青年期の愛着スタイルとファン対象に関する行動について

更新日2019.02.05

 

人間関係学研究室 吉村匠平

【はじめに】
 愛着とは「危機的な状況に際して、あるいは潜在的な危機に備えて、特定の対象との接近を求め、またこれを維持しようとする個体(人間やその他の動物)の傾性」(数井・遠藤:2005)のことを言います。本研究では、「スポーツや芸能での熱狂的な愛好者ファナティック(fanatic)の短縮語」(清水:1997)である「ファン(愛好者)」にとって、ファン対象が愛着行動の対象として機能するという仮説の下、青年期の愛着スタイルとファン対象の有無及びファン行動との関係性を検討しました。
 青年期は、愛着対象が親から友人へと移行していく時期であると同時に、アイデンティティ確立の時期です。青年期にある者が、様々な事由から精神的なバランスを失した場合、危機的な感情を平穏化する愛着行動の対象として、ファン対象を選ぶケースがあるではないかというのが、この研究の出発点です。
 どのような愛着スタイルを持つものが、愛着対象としてファン対象を選択しやすいのでしょう?ファンとファン対象の間には、物理的に一定の距離が保たれています。子どもが保護者に接近するように、ファンがファン対象に接近することは困難です。加えて、ファンによるファン行動が、ファン対象に直接的影響を与える可能性は低く、両者のやりとりに相互性が伴うことは、現実問題として極めて低いと言わざるを得ません。
 このように考えると、危機的な状況に際して愛着行動を行うが、他者に対してネガティブ情動の表出を行うことが多く、そこでのやりとりに相互性が伴わない(中尾:2012)「アンビバレント型」の傾向が強い者が、愛着行動の対象としてファン対象を選びやすいと考えることができます。他方、「回避型」のものは危機的な状況に際しても、他者から距離を取ろうとするため、自らファン対象を持ち、ファン対象に近づこうとするファン行動自体を取ることが少ないと考えられます。

【研究方法】
 大学1、2、4年生242名に調査票を配布し、127名(男13名、女114名)から回答を得ました。無記名自記式質問調査。質問紙は、(1)個人属性(性別、ファン対象の有無)、(2)ファン対象に関する質問(好きな芸能人、ファン対象が出来た年齢、ファンクラブ入会の有無、ファン対象に費やす1日あたりの時間、1年に費やす金額)、(3)品川(2010)、瀧(2012)の依存行動尺度をもとに作成したファン対象への依存に関する質問11項目(4段階評価)、(4)詫摩・戸田(1988)による成人の内的作業モデル尺度(Internal Working Models)に関する質問18項目(6段階評価)、から構成しました。

【結果1】
 回答数は127(回収率52.5%)。ファン対象があると答えたものが89人、ファン対象がないものが37人。ファン対象有のうちファンクラブ入会者が24名、非入会が58名、ファンクラブが無いと答えたものが7名でした。ファン対象が出来た時期については、8歳から22歳までの回答があり、平均値15.9歳、中央値15歳となりました。1日にファン行動に費やす時間については、30分未満が50人、30分以上1時間未満が23人、1時間以上2時間未満が10人、2時間以上3時間未満が3人、3時間以上が2人であり、中央値は30分以上1時間未満でした。年間に費やす金額については最小値が0円、最大値が20万円、平均値15898.7円、中央値5000円という結果が得られました。

【結果2】
 ファン対象への依存尺度について重みなし最小二乗法・プロマックス回転による因子分析を実施し、2因子解を採択しました。第1因子は、芸能人に費やすお金や時間を減らそうとして失敗したことがある、芸能人への行動について罪悪感を覚えたなどの、ファン行動の優先に関する項目でしたので、「生活への悪影響/ファン行動の優先」と命名しました。第2因子は、芸能人が自分の心の支えになっている、芸能人の人気が上昇すると嬉しくなるなどの項目から構成されていたので、「精神的支え」と命名しました。

【結果3】
 ファン対象有のうち「1日に費やす時間」が30分以上、「年間に費やす金額」が5000円以上、「ファン対象が出来た年齢」が15歳以下、「生活への悪影響/ファン行動の優先」の因子得点が0以上の4つの条件全てを満たすものを「熱狂群(n=8)」、1項目も満たさないものを「非熱狂群(n=15)」としました(それぞれの基準は中央値)。熱狂群、非熱狂群、ファンなし群(n=34)の、安定型、アンビバレント型、回避型の因子得点の代表値と散布度を下の表に示します。愛着スタイルの因子得点を従属変数とし、Kruskal-Wallisの検定を行った結果、アンビバレント得点は「ファンなし群」よりも「熱狂群」が有意に高く(p<.05)、回避得点は「熱狂群」「ファンなし群」より「非熱狂群」が10%水準で有意に高い傾向にあることが明らかになりました。

【結果4】
 アンビバレント型因子得点と「精神的支え」(r=.19、p<.05)、「年間に費やす金額」(r=.24、p<.05)の間、「1日に費やす時間」(r=.18、p<.10)、「生活への悪影響/ファン行動の優先」(r=.17、p<.10)間に相関(傾向)がうかがわれました。回避型因子得点と「ファン対象が出来た年齢」(r=.29、p<.01)、「1日に費やす時間」(r=-.16、p<.10)間に相関(傾向)がみられました。安定型とアンビバレント型の因子得点は精神的支えと正の相関があるのに対し、回避型の因子得点には「精神的支え」との相関が認められませんでした。

【考察】
 結果1は、愛着の対象が成長に伴い、8歳から14歳までに両親から友人へと徐々に移行する(数井・遠藤:2005)という指摘と相応するものでした。数井・遠藤(2005)は、15歳から17歳になると、愛着対象が友人に置き換わり、そのうちの83%は第一のアタッチメント対象を異性の友人と考えていると指摘しています。14歳以後の時期にファン対象が出来たものが多いという本研究の結果は、ファン対象が愛着対象として機能している可能性を示唆する証左の1つになると考えます。
 結果3から、「熱狂群」は「ファンなし群」よりアンビバレント型の傾向が強く、「非熱狂群」よりも回避型の傾向が弱いことが示されました。物理的な接近が困難であり、やり取りに相互性が伴うことがなく、直接ネガティブ情動が表出される恐れの少ないファン対象を愛着対象とする人には「アンビバレント型」の傾向が強いという仮説が支持されました。
 結果4からは、回避型の傾向が強い者は、ファン対象ができた時期が遅く、一日に費やす時間も少なかった。ファン対象に精神的な支えとしての機能を求めていないことが示唆されました。

【参考文献】
数井みゆき・遠藤利彦(2005),アタッチメント-生涯にわたる絆,ミネルヴァ書房
中尾達馬(2012),成人のアタッチメント‐行動スタイルと行動パターン,ナカニシヤ出版
瀧一世(2013),インターネット依存とその測定について:インターネット依存傾向尺度作成の試み,奈良大学大学院研究年報18, 83-91
詫摩武俊・戸田弘二(1988),愛着理論からみた青年の対人態度:成人版愛着スタイル尺度作成の試み,東京都大学人文学報,196,1-16
清水均編(1997),現代用語の基礎知識 1997年度版,自由国民社
品川由佳(2010),大学生のギャンブル依存に関する調査,広島大学保健管理センター研究論文集26,51-57

本研究は、人間関係学研究室の卒業論文生、教員と共同で行った研究です。第76回九州心理学会(2015、大分)で発表しました。