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病院看護職者の日勤中の眠気に関する研究

更新日:2021年1月12日 ページ番号:0002576

精神看護学研究室 影山隆之

1.背景と目的

 人間は昼間活動して夜に眠るのが本来なので、自然に反する交替勤務では生体リズムの乱れや睡眠不全を生じやすく、勤務中の眠気が事故やエラーを起こすリスクもあります。病院勤務の看護職者(看護師と准看護師)には、日勤帯だけ勤務する人(常日勤者)もいますが、交替勤務に就いている人はたくさんいます。看護職者の眠気によるエラーは人命に関わる恐れもあるため、これまで夜勤中の眠気についてはいろいろ研究されてきましたが、日勤中の眠気に関する研究はわずかです。しかし実は、医療事故やエラーの発生件数が多いのは日勤中なので、日勤中の眠気がどういう場合に起こりやすいのかを明らかにすることも重要です。
 この研究では、病院看護職者のある一日の日勤に注目し、勤務中の眠気を時間帯別に調べました。そしてこれを、勤務形態(交替勤務か常日勤か)別に比較し、個人要因や前夜の睡眠条件・勤務条件と関連しているかどうかを分析しました。眠気に影響する要因は男女で違う可能性もありますが、現状では女性看護職者が多いことから、今回は女性限定で研究を行いました。

2.対象と方法

 7病院の女性看護職者755名に無記名自記式質問紙を配布し、日勤の一日を任意に選んで、その終業時に回答して、郵便ポストへ投函するよう依頼しました。回答者307名(40.7%)から、記入が不完全な人とふだん睡眠薬を使っている人を除き、246名(32.6%)について分析しました。
 調査内容は、(1)個人特性、(2)前夜の睡眠と朝の睡眠充足感、(3)勤務形態(常日勤か交替勤務か)など勤務条件、(4)当日日勤中の眠気(当日の9時00分、11時00分、14時00分、15時30分、17時00分、及び終業時の眠気)、(5)当日日勤中の繁忙感(ビジュアルアナログスケールという方法で0~10点に得点化)でした。眠気はカロリンスカ眠気尺度という方法で得点化しました:その時の眠気を「とても眠い(眠気と戦っている)」=9点、「非常にはっきり目覚めている」=1点として、9段階で評価するものです。
 この眠気得点を、午前(9時00分と11時00分の平均)、午後(14時00分、15時30分、17時00分)の平均)、及び終業時の別に検討しました。常日勤群と交替勤務群で比較するとともに、各群で他の要因とどのように関連しているかを分析しました。

3.日勤時の眠気

 回答者は、6割が40歳以上、半数が未婚、3分の1が常日勤でした。当日朝の睡眠充足感があった人は36%でした。
 午前・午後・終業時の眠気得点と、午前・午後の繁忙感の推移を図1に示します。午前に比べ午後や終業時には眠気が強くなっていました。健康な成人では14~16時頃に眠気の生理的ピークがあるものですが、回答者は終業時まで同程度の眠気が続いていたのが特徴です。また、繁忙感と眠気得点に相関はありませんでした(夜勤では、繁忙感が強いと眠くないことが報告されています)。

眠気得点と繁忙感の時間変化

図1 眠気得点と繁忙感の時間変化

 眠気得点を常日勤群と交替勤務群で比べると(図2)、一日を通して交替勤務群のほうが高く、特に終業時では統計学的に有意の(=偶然とは言えない)差が見られました。一般に交替勤務群では常日勤群より睡眠不全が多いので、蓄積していた寝不足が、緊張が緩んだ終業時に眠気として強く自覚された可能性があります。欧米では交替勤務者について、夜勤明けの眠気が運転エラーのリスクを高めるとして警鐘が鳴らされていますが、日勤終了後にも注意が必要だと言えそうです。

常日勤群と交替勤務群の眠気得点の比較

図2 常日勤群と交替勤務群の眠気得点の比較

 ここで、朝の睡眠充足感があった人となかった人を比べると(表1)、常日勤群でも交替勤務群でも、睡眠充足感がなかった人では、眠気得点が高いことがわかりました。同時に、睡眠充足感がなかった人は前夜の就寝時刻が遅く、就床時間(就寝から起床までの時間)が短いこともわかりました。ただし本研究では睡眠の質まで評価していないので、睡眠充足感が持てない理由は、睡眠の短さだけでなく中途覚醒や浅い眠りと関係している可能性も否定できません。

表1 睡眠充足感と日勤時の眠気および前夜の睡眠

睡眠充足感と日勤時の眠気および前夜の睡眠

                                                                   t検定; ***p<.00, **p<.01, *p<.05.

4.他の関連要因

 より詳しい分析の結果、小さい子の有無、要介護者の有無、最近の大きな生活変化、前日のシフト、当日の労働時間、当日の繁忙感、最近の休日数、及び最近の夜勤回数は、眠気得点と関連がありませんでした。
 しかし常日勤群の場合、午前の眠気得点は、独居の人と、治療中の病気がない人で高いことがわかりました。独居者には若い人が比較的多く、就寝時刻と起床時刻は遅い傾向にありました。調査時期(6月)を考えるとこの中には、新卒でまだ夜勤に就いていない人が含まれていた可能性があり、緊張のため、あるいは研修に追われて、よく眠れていなかった可能性があります。一方、治療中の病気と関連していた理由については、今後さらに検討が必要です。
 また交替勤務群では、年齢が若いほど午前の眠気得点が高いことがわかりました。若い人には未婚者が多く、また就寝時刻・起床時刻が遅い傾向にありました。既に交替勤務には馴れていたとしても、日勤前夜にもかかわらずつい夜更かししてしまうため、朝の睡眠充足感が乏しいということなのかもしれません。

5.まとめ

 日勤時でも交替勤務群は常日勤群より眠気が強いこと(特に終業時)と、どちらの群でも若い人や独居の人では日勤時の眠気が強いことがわかりました。この眠気は前夜の睡眠の不充足による可能性が高く、就寝時刻・起床時刻の遅さと関連している可能性がありました。大都市以外ではマイカー通勤する人も多いので、終業後の運転時の眠気に注意する必要があります。これらは今後の睡眠教育の参考になります。ただし今回は、調査した一日だけしか眠気を調べていないので、継続研究として現在は、同一の看護職者を2週間以上追跡し、どのような日に特に眠気が強いかを詳しく調べています。

本研究は大学院生黒岩千翔さんとの共同研究で、“女性病院看護職者の日勤中の眠気-個人特性、前夜の睡眠、勤務条件との関連”(産業精神保健28(3):pp 236-247, 2020)として発表した内容の一部です。