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40~50 歳代閉経後女性の更年期症状、脂質・骨代謝に対するエクオール摂取の効果-授乳経験別の検討-

更新日:2023年12月22日 ページ番号:0006391

助産学研究室 梅野貴恵<外部リンク>

​【緒言】
 エクオールは、豆腐や納豆などに含まれる大豆イソフラボンのダイジンが、腸内細菌によって代謝されてつくられるものです。エクオールは女性ホルモンであるエストロゲンと似た作用をすることで注目されています。しかし、大豆食品をとればすべての人がエクオールを作れるわけではなく、欧米人は 30 % 程度、子どもの頃から大豆食品を多くとっている日本人は、50 % の人がエクオールをつくれるといわれています(文献 1)。先行研究では、この大豆イソフラボンからつくられたエクオールを摂取することで、更年期症状の軽減や骨密度低下を抑制し、糖代謝や脂質代謝への効果も報告されています(文献 1,2,3,4)。しかし、これらの先行研究は、エクオール非産生者や糖尿病、脂質異常症、高血圧で内服中の外来通院中の閉経後女性に調査したものでした。疾病をもたない 40~50 歳代の健常女性にも同様の効果があれば、予防的にエクオールを摂取することで、閉経後の更年期症状をはじめ、脂質異常症など様々な疾患を予防することができるのではないかと考えました。そこで、閉経後の健常女性の更年期症状、脂質代謝および骨代謝に対する大豆イソフラボン活性代謝物(エクオール)摂取の効果を授乳経験別に検討しました。
【方法】
 対象者は、調査を承諾した 40~50 歳代の糖尿病、高血圧、脂質異常症、骨粗鬆症で治療を行っておらず、大豆アレルギーのない健康な閉経後女性 23 名を対象としました。販売店から購入した エクオールを毎日 4 粒ずつ、12 週間摂取してもらいました。エクオール摂取開始前に尿中エクオ ール産生の有無を調べ、血液検査により LDL-コレステロール、TG(中性脂肪)、P1NP(骨形成マ ーカー)、NTX(骨吸収マーカー)を測定し、質問票により SMI(簡略更年期指数)を調査し、エクオール摂取後にも同様の調査を実施しました。著者らの先行研究(文献 5)により、調査対象者のデータを授乳経験別に比較検討しました。 ​​

【結果】
対象者 23 名のうちエクオール産生者は 10 名、非産生者は 13 名でした。また、23 名のうち授乳群(母乳育児1年以上)9名、非授乳群は 14 名で、授乳経験の有無とエクオール産生との関連は認められませんでした。
 SMI は両群ともに低下傾向で、授乳群の 66.7%、非授乳群の 71.4%が低下していました(図 1)。閉経群全体(23 名)でみると、エクオール摂取前より摂取後に有意に低下していました(p =0.06) 
 LDL-コレステロールは、エクオール摂取前は授乳群よりも非授乳群の方が高く、エクオール摂取後も同様でした。両群ともにエクオール摂取前後の差は認められませんでした。TG は、エクオール摂取前は授乳群よりも非授乳群の方が高く、LDL-コレステロールと同様でした。エクオール摂取後は、非授乳群のみ低下していました。エクオール摂取前後の差をみると、授乳群は 12.9± 45.6mg/dl 上昇しており、非授乳群は−28.3±58.1mg/dl と低下していました(図2)。
 エクオール摂取前の P1NP は、授乳群の方が非授乳群よりも高く、両群ともに基準値内でした。 エクオール摂取後は、授乳群は変化なく、非授乳群はやや上昇傾向でしたがばらつきがみられました(図3)。エクオール摂取前の NTX は、授乳群の方が非授乳群よりも高く基準値を超えているものもありましたが、非授乳群は基準値内でした。エクオール摂取後は、授乳群は摂取前とほぼ変化なく、非授乳群はやや上昇しました(図4)。 

授乳経験別のグラフ

【考察】
 40~50 歳代の閉経後女性のエクオール産生者は、先行研究(文献 1)の 50%よりも少なくなっています。これは、先行研究の世代より 10 歳程度若年化しているため幼少期からの大豆摂取習慣 が少なくなっているためと推察されます。 
 12 週間のエクオール摂取の SMI への効果は明らかになりました。エクオール摂取前の対象者の SMI は治療を要するほどの重症レベルではないことから、多少の心身の不調であれば、薬物治療を行わなくてもエクオール摂取を第一選択にすることも有効であることが示唆されました。 
 対象者の LDL-コレステロールは、エクオール摂取効果が認められなかったものの、中性脂肪では非授乳群に効果がみられている人もありました。12 週間の間に両データの悪化はみられなかったことから脂質代謝に対する一定の効果はあると推察されます。 
 健常な閉経後女性の骨代謝マーカーは、12週間のエクオール摂取ではNTXの上昇がみられたものの先行研究 (文献 4)に示された骨吸収抑制への明らかな効果は示されませんでした。本対象者 の骨形成、骨吸収マーカーともにほぼ基準値内にあることから、閉経後年数期間が短く、骨量減少 に至っているものが元々少なかったことも影響しているかもしれません。また、授乳群は非授乳群に比べ、エクオール摂取前の骨代謝回転が促進傾向にあり、授乳期の骨代謝活性の影響も残っていることが推測されます。いずれにしても長期的なエクオール摂取による効果を検討する必要があります。 
 以上のことから授乳経験の有無にかかわらず、閉経後女性がエクオールを摂取することは更年期 症状を改善し、脂質代謝や骨代謝にとっても良い効果をもたらす可能性が示唆されましたので、40 歳代後半からの予防的摂取も推奨されます。 

* 本演題に関して、開示すべき利益相反関係にある企業などはありません。本研究は、科学研究費助成事業 基盤研究(C)(15K11673)の助成を受けて実施した研究成果の一部を抜粋したものです。第 58 回、第 60 回日本母性衛生学会で発表しました。 ​

【引用文献】
1. Usui T, Tochiya M, Sasaki Y, et al. Effects of natural S-equol Supplement on overweight or obesity and metabolic syndrome in the Japanese, based on sex and equol status.78(8): 365-372. 2012.
2. Aso T, Uchiyama S, Matsumura Y, et al. A natural S-equol Supplement alleviates hot flushes and other menopausal symptoms in equol nonproducing postmenopausal Japanese Women. J Womens Health.21(1): 92-100.2011.
3. 麻生武志,内山成人.ウィメンズヘルスケアにおけるサプリメント;大豆イソフラボン代謝産物エクオールの役割. 日本女性医学学会雑誌.20(2):313-332.2012.
4. Tousen Y, Ezaki J, Fujii Y, et al. Natural S-equol decreases bone resorption in postmenopausal, non-equol- producing Japanese women: a pilot randomized, placebo-contled trial. Menopause. 18(5): 563-574.2011. 5. 梅野貴恵,角沖久夫,軽部薫.40~50 歳代有経女性の授乳経験と脂質代謝・動脈硬化や更年期症状との関連-授乳婦と非授乳婦の比較-,日本女性医学学会雑誌.23(2):154-160.2016.