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看護学生の災害支援活動参加へのモチベーション ― 災害特性が異なる日本と韓国を比較して ―

更新日:2020年12月7日 ページ番号:0002575

国際看護学研究室 桑野紀子<外部リンク>

【はじめに】

 日本は、地震や火山活動が絶えず発生する環太平洋移動帯に位置しています。日本の国土面積は地球上のわずか0.25%であるにもかかわらず、地震や活火山の数は非常に多く、世界のマグニチュード6以上の地震のうち、20%近くが日本またはその周辺で発生しています(内閣府日本の災害対策http://www.bousai.go.jp/1info/pdf/saigaipanf_e.pdf<外部リンク>)。日本は、その歴史の中で、地震、津波、火山噴火、台風、暴風雨、洪水、土砂崩れ、吹雪など、多くの自然災害によって甚大な被害を受けてきました。
一方、隣国の韓国は自然災害の中では歴史的に風水害による被害が最も著しく、昨今都心部や農村での集中豪雨の発生率も増えており、地震以外の風水害を中心とした人命被害が毎年日本よりも多く発生しています。
地球温暖化に伴い自然災害が世界的に増加傾向にある中、看護師が国内外で災害看護に関わる機会も増えています。本研究では、災害特性の異なる日本と韓国で看護を学ぶ学生を対象とし、国内・海外での災害看護活動への参加意欲等について調査を行ったので、その一部をご紹介します。

【方法】

 日本2施設、韓国2施設、計4施設の4年制大学看護学部の学生1~4年次生を対象とし、無記名の自記式質問紙による質問紙調査を行いました。日本と韓国において、各2校の看護学生(1~4年次生)を対象としました。日本464名、韓国630名、全体で計1,094名を対象としました。質問紙は先行研究(Lee, 2005; Baack & Alfred, 2013; Matsukiyo, 2012)をもとに作成し、質問項目は、学生の属性、将来看護師として災害支援活動に参加したいと考えているかどうか(居住地域、国内の居住地域以外、海外に分けて質問)、災害支援活動に参加したい理由・参加したくない理由、災害への対策などでした。日本と韓国で、それぞれ日本語版・韓国語版を用いて調査を行いました。
データの分析では、全ての質問項目について単純集計を行い、頻度と%を算出しました。2 カ国の回答の分布の比較、平均値の比較には、χ²検定、t 検定を行い、有意水準をp<.05 としました。

【結果と考察】

 質問紙の回収数(率)は、日本347 名(74.8%)、韓国424名(67.3%)、全体では771 名(70.5%)でした。完全回答であった日本324名(69.8%)、韓国397 名(6 3.0%)、全体で721 名(70.1 %)を分析対象としました。
 Table 1 に対象者の属性を示します。日韓の看護学生の大多数(日本89.2%、韓国90.7%)は被災経験がありませんでした。日本人学生の61.4%が外国に行ったことがないのに対し、韓国人学生の64.2%は外国に行ったことがありました。また、外国を訪問したことがある日本人学生の86.4%、韓国人学生の51.8%が、訪問したことがある外国でどのような災害が多いのか知らないと回答していました。

日本人と韓国人の看護学生の特徴

 将来看護職として災害支援活動に参加することについて尋ねたところ、日本・韓国共に大多数の学生が、将来、自分の住んでいる地域や国内の他地域で災害が発生した際には支援活動に参加したいと回答しました。「居住地で災害が発生した際の支援活動への参加意欲」及び「居住地以外(国内)で災害が発生した際の支援活動への参加意欲」について、2国間で有意な差は見られませんでした(Table 2, 3)。「海外での災害発生時、国境を越えて災害支援活動を行う必要があると思うか」という質問では、両国とも8割以上の学生が支援活動の必要性を認識していました。しかし、日本では約半数の学生が国境を越えて行う支援活動に自分自身は「参加したい」と考えていないことが分かりました。一方、韓国の学生は約7 割の学生が海外における支援活動への参加に意欲的であり、「海外で災害が発生した際の支援活動への参加意欲」について、2国間で有意な差がありました(Table 4)。
 国内外の支援活動に参加したい理由について尋ねたところ、日韓共に「多くの人を助けたいから」「人で不足だと思うから」等の回答が得られました。参加したいと思わない理由について尋ねたところ、日韓共に「自分には何ができるか分からないから」「危険な場所へ行きたくない」などの回答が得られました。

住まいの地域の国内災害救援活動に参加する動機

【まとめ】

 本調査の結果から、韓国の看護学生も日本の看護学生も、自分が居住する国内の災害支援活動への参加意欲が高いことがわかりました。日本の看護学生については、国際的な災害支援活動にも参加意欲が促進されるよう、学部教育や課外活動にどういったプログラムを組み込んでいくべきか、考えていきたいと思います。

 本研究は学部生と共に卒業研究として取り組み、後日、”Japanese and Korean Nursing Students’ Motivation for Joining Disaster Relief Activities as Nurses in the Future”としてJournal of Trauma Nursing (2017 May-June)で発表した内容の一部です。

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