精神科デイケアにおけるIMR参加者のパーソナルリカバリーの変化

更新日2020.01.30

精神看護学研究室 杉本 圭以子

【はじめに】統合失調症をはじめとする精神障害を持つ方が地域で生活するための支援には、薬物療法と合わせて効果的な心理社会的プログラムの提供が重要です。「障害を抱えながらも希望や満足に満ちた人生を送るための新しい目的と意味を作り出すプロセス」と定義されるリカバリーの考え方を志向したプログラムの一つに、参加者が自らの希望や目標すなわちリカバリーゴールを考え、疾病マネジメントについて学ぶIMR(Illness Management and Recovery:疾病管理とリカバリー)があります。初めにリカバリーの概念を学び、自らのリカバリーゴールを設定し、疾病や薬の知識や自らのストレス対処、再発リスクサイン、利用できる社会資源等について学びます。
 プログラムの進行につれてリカバリーゴールや行動に変化がみられますが、それらがどのように変化し、当事者が希望を実現し満足できる生活を送ることを意味するパーソナルリカバリーはどのように促進されたのか、その特徴はまだ明らかではありません。本研究では、精神科デイケアにおけるIMRの参加者が前後に設定した「リカバリーゴール」と「それを実現するための行動」の特徴を示す因子を質問紙の自由記述から整理し、IMRによりパーソナルリカバリーがどのように促進されたかを検討しました。

【研究方法】A県の2つの精神科病院デイケア利用者を対象としました。
 両病院ともIMRをデイケアプログラムとして、1クール9か月から12か月にわたり、週1回1セッション60~90分で実施しました。8~10名でスタートし、グループ形式で行いました。実施者は、デイケア所属の看護師、精神保健福祉士が中心となり、内容によって医師、薬剤師が担当しました。
 IMR参加者(以下対象者)に、IMRの1クール開始前と終了後に、リカバリーゴールとそれに対する行動について自記式調査票によるアンケートを実施しました。具体的には1)リカバリーゴール(教示文:あなたがやってみたいこと(あなたのリカバリーゴール)はどんなことですか?)と、2)リカバリーゴールを実現するための行動(教示文:それを実現するために、どんなことをしていますか?)について自由記述を求めました。
 IMRの開始前と終了後(以下IMR前、IMR後)に記述された1)リカバリーゴール、2)リカバリーゴールを実現するための行動について、テキストマイニングの手法を用いてその要素を抽出しました。テキストマイニングとは、定性的なデータである文章を系統的に処理する仮説探索型の分析方法です。本研究では、樋口により開発された「KH Coder」Ver3を使用し、分析しました。
 研究協力者であるIMR実施者から対象者に、研究の目的、方法、個人情報の扱い、参加への自由意思、拒否した時の不利益はないこと、治療やデイケアとは無関係であることを書面・口頭で説明し、回答をもって同意としました。本研究は、筆者所属機関の研究倫理安全委員会の承認を受けました(承認番号1107)。

【結果】IMRは平成28年4月~平成29年12月に2病院で計3クール実施しました。参加した28名の内、途中で8名が参加を中断し、対象者は受講を完了した20名としました。対象者の平均年齢は43.0歳(SD=10.64)、男性13名(65%)、女性7名(35%)、主診断名は統合失調症16名(80%)、神経症2名(10%)、うつ病1名(5%)、適応障害1名(5%)でした。
 「リカバリーゴール」の記述データの分析から、IMR前後から各5因子が抽出されました。IMR前の因子は「仕事に就く」「友人と仕事を得て生活をする」「行きたいところへ行く」「家庭を持つ・幸せに暮らす」「楽しみながら病気と付き合う」でした。IMR後は「人を大切にする・自分自身で生きる」「心が安定した状態で仕事に就く」「精神的経済的に自立する」「役割を果たし普通に生活する」「デイケアに自分のペースで参加する」でした(表1)。

 「リカバリーゴールを実現するための行動」の記述データの分析から、IMR前で4因子、IMR後で5因子が抽出されました。IMR前のリカバリーゴールを実現するための行動の因子は「IMRに参加する」「デイケアや教室に通って勉強している」「デイケアに参加して活動している」「規則正しい生活をしている」で、IMR後は「デイケアや作業所に通って体力をつけている・人と交流している」「人とのつきあい方、買い物の仕方に挑戦している」「就労訓練を受けている・楽しみの時間を作っている」「母が作ったカフェで働いている」「デイケアに参加して生活リズムを整えている」でした(表2)。

 

【考察】記述されたリカバリーゴールは「何かを得ること」から「どのような状態でいたい」に変化し、実現するための行動は、他者とのかかわりや就労などのステップアップ、楽しみを作る等多様になり、活動の場が広がっていました。
 パーソナルリカバリーには二つの側面があるとされます。‘何かを得ること’は客観的リカバリーの側面であり、‘どのような状態でいるか’は自身のあり方を表す主観的リカバリーの側面です。IMRで「ストレスに対処すること」や「自身の再発防止サインに気づく」という内容を学ぶことで、より自分の状態に目を向けることができるようになったと考えられます。
 また、IMR前は自分以外の人に関する記述はありませんでしたが、IMR後は「人を助けられる人間になりたい」「相手から自分自身が必要とされる人になりたい」と人との関わりに関する記述がみられることが特徴でした。その理由として少人数のクローズドグループで数か月にわたり、参加者がお互いに情報共有やサポートをしながら、疾患について学ぶIMRのプログラムの構造による影響が考えられました。すなわちIMRのプログラムの構造により参加者同士のピアサポートの力が活用され、リカバリーを促進する可能性が推察されました。

謝辞: 本研究の調査にあたり、快く研究に協力していただきました皆様に深く感謝いたします。本研究は、「精神障害とリハビリテーション」(印刷中)の内容を一部紹介したものであり、JSPS科研費19K19741の助成を受けたものです。