妊娠期の大気汚染状況がこどもの喘息に与える影響

更新日2014.12.01

生体反応学研究室 吉田成一

【はじめに】
 近年小児のアレルギー罹患者数が増加しており、文部科学省が行っている学校保健統計調査の結果では、幼稚園、小学校、中学校、高等学校別の喘息罹患率がいずれも調査開始の1967年以降多少の増減はあるものの増加傾向にあります。直近の2013年度では小学生のおよそ25人に1人喘息を持っていることになります。
 小児のアレルギー発症の原因として食生活や住環境の変化が考えられており、妊娠期の母親の生活環境 (例えば喫煙や居住地域等)もその原因の一つとして考えられえています。例えば、妊娠中の母親の喫煙による胎児期曝露の影響で小児期の喘息発症の増加や子宮内での発達障害の危険性があると報告されています。しかし、妊娠中の母親が大気汚染物質の一つである浮遊粒子状物質SPMを吸入した場合、子どもにどの様な健康影響が生じるか現時点では明らかにされていません。そこで、SPMの胎児期曝露 (妊娠期の曝露)が生まれた子の (アレルギー疾患の一つである)喘息にどの様な影響があるのか調べましたので、その研究について紹介します。

【研究方法】
 妊娠しているマウスに中国北京市のSPMを気管から肺に注入しました。そのマウスから産まれた仔マウスとSPMの注入を行っていない妊娠マウスから産まれた仔マウスそれぞれにおいて卵白アルブミンを肺に注入し喘息に似た症状を発症させ (喘息状態のマウス)、喘息に関係する因子 (炎症に関係する細胞数)や病態を比較しました。仔マウスへの影響は生まれてから5、10、15、30週後に評価しました。

【結果と考察】
 母マウスの妊娠期 (仔マウスの胎仔期)にSPMの影響を受けて生まれた仔マウスは、SPMの影響を受けなかった仔マウスと比べると、肺の中で炎症に関係する細胞数が増加しました。アレルギーは炎症がその病態であることから胎仔期にSPMの影響を受けると、出生後にアレルギー体質になる可能性が考えられます。また、胎仔期にSPMの影響を受け、喘息状態のマウスで、炎症に関係する細胞数が増えたことは、胎仔期にSPMの影響を受けると、生まれた後の喘息症状がより悪くなる可能性を示しています。増えた細胞の内訳を調べてみると胎仔期にSPMの影響を受けると炎症性単球と呼ばれる、細胞が増加しており、これは喘息状態のマウスでも同様であり、喘息症状の悪化に関係する可能性がわかりました (図1)。
 また、気管支・肺の状態を確認したところ、胎仔期にSPMの影響を受けるとアレルギー性炎症時に生じる、気管支粘膜下への炎症に関係する細胞である好酸球とリンパ球が組織の中に出現することがわかりました (図2、赤丸で示す部分等)。このことも胎仔期にSPMの影響を受けると、アレルギー体質になったり、喘息になっていた場合、喘息が悪くなったりする可能性があることがわかりました。
 これらのことから、小児アレルギー罹患者数の増加や喘息の悪化に、妊娠中の母親がSPMを吸うことが関係している可能性を示しました。なお、この研究は、本研究室の卒論生とともに行った研究の一部を紹介したものです。

図1 肺の中の細胞数の変化
平均値±標準誤差で示す。

*: p < 0.05 vs. 胎仔期SPM投与なし群; **: p < 0.01 vs. 胎仔期SPM投与なし群; ***: p < 0.001 vs. 胎仔期SPM投与なし群; #: p < 0.05 vs. 胎仔期SPM投与あり群; ##: p < 0.01 vs. 胎仔期SPM投与あり群; ###: p < 0.001 vs. 胎仔期SPM投与あり群; $: p < 0.05 vs. 喘息誘発群; $$: p < 0.01 vs. 喘息誘発群
 白:総細胞数、黒:マクロファージ、青:好中球、橙:好酸球、緑:リンパ球

図2 肺の病理組織像
15週令の出生仔マウスと30週令の出生仔マウスのものを示す。