筋萎縮性側索硬化症(Amyotrophic Lateral Sclerosis:ALS) 患者における催眠レベル測定値(Bispectral index:BIS)を用いた後頸部温罨法による睡眠支援の検討

更新日2015.04.14

基礎看護学研究室 伊東朋子

はじめに
「アイス・バケツ・チャレンジ」というチャリティをご存知でしょうか。2014年7月頃からアメリカを発端として筋萎縮性側索硬化症(ALS)患者さんのためのこのチャリティがブームになりました。ALSは人工呼吸器による延命以外には、有効な治療法は未だ研究途上にある難病中の難病です。ALSでは疾患に関連する不安や過酷さに加え、自力での体位変換ができないことや人工呼吸器下での吸引などが原因となり不眠が生じます。終日床上での生活を余儀なくされているALS患者さんにとって、良質な睡眠が確保・維持できるような支援が必要となります。
良質な睡眠のための支援は様々考えられていますが、その支援の1つに後頸部温罨法があります。後頸部温罨法とは、首の後ろを温めることで、手・足などの末梢温度が上昇することを利用した睡眠支援方法です。先行研究にはALS患者さんを対象としたものはなく、評価指標も主観的なデータによる研究でした。睡眠を客観的な数値で評価できる催眠レベル測定値(以下BIS)を用いてALS患者さんの睡眠に効果があるかを明らかにすることを目的としました。その結果、後頸部温罨法により、深い睡眠が長く維持され、心拍数の減少と副交感神経の活動が活発になることで、リラックス効果があると考えられました。このことは後頸部温罨法によって末梢の表面温度が上昇して末梢循環に作用したことで、深部体温が下がり睡眠導入のための体内調整を促進した可能性があると考えておりますので、この研究の一部をご紹介させていただきます。

1. 研究方法
対象:O県在住の在宅療養中のALS患者さん5名を被験者にしました。
実施場所・環境:実験は各被験者の自宅で、各居室は被験者の好む快適な温度・湿度を維持しました。
後頸部温罨法の実施:日常生活上での行事等による睡眠への影響を最小限にするために、入浴やリハビリテーションのない同一の曜日で実験を1人につき計4回行いました。1回目と3回目は後頸部温罨法を実施せず、2回目と4回目は後頸部温罨法を実施しました。就寝前に約40度のタオルをビニールに入れて後頸部に挿入しました(図1)。実施時間は複数の文献で記載されていた10分間で行いました。


図1 後頭部温罨法

評価指標:BIS及び補足データとして睡眠事前アンケート、モニター心拍計による心拍数、副交感神経機能を表すHF成分(以下HF)、OSA睡眠調査票(以下OSA)、後頸部温罨法実施前後の体表面温度を測定しました。BISは、0~100の数値で催眠レベルを表し、値が低いほど睡眠が深いことを表しています。OSAには、16項目の質問項目があり、5つの因子別(起床時眠気・入眠と睡眠維持・夢み・疲労回復・睡眠時間)評価得点を得ることができ、得点が高いほど睡眠感が良いことを意味しています。心拍数とHFは自律神経機能を評価するために用い、HFは値が高いほど副交感神経が活発であると言えます。

分析方法:統計処理はSPSS ver.20 for Windowsを用いて、後頸部温罨法の支援なしと支援ありの比較の検定や相関関係などを分析しました。BIS値は、60以下ではっきりした想起の可能性が低いことや呼びかけに対して無反応(日本光電BISガイドライン)ということから、本研究ではBIS値が60以下(図2)を深い睡眠(深睡眠)とし、総睡眠時間に占めるBIS値60以下が連続した時間の割合(%)を深睡眠の持続時間としました。また、総睡眠面積に対するBIS値60以下の面積の割合を睡眠の深度の指標としました。


図2 総睡眠時間に占めるBIS値60以下の時間の割合(%)

2. 結果
 被験者の概要:被験者の年齢は、61.20±12.77歳であり、闘病歴は、15.80±12.21年でした。ALS重症度分類1~5のうち、日常生活に介助が必要:重症度3から、寝たきりで全面的な生命保持操作が必要:重症度5まで様々でした(表1)。事前睡眠アンケート:5名全員が、「夜中に1~4回、目が覚める」と回答していました。眠りの深さについては、5名中4名が「あまり眠れない」と回答していました。OSA:被験者5名の平均では支援なしより支援ありの方が因子Ⅳ(疲労回復)を除く4因子全てで、高い得点を示していました。後頸部温罨法実施後の表面温度:被験者5名の平均で、実施前と実施15分後を比較すると、手掌は+0.48度、足底は+0.42度上昇していましたが、有意な差はみられませんでした(表2)。心拍数とHF:被験者5名の平均では有意差はみられませんでしたが支援なしより支援ありで、心拍数が減少し、HFも増加しており、支援ありの心拍数とHFには負の相関(r=-0.904、p=0.035)がみられました 。BIS値:後頸部温罨法によって深睡眠持続時間が延長したのは被験者1と被験者2であり、深睡眠持続時間が延長し、深睡眠深度も深くなったのは被験者3と被験者5でした。被験者4については、後頸部温罨法によって深睡眠持続時間、深睡眠深度ともに改善はみられませんでした(表3)。

3. 考察
事前睡眠アンケートから、ALS患者さんは夜間の中途覚醒が多く、睡眠の維持が困難であり、満足な睡眠が確保できていないことが示されました。これに対して、OSAの結果より、後頸部温罨法が自覚的睡眠感を改善する効果があることが示され、頸部温罨法実施後の体表面温度が実施後15分で上昇したことは、先行研究と同様に後頸部温罨法が末梢の循環に影響して深部体温を降下させた可能性がうかがわれます。また後頸部温罨法によって睡眠時の心拍数が減少しHF成分も増加していたことから、後頸部温罨法がリラックス効果をもたらし、自律神経機能にも作用した可能性が示されました。BISの変動から被験者5名中4名が後頸部温罨法によって深睡眠持続時間が延長もしくは睡眠深度が深くなっていましたので、後頸部温罨法は深い睡眠の確保に効果があると考えることができます。この結果が、対象者の自覚症状の睡眠感の改善にもつながった要因とも考えることができます。つまり、BISを用いることによって簡単に対象者の睡眠の質を評価することができ、後頸部温罨法の睡眠効果を計る指標にもなっていました。 
以上より、ALS患者さんにおいても、後頸部温罨法は質の良い睡眠が得られる効果があることが考えられます。後頸部温罨法は、足浴や手浴よりも使用する物品が少なく、簡便に実施できますので、ALS患者さんへの睡眠支援のひとつとして普及することが期待されます。

4. まとめ
本研究ではALS患者さんへの後頸部温罨法による睡眠支援が有効であるか、BISを用いて検討しました。その結果、次のようなことがわかりました。
1.催眠レベル測定値(BIS )より、後頸部温罨法は深い睡眠を長く維持し、深度を深くする可能性がある。
2.後頸部温罨法によって心拍数減少と副交感神経優位がもたらされたことで、後頸部温罨法にはリラックス効果がある。
3.OSA睡眠評価表による主観的なデータにおいても後頸部温罨法は睡眠に効果があることが示された。
4.後頸部温罨法によって末梢表面温度が上昇したことから、後頸部温罨法が末梢の循環に作用し、深部体温を降下させ、睡眠導入のための体内調整を促進した可能性がある。

以上のことから、後頸部温罨法は、ALS患者さんの睡眠にも効果があることがわかりました。現在、日本では9240人の患者さんがいますが、身近な病気ではありません。
その病状の過酷さに加えて、孤独感、孤立感は筆舌に尽くしがたいほどです。ALS患者さんは、寝がえり1つ打つにも、人の手を必要としています。この疾患に少しでも興味を持って下さる方がおられましたなら、是非、ボランティア活動に参加して下さい。興味を持って下さる方のエネルギーとやさしさを待っています。

謝辞

最後に本研究に快くご協力下さいましたALS患者さん及びご家族の皆様に心より感謝申し上げます。本研究は本学卒業研究として取り組んだものに加筆修正し、第4回大分難病研究会にて発表したものです。

引用・参考文献

・加藤 京里(2012) 入院患者に対する後頸部温罨法と生理学的指標、主観的睡眠および快感情の関連 
・中納 美智保, 山根木 貴美代, 松下 直子, 水田 真由美ら(2009) 後頸部温罨法による生体反応についての基礎的研究 脳血流、血圧、体温の変化
・日本ALS協会 新ALSケアブック・第二版 筋萎縮性側索硬化症療養の手引き
・大里 都真子, 伊原 圭子, 高矢 麻衣, 篠原 裕枝ら(2013) 後頸部温罨法による睡眠導入への援助
・品川 佳満、西岡 奈々子、野口 直美、伊東 朋子(2009) 長時間心電図の心拍変動解析による筋萎縮性側索硬化症の心・血管系自律神経機能評価