看護職の方へ:放射線・放射線影響に関する一口メモ
放射線・放射線影響に関する一口メモ
東北関東大震災に伴う原子力発電所の大きな故障により、放射性物質の環境中への放出がおこり、周辺住民の屋内退避、避難が行われており、放射線影響に対する住民の不安が加速しております。看護職のみなさんには、放射線影響についての正しい知識を持っていただき、住民のみなさまの不安の解消のための対応が期待されております。
そこで、看護職のみなさんに知っていただく必要のある放射線・放射線影響に関する知識について、ホームページを通して情報を提供させていただきます。
徐々に、情報を提供させていただきますが、ご質問があれば、優先してお答えさせていただきます。
NQ1: 原子力災害の際の住民に対する避難などの措置は?
環境中に放出された放射性物質による住民の被ばく線量をできるだけ減らし、健康影響の出現を抑えるために、「原子力防災指針」によって、屋内退避、避難の基準は、以下の表のように決められております。
今回、福島第一原子力発電所から、20km以内の住民に対して「避難」、30km以内の住民に「屋内退避」の措置がとられています。これは、実測されている空間の線量率(マイクロシーベルト/時間)に比べると、かなり安全性を見越して取られた措置であることがわかります。
1999年に、発生した茨城県東海村JCOの事故の際にも、350mの住民に避難要請、10km以内の住民に屋内退避の措置がとられました。350m以内の住民の方で、もっとも高かった方の被ばく線量は20ミリシーベルトで、10km以内の方々の被ばく線量は、1ミリシーベルト以下でしたので、かなり安全側の判断がされたことが分かります。
屋内退避と避難の目安の線量(ミリシーベルト)
| 外部被ばく | 内部被ばくによる甲状腺の線量 | 防護対策 |
| 10-50 | 100-500 | 屋内退避 |
| 50以上 | 500以上 | 避難 |
NQ2: 今回の原子力災害で、健康影響が出現するか?
放射線を被ばくしたことによる健康影響の出現までには、潜伏期間が存在することが特徴です。すなわち、放射線を受けてから、症状の出現までの間に、時間的な間隔があるということです。放射線被ばくによる健康影響は潜伏期間の長さにより、「早期影響」と「晩発影響」に分けられます。晩発影響は、被ばく後、数ヶ月以上、長いものでは、10年以上、経ってから現れます。
3月11日に発生した大震災の日から約1週間後の、いま、現れるとすると吐き気や悪心などの症状ですが、これらの症状は、1000ミリシーベルト(1,000,000マイクロシーベルト)以上の放射線を全身に、短い期間の間に受けた場合でないと出現しません。今回の原子力災害で、一般住民が1000ミリシーベルトを超えるような線量を受けることはありませんので、放射線被ばくが原因で、このような症状が一般住民に現れることはあり得ません。
NQ3 : 住民は、放射線被ばくによるどのような健康影響を心配しているか?
「被ばくをした」あるいは「放射性物質による汚染があった」ということで、健康影響を心配している人々に対しては、まず、どのような健康影響がご心配であるかをしっかり聞き出してください。多くの方々は、不安に思っている健康影響として、①白血病を含むがんの発生、②遺伝的影響、③不妊、④奇形の発生を挙げるのではないかと思います。
放射線被ばくに伴う健康影響は、①どこに被ばくしたか(被ばくした身体部位)と、②どの程度の被ばくをしたか(被ばく線量)を考慮してください。
表に示す被ばく線量以上の線量を受けた場合でないと上記の健康影響は、発生しません。表に示した被ばく線量は「しきい線量」とよばれ、それぞれの影響に対してもっとも感受性が高いと考えられる人に影響が表れる線量です。多くの人々は、漠然と白血病を心配したり、遺伝的影響を心配しているのが実態です。今回の原子力災害で、これらの健康影響が出現する可能性はないと考えて差し支えありません。
放射線傷害の発生する最小の線量(短期間に被ばくした場合)
| 発赤・紅班 | 200ミリシーベルト |
| 脱毛 | 3000ミリシーベルト |
| 一時的不妊(男性) | 150ミリシーベルト |
| 奇形の発生 | 100ミリシーベルト |
| 末梢血中のリンパ球の減少 | 500ミリシーベルト |
NQ4:「被ばく」とはどういうことでしょうか。
被ばくを「被爆」と書いている報道もあります。これは間違いです。「被爆」は、原爆などの爆弾の被害を受けることを意味しますが、放射線の被ばくは、漢字では「被曝」と書きます。しかし、混乱を避けるために、通常、「被ばく」とひらがなで記載されます。そもそも、被ばくは、英語のexposureを日本語訳されたもので、日光や紫外線にさらすことと同じ意味です。化学物質では、「曝露」と訳されて「化学物質にばく露される」(体内に摂取する)というふうに表現されます。基本的には放射線の場合も同じです。被ばくが特別な意味をもつのではなく、その量が問題であるということを理解してください。
NQ5:「汚染」と、汚染を測定したときの「カウント」は何を意味するのですか。
放射性物質が身体に付着しているかどうかをGMサーベイメータで測定します。測定しているのは、付着した放射性物質が放出している放射線です。そのときの測定の単位はカウントper分(cpm、1分あたりに測定される放射線の個数)は、放射性物質が付着している量の目安をなるものです。しかし、これは表面に付着している(これを汚染といいます)ものであり、体内に摂取されたものを意味しません。実際に、衣服を脱いだり、髪の毛に付着していれば洗髪したりすれば除去することができます。つまり、体内には取り込まれていないことを意味します。汚染のレベルが被ばくした線量と同じではないことを理解してください。健康影響はあくまでも被ばくした線量です。(一般向けのQ1-Q2を参照)GMサーベイメータの測定は、体表面に付着した放射性物質を測定しているだけですので、この数値から外部被ばく線量を推定することはできません(一般向けQ6参照)。体表面に付着した放射性物質が外部被ばくとなることはありますが、線量は多くの場合小さく無視できます。
NQ6 : 原子炉から環境中に放出されている放射性物質は何ですか。
原子炉から放出される主な放射性物質は、時間とともに短い寿命のものは減衰してなくなっていきます。現在、環境中で測定されているのは、I-131(放射性ヨウ素)、Cs-134(放射性セシウム)、Cs-137(放射性セシウム)です。I-131の半減期(寿命を表す指標で半分に減衰する時間)は、8日、Cs-134は2年、Cs-137は30年です。その他、外部被ばくの原因となっているものに放射性希ガスがあります(Xe-133、半減期5.3日)。事故から10日では、寿命から判断すると放射性物質ヨウ素、放射性セシウムが主に環境中に残っていることが予想されます。
NQ7:環境中に牛乳で放射性物質が検出された場合、それを飲むとどのくらいの被ばく線量になりますか?
現在、厚労省が食品衛生法の観点から、暫定規制値は、牛乳の基準値が300Bq/kg(放射性ヨウ素131)、放射性セシウムで200Bq/kgとなっています。この基準値の牛乳1kgを1年間飲み続けるというかなり過大な仮定で計算してみます。
放射性ヨウ素(I-131):300(Bq/kg) x 1 (kg/day) x 365(days) x 2.2x10^(-5) (mSv/Bq) = 2.4 mSv
放射性セシウム(Cs-137) : 200 (Bq/kg) x 1(kg/day) x 365(days) x 1.3x10^(-5) (mSv/Bq) = 0.95 mSv
となります。この線量(実効線量)は、1年間に自然放射線で受ける被ばく線量 2.4mSvと比べて大きなものではないことがわかります。
放射性ヨウ素(I-131)は、放射性セシウムと違って甲状腺の集まる性質をもっています。そのために、甲状腺の組織が他の組織に比べて高い線量をもたらします。上の大人の摂取条件では、
300(Bq/kg) x 1 (kg/day) x 365(days) x 4.3x10^(-4) (mSv/Bq) = 47 mSv(甲状腺の線量)
となります。しかし、乳児は甲状腺の重さが小さいので同じ量を摂取したときには、大人よりも8倍程度高くなります。そのことと乳児が飲む平均的な水の量を考慮して、100Bq/kgの水は毎日1年間飲み続けると乳児(3ヶ月児)で50mSvになることが予想されます。このような理由から、厚労省は暫定的に基準として100Bq/kgを超える水道水を当面乳児には飲まないように指導しています。
ここで計算される線量は長期にわたって水を飲み続けるという過大な仮定で計算される平均的なもので、このような状況(限度を超えた水を飲み続ける)に対して対策をとるための判断指標となるもので、このレベルの水を飲み続けたとしても影響が発生しないであろうという考えに基づいています。
ここで計算した線量は、体内で取り込まれ放射性物質によって被ばくしたもので、内部被ばくといいます。体内には、自然の放射性カリウムがあり、私達は野菜や果物を食べることで内部被ばくをします。つまり、内部被ばくがあることが特別なのでなく、線量の大小がポイントです。
NQ8:線量(シーベルト)について説明してください。
放射線の健康影響を考えるときの基本の量は線量です。線量は人体が吸収したエネルギー(J)を吸収した臓器の重量(kg)あたりにした吸収線量グレイ(Gy: J/kg)が使用されます。しかし、放射線の種類(ガンマ線、ベータ線、アルファ線、中性子線など)によって影響の程度が異なります。そこで、放射線から健康を防護するために使用される単位がシーベルト(Sv)です。吸収線量に放射線の種類によって異なる影響の程度を考慮した値(放射線加重係数)を掛けて求めます。被ばく線量をシーベルトで表すことで被ばくした放射線の種類に関係なく健康影響の程度を表すことができます。
NQ9:食品摂取制限の基準を超えた食品についてどう考えればよいでしょうか?
国の基準は、危険か安全かの境界ではなく、対策を取るかどうかの検討を開始するための目安で、低い線量(5mSv)に設定している。食品も水も大きく上回らない限り、すぐに何かをする必要はない。妊婦や子どもについては、被ばくを少なくするという観点からは、比較的高い汚染食品を食べないようにすることが望ましいが、他に選択肢がない場合、当面の間、食べたとしてもリスクが高いということではない。
NQ10:体内に入った放射性物質の行方はどうなりますか?
放射性物質を含んだ空気を呼吸で吸い込んだり、放射性物質を含んだ飲食物を飲んだり食べたりすることにより、身体の中に放射性物質が入り、その放射性物質が放出する放射線から臓器や組織が被ばくすることを「内部被ばく」といいます。 一旦、身体の中に入ってしまった放射性物質は、それぞれの放射性物質に特有な半減期(放射性物質の量が半分になる時間)と、人間の身体の新陳代謝などによって、放射性物質の量(ベクレル)を減少させていきます。ヨウ素-131の実効半減期は、約8日ですので、8日毎に、放射性物質の量が半分になって行きます。半減期の10倍の時間、ヨウ素-131の場合は、80日後には放射性物質の量は1000分の1になります。なお、体内に入ったヨウ素(I-131だけでなく安定ヨウ素も同じ)は、30%が甲状腺に取り込まれ、80日の生物学的半減期で排出されていきます。(日本人の場合、欧米人に比べて食物からヨウ素を摂取しているので、これらの数値はもっと低いという報告がある)
セシウム-137の場合は、半減期は30年ですが、人体に入った場合には、全身に分布しますが、人体の新陳代謝によって110日で半分の量になります。したがって、体内に入った放射性物質は、時間の経過とともに減少していきます。減少の速度は、放射性物質の種類によって異なります。
内部被ばくの線量もシーベルトで 表されますが、外部被ばくの場合と異なり、人体の中に放射性物質が留まっている全期間を通しての線量として表されます。
NQ11:除染とはどういうことですか?
人体の表面(体表面)に付着した放射性物質や、身体内に入った放射性物質を取り除くことを「除染」といいます。体表面の放射性物質は、流水で洗い流すことにより比較的容易に除染することができます。除染にあたっては、日常みなさんが洗顔をするときのように、皮膚に傷を付けないように優しく行う必要があります。傷のない健常な皮膚は、バリアの効果があり、皮膚を通して放射性物質が体内に入ることはありませんが、一旦、皮膚が傷つけられると放射性物質が体内に入り易くなってしまいます。大量の放射性物質が体内に取り込まれた場合には、放射性核種に対応した除染剤が投与(経口投与など)されることもあります。
NQ12:妊婦さんの放射線被ばくに伴う健康相談にあたって
放射線被ばくに伴う胎児への健康影響を心配している妊婦さんの健康相談に応じる場合には、まず、最初に、胎児に現れる「どのような影響」を心配しているかを具体的に聴きだすことが大切です。なぜなら、細胞分裂を繰り返してる発達段階にある胎児の場合、影響によって放射線に対する感受性の高い時期が、異なるからです。妊婦さんの多くが心配している影響は、奇形の発生です。奇形に対して感受性の高い時期は、受精後から数えて「3週間から8週間」の間です。この間に、人間の身体の主要な臓器・組織への分化が起こるからです。この時期の胎児(この時期の胎児は、正式には、胎芽と呼ばれる)が、100ミリシーベルトを超える線量を被ばくすると、奇形が発生する可能性がありますが、100ミリシーベルトより少ない線量では奇形は現れません。また、この時期を過ぎた胎児が、100ミリシーベルトを超える線量を被ばくしても奇形は発生しません。受精後3週間の時期に、ご自分が妊娠していることに気づいている妊婦さんは、ほとんどおりません。私達の調査では、妊娠に最初に気づく時期は、受精後6週以降が多いようです。 胎児の放射線被ばくで、現れる可能性のある影響としては精神発達の遅延、すなわち、知恵おくれがあります。精神発達の遅延に対して感受性の高い時期は、受精後「8週~25週」までの期間です。この時期に、胎児が100~200ミリシーベルトを超える被ばくをした場合には、精神発達の遅れが生じる可能性があります。25週以降の胎児の放射線に対する感受性の程度は、子どもと同じ程度です。胎児の放射線被ばくによる影響に対応する場合には、被ばく線量だけではなく、胎齢(受精後の週齢や月齢)に関する情報も必要です。

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