喉頭摘出者の永久気管孔に関するセルフケアに関連する要因

更新日2019.11.25

保健管理学研究室 吉川加奈子

【はじめに】
 喉頭摘出術とは、下咽頭、喉頭、頸部食道などのがんに対して行う根治術の一つですが、現在喉頭摘出者は全国に3万人程度いると言われています。この手術では、がん摘出のために気道と食道を分離する必要があり、分離した気道の断面を頚部の前面に縫合する(永久気管孔の造設)ため、喉頭摘出者は呼吸を鼻や口ではなくこの永久気管孔で生涯行わねばなりません。喉頭摘出者にとって最も避けたいことの一つは、永久気管孔に水などの異物が入り込むことです。入浴などの日常生活行動であっても、永久気管孔があることで危険になることがあり、不安や不便を軽減するためにも普段の生活においてセルフケアは重要になります。しかしながら、日々の永久気管孔の不十分なケアが原因で再入院に至ることもあり、日常において特殊なセルフケアが必要になるにもかかわらず、その自己管理の難しさも懸念されるところです
 そのため、永久気管孔を持つ方々が安全で健康的な生活を続けられるように、永久気管孔に関するセルフケアにはどのような要因が関連するのかを明らかにすることを目的として、研究を行いました。

【研究方法】
1. 対象者
 NPO法人日本喉摘者団体連合会の患者会から25の会を対象とし、そのうち会員825人を対象にしました。
2. 調査方法
 患者会宛に、郵送で無記名自記式質問紙を配布しました。質問紙では、永久気管孔の自己管理で必要な保清・保湿・保護に関すること、外来受診や患者会参加頻度といったソーシャルネットワーク、受けているソーシャルサポート(知識・情報的支援、情緒的支援、評価的支援)について尋ねました。永久気管孔の自己管理で必要なことについては、喉頭摘出者とかかわることが多い現職の看護師と言語聴覚士および患者会会員の協力を得ながら、永久気管孔造設後のトラブルや注意点が記載されている国内外のパンフレットやホームページと照らし合わせて、独自に質問項目を作成しました。

【結果
 
調査票の配布は825部に対し、回収数は495部(60.0%)でした。そのうち、永久気管孔に関するセルフケアに関する質問項目の回答に欠損や重複のない429名を分析対象としました(有効回答率52.0%)。
 回答者は男性が多く(88.0%)、年代は70代が最多でした(50.3%)。平均術後経過年数は9.5±8.8年でした。
 永久気管孔に関するセルフケアの合計点に対し、Pearsonの積率相関係数が有意であった項目は、ソーシャルネットワークの「喉頭摘出者と会う頻度」r=.139、ソーシャルサポートの「知識・情報的支援」r=.415、「評価的支援」r=.426、「情緒的支援」r=.405でした。「外来受診頻度」「患者会に通う頻度」「喉頭摘出者以外の人に会う頻度」については、有意な相関は認められませんでした(表1、2)。

【考察】
 ソーシャルサポートとは社会の中で得られる支援を総称したもので、実体的あるいは心理的な支援があります。House(1981)は、ソーシャルサポートを、道具的・情報的・評価的・情緒的支援に分類しました。今回の研究では、これらのうち情報的・評価的・情緒的支援に注目して調査を行いましたが、すべて永久気管孔に関するセルフケアに正の相関が認められました。
 ソーシャルサポートのうち、もっとも相関係数が高かった「評価的支援」とは、自己評価に関する支援で、行動などに対して支持的なフィードバックを返していくことです。喉頭摘出者は、永久気管孔があることによる生活上の留意点など新たな知識やケアに必要な手技を習得しなければなりません。しかし、手術による負担はこれだけでなく、術後1年の間に「食べる」「排泄する」「話す」「呼吸する」という習慣化された生活すらもままならず生活しづらくなることが示されています(小竹2015)。具体的かつ支持的なフィードバックは、喉頭摘出したことによる新たな生活に適応するための重要な支援と考えられます。
 よって、生活のサポーターである看護師が、医療的な知識を活かしながら、喉頭摘出者が生活に適応していく上で状況に応じた評価的支援が継続的に確保できるような環境づくりとその調整を行うことは、意義のあるケアの一つと考えます。

【謝辞】
 本研究は、The 1st International Conference of Nursing (ICONURS)(2019)で発表した研究の一部を紹介したものです。調査にご協力いただきました全国の日喉連患者会会員の皆様ならびに分析にご協力いただきました看護師の皆様に、心より感謝申し上げます。