抗がん剤による脱毛を看護ケアするための基礎的検討

更新日2018.08.31

 

生体科学研究室 濱中良志

【はじめに】
 現在、癌の罹患数は増加しており、2人に一人は癌(悪性腫瘍)に罹患することが知られている。癌に対して手術療法後に抗がん剤を使用した化学療法が行われている。抗がん剤の副作用の1つに脱毛がある。脱毛は精神的苦痛と感じられるが、脱毛に対する取り組みはあまりされていないのが現状である。今回、我々はC57Black/6の黒いマウスを用いて、抗がん剤による発毛抑制実験系を構築し、αリポ酸誘導体(Zn/His)が、抗がん剤により誘発される脱毛からの回復に影響を及ぼすかを検討した。
 
【方法】

 8週令のメスマウス(体重約20g)を脱毛してから、1週間飼育した後、1週間、毎日、生理食塩水または40mg/mlのAraC(シタラビン :Cytarabine )、を0.1ml、腹腔内に注射した。脱毛してから、1週間飼育した後、2週間、毎日、1回、1.0%の濃度のZn/Hisをマウスの脱毛した背部に一定量を塗布し、マウスの背部の発毛状態を肉眼で観察し撮影した。観察終了後に背部の皮膚を摘出し、ヘマトキシリン-エオジン(HE)染色を施行した。

【結果】
抗がん剤AraCによる発毛抑制効果に対するαリポ酸誘導体の効果(肉眼的観察)      

 脱毛したマウスを1週間飼育した後、腹腔内に1週間、毎日AraC、40mg/Kg を投与し、背部に1.0%の濃度のZn/Hisを14日間塗布して、発毛状態を経時的に肉眼的に観察した。AraC(+)群(AraCのみ投与)では、抗がん剤開始15日後で、ほとんど発毛がみられなかった(図1)。AraC(+)+αリポ酸誘導体群では、発毛の増強が見られた。他方、AraC(-)(AraCの非投与)のマウスの背部には、脱毛から8日後に発毛を認め19日目以降は、脱毛前の発毛状態に戻っていた(図1)。

抗がん剤AraCによる発毛抑制効果に対するαリポ酸誘導体の効果(顕微鏡的観察)      

 抗がん剤により誘発される脱毛からの回復におけるαリポ酸誘導体の効果を、抗がん剤投与開始15日後のマウスの背部の皮膚を用いて組織学的に検討した。AraC(-)群は正常の皮膚組織が観察された(図2A)に比較して、AraC(+)群では、毛根数の著名な減少を認め、毛根が存在していても毛髪の芯となる部位が欠落していた(図2Bの矢印)。更に、真皮層が約半分の厚さに減少し、メラニン産生細胞も著しく消失していた(図2B)。他方、AraC(+)+αリポ酸群では、AraC(+)群と比較して優位に毛根の数が増加し、メラニン産生細胞も多数存在することが観察された(図2C, 3)。 

【考察】      

 マウスの実験により、抗がん剤AraCによる脱毛からの発毛に対して、αリポ酸誘導体は促進効果があることが観察された。αリポ酸誘導体は、がん患者の抗がん剤治療により誘発される脱毛に対しても応用でき、患者への精神的負担を軽減し良い看護ケアが提供できる可能性が示唆された。