(2004年)および最終評価時(2006年)に、CHW活動に対する住民の認識および満足度を調査しました。対象地区を、市街地とアマゾン川沿いの遠隔地に分け、それぞれの地域から無作為に地区および世帯を抽出しました。データ収集は、調査員が訪問し、世帯主または主婦に対し、構成的面接調査を実施しました。ベースライン調査では、市街地50世帯、遠隔地100世帯、最終評価調査では、市街地100世帯、遠隔地100世帯を対象としました。
 住民の認識は、CHWの機能・役割を定めたブラジル保健省CHWマニュアルに基づきCHWの活動18項目について、それぞれ1)CHWの機能・役割の理解、2)CHWへ期待する機能・役割、3)優先度が高いと考えるCHWの機能・役割を尋ねました。
 CHWの活動への満足度については、「CHWは毎月訪問するか」「CHWは家族員の健康状態をよく理解しているか」「家庭訪問は役に立っているか」「CHW活動はあなたや家族の健康維持のために満足いくものか」の4項目を尋ねました。
 分析は、カイ二乗検定またはフィッシャーの正確確率検定、Mantel-Haenszel 検定を行いました。

【結果
 ベースライン151家族、最終評価時198家族から回答が得られました。CHW活動に対する住民の認識と満足度は、居住地域にかかわらず、ベースラインに比べ最終評価時には統計的に有意に向上しました(表1、図1、図2)。特徴としては、図1に示すように、「強い薬を投与する」「注射を行う」ことを期待すると回答した住民の割合が、ベースライン時に比べ最終評価時には減少しました(P<0.001)。また、「病人を病院へ連れていく」ことを期待する住民の割合は増加しました(P=0.031)。CHW活動に対する住民の満足度については、「家庭訪問は役に立っているか」などすべての評価項目において、有意に向上しました(図2)。

 

【考察
 ブラジル国アマゾナス州のような医療資源の乏しい地域においても、研修やスーパービジョンを通じて継続的にCHWを支援することにより、CHW活動の質を担保し、サービスを受ける住民の満足度が向上することが示されました。しかし、こうした地域で定期的に専門家による研修やスーパーバイズを行うことは容易ではありません。
 とくに、遠隔地を多数抱えるこのような地域では、研修にe-lerningなどの遠隔地学習支援の活用が必須になってきています。保健医療資源としての施設の準備や、人材の育成には莫大なコストや時間が必要であり、人材配置に苦慮する地域医療という点は、日本においても同様の状況が起きつつあります。日本国内においても中心的医療機関と離島やへき地を結ぶ遠隔システムはすでに開始されていますが、そうしたシステムに加え、住み慣れた地域をよく知る住民自らが研修を受けて活動するCHWのような人材配置プログラムも必要です。日本の民生委員や、健康増進推進員なども、地域においての重要な保健医療福祉の人材です。遠隔医療システムと、住民組織活動が融合することで地域におけるUniversal Health Coverageや地域包括ケアを支える重要な鍵となると考えます。

この研究は、"Reactions of community members regarding community health workers’ activities as a measure of the impact of a training program in Amazonas, Brazil"としてJournal of Rural Medicine Vol. 10, No. 1, 2015. に掲載された論文の一部です。