看護学生および看護師における患者の状態に関する臨床推論の比較―看護基礎教育向上に向けて―

更新日2020.07.07

看護アセスメント学研究室 藤内美保

【緒言】
 看護師は、刻々と変化する患者の状態を適切に判断し、その判断に基づき看護実践を行う。適切な判断のために、患者の状態に関する情報を集め、仮説となる臨床推論を行い、さらに必要な情報を集めつつ、臨床推論を絞りこみ、最終的な臨床判断へと仮説検証を繰り返す思考プロセスがある。臨床判断は、患者の状態の健康問題やその程度、重症度、緊急度、見逃してはならない問題などを判断し、看護介入を行う。
 本研究では、臨床推論し、さらに必要な情報収集を行い、臨床推論を絞り込むプロセスに焦点を当て、看護学生と看護師の比較を行い、看護基礎教育における適切な臨床判断のための教育方法の示唆を得ることを目的とする。

【方法】
 
対象はA看護系大学2年次生10名、4年次生10名、看護師11名の計31名とした。
 方法は、まず、情報の少ない事例(以下、初回事例情報)を提示し、事例の情報から予測した臨床推論を記述してもらった。さらに臨床推論した根拠を口頭で述べてもらった。次に臨床推論を絞り込むため、追加情報(以下、追加事例情報)を提示し、絞り込んだ臨床推論を記述してもらった。同様に絞り込んだ臨床推論の根拠を口頭で述べてもらった。記述した臨床推論の内容をカテゴリー化した。口述したことは録音し、逐語録を作成し、内容をカテゴリー化した。
 提示した事例は、脱水または熱中症を引き起こしている情報を記載した。初回事例情報は、高齢女性で、倦怠感、食事摂取不足、水分摂取不足、不眠などがあり、息子が外来受診させたが、ぐったりしており、呼びかけをやめると眠り込む状況があった。追加事例情報は、バイタルサインデータ、検査データ、畑仕事が日課、むせる状況が続いていたことなどの情報を提示した。
 本研究は、研究者所属施設研究倫理・安全委員会の承認を得て実施した。

【結果】
 初回事例情報、追加事例情報から「脱水または熱中症」に絞り込んだ臨床推論を行った看護師、4年次生、2年次生の各々の思考プロセスを図1、図2、図3に示す。これらの結果について、以下に説明を加える。

 1)初回事例情報から予測された臨床推論の対象別の平均コード数は、看護師6.1コード、4年次生4.0コード、2年次生3.6コードであった。臨床推論した内容は、看護師は、「脱水の可能性」9件、「低血糖の可能性」5件、「脳梗塞の可能性」4件、その他6コードが3件、21コードが1~2件であった。4年次生は「脱水の可能性」「栄養状態低下の可能性」8件、「睡眠障害の可能性」6件「意識障害の可能性」3件、その他14コードが1~2件であった。2年次生は、「脱水の可能性」9件、「睡眠障害の可能性」8件、「熱中症の可能性」「意識障害の可能性」3件、その他10コードが1件~2件であった。

 2)臨床推論を絞り込むために必要な情報のコード数は、看護師は30コード挙げられ、「病歴」「皮膚状態」「生活パターン」等が上位であった。4年次生は14コードで「栄養関連の検査データ」「血液検査データ」「麻痺の有無」などが挙げられた。2年次生は7コードで「欲しい情報なし」が3件で最も多かった。

 3)見逃してはならない情報に着目しているかという観点で、「外来受診時にぐったりして、呼びかけをやめると眠ってしまう」という情報に着目したのは、看護師は100%、4年次生は77.8%、2年次生は53.3%であった。

 4)追加事例情報を提示し、「脱水または熱中症」として臨床推論を絞り込んだ根拠のデータ数の平均は、看護師は7.5個、4年次生、2年次生は各4.5個であった。その根拠の中で、体温や血圧値、腎機能データなど客観的数値を判断根拠としたものは、看護師は100%、4年次生では37.5%、2年次生では33.3%であった。

【考察】
 1)少ない情報から気がかりな情報を捉え、臨床推論する能力は、学年ごとに着実に向上している。また、臨床推論から必要な情報をとり、臨床推論を絞り込む思考プロセスについて、看護師は、臨床推論をより多く考え、推論を絞り込むための必要な情報量も学生より多く導いていた。それらの情報は、客観的、科学的な視点や身体面や生活面に関する多角的な追加情報から、「脱水」「熱中症」の可能性を判断していた。その一方で、学生は追加情報数が少なく、客観的データを捉えて臨床推論を絞り込むという思考になっているケースとそうでないケースが混在していた。看護基礎教育においても、多角的視点から必要な情報は何かを導く思考の強化が必要である。またデータから矛盾を指摘するコメントは少なく、合致したデータから推論を絞り込む一方向的な思考であったことから、矛盾するデータの存在を吟味する思考の強化が示唆された。

 2)2年次生、4年次生は、「不眠」「軽度の意識障害」といった提示情報をそのまま臨床推論し、データや状況を総合して予測する臨床推論の思考に至っていない場合があった。看護師は、脱水や脳梗塞、低血糖といった緊急性や重症性のある臨床推論することができていた。また見逃してはならない意識レベルの低下について、看護師は100%注目していたのに対し、4年次生は約2割、2年次生は約5割の学生は注目しておらず、緊急性や重症性、見逃してはならない状況の判断能力を向上する必要性が示唆された。

【謝辞】
 本研究は、本研究室の卒論生とともに行った研究の一部を紹介したものです。本研究の調査にあたり、快くにご協力いただきました協力者の方々に心から感謝申し上げます。なお、本研究はJSPS科研費16K12312の助成を受けたものです。